三三

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三三

毎日に感謝。

第10回N-1「九月蝿」

『三伏』 夏の最も暑い時期を表す言葉 …らしい。 既に、『三伏』は過ぎて、月で表すなら、今は九月の真っ最中。 緑の葉が、紅に染まる季節である。 そして、この物語の主人公である、『僕』という存在が死んだ季節でもある。 その日はよく蝿が集る日だった。 蝿が鳴らす音が、やかましく感じるほどに。 緩やかな坂を、額の汗を拭いながら歩く。 僕は今、登校中だ。 涼しい風が頬を撫でる度、額の汗が引き、冷たい空気が肺へ流れ込む。 ここ、私立A高校は山の入口から、1、2km程の距離で、校舎の周りには椛の木が多く、グラウンドの周りの木はほとんど椛の樹で、人より、季節をいち早く感じることができる。 学校の窓から見える景色は、万葉集にでも詠まれてそうなほど、綺麗な景色だ。 景色だけなら、これ以上ないほど美しいくらいだが、頭の良さは、この街なら下から数える方が早い程度だ。 ……ということを考えていたら、A高校に着く。 だが、ここで問題が起きた。 A高前のバス停前に女子生徒3人と、男子生徒3人の計6人がたむろしている。 それだけならまだしも、この6人はクラスメイトである。 それでも、それだけならまだ、まだ許せる。 話しかけられても、話しかけられなくても、無視して横を通り過ぎればいいだけだ。 だが、この6人は僕のことをいじめている6人だ。 朝の憂鬱に加え、バーベルの重りを増やしたように、足を持ち上げることが困難になるのを感じる。 「お、叶大じゃん。お前、いつもこんな時間に登校してたんだ?」 時計を見ると、時刻は7:55。本来なら、校門は開いてすらいない。 …ああ、そういえば、僕の名前を言い忘れていた、多分。 『叶大』。かなた、と読む。母が言うには、 「大きな夢を叶える人になって欲しい。」という願いが込められているらしい。 そんな大きな夢を叶える存在だった僕は、今や高校でいじめられ、彼女もいないような、『底辺』になってしまった。 「叶大〜。金、ある?今金欠でさぁ。俺ら、親友じゃん?親友同士なら、助けてくれるよな?」 「ちょっとやめなよ〜。叶大君困ってんじゃん」 薄ら笑いを浮かべながら僕に話しかけてくる。 こんな分かりやすいコミュニケーションを『底辺』の僕にしてくれて感謝しかない。 それでも、このようなコミュニケーションを毎日されては、疲れがたまるというものだ。 「は、はは…。お金…今月は…もう……」 「ああ?聞こえねーよ。いいから金、よこせや。」 「う…うん。」 子犬のように震えた手で、僕は制服のポケットから財布を出した。 財布には1000円札が1枚しかなかった。 紙が擦れる音と、悪魔のような笑い声だけが僕の耳に届いていた。 「ちっ、1000円だけかよ。使えねーな」 今日こそは、今日こそは言ってやる。 「こ…こういうこと…もうやめ…てよ」 「あ?んだよ。臭くて不細工なお前には、どうせ誰にも好かれねえんだから。連んでやってるだけ感謝しろよ。」 「先生に…言うから…!」 「ああ?…ちっ…そろそろ潮時か…」 「え?」 「やってみろよ。てめえ見てえな屑にできるならな。」 そういって、あいつらは学校へ向かった。 すると、1人の女子がこちらへ小走りで戻ってきた。 「えー?1000円しかないの?お金だけが取り柄だと思ってたけど、もう存在価値ないね。先生に言うとかそういうの、ダサいし。」 「おい、行こうぜ。臭いが移っちまうだろ?」 「だね!」 悪魔の笑い声は、やかましく、まるで、蝿のように、僕の精神を逆撫でした。 先生に言ったところで、面倒事として処理される。 そんなことは、言わなくたってわかっていた。 どこまでいっても僕は『底辺』だ。 希望も絶望もない『底辺』。 それが今の僕だ。 今日もまた、僕は『底辺』だった。 お金をとられ、バカにされ、笑われる。 彼女がいて、仲間がいて、友達がいて、毎日が楽しい。 そんな学校生活に憧れていた。 その日の放課後も、暗くなった空を背後に、地面を眺め、辺りを覗きながら歩く。 そうして、僕は、学校の頂きに着いた。 橙色に輝く空と濁った二酸化炭素を吐き出す僕は、この綺麗な空の「対義語」と言えるだろうか。 「……楽になれたら」 そんなありふれた弱音を吐いているから、後ろから来る小さな足音に気付かなかった。 「じゃあな。」 「あ」 気が付くと、空と地面が逆になっていた。 その日は蝿がよく集る日だった。 集っているところが僕の身体だと気付いたのは、僕がこの走馬灯を見ている時だった。 九月。僕は、夏にやかましい「蝿」のようなあいつらに、屋上から落とされて死んだ。 呆気ない最後。 最後に見るのが、あの悪魔の笑顔だなんて。 結局、お母さんが付けてくれた、「叶大」という名前のように、大きな夢を叶えられる存在にはなれなかった。 それに、最後の言葉が、「あ」って。 誰かに贈る言葉も残せない。意味のない人生。 あいつら人間にとって、僕のほうが煩わしく、鬱陶しい。やかましい存在だった。 それこそ、「蝿」のように。 ずっと、人間共に笑われながら。 きっと、明日には忘れてるような、矮小な命と存在感。 九月の蝿は底辺で死んだ。 それが、それだけが僕が唯一、 この世に残した言葉だった。

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主人公の物語

この世界の「主人公」は、僕ではない。 僕はきっと、「主人公」の「物語」の背景にしかなれない。 「この『物語』は、僕のものじゃない」 わかりきっていることだ。それでも、期待してしまう。 主人公のように。可愛い女の子と話して、 幸せな日常を送ることが、 所詮、脇役の、背景の僕に、叶うことはない。 主人公は、僕が行動を、実績を、功績を、成功をする度に。ゴミを見るような、光とは真反対の輝きをした眼差しを向けてくる。 僕の「幸せ」は、そんなものじゃない。 好きなあの子と付き合いたい。 可愛いあの子と仲良くなりたい。 所詮この世の「誰も見ない部分」の僕でも、 光り輝いた青い春に憧れてしまう。 才能も、人柄も、努力もなかった人生でも。 この「物語」の「主人公」のような 輝く日々を。

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終わりを選んだ君へ。

身体中にまとわりつく水分が、気怠さを引き起こし、体を動けなくする。 「午後10時から夜中の3時にかけて、大雨の予報です。最近は温度差が激しいので、体調管理をしっかりしましょう。」 液晶画面から発している青白い光が部屋を包む。 テレビから出るアナウンサーの声は、誰も呼応することなく、壁に吸収された。 リモコンを手に取り、テレビを消した。 『私だけは…君の味方だよ。』 目を開けた。 眩い光が瞳孔を刺激する。 視界を下に落とすと、そこには血まみれの死体があった。 「錆びた匂い…この教室…犯人は…」 ガラガラ、という音がして、ドアが開いた。 そこには、見慣れた顔があった。 「…なんだ。お前か…。どうだ、探偵。犯人はわかったか?」 そう、僕は探偵だ。 警視庁捜査第一課の高梨は、しゃがれた声で言葉を続けた。 「殺人現場、被害者共にここ、第三高校2年6組の生徒、半田友利17歳。死亡推定時刻は5月23日9:43。友達や、クラスメイトの繋がりが深かったわけではなく、クラスメイトからは『よくわからない』と。」 「そうか…。クラスメイトが犯人じゃないなら、他の人はどうなの?家族とか、彼女とか。」 僕は教室を物色しながら質問をする。 「友利の机…傷の着き方的に、いじめか…」 「…いじめ、いや、友利くんの机の場所、いつ…」 「本来なら、僕が聞き込みをするんだけど…。僕も高校生だから。君達が許さないんだろう?」 「……そうだな。高校生だっていうのに、本当に生意気だな。聞き込みなんてせずとも、お前はもう、犯人がわかっているんだろう?」 そのまま高梨の横を通り抜け、教室を出た。 今は春だが、梅雨が近く、桜は2日で散ってしまった。 独特の雨の匂いが鼻腔を刺激して、鼻の中の錆びた匂いが一掃された。 幸い、この学校には監視カメラがある。 犯人が逃げることはできないだろう。 「友利…君は虐められていた。そうだろう。その腹いせ…いや、逆だ。なんで、死んでしまった…」 何台かのパトカーがサイレンを鳴らしながら到着した。ベテランしかいないからか、全員の雰囲気は只者では無い。 「僕にはもう、犯人がわかっている、だと?バカを言うなよ。探偵には超能力なんてもの、ないんだ。」 「んー…監視カメラには探偵くんと、友利くんしか映っていませんし…」 「だが、探偵、とやらと友利くんの繋がりはないんだろう?なら、犯人は別の生徒に違いない!」 「まず、生徒と断定するのが良くないだろう」 会議室は雨の影響で暑苦しい。 中にいる全員が、各々の推測を話し合っている。 そんな中、高梨の重い口が開く。 「だが、あいつが犯人として考える方向で間違いないだろう。それ以外、考えられない。自覚がないんだ。…そう。自覚がないってことは…」 その時、会議室のドアが勢いよく開いた。 「決定的な証拠が上がりました。今、犯人を探しています。」 「え!?ほんとですか!?そ、その証拠は!?」 「友利くんのスマホです。スマホの中に……」 「詳しく、話してくれ。」 高梨だけが、冷静に、淡々と話を聞いていた。 錆びた匂いが充満する教室で思考が巡る。 ありがとうを言い忘れたこの世界で。 私の手は、汚れてしまった。 眩い太陽と、輝く桜は、暗雲と、悲痛な雨に殺された。 光が無くなった世界は、私にとって、それは地獄に等しかった。 「ごめんね。こんなことを頼んで。土曜日…だし。学校には…監視カメラがあるから。逃げることは…できないかもしれない。そのまま…その、ナイフで。お腹……とか。刺してくれれば…」 私の手には、銀色に輝くナイフがある。 目の前には、太陽がいる。 私は、その太陽を塞ぐ、暗雲になるんだ。 私は。私は私は。私は。 僕は。僕は?僕、僕は。私は。 「探偵。お前はもう、犯人がわかっているだろう。クラスメイトの事情聴取で、唯一、お前の名前が上がった。幸紀。お前…は、ああ。こんなことは、1回じゃない。幸紀…。探偵ごっこは、終わりだよ。」 僕は、探偵だ。 私は、友利の━━━━━お前たちは、救ってはくれなかった。 「いじめの事実を隠蔽していたのは学校側だ。だが、そのいじめを1番否認していたのは、いじめていた本人ではなく、友利くん本人だ。友利くんは気付いていたんだ。……そう、いじめも、殺人の犯人も…、全て…」 その時、暗雲に閃光が走った。 その後、轟音と共に静寂が包む。 気付けばあたりには警察がいた。 「そんなことを言いに、僕の所へ来たのか?もういい。それより、僕にはアリバイがある。僕は家で寝てたはずだ。なぜ、あの教室にいたのかわからない…けど、僕は家で……」 「これは友利くんのスマホだ。」 高梨はポッケからスマホを取りだし、メールを開いた。 そこには、 『君にしか頼めない』 『もう疲れた』 『終わりたい』 「これは友利くんがお前宛に、今日の午前9:02にメールが送られている。次がこれだ。」 『大丈夫』 『私だけは友利の味方だよ』 「これは、数ヶ月前から何度も送られていた言葉だが、今日も同じような言葉が送られていた。友利くんは、犯人と親密な仲で有り、人生に疲れていた。その時、お前の救いの言葉で、諦めがついたんだろう。監視カメラにも、お前と友利くんの2人が映っていた。」 「そして、お前は、友利くんの机の場所を知っていた。机の場所を把握しているくらい教室を知っていたなら、なぜ、先程、教室の物などを調べていた?土曜日なんだから、なにかの場所が変わるわけでもないだろう。」 「それに、ナイフには友利の指紋しかなかった。だが、友利がナイフを握り、その手をお前が握れば、指紋は着かず、殺せる。いや…救える、か。」 「そして、決定的な証拠が、これだ。」 『君に終わらせて欲しい』 「探偵、犯人はお前なんだ。いや…幸紀。なにも…違いはしない。」 「僕は…私は、違う……。そんなつもりでは、…ない。」 梅雨が開け、夏が始まる。 一連の殺人事件は、幕を閉じる。 春の桜は散ったが、向日葵は前向きに、太陽を向いて咲いている。 いじめの主犯である幸紀は、友利にバレないよう、悪質ないじめをしていた。 それは、嫉妬や憎悪ではなく、単なる「愛」であると、本人は供述していた。 いじめにより、辛くなった心に寄り添う。 依存。信頼を築く。頼られる。それを目的に。 だが、友利の頼り方は、違った。 幸紀は、友利との始まりを望んでいた。 それでも、友利は、幸紀との終わりを選んだ。

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「理想の」いじめっこ

今のいじめっ子は、ネットで悪口を書き連ねて、友達同士で陰口を言い合い、私がなにかやる度に、コソコソと嘲笑を繰り返す。 なんとも陰湿で、なんとも腹が立つ。 「殴りかかったりしてくれれば。」 「思いっきり、面と向かって悪口をいってくれば。」 やり返したり、先生に報告したり、できたのに。 そんな私に、私の元に、君は訪れた。 青空が輝く、「真夏日」という言葉が似合う季節になった頃だ。 「調子乗んなよ」 「なんで生きてんの?」 「気色悪い」 そんな言葉を私に振りかけては、悪魔のような笑顔で去っていく。 ああ、君は「理想の」いじめっ子だ。 私は君のような人を待っていたんだ。 君と会うために、今日まで「いじめ」に耐えて、耐えていたんだ。 ああ、さようなら。私の、理想の「いじめっ子」 また私を「可哀想な」被害者にさせておくれ。

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海賊の宝物

海を渡り、船を見つければ、その船に乗り込み、宝を奪う。 奪ったら、乗組員を殺したり。 私は、まあ、俗に言う、「海賊」というものです。 海賊と言ったって、私は船長でもないし、腕は伸びないので、そんな明るい期待はしないでください。 それに、剣や大砲で戦うわけじゃないのです。 それこそ、拳銃や、重火器を乱射して、ナイフで刺して。 ああ、剣は使っていましたね。 そんな感じで、皆さんがよく思いつく、「海賊」ではないのです。 船だってそうです。舵を切って、帆をあげて、大きい波に揺られて、嵐を乗り切るようなことはしません。 モーターボートでのらりくらりと、そこら辺の貨物船に喧嘩を売る。 そうして仲間のものを奪っては、海に蹴落とし、銃で殺す。 私はそんな、現代の「海賊」でした。 そんな「海賊」でも、人の心はあるようで。 時々、仲間と見る朝日は、どんなダイヤモンドよりも、どんな白金よりも、大切で、美しいものでした。

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