れてぃ

2 件の小説
Profile picture

れてぃ

神様のエラー

 社会的ステータスとしてギフトという数字が可視化された世界で僕の数字は0だ。  この数字はどれだけ自分の才能に気づくことができたかということを表していると言われている。  才能がなければそもそも気づくことなんて出来るはずがないのに。  誰もが僕の数字をみてどれほどの才能を隠しているのかと近づいてくる。  それでも結局ひと月もしないうちにみんな僕から離れていく。  僕は神が起こした唯一のエラー、才能なしのゼロだ。  そんな僕以外にももう一人例外がいる。   それは現在人の限界とされている100の数字を持つ彼女。  彼女は他の人と同じように僕の才能に期待して寄ってきたが唯一離れていかなかった人間だ。  彼女曰く僕には確かに才能があるらしい。でも今はまだ教えられないと。  頭が良ければテストの結果として出るから自覚もしやすい、顔が良ければモデルにスカウトされたりと気づける。  自分でも気づけない、周りに気づかせてもられることもないそんな自分に何を求めればいいのか。  求められないことに慣れてしまった僕には彼女が近くにいることがもどかしい。  そんな彼女が近くにいる生活が始まってから丁度一年ほど経過した今日。突然彼女からの呼び出しがあった。 「私は今病気にかかってて余命が残りわずかなんだ。だから会えなくなる前にアンタに与えられたギフトについて話しておこうと思ってな」  突然告げられた余命宣言。今まで彼女はそんな素振りを見せてこなかったから全く気づけなかった。  そして遂に明かされる僕の才能。 「その前にまず私のギフトだ。私は人の才能を見抜くその一点において世界最高と自負しているしそれが事実だ。現に私の100は全てそのギフトによるものだ。だからアンタのギフトの秘密に気づけるのは私だけだ」  始めて明かされた彼女のギフト一点突破で100に届くなんて聞いたことがなかった。おそらく世界初そして世界最高の才能だろう。そんな彼女が今僕の前にいる。 「アンタは確かにギフトを持ってない。でもそれは神が起こした唯一のエラーだ。そんなアンタには一度だけ世界の法則を変えられる力がある。1000のギフトを手に入れるのもよし、ギフト制度を無くすのもよし。でもそれが許されるのはただの一度だけだ。使ったあとは神にバレるからな。その力で改変しない限りアンタのギフトは神に見つかった時に世界の平均に均されるぞ」  正直信じられない。今まで何も無いと思っていた自分に何も無いがゆえの力があったなんて。  でももう決めた。この力の使い道はたった一つ世界に一人だけの僕の例外、彼女の病気を治すこと。束縛はしない。ただ治すだけだ。  それが今まで僕を一人にしないでくれた彼女への恩返し。 「この力の使い道はもう決めたよ。君の病気を治そう。それが僕にできる恩返しだ。1000のギフトなんていらない。何も無かった僕には平均でさえ十分に大きな才能だ」 「考え直せ。私は君にそこまでしてもらうほどのことはしてない。私が生きながらえたところで君に恩を返し切ることはできない。どうしてもと言うなら全ての病気を治せる圧倒的な医師としてのギフトとかにしたらどうだ」 「それはできない。僕にそんな才能は重すぎる。僕の願いは君と一緒にいること。そんな医師になればろくに君といられないだろう?君といたこの一年は僕にとって楽しすぎた」  彼女ははっと目を見開いたあと諦めたように言った。 「もう好きにしろ。その代わりと言ったらなんだが、私と結婚しろ。責任を取れ。まぁ私もこの一年は楽しかったし、一応恩返しにもなるしな」 「あぁ、約束しよう。この力を使って君を治したあとは責任を取って君と結婚しよう」  この言葉を最後に僕は世界への干渉を始めた。手探りだったため時間はかかったがひと月もすれば彼女の病気は完全に治った。  その後はスムーズにお互いに互いの人生を預かる契約にサインし、あれから数年たった今は彼女は僕のあの時よりももっと近い僕の隣に並んでいる。  彼女に出会う前よりもずっと幸せな生活を今送っている。普通の幸せを手に入れられる。これが今の僕のギフトだ。

3
4

四十九の告白

 僕は彼女に恋をした。色を失い灰色にくすんでしまった僕の世界に現れた微かな色彩を持った彼女。そんな彼女に僕は当然のように恋をした。  僕は今日彼女に四十九度目の告白をしようと思う。とは言っても、これまでの四十八回の告白はタイミングを逃して一度も彼女に伝えられたことはないのだが。  僕が勇気をだして告白しようとした時に限っていつも彼女が急な予定が入ったと言って居なくなったり、別の話を始めたりしてタイミングを逃してしまっていた。  今日は四十九度目の告白予定日。  僕が待ち合わせの場所に行くと彼女はもう既にそこで僕を待っていた。彼女は昨日よりもさらに、始めて出会った四十八日前とは比べ物にならないほど鮮やかな色彩を持っていた。 「ごめん、待たせた」 「すっごい待った!楽しみで待ち合わせの一時間前に着いちゃったからね」  彼女の声は少し上擦っていた。  ここでは「待ってないよ」と言うのが一般的だろうが僕は彼女の明るさが感じられるからこっちの方が断然好きだ。  今日は彼女が予め決めてきた予定に従って過ごす予定だ。 「今日は何をするんだ?」 「内緒!まずは着いてきて」  どこに行くかも知らされないまま着いて行くのは少し不安ではあるが彼女に従って取り敢えず着いていくことにした。  そして、歩き始めて少しすると彼女が立ち止まった。 「今日は思い出巡りをします!まず最初はここ!覚えてる?」  当然覚えている。この場所は始めて彼女に出会った場所だ。そして僕の世界に色彩が生まれた場所だ。忘れるわけが無い。 「勿論覚えてる。僕と君が始めて出会った場所だ」 「正解!さすがにこれくらいは分かるか。この後もこんな感じでクイズを出しながら巡ります!どこまで分かるかな?」  彼女が僕との出会いを覚えていたことに対して僕は少し泣きそうになった。  当然僕は彼女との毎日を全て覚えているから彼女が出すクイズには全問正解する自信があるが、最後まで泣かない自信はなかった。  その後も途中何度か泣いてしまったが彼女と始めて手を繋いだ場所や始めてキスをした場所など始めて出会った日から昨日までの四十八日間計四十八問全て正解した。当然だと思っていたがそれでも嬉しかった。 「ー正解。次で最終問題になります。この問題は今まででいちばん難しいかもしれません」  ここに来て急に彼女が真剣な顔つきになった。それでも僕はどんな問題でも正解する自信があった。  しかし彼女に最後に連れてこられたのは今まで一度も訪れたことの無い病院だった。  ここに来て全く心当たりがないことに僕はかなり焦った。 「多分わからないだろうからヒントをひとつ出します。今日は四十九日目、そして最終です」  訳の分からないヒントではあったが四十九日目で連想されるのは人が亡くなった時の四十九日の法事くらいしか無かった。それに加えて最終、さらに病院から彼女が命の危機にあるのかと突拍子もないことを考えた。 「惜しいです。私は確かに命の危機にありましたがある男性のおかげで回復しました。そしてそのある男性とはあなたのことです」  なんで何も話していないのに考えていることがバレているのか。本当に命の危機にあったこと、そして回復したこと。さらに彼女を助けたのが自分だということ。  情報量が多くて僕は何が何だか分からなくなっていた。彼女を助けた記憶なんてないし、それ以前の記憶がなかった。  "最終"そして"四十九日目"、"病院"、"自分が彼女を助けたこと"、"失われた記憶"  改めて気になったことを思い返してみると僕の中で普通ならありえないとんでもない仮説が浮かんだ。  僕はもう既に死んでいて彼女は僕の臓器を移植されて生きている。そして移植された僕の臓器を通して今まで僕に会っていた。しかし今日で四十九日目となり明日からはもう会えない。  この仮説通りなら僕が死んでから今日まで四十九日の記憶しかないこと、自分が彼女を助けたこと、四十九日目であること、最終であること、この場所が病院であること。これら全ての条件が満たされる。そして彼女が僕が考えていたことを言い当てたことも不思議ではなくなる。 「正解!流石だね。その通りだよ。私は四十九日前あなたから心臓を移植されて今生きている。ありがとう。そしてあなたは四十九日である今日の零時を過ぎると私と会えなくなる」  信じられないような話ではあったが不思議と彼女が嘘を言っていないことが僕にはわかった。  たとえ今日の零時がタイムリミットだとしても僕は彼女に今四十九度目の告白しようと思う。 「なぁ、聞いてくれ。僕は君が好きだ。たとえあと少ししか時間がなかったとしても僕は君が好きだし君を愛したい。僕と付き合ってくれないか」  四十九度目とはいえちゃんと伝えるのは今日が初、僕の胸の鼓動は普段の倍以上はあっただろう。 「勿論!返事はおーけーに決まってる!今日の最後まで一緒にいよう」  その返事を聞いた瞬間僕は大きく胸を撫で下ろした。  そして僕らは日付が変わるその時まで同じ時を過ごした。  日付が変わった瞬間彼女は僕の前から姿を消した。でも不思議と彼女との繋がりを感じられた。さらにまだ会えるそんな確信めいた予感があった。  僕の四十九度目の告白は成功に終わった。五十度目の告白はないが、これからまた彼女との一を積み重ねていこうと思う。

4
2