お漬け
8 件の小説青い景色
高校最後の夏の大会。 私は、選ばれない側だった。 小学校低学年の時に、テレビの前で憧れた バレーボール テレビで中継される日には、テレビにしがみつくように応援した。 点を取る度に飛び跳ねるものだから、 あまりの熱中さに、お母さんに笑われた。 録画は欠かさず、毎日眺めた。 ときに、家族でバレーの大会を見に行くこともあった。 私はこの時間が大好きで、特別だった。 12歳のとき、バレーボールのボールを初めて買ってもらった。 嬉しくて嬉しくて、家にいる時はずっと持ち歩いた。 中学生になったら絶対部活は、バレー部に入る。そう決めていた。 でも、現実は厳しいものだ。 お父さんが会社を解雇になり、お父さんはうつ状態。その状況を受けて、感受性が高い母まで精神病ときた。 7つ離れた妹がいるため、世話を見るのは私だった。 私が通っていた中学には、バレー部があったのに。 バレー部の子達を見る度、私は胸がざわついた。 お父さんが解雇になってなければ、お母さんが鬱になってなければ、考えれば考えるほど、私の頭は、真っ暗に染まっていった。 中学3年生になると、母は病院のお陰か、徐々に回復していき、ついに、パートに行けるようにまでなった。 プライドが高かった父は、まだ家に篭もり状態のものの、徐々に回復の傾向をしめしている。 そんな中、受験生になる私は、必死で勉強に追われていた。 うちのお金は、もう、底がギリギリなのだ。 特待生になるほか、私が高校生になるのはしなんの技だった。 「お母さん。私、ここの公立高校目指してるの」 パートから帰ってきた母に言った言葉。 でも、この日は虫の居所が悪かったのだろう。 「そう。特待目指しなさいよね」 私の意見は、お構いなしに、妹の小学校の入学式の話に変えられてしまった。 キリキリと、皮膚を爪が刺激した。 妹は、幼いながら大人しい子だった。 私が落ち込んでいるときは、すっと、傍に寄ってきてちょこんと私の膝の上に座る。 口数は、少ないけど、行動でしめしてくれる優しい子だ。 そんな、環境の中掴んだ特待生。 私は、偏差値67の高校に進学した。 そして、私はバレー部に入部することになる。 初めは、嬉しさと楽しさでいっぱいいっぱいだった。 でも、想像していたよりも、経験者との差は埋まらない。 私が勉強をしていた間にバレーをずっとしてきたスポーツ推薦の子達が、すぐに、現実を見せてくれた。 でも、ずっとしたかった夢。 私は大会メンバーに選べるように必死で練習した。だからといって、特待で入学してる私は、勉学を疎かにするわけにはいかない。 部活を続けることは、至難の技だった。 だから、秋の大会に選ばれたことはこれまで以上に嬉しかった。のちに、A軍チームが他の県で練習試合をするため変わりに組まれたB軍チームだったということを知ることになってしまうのだけど。 それでも、大会に出ることができた幸福は何よりも大きかった。 結局、二年の秋の大会が、最初で最後になってしまったようだ。 「今回の夏の大会は、このメンバーで行くことになった。」 名前を呼ばれたメンバーがそうでないメンバーの前に並ぶ。 そして、熱い想いを一言ずつ言っていく。 そこで聞いた言葉は、私の頭になにも入ってこなかった。選ばれなかった自分にイライラして、腹がたった。そして、今にも流れ出しそうな水を私は必死でこらえた。 帰り道、選抜メンバーに選ばれた葵と、 買ったアイスを口に咥えながら歩いていた。 高二の春の練習試合の帰りにも一緒にアイスを食べたなあと思い出す。 「大会、一緒に出たかった」 葵がふと、言葉をこぼした。 「うん」 水滴が鉄のようにこわばった小指を流れた。 かつて、二人で夢描いた景色。 私は、破ってしまったのだ。 「ほんとに、私も出たかった」 「うん」 「そんなの、分かってるよ」 葵は、私をぎゅっと抱きしめた。 あまりの温かさに頬に冷たい何かが、伝ったのが分かる。 「県大会絶対優勝するから、全国大会に選ばれるように頑張るんだよ」 彼女の優しさに、思わず目を細めた。 「ありがとう」 傍にあった小石を軽く蹴り上げた。 その小石は、コロコロと転がり、やがて動きを止めた。 「わたし、発表されたとき、選ばれなかった自分にイライラした」 私は葵を見つめた。 彼女の真剣な眼差しが私の瞳に写る。 「でも、全力で努力して自分の精一杯を出し切れた」 「後悔なんて、なんにもない」 葵は、柔らかい表情で「うん」とうなづいた。 「葵!私に最高の景色見せてくれよな」 葵は「おうよ」と気前よく言って私に拳を近づけた。 それを受け取るように拳を重ねる。 この日の空はやけに澄んでいた。
小さな共感
ガタン、ガタン、電車に揺られ、窓に広がる景色を眺めた。 二人席の座席に、ポスンと音が聞こえた。 いつも登校時に会う女子高生だ。 「今日は、何もしたくないんだ」 その子はそう言って、リュックからスマホを出した。 「貴方は?」 ぽつりと聞こえた声。 山を超えると海が綺麗に輝いていた。 「会社に行かないで、ただ景色を眺めてたい」 静かな空間。 「いいね」 海が窓いっぱいに広がった。 降車を知らせるアナウンスが流れた。 「またね、お姉さん」 女子高生は、リュックを抱えて立ち上がった。 「ええ、いってらしゃい」
音が溶けた春
春の暖かさを感じ、桜が満開に花を咲かせる今日。 私は、とある人を待っていた。 いつもより、丁寧にメイクをして、胸まである髪の毛は、毛先を少しだけ巻いて。クローゼットの前で、何度も着替え直した。 集合時間10分前。 心臓が早くなっているのが分かる。 今日は土曜日ということもあり、多くの人で賑わっていた。 みんな、お目当てはこの満開に咲く、桜を見に来たのだろう。 「よっ、お待たせ」 振り向くと、ジャージ姿の佐藤がいた。 「部活おつかれ」 「ありがとう」と、彼はふにゃっと笑った。 「じゃあ、お花見行きますか」と、彼は手を差し出した。 私はその手を受け取った。 「桜綺麗だな」 「ねー」 「有山、こっち向いて」 「え?」 私が振り向くと、同時にスマホのシャッター音がカチッとなった。 「かわいい」 さっき撮った写真を私の前に突き出した 「ぶれぶれじゃん」 「貸して」 「ハイチーズ」 カシャっと、音が鳴った。 「うん、いい顔してる」 「なんだそれ」と、彼は苦笑した 優しい風が私たちを包み、花びらが舞う。 ふと、しだれ桜が目に入った。 「ね!しだれ桜の傍でお昼食べない?」 「いいね」 白と緑のチェック柄のレジャーシートを広げて、リュックからランチボックスを取り出した。 ランチボックスをゆっくり空ける。 佐藤に喜んで貰いたくて、作ってきたのだ。 「うわ、うまそー」 真っ赤に焼けたタコさんウインナーや卵焼き、サンドイッチを目にして「作ったの?天才じゃん」と、言ってくれた。 顔が少し熱くなる。 箸を持つ手が、やっと落ち着いた。 「実は、俺もさ、弁当作ってきたんだ」 予想外の言葉に思わず目を開いた。 「え!そうなの」 「見せて見せて」 すると、佐藤はリュックからお弁当箱を取り出した。 空けるのを少し躊躇している様子で、 「有山みたいに上手くできてないけど、初デートだし、俺なりに頑張った」 そう言って彼はお弁当箱の蓋を空けた。 中には、黄金色のタコさんウインナーや、おにぎり。少し焦げ付いた野菜炒めに少し笑いそうになる。 「ありがとう。めっちゃ美味しそうだね」 彼は「褒めすぎ」と、ふにゃっとした顔を見せた。 真っ赤に焼けたタコさんウインナーと黄金色のタコさんウインナーを並べた。 カシャッと、音が溶けた。
紫陽花
決していい日と、言える日では無かった。 お母さんと進路の事で喧嘩をし、家を飛びだしてきたのだ。 あいにく、空は曇り空。車に水を跳ねられて散々だ。 ほんのりと、花の匂いが漂ってきた。 道を真っ直ぐ進むと、子供が紫陽花の上にいるカタツムリをしゃがみこんで見つめている。 この花の匂いだったのかと淡いピンク色の花を見つめた。 私はこの香りが好きだ。 どこか懐かしくて、切なくなる。 雨が染み込んだアスファルトは、光を反射してキラキラ輝いていた。 散々なことなんて、どうでもよくなるくらい。 その景色は、あまりにも綺麗だった。
金木犀の香り
第一章 金木犀の香り 誰かの一番になりたくて、私はまた一人でさまよっていた。 私はいつも「ちょうどいい人」だった。 「なるほど。つまり丸山さんは誰かに愛されたいんですね?」 黒縁メガネをかけたお兄さんは私の目を見てにこりと微笑んだ。 「はい」 「では、ここにサインをお願いします」 ”丸山 さな” 丸山さな ・中学二年生 ・中一の冬から不登校 悩み 友人関係 ______________________________ 「さーなー」 私を呼ぶ声が近くで聞こえた。 声が聞こえた方に目をやると、ミディアムヘアの可愛らしい顔をした女の子が私に向かって微笑んだ。 「そんな驚いた顔してどうしたの?」 彼女は不思議そうに首を傾けた。 その瞬間サラサラの髪の毛が揺れ金木犀の香りが漂った。 周りを見渡しても、二年四組の教室はいつもと何も変わらない。 ただ一つ違うのは、さなの目の前に見たこともない女の子がいることだった。 「え、あの、どちら様ですか?」 私に話しかけてくれたのに、知らなくてごめんなさい、ごめんなさい、と心の中で何度も謝りながら、さなは恐る恐る彼女の顔を見た。 「ちょっとこっち来て」 彼女は笑顔でそう言って、私のブレザーの裾を引っ張った。 彼女に連れられて、誰もいない音楽室入った。 「急に連れ出してごめんね」 彼女は苦笑した。 私はこの状況に戸惑っていた。 「私は2組の西川 とうい」 「どうして話しかけてくれたの?」 「友達になりたいなって思ったから」 「わたしなんかと?」 「さなちゃんがいい!」 彼女は笑顔で、私の心を照らした。 音楽室に置かれていたピアノが、太陽の光に照らされて眩しく輝いていた。 「さなちゃんは音楽すき?」 「うん。すきだよ」 「やったー。私ね音楽が大好きなんだー」 「そうなんだ」 「そう。ピアノを3歳の時からしててね。ピアノを演奏するのが一番の楽しみなの」 「素敵だね」 彼女は自慢げに「でしょー」と続けた。 「西川さんの演奏聞いてみたいな」 彼女は何も言わず、ピアノの方に歩いて行った。 ピアノに彼女の手が触れる。 しばらくして、聞いたこともないような華やかで美しい、春の暖かさを感じる音に身を包まれるた。 さなは、初めての感覚にうっとりと彼女の演奏する姿を見つめた。 「また聞かせてくれる?」 彼女はにっこり笑って「うん」と、元気よく言った。 それから私は何度も彼女のピアノを聞きに来た。 いつの間にかとういは私の大親友でとういと居る時間は私にとってかけがえのない時間だった。 いつものようにとういがピアノを弾いてたときだ。 「さなも弾いてみる?」 戸惑った。 猫踏んじゃったでさえも弾けない私にピアノは未知の世界でしか無かったからだ。 「大丈夫だよ。私が教えてあげる」 彼女はお日様のように笑った。 「さなは弾いたことないんだよね?」 こくりと頷いた。 「じゃあ、きらきら星なんてどうかな?子供っぽいとかはなしだよ」 「弾いてみたい」 私はとういときらきら星を奏でた。 「いいね!心から楽しんでるって伝わってくる」 「ええ!そんなの分かるの?」 「そりゃあね、ピアノは自分の心が音に乗って表れるから」 金木犀の香りに包まれた音楽室は暖かくて魅惑的な世界に満ちていた。 小雨が降る今日、きらきら星を弾いてとういを待っていた。 けれど、この日とういが音楽室に来ることは無かった。 それから何日かしてとういが姿をみせた。 久々に会えた嬉しさで、とういに 「きらきら星を上手く弾けるようになったんだよ」と、自慢をする子供のように演奏をした。 彼女はいつもの笑顔をみせた。 けれど、いつもと違う雰囲気を感じる彼女に なぜか違和感を覚えた。 彼女がピアノを奏でたとき、胸が焼けるほど切ない寒さを感じる感覚に襲われた。 いつものとういじゃない。 そう感じた。 「どうしたの?とうい」 「んー?なにが?」 「すっごく寂しそう」 「そんな事ないよ」 結局彼女は何も言ってくれなかった。 「ばいばいさな」 いつも「またね」と言う彼女が、今日は「ばいばい」と言った。 不安になる胸の高まりがどうしようもなく気持ち悪かった。 ______________________________ 第二章 金木犀な彼女 ピアノのコンクールが近づくたび、私はプレッシャーで今にも逃げ出したくなった。 五歳のときに取ってしまった。 全国ピアノコンクール優勝という肩書きは現在の私の首を締め付け続けている。 両親の猛烈な期待に答えるべく、私は今日も部屋に籠ってピアノを演奏していた。 「そこ、もう一度」 お母さんは私が、ピアノの練習を始めるといつも後ろに立って指導をしにくる。 「ねえ、何度も言ったでしょ。ここのリズムが遅いの。”貴方は幼い頃から優秀なんだから”これくらいできるはずよ」 「はい」 毎日毎日ピアノの練習。 友達と遊ぶ時間もなくいつの間にか私の周りに友達は居なかった。 でも、よかった。 私はピアノが大好きだったから。 でも、そんなのただの強がりだった。 私はどこかで私を1番に愛してくれる人を探していた。 お母さんは私を愛していない、 ピアノを優勝する自分の娘という肩書きを愛しているのだ。 それはお父さんも同様だった。 私は家でも孤独だった。 そんなとき、黒縁メガネをかけたおじさんと出会った。 「あなたは誰かに愛されたい」 自分の心を読まれたようでどきっとした。 「なんですか、あなた」 「おお、これは気の強いガキだ」 彼は微笑んだ。 「ここにサインを貴方にとって素敵な出会いが訪れますよ」 彼は私の目を見た。 そして私はいつの間にか名前を書いていた。 ”西川 とうい” ______________________________ 次の日、私は学校に着いてすぐ 「さーなー」と、見ず知らずの女の子の名前を呼んでいた。 彼女はとてもびっくりしていて、そんな私も自分自身に驚いていた。 彼女は金木犀の香りがした。 彼女と会うのはいつも朝で夕方になると何故か彼女は姿を消す。 それは、私がピアノを演奏しているとき目を離すと居なくなっていたり話していたら急にまたねと、言い出したりと不可解なものだった。 ある日私はさなにピアノを教えた。 彼女が奏でる音はどこか聞き馴染みがあった。 そして何より楽しそうに演奏するそんな彼女のピアノが大好きだった。 9月下旬のこと、私は音楽室に来るのが遅れた。 さなはもう来てるだろうなとドアの隙間から音楽室を覗いてみると誰もいなかった。 「なんだ、さなも遅刻か」 そう思って扉を開けた。 その瞬間、きらきら星が聞こえ始めた。 ピアノをみるとさなが演奏していたのだ。 ただ、ただ、困惑した。 「さな?」声をかけた。 でも、彼女に私の声は届かなかったみたいで、彼女はこっちを向かない。 「どういうこと?」 私は怖くてその場から逃げ出した。 音楽室をでて、すぐ側にある階段を駆け下りたとき、黒縁メガネをかけたおじさんが姿を現した。 「お久しぶりですね。”西川とうい”」 「な、な、あの、さなは一体何者なんですか?」 「彼女は君と同様、誰かに愛されたいと願ったただの少女です」 愛されたいと願った少女。 確かに私もそうだった気がする。 「幽霊なの?」 「いいえ、違いますよ。現に今も生きてますし」 「え?じゃあ、なんで、さなは消えたり、表れたり…」 彼はこう続けた 「彼女とお別れをする期間が近づいてきていますね。10月下旬までもつと思っていたのですが、残念ですね。」 「今年は10月までもつかどうか。」 この男が何を言っているのか意味が分からなかった。 「夢物語ですから。期間は付き物なんです」 彼はまたにこりと微笑んだ。 私は今までの事を考えてみた。 おかしいことは多々あったのだ。 あの、いきなり現れる黒縁メガネのおじさん。 学校に来ると、なぜか私は音楽室に居て、そこにはさながいる。 夢物語 もしかして、これは夢なの? そうか、そういうことか。 さなも結局、私が生み出した空想の人物でしか無かったのだ。 さなは私を愛してくれていると思っていた。 そして、私はさなを愛していた。 冷たい水が頬を伝った。 その日はただ、虚しかった。 ______________________________ 第三章 金木犀の願い 黒縁メガネをかけた男が少女に問いかけた。 「学校に行けそうですか?」 少女は頷き俯いた。 「わたし…人に愛されたいと思いながら、人と関わりを持とうとしていませんでした。」 みんな私といても退屈だろうな。 この子の傍に私なんかが居ていいのかな。 考えれば考えるほど、 人と関わることが怖くなった。 そして私は一人でいることを好むようになった。 --でも。 周りを見渡しても ペアを作ってと言われた時も、 いつの間にか、一人でいる私がおかしく見えて浮いてて。 独りが怖くて、怖くて、孤独で。 いつの間にか、学校に行くことが苦しくなっていた。 家に閉じこもり、ずっと音楽ばかり聞いていた私に最高の出会いが訪れた。 彼女はピアノが大好きで、 強くて、真っ直ぐに努力していて。 そんな彼女に出逢えたことが何よりも嬉しかった。 夢物語 夢物語は、同じような願いを持っている子供を時代を関係なくめぐり合わせ、 空想の世界で願いを叶えるのだと。 黒縁メガネのお兄さんはそう語った。 「あの、どうして私を選んでくれたのですか?」 お兄さんに問いかけた。 「さあ、ただの気まぐれですよ」 彼は出会った時と同じように微笑んだ。 いつの間にか彼は姿を消し、 空想世界で作られた音楽室に 私は一人残された。 もう、彼女の名前を思い出すことは出来ない。 けれど、これからも私の心を照らしてくれるのだろう。 ありがとう。 いつかのあなた。 私は貴方を愛しています。 金木犀の香る音楽室をでて、 私は一歩踏み出した。 ______________________________ 第四章 金木犀の意味 家に帰ると、お母さんとピアノの先生がリビングで話しているようだった。 私はレッスンまで時間があったので、 2階の自室へ向かった。 「そういえば、花田先生はピアノをいつからされているんですか?」 軽いパーマをかけた女性がティーカップを置く。 カチャリ、と小さな音が鳴った。 「私が始めたのは十四歳の頃。当時中学二年生でしたね」 ふふ、と彼女は微笑む。 「それが、まあ。楽しくって」 「あら、今のとういの年齢じゃないですか」 「ええ。当時仲の良かったお友達が教えてくれたんですよ」 「たしか、曲は…きらきら星だったような」 〜終わり〜
夜風とコンポタージュ。
「生きにくい」 冬の冷たい夜風に、綺麗な長い髪の毛を靡かせて彼女はそうつぶやいた。 「それな」 あみもつられて言葉に出した。 「世界はさ、広いとか言うけど狭いよね」 「あー。そうなのかな?」 「だって私達ってさ、どれだけここから離れようとしても地球という惑星からは逃げられないんだよ」 「うん」 「くそじゃん」 「なんかあった?」 「大あり。ずっと悩んでる」 彼女は自販機で買ったコンポタージュをゆっくり飲む。 「毎日考える事が多すぎるんだよね」 「いっそ、海外に行ってみたい」 「えー。世界は狭いんじゃないの?」 「まあ、一つの国にずっと留まるよりは広いんじゃね?」 「まーねー」 「私たち、まだ17歳だよ」 「まだどこにも行けないね」 「いいんだよ。これから先、沢山行ってやるから」 彼女と私は少し笑って 遠いようで近い将来の事を考えた。 「でも、あみのおかげで楽しいよ」 「えー。何急に私もだよ」 冬の寒さとはうらはらに 握りしめたコンポタージュの缶は温かかった。
あなたの進路は?
もう高二の冬なのに 将来なりたい職業がどうしても分からない。 したいこと、やってみたいことは沢山あるけど いくら考えてもパッとしなくて ずっと、もやがかかっているようだ。 これから先私はどのような道を進むのだろう。 私が求めている答えを見つけられた時、 はたしてその夢は叶えられるのだろうか?
好きな子の彼氏
はづきの笑った顔が好きだ。 これを恋だと気づいた時には、既に遅くて 好きな子の隣には付き合っている彼氏がいた。 部活の帰り道。 目の前にはジャージ姿のはづきの彼氏、安藤が俺の前を歩いていた。 はづきとは、一緒じゃないのか。 ていうか、大丈夫なのか。 こいつは、はづきのどこが好きで付き合ったんだ。 そんなことを考えていると、安藤が振り向き目が合った。 「あれ?もしかして楓くん?はづきと友達のー」 「そうだけど」 「奇遇じゃん。部活帰り?」 「ああ」 「楓くんは何部だっけ?」 「美術部だけど」 「あー!絵上手いんだ!凄いなあ」 「お前は、絵かくのか?」 「俺は全然だよ。下手すぎてはづきにいつも笑われる。はづきは絵上手いからね」と、笑顔でこっちをみた。 俺の方がはづきを知っていますよアピールか?気にさわるやつだ。 「なあ、はづきのどこが好きなんだ」 「そりゃあ、全部でしょ」 「美味しそうにご飯食べる所とか笑顔とか俺大好き」 簡単に全部とかいうなよと思った矢先。 つい口がでた、 「はづきは、生意気で頑固で文句はすぐ言うし寂しがり屋だし。そんで、すぐ泣く。めんどくさい奴だ。」 「そんなとこも、好きなのか?」 「好きだよ。確かにそんな所もある。けど、楓君も分かってるんじゃないの?」 「そこがまた可愛いところだって」 恋は輝いていて、ときに苦しい。 一日に君と目が合うだけでその日は幸せで、 自然と顔が熱くなる。 「かえで!おはよう」と 言って笑う 君の笑顔が やっぱり好きだ。