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6 件の小説さよなら
胸の奥が、じんわりとあたたかくなる。 目尻が熱くなって、涙が止まらない。 何度も何度も頭の中でシミュレーションをしたのに、 次の言葉を言おうと決意すれば、声が出なくなる。 やっぱりつらい。 わかっていたことなのに、仕方がないのに、心はちゃんと素直なんだって自覚する。 好きという気持ちを隠すこと、綺麗なままお別れをすること、私にはとてもじゃないけど無理な気がした。 だってこんなにも貴方が好きだ。 弾けるほどの清々しい笑顔が、 美しいぐらいの横顔が、 何百回言っても足りないほどのかわいい仕草が、 落ち着いた大人ぽい声が、 あたたかく包み込むような優しさが。 思い出すだけで、涙はぽろぽろと落ちてくる。 息を大きく吸って、吐く。涙を必死に抑える。涙を拭う。今度こそ顔を上げて、彼の瞳を見つめた。 もう泣かないよ。あなたのためにも、私のためにも。 だから頑張れ、私。 振り返らず、一歩下がらず、勇気を出して。 さぁ、君に伝わる声で。 「先輩、卒業おめでとう」
こわいもの
たとえば よく吠える野良の犬とか 大きなトラックのタイヤとか 掃除機の音とか 動く玩具とか 暗闇の中の雷とか 痛々しい傷とか どこかの誰かの怒鳴り声とか 見えないはずのおばけとか こわい顔した怪獣とか この世界には こわいものがたくさんある きっと 僕ひとりで立ち向かうのは到底無理だ けれど 君が居れば 君さえ居れば どんなものだってこわくないだろう たとえ こわかったとしても 怯えてしまっても 一歩下がってしまっても 君が居れば それは最大の武器になる
はっぴーえんど
君が笑う。 私も笑う。 涙をこぼして、 抱きしめあって、 ぬくもりを感じて、 「ばかなんだから」 そっと、つぶやく。 すると君はさらに笑って、 「ごめんね」 そっと、つぶやき返す。 「もう、謝らないで」 君の“ごめんね“を訊きたいわけじゃない。 ただ、笑っていてほしい。 それだけだよ。 「うん、わかった」 君の涙がぴかぴか光る。 そして、そっと涙を拭う。 君の唇がかすかに動く。 でも、君は何も言わない。 だから私から君に伝えた。 「別れよう、」
膨らむ恋心
好きな人を夢の中でも見たいと願いつつも、 いざ夢で見てしまうと、 コレが正夢になりますようにと二度願ってる惨めな自分。 好きな人に会って話したいと願うくせに、 いざ会えば 言葉も交わさず小さく俯くバカな自分。 好きな人が少しでも意識してくれているんじゃないかと、 自意識過剰になったはいいものの、 数分経てば嫌われたのではないかと考える情緒不安定な変な自分。 さて、こんな自分に掛けられる唯一の言葉は。 「恥ずかしさに負けるなよ」 と、残しておく。
結婚式
「はるちゃん、愛してるよ」 君が僕の名前を呼ぶ。 愛おしい笑顔で、愛おしい声で。 だから僕も続けて言った。 結婚式ってどんな感じなんだろう。 昔、父にとある一枚の写真を見せてもらった時、そう思った。 そのとある一枚の写真は、父と母の華々しい結婚式で、今までで一番幸せそうな二人の笑顔があったのを覚えている。 それから、今僕の目の前にいる“美優“に出会い、恋をして、付き合って、お互いに色々な出来事があったけど、こうして結婚式を迎えることができたのだ。 きっとお互い、たくさんのことが変わった。 たくさんの出来事に直面した。 辛いこともあっただろうし、悲しいこともあったよね。でも同じくらいに、幸せと笑顔が僕たちを支えてくれた。 なぁ、美優。 これから先、君を困らせてしまうこともあるだろう。僕はダメダメな男だからさ、上手くいかないことは何百回とあるはずだ。 その度に君は、僕の不甲斐なさに呆れてため息を洩らしてしまうかもしれないね。 たださ、子育てが上手くいかなかったり。僕たちの間で何かが崩れて、理想とはかけ離れたものを歩んでも。 何度でも、立ちあがろう。 ゆっくりでいいから。少しずつでいいから。 崩れてしまった何かを、何度でも、築き上げよう。 『ねぇ、父さん。結婚式ってどんな感じ?』 昔、父さんにこんなことを訊いたことがあったっけ? その頃の僕は頭が空っぽで、結婚式ってものもよくわからなかった。 けど父さんは笑顔で答えてくれたよね。 『人々が、幸せになる場所だ』 「−−僕も愛してるよ」
海誓山盟
カップルが無性にクリスマスツリーを見に来る理由とか、星ひとつ輝いてない空を見上げて「綺麗……」なんて呟く意味とか。 「ウチには一生わからないんだろうなって思ってたんだけどな」 思わず言葉にした思いを、君の耳がキャッチした。 「なに? なんか言った?」 なんでもないよ、なんて言うのも変だと思ったから「あたしね」と話を続ける。 「彼氏とか、一年前までは本気でいらない存在だって思ってたの」 「お前らしいな」 君が優しく微笑んで私を見つめた。 どうやら“私らしい“みたい。 「なによ。彼氏なんて人生に不必要じゃない」 そのとおりでしょ、と同意をして欲しいがために上目遣いでもして言ってみる。そしたら君はクスクスと笑い始めて、「まぁ、不必要なのかもな」ってぽつりと言ってくれた。 だって彼氏が居たところでメリットとかある? そんなことを君に聞いたら「ないわけじゃねぇけど、俺は完全にお前と一緒で反対派だった」って二度目の同意を言ってくれた。 「まぁでも、恋人が居て邪魔だとは思わない」 しとしとと降る真っ白な雪が、さっきよりも勢いを強くして、私たちの間をほんのりと冷たくさせた気がした。 「いや、違うな。お前だから邪魔だって思わないのかも。俺、たぶんお前以外のヤツと付き合ってたら上手くいってねぇし。てゆーかお前だから上手くいってる」 何をバカなこと言ってるんだって思いながらも、内心少しだけ嬉しく思う自分がいた。 すると君がニコッと整う歯を見せて笑い、私の手を無邪気に掴んだ。君らしくないと思うけれど、君と手を繋ぐのはイヤじゃない。 「ねぇ、恥ずかしいって……。手繋ぐのにメリットってある? 絶対ないよね」 君のほんのりとあたたかい手が、身体中を熱くさせてあまりの恥ずかしさに「ぷしゅう」と湯気が出てしまいそうだった。まぁ、いまさら君に言ったってこの手が離れることはないだろう。だって、私もこの手を離したくないのだから。 「メリットしかねぇよ!」