お漬け
11 件の小説夕暮れの教室
放課後の教室を夕日が照らす。 暖かな光が差し込んだ。 冊子をめくる音がやけに近い。 鼓動がはやくなっているのは言うまでもない。 先生に私が執筆した小説を読んでもらっているのだ。 目の前に座る先生の瞳が目に焼きつく。 真剣な眼差しが何とも綺麗だった。 ショートカットがよく似合う先生。 今日も凄くかわいい。 先生に好きだと伝えたらどういう反応をするのだろうか? 引かれるかもしれない 距離を置かれるかも いや、恋愛目線とは違う解釈で喜んでくれるかもしれない まあ、そもそも私の事なんて生徒としかみていないだろう… 「有坂さん」 「はっ、はい」 やばい、見つめすぎたか。 「この小説。凄く面白い」 先生は真剣な声で私に言った。 ぶわっと顔があつくなったのがわかる。 凄く嬉しい。 「この小説に出てくる少年と先生の出会いとか、伏線がはられていたことにびっくりしたわ」 「ほんと?ありがとう」 「有坂さんにこんな才能があっただなんて、素敵ね」 先生は嬉しそうに語ってくれた。 この勢いで聞いてしまおうと思った。 「先生は、この小説みたいに、生徒と先生の恋はありだと思いますか?」 それを聞いた先生は、「そうねえ」と少しからかうように言って 「あるわけないじゃない」と、続けた。 「こういう物語はフィクションだから面白いのよ」 そういいながら先生は私に紙の束を渡した。 「…だよね」 それを受け取り、尋ねる。 「先生。私が卒業してもこうやって小説を読んでくれる?」 「ええ。もちろん」 彼女は優しい笑顔を見せた。 後一年と二ヶ月 それまで、先生との距離はこのまま。 「早く大人になりたーい」 「じゃあ、まずは進路を決めないとね」 いつもの先生らしい言葉に、思わず笑ってしまった。 「先生すぎるよーー」 彼女は優しく微笑んだ。
ペルセウス座流星群
真夜中に外を出るのも楽しいもんだ。 僕はこの夏、 流星群を見るために普段なら寝ている時間に家を出た。 真夜中の海辺は、音が近かった。 せっかくなら、動画に収めようと流星群を待ち構える。 残念ながら、 流星群は中々流れてこず、空を見上げるのがキツくなってきた。 レジャーシート持ってきたら良かった。 そう思ったものの、普段星を見るタイプじゃないので、知らない痛みだ。 思わず舌が鳴る。 僕は上向けに寝転がり、枕替わりに鞄を置いた。 空をぼーっと見上げる。 真っ暗の夜空に無数の光が広がっている。 星の光をこんなにも長い間見つめたのは、 きっと、この日が初めてだっただろう。 何か胸に来るものがあった。 「流星群。全然、流れねえな」 「ですね」 右隣から返事が聞こえた。 突然のことに心臓が飛び跳ねるかと思った。 「あは、驚いてる」 僕と同じように寝転がっている彼女が言う。 「いやー、すみません。ちょっと人と話したくなってしまって」 「いや、こちらこそ、驚いてしまいすみません」 「いえいえ全然」 「あの、いつからそこに?」 「全然撮れねーじゃねえか。のとこからですね」 「ほら、私の撮っていた動画にバッチリ入ってます」 彼女は動画をタップした。 まさか後ろに人がいるなんて思いもしなかった。 僕の後ろ姿に加え、声がしっかりと入り込んでいる。 「やめて下さいよ。ははっ」 舌打ちまで聞かれていたとは恥ずかしい限りだ。 「ここ、いいですよね。」 彼女は空を見上げて呟いた。 「ちょうど星が見やすい暗さで、でも、駐輪所から近いから帰りやすい」 「ですね。」 一瞬、話が盛り上がったものの、無言が続く。 「お姉さんは星好きなんですか?」 「好きですねー。これでも、大学で天文学を学んでいるんですよ」 「へー。ガチのやつだ」 「ですです」 「お兄さんは?好きですか」 「僕は、夜がすきなので」 「ほお」 「つまり、好きってことか」 彼女はそう解釈したようだ。 そんなとき、一筋の光が流れた 「見えましたね」 彼女は弾んだ声を聞かせた。 「ですね」 一瞬の出来事に目が開く。 初めて見る流星群はあまりにも綺麗だった。 「あ、動画撮るの忘れた」 僕は握りしめていたスマホを思い出した。 「いいんですよ。動画じゃなくて、直接見ましょう」 「それが一番綺麗なんです」
気ままな野良猫
「あ、この爪割れてる」 私はベッドの傍に置かれた椅子に座り、彼の爪を覗き込んだ。 たしかに、小指の爪が割れていた。 伸びすぎたのだろう。 「かわいい」 軽い口調で言い返す。 いつものくだらないやり取りだ。 「バカいえよ」 「こんな馬鹿らしい会話してるの、ユナたちだけだよ」 あまりのくだらなさに笑いが込み上げてきた。 「だろうな」 彼は小さく笑って、目を伏せた。 「狭い狭い狭い」 「この世界、ユナには狭すぎる」 「意味わかんねえ」 「ユナはね、教科書に載るくらいすっごい人になるんだから」 「あー。まあ、がんばって」 「ぜったい、思ってない」 「思えねえだろ」 「思えるんだよ」 この世の中、くっそつまんない。 生きにくいことばっかり。 だから、ユナは思いついたんだ この世界じゃ考えられないほど、 ぶっ飛んだ生き方をしてやろうと。 「で、何をするんですか?未来の偉人?」 彼はいつものように眉を少しあげた。 「ユナは猫になる!」 「はいはい」 「また、そうやってあしらうー」 「なんで猫?」 「そりゃあ、自由で、気ままでさあ。皆から可愛がられるじゃん」 そう言って彼女は八重歯を見せた。 ひたすら膨大な夢の数々を語ったあいつは、 持病が悪化し今年の春亡くなった。 俺に夢だけを残して。 彼女が居なくなった病室に響くのは、 患者の咳とたまに訪れる訪問者との話し声。 俺の胸元についてる機械音。 あまりにも静かだった。 窓の外で、時々見かける野良猫が目に入った。 何にも考えていなさそうなふらっとした姿が、なんとも羨ましく見えた。 「なあ、お前ユナだろ」 野良猫は、軽くしっぽを振った。
枝豆といっしょ
「あほみたい」 男はタバコをふかしながらそうつぶやいた。 それを見た店主は、持ち前の明るさでフレンドリーに話しかけた。 「俺、恋愛で人を好きになれないんすよ。 友達まではいけるんですけど、それ以上が難しくって」 店主は「えっええ」とトボケた声をだした。 「そりゃまた、なんでや?」 「、、」 男は呟き、首を傾げた。 「友達くらいの距離感が一番落ち着くっていうか」 「踏み込まれ過ぎると、無性にむず痒くなる」 煙がフーッと膨らんだ。 「そりゃあ、 まだ本気で人を好きになったことが無いのかもしれへんなあ」 店主は枝豆を小皿に乗せた。 その上にパラパラと塩が降る。 男の前にコトッと小皿が置かれた。 男は分かりやすく目を丸くした。 「思ったより、いっぱいっすね」 それを聞いた店主がグハッと笑う 「人なんて枝豆みたいに山ほどいるんやで」 「そんな急がんでも、いつの間にか好きでたまらんって思える奴と出会えるもんや」 「なんすかそれ笑」 カウンターに笑い声が転がった。 「あら、枝豆サービスしすぎじゃない?」 奥からおしぼりを持った店主の奥さんが顔を覗かせた。 「いいんやって、こいつも悩める時期なんやし」 店主はそう言って、自分の湯のみを口元へ運んだ。 男は枝豆を口に放り込んだ。 「……あほみたい」 塩気が、少しだけ優しかった。
小さな共感
ガタン、ガタン、電車に揺られ、窓に広がる景色を眺めた。 二人席の座席に、ポスンと音が聞こえた。 いつも登校時に会う女子高生だ。 「今日は、何もしたくないんだ」 その子はそう言って、リュックからスマホを出した。 「貴方は?」 ぽつりと聞こえた声。 山を超えると海が綺麗に輝いていた。 「会社に行かないで、ただ景色を眺めてたい」 静かな空間。 「いいね」 海が窓いっぱいに広がった。 降車を知らせるアナウンスが流れた。 「またね、お姉さん」 女子高生は、リュックを抱えて立ち上がった。 「ええ、いってらしゃい」
音が溶けた春
春の暖かさを感じ、桜が満開に花を咲かせる今日。 私は、とある人を待っていた。 いつもより、丁寧にメイクをして、胸まである髪の毛は、毛先を少しだけ巻いて。クローゼットの前で、何度も着替え直した。 集合時間10分前。 心臓が早くなっているのが分かる。 今日は土曜日ということもあり、多くの人で賑わっていた。 みんな、お目当てはこの満開に咲く、桜を見に来たのだろう。 「よっ、お待たせ」 振り向くと、ジャージ姿の佐藤がいた。 「部活おつかれ」 「ありがとう」と、彼はふにゃっと笑った。 「じゃあ、お花見行きますか」と、彼は手を差し出した。 私はその手を受け取った。 「桜綺麗だな」 「ねー」 「有山、こっち向いて」 「え?」 私が振り向くと、同時にスマホのシャッター音がカチッとなった。 「かわいい」 さっき撮った写真を私の前に突き出した 「ぶれぶれじゃん」 「貸して」 「ハイチーズ」 カシャっと、音が鳴った。 「うん、いい顔してる」 「なんだそれ」と、彼は苦笑した 優しい風が私たちを包み、花びらが舞う。 ふと、しだれ桜が目に入った。 「ね!しだれ桜の傍でお昼食べない?」 「いいね」 白と緑のチェック柄のレジャーシートを広げて、リュックからランチボックスを取り出した。 ランチボックスをゆっくり空ける。 佐藤に喜んで貰いたくて、作ってきたのだ。 「うわ、うまそー」 真っ赤に焼けたタコさんウインナーや卵焼き、サンドイッチを目にして「作ったの?天才じゃん」と、言ってくれた。 顔が少し熱くなる。 箸を持つ手が、やっと落ち着いた。 「実は、俺もさ、弁当作ってきたんだ」 予想外の言葉に思わず目を開いた。 「え!そうなの」 「見せて見せて」 すると、佐藤はリュックからお弁当箱を取り出した。 空けるのを少し躊躇している様子で、 「有山みたいに上手くできてないけど、初デートだし、俺なりに頑張った」 そう言って彼はお弁当箱の蓋を空けた。 中には、黄金色のタコさんウインナーや、おにぎり。少し焦げ付いた野菜炒めに少し笑いそうになる。 「ありがとう。めっちゃ美味しそうだね」 彼は「褒めすぎ」と、ふにゃっとした顔を見せた。 真っ赤に焼けたタコさんウインナーと黄金色のタコさんウインナーを並べた。 カシャッと、音が溶けた。
紫陽花
決していい日と、言える日では無かった。 お母さんと進路の事で喧嘩をし、家を飛びだしてきたのだ。 あいにく、空は曇り空。車に水を跳ねられて散々だ。 ほんのりと、花の匂いが漂ってきた。 道を真っ直ぐ進むと、子供が紫陽花の上にいるカタツムリをしゃがみこんで見つめている。 この花の匂いだったのかと淡いピンク色の花を見つめた。 私はこの香りが好きだ。 どこか懐かしくて、切なくなる。 雨が染み込んだアスファルトは、光を反射してキラキラ輝いていた。 散々なことなんて、どうでもよくなるくらい。 その景色は、あまりにも綺麗だった。
金木犀の香り
第一章 金木犀の香り 誰かの一番になりたくて、私はまた一人でさまよっていた。 私はいつも「ちょうどいい人」だった。 「なるほど。つまり丸山さんは誰かに愛されたいんですね?」 黒縁メガネをかけたお兄さんは私の目を見てにこりと微笑んだ。 「はい」 「では、ここにサインをお願いします」 ”丸山 さな” 丸山さな ・中学二年生 ・中一の冬から不登校 悩み 友人関係 ______________________________ 「さーなー」 私を呼ぶ声が近くで聞こえた。 声が聞こえた方に目をやると、ミディアムヘアの可愛らしい顔をした女の子が私に向かって微笑んだ。 「そんな驚いた顔してどうしたの?」 彼女は不思議そうに首を傾けた。 その瞬間サラサラの髪の毛が揺れ金木犀の香りが漂った。 周りを見渡しても、二年四組の教室はいつもと何も変わらない。 ただ一つ違うのは、さなの目の前に見たこともない女の子がいることだった。 「え、あの、どちら様ですか?」 私に話しかけてくれたのに、知らなくてごめんなさい、ごめんなさい、と心の中で何度も謝りながら、さなは恐る恐る彼女の顔を見た。 「ちょっとこっち来て」 彼女は笑顔でそう言って、私のブレザーの裾を引っ張った。 彼女に連れられて、誰もいない音楽室入った。 「急に連れ出してごめんね」 彼女は苦笑した。 私はこの状況に戸惑っていた。 「私は2組の西川 とうい」 「どうして話しかけてくれたの?」 「友達になりたいなって思ったから」 「わたしなんかと?」 「さなちゃんがいい!」 彼女は笑顔で、私の心を照らした。 音楽室に置かれていたピアノが、太陽の光に照らされて眩しく輝いていた。 「さなちゃんは音楽すき?」 「うん。すきだよ」 「やったー。私ね音楽が大好きなんだー」 「そうなんだ」 「そう。ピアノを3歳の時からしててね。ピアノを演奏するのが一番の楽しみなの」 「素敵だね」 彼女は自慢げに「でしょー」と続けた。 「西川さんの演奏聞いてみたいな」 彼女は何も言わず、ピアノの方に歩いて行った。 ピアノに彼女の手が触れる。 しばらくして、聞いたこともないような華やかで美しい、春の暖かさを感じる音に身を包まれるた。 さなは、初めての感覚にうっとりと彼女の演奏する姿を見つめた。 「また聞かせてくれる?」 彼女はにっこり笑って「うん」と、元気よく言った。 それから私は何度も彼女のピアノを聞きに来た。 いつの間にかとういは私の大親友でとういと居る時間は私にとってかけがえのない時間だった。 いつものようにとういがピアノを弾いてたときだ。 「さなも弾いてみる?」 戸惑った。 猫踏んじゃったでさえも弾けない私にピアノは未知の世界でしか無かったからだ。 「大丈夫だよ。私が教えてあげる」 彼女はお日様のように笑った。 「さなは弾いたことないんだよね?」 こくりと頷いた。 「じゃあ、きらきら星なんてどうかな?子供っぽいとかはなしだよ」 「弾いてみたい」 私はとういときらきら星を奏でた。 「いいね!心から楽しんでるって伝わってくる」 「ええ!そんなの分かるの?」 「そりゃあね、ピアノは自分の心が音に乗って表れるから」 金木犀の香りに包まれた音楽室は暖かくて魅惑的な世界に満ちていた。 小雨が降る今日、きらきら星を弾いてとういを待っていた。 けれど、この日とういが音楽室に来ることは無かった。 それから何日かしてとういが姿をみせた。 久々に会えた嬉しさで、とういに 「きらきら星を上手く弾けるようになったんだよ」と、自慢をする子供のように演奏をした。 彼女はいつもの笑顔をみせた。 けれど、いつもと違う雰囲気を感じる彼女に なぜか違和感を覚えた。 彼女がピアノを奏でたとき、胸が焼けるほど切ない寒さを感じる感覚に襲われた。 いつものとういじゃない。 そう感じた。 「どうしたの?とうい」 「んー?なにが?」 「すっごく寂しそう」 「そんな事ないよ」 結局彼女は何も言ってくれなかった。 「ばいばいさな」 いつも「またね」と言う彼女が、今日は「ばいばい」と言った。 不安になる胸の高まりがどうしようもなく気持ち悪かった。 ______________________________ 第二章 金木犀な彼女 ピアノのコンクールが近づくたび、私はプレッシャーで今にも逃げ出したくなった。 五歳のときに取ってしまった。 全国ピアノコンクール優勝という肩書きは現在の私の首を締め付け続けている。 両親の猛烈な期待に答えるべく、私は今日も部屋に籠ってピアノを演奏していた。 「そこ、もう一度」 お母さんは私が、ピアノの練習を始めるといつも後ろに立って指導をしにくる。 「ねえ、何度も言ったでしょ。ここのリズムが遅いの。”貴方は幼い頃から優秀なんだから”これくらいできるはずよ」 「はい」 毎日毎日ピアノの練習。 友達と遊ぶ時間もなくいつの間にか私の周りに友達は居なかった。 でも、よかった。 私はピアノが大好きだったから。 でも、そんなのただの強がりだった。 私はどこかで私を1番に愛してくれる人を探していた。 お母さんは私を愛していない、 ピアノを優勝する自分の娘という肩書きを愛しているのだ。 それはお父さんも同様だった。 私は家でも孤独だった。 そんなとき、黒縁メガネをかけたおじさんと出会った。 「あなたは誰かに愛されたい」 自分の心を読まれたようでどきっとした。 「なんですか、あなた」 「おお、これは気の強いガキだ」 彼は微笑んだ。 「ここにサインを貴方にとって素敵な出会いが訪れますよ」 彼は私の目を見た。 そして私はいつの間にか名前を書いていた。 ”西川 とうい” ______________________________ 次の日、私は学校に着いてすぐ 「さーなー」と、見ず知らずの女の子の名前を呼んでいた。 彼女はとてもびっくりしていて、そんな私も自分自身に驚いていた。 彼女は金木犀の香りがした。 彼女と会うのはいつも朝で夕方になると何故か彼女は姿を消す。 それは、私がピアノを演奏しているとき目を離すと居なくなっていたり話していたら急にまたねと、言い出したりと不可解なものだった。 ある日私はさなにピアノを教えた。 彼女が奏でる音はどこか聞き馴染みがあった。 そして何より楽しそうに演奏するそんな彼女のピアノが大好きだった。 9月下旬のこと、私は音楽室に来るのが遅れた。 さなはもう来てるだろうなとドアの隙間から音楽室を覗いてみると誰もいなかった。 「なんだ、さなも遅刻か」 そう思って扉を開けた。 その瞬間、きらきら星が聞こえ始めた。 ピアノをみるとさなが演奏していたのだ。 ただ、ただ、困惑した。 「さな?」声をかけた。 でも、彼女に私の声は届かなかったみたいで、彼女はこっちを向かない。 「どういうこと?」 私は怖くてその場から逃げ出した。 音楽室をでて、すぐ側にある階段を駆け下りたとき、黒縁メガネをかけたおじさんが姿を現した。 「お久しぶりですね。”西川とうい”」 「な、な、あの、さなは一体何者なんですか?」 「彼女は君と同様、誰かに愛されたいと願ったただの少女です」 愛されたいと願った少女。 確かに私もそうだった気がする。 「幽霊なの?」 「いいえ、違いますよ。現に今も生きてますし」 「え?じゃあ、なんで、さなは消えたり、表れたり…」 彼はこう続けた 「彼女とお別れをする期間が近づいてきていますね。10月下旬までもつと思っていたのですが、残念ですね。」 「今年は10月までもつかどうか。」 この男が何を言っているのか意味が分からなかった。 「夢物語ですから。期間は付き物なんです」 彼はまたにこりと微笑んだ。 私は今までの事を考えてみた。 おかしいことは多々あったのだ。 あの、いきなり現れる黒縁メガネのおじさん。 学校に来ると、なぜか私は音楽室に居て、そこにはさながいる。 夢物語 もしかして、これは夢なの? そうか、そういうことか。 さなも結局、私が生み出した空想の人物でしか無かったのだ。 さなは私を愛してくれていると思っていた。 そして、私はさなを愛していた。 冷たい水が頬を伝った。 その日はただ、虚しかった。 ______________________________ 第三章 金木犀の願い 黒縁メガネをかけた男が少女に問いかけた。 「学校に行けそうですか?」 少女は頷き俯いた。 「わたし…人に愛されたいと思いながら、人と関わりを持とうとしていませんでした。」 みんな私といても退屈だろうな。 この子の傍に私なんかが居ていいのかな。 考えれば考えるほど、 人と関わることが怖くなった。 そして私は一人でいることを好むようになった。 --でも。 周りを見渡しても ペアを作ってと言われた時も、 いつの間にか、一人でいる私がおかしく見えて浮いてて。 独りが怖くて、怖くて、孤独で。 いつの間にか、学校に行くことが苦しくなっていた。 家に閉じこもり、ずっと音楽ばかり聞いていた私に最高の出会いが訪れた。 彼女はピアノが大好きで、 強くて、真っ直ぐに努力していて。 そんな彼女に出逢えたことが何よりも嬉しかった。 夢物語 夢物語は、同じような願いを持っている子供を時代を関係なくめぐり合わせ、 空想の世界で願いを叶えるのだと。 黒縁メガネのお兄さんはそう語った。 「あの、どうして私を選んでくれたのですか?」 お兄さんに問いかけた。 「さあ、ただの気まぐれですよ」 彼は出会った時と同じように微笑んだ。 いつの間にか彼は姿を消し、 空想世界で作られた音楽室に 私は一人残された。 もう、彼女の名前を思い出すことは出来ない。 けれど、これからも私の心を照らしてくれるのだろう。 ありがとう。 いつかのあなた。 私は貴方を愛しています。 金木犀の香る音楽室をでて、 私は一歩踏み出した。 ______________________________ 第四章 金木犀の意味 家に帰ると、お母さんとピアノの先生がリビングで話しているようだった。 私はレッスンまで時間があったので、 2階の自室へ向かった。 「そういえば、花田先生はピアノをいつからされているんですか?」 軽いパーマをかけた女性がティーカップを置く。 カチャリ、と小さな音が鳴った。 「私が始めたのは十四歳の頃。当時中学二年生でしたね」 ふふ、と彼女は微笑む。 「それが、まあ。楽しくって」 「あら、今のとういの年齢じゃないですか」 「ええ。当時仲の良かったお友達が教えてくれたんですよ」 「たしか、曲は…きらきら星だったような」 〜終わり〜
夜風とコンポタージュ。
「生きにくい」 冬の冷たい夜風に、綺麗な長い髪の毛を靡かせて彼女はそうつぶやいた。 「それな」 あみもつられて言葉に出した。 「世界はさ、広いとか言うけど狭いよね」 「あー。そうなのかな?」 「だって私達ってさ、どれだけここから離れようとしても地球という惑星からは逃げられないんだよ」 「うん」 「くそじゃん」 「なんかあった?」 「大あり。ずっと悩んでる」 彼女は自販機で買ったコンポタージュをゆっくり飲む。 「毎日考える事が多すぎるんだよね」 「いっそ、海外に行ってみたい」 「えー。世界は狭いんじゃないの?」 「まあ、一つの国にずっと留まるよりは広いんじゃね?」 「まーねー」 「私たち、まだ17歳だよ」 「まだどこにも行けないね」 「いいんだよ。これから先、沢山行ってやるから」 彼女と私は少し笑って 遠いようで近い将来の事を考えた。 「でも、あみのおかげで楽しいよ」 「えー。何急に私もだよ」 冬の寒さとはうらはらに 握りしめたコンポタージュの缶は温かかった。
あなたの進路は?
もう高二の冬なのに 将来なりたい職業がどうしても分からない。 したいこと、やってみたいことは沢山あるけど いくら考えてもパッとしなくて ずっと、もやがかかっているようだ。 これから先私はどのような道を進むのだろう。 私が求めている答えを見つけられた時、 はたしてその夢は叶えられるのだろうか?