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4 件の小説似たもの同士
「ねぇ、優ちゃん」 「なに?」 「私たちって似たもの同士だよね」 「そう?」 うん、そうだよ。私たちって似てるんだよ。 喉のところまで来た思いを呑み込んで、苦笑いを浮かべる。 「俺はそうは思わないけど」 何気なく言った君の言葉が、 私の心をグサリと突き刺した気がした。 私と優ちゃんは幼稚園の頃からの付き合いだ。 互いの両親も親戚かって思うぐらいに仲が良いし、 時々食事することだってある。 それに私たちは、誰もが認めるほどの似たもの同士だ。 価値観も趣味も、考え方も、服のファッションの系統さえ似ていることから、偶然にもお揃いの服になることだってあった。 だから、家族や友達、近所の人までもが口を揃えて言うのだ。 『二人は似たもの同士だね』 『運命か何かで繋がってるんじゃない?』 そう言われるたびに、私は優ちゃんを意識し始めていたのかもしれない。 もしかすると本当に私たちは運命で繋がり合っているんじゃないか。そう思えば思うほどに君に恋してしまったのだろう。 「そ、そんなことないよ……!」 「え?」 思わず口が走ってしまった。 何をやっているんだ、バカ。優ちゃんが困ってしまうじゃない。こんなこと言ってはいけないのに……。 「どうした? “悠紀“」 君が私を覗き込むような形で見つめる。 心臓が異常なほどに早鐘を打ち始めて、 爆発しちゃうんじゃないかって心配になる。 「あ……。えーと……」 いつも、答えを知るのが怖かった。好きと伝えてしまったら今までの関係が崩れ落ちてしまうかもしれないと不安だった。 だけど、いいのだろうか。このままで本当にいいの? 優ちゃんのただの幼なじみで終わってしまってもいいの? ねぇ優ちゃん。 私ね、あなたのことが好きだよ。 「ゆ、優ちゃんは考えたことない?」 声が震えている。でも負けるな。挫けるな。逃げちゃダメだ。向き合わなきゃいけない。きっとこのまま何もしないでいたら、いつか後悔してしまうような気がするから。 「私たちの間に……別の感情を抱くとかそういうの……」 「別の感情って?」 優ちゃんはどこまでも鈍感だ。 言わなきゃわからないのだろうか。それとも、わざと私に言わせようとしてる? 「こ、恋だよ……!」 期待してはいけないとわかってる。それでも少しぐらい期待してしまう自分がいる。 俯いていた顔を上げて、君を見た。 その表情はひどく驚いていた。 「ゆ、優ちゃん……」 「優!」 私の小さな声から覆い被さるように、背後で可愛らしい声が聞こえた。 何だろうと思い振り向くと そこには綺麗な女の人が立っている。 「萌花」 「何してるの? 一緒に帰ろう?」 「え……。あ、うん」 私と優ちゃんは似たもの同士だ。 だけど一つだけ違うところがある。 それは。 「私の方が、好きなのに……」 好きな人が違うってこと。
愛し合う関係
私たちは愛し合っている。 それは金髪ボブが可愛さを引き出す 大親友の千尋からにも言われた。 「私ね、最近アンタのこと妬んでんのよ」 酒を飲み過ぎたせいか頬を赤らめる千尋。 「何で妬むのよ」 嘲笑混じりに言うと、「だってねぇ」と彼女は続ける。 「付き合って今年で何年目よ? 十一年とかでしょ。しかも浮気、復縁、一切なくここまで来れたのって案外奇跡だと思うの」 ベラベラと妬みの内容か何かを話す千尋に、苦笑いしか出ない。 私には今年で付き合って十一年目になる彼氏がいる。 その名も立羽悠介。付き合い始めたのは高三の頃からで、その間、浮気も復縁も、ましてや喧嘩さえなく交際をし続けてきた。 それだけではない。娘に過保護すぎる父までもが悠介との交際を許すほどなのだから、悠介は相当良いヤツなのだと思う。 ただ、そんな関係にも悩みは付き物だ。 今年で交際歴十一年目。私と悠介はお互い二十九歳になる。ということはだ。そろそろ結婚もしくは子供を考えてもおかしくない。 何度か、悠介と相談したことがある。 「ねぇ。私たちもう二十代半ば越えたんだよ? 結婚ぐらい考えても良いんじゃない?」 「美雨……。……で、でも俺、まだ結婚は考えられなくて」 何かいやらしいことでも隠してるんじゃないかって思った。だって普通、十一年にもなるほど付き合い続けて結婚を躊躇う? 普段からマイペース人間と言われる私以上に、悠介はマイペースだろうか。 そんなことない。悠介はいつだって時間にマメな人だ。 じゃあどうして? なんで? なんでいつも、結婚のことになるとぎこちなそうにするの? 悠介は私と結婚したくないの? それとも私じゃない他の女の人を好きになった? みんな私に言う。 幸せそうで良いねって、将来不安なんかないねって。 周りから見ればそうなのかもしれない。幸せそうな二人に見えるのだろう。 結婚が全てではないってわかってる。そんなこと私が一番わかってる。だけど怖いんだ。彼がいつか離れてしまうんじゃないかって不安になるのだ。 だからこそ、形上のものが欲しい。 肩書きのようなものが欲しい。 ただそれだけなのかもしれない。 家に帰ると、美味しそうな香りが鼻をかすめた。 「ただいま〜……」 「あ、おかえり」 悠介がエプロン姿で現れる。 「そうだ、ご飯食べちゃった?」 ねぇ悠介。 「ううん。そんな食べてない」 私たち、きっと大丈夫だよね。 「じゃあ食べる?」 「食べようかな」 おかしくなんてないよね? 「わかった。準備する」 突然離れたりしないよね? 「うん。ありがと」 ねぇ悠介。 「……愛してるよ」 あなたが目を見開いてこちらを向く。 ビックリした? そりゃそうだよね。 私はいつも、こんなに素直じゃないもんね。 だけどさ、たまには伝えてみたくなったんだ。 きょとんした顔。 でも次の瞬間。笑顔になる。 「俺も」 私たちは、愛し合っているよね?
夏色気分
ジリジリとした暑さが悲鳴を上げる暑さが、 私たちの青春を更に盛り上げる。 少しだけ浮かれた気分になって、 青春を謳歌している気持ちにもなって。 学年主任にこっぴどく叱られるのさえ酷く気持ちよく感じたあの夏の日。 なんとも言語化できないサイダーの美味さを、 サボりがバレて廊下を駆け巡る私たちの姿を、 線香花火のジンクスを信じて願い事を、 夏色気分に浸り続けていたんだ。 恥ずかしい思いしてもいいじゃないか。 叱られてもいいじゃないか。 惨めになっていいじゃないか。 全てのことに飽きたら、自由な旅に一人出てもいいじゃないか。 それを夏が教えてくれた。 さぁ、若者よ。今画面を見ている君よ。青春を謳歌する者よ。これから青春を背負う者たちよ。 コレはまだ序盤に過ぎない。 だからどうか限られた青春時代を一分一秒尊く生きろ。 そして大人たちに見せつけてやるのだ。 “自分たちは今、光り輝いていると“
海誓山盟
カップルが無性にクリスマスツリーを見に来る理由とか、星ひとつ輝いてない空を見上げて「綺麗……」なんて呟く意味とか。 「ウチには一生わからないんだろうなって思ってたんだけどな」 思わず言葉にした思いを、君の耳がキャッチした。 「なに? なんか言った?」 なんでもないよ、なんて言うのも変だと思ったから「あたしね」と話を続ける。 「彼氏とか、一年前までは本気でいらない存在だって思ってたの」 「お前らしいな」 君が優しく微笑んで私を見つめた。 どうやら“私らしい“みたい。 「なによ。彼氏なんて人生に不必要じゃない」 そのとおりでしょ、と同意をして欲しいがために上目遣いでもして言ってみる。そしたら君はクスクスと笑い始めて、「まぁ、不必要なのかもな」ってぽつりと言ってくれた。 だって彼氏が居たところでメリットとかある? そんなことを君に聞いたら「ないわけじゃねぇけど、俺は完全にお前と一緒で反対派だった」って二度目の同意を言ってくれた。 「まぁでも、恋人が居て邪魔だとは思わない」 しとしとと降る真っ白な雪が、さっきよりも勢いを強くして、私たちの間をほんのりと冷たくさせた気がした。 「いや、違うな。お前だから邪魔だって思わないのかも。俺、たぶんお前以外のヤツと付き合ってたら上手くいってねぇし。てゆーかお前だから上手くいってる」 何をバカなこと言ってるんだって思いながらも、内心少しだけ嬉しく思う自分がいた。 すると君がニコッと整う歯を見せて笑い、私の手を無邪気に掴んだ。君らしくないと思うけれど、君と手を繋ぐのはイヤじゃない。 「ねぇ、恥ずかしいって……。手繋ぐのにメリットってある? 絶対ないよね」 君のほんのりとあたたかい手が、身体中を熱くさせてあまりの恥ずかしさに「ぷしゅう」と湯気が出てしまいそうだった。まぁ、いまさら君に言ったってこの手が離れることはないだろう。だって、私もこの手を離したくないのだから。 「メリットしかねぇよ!」