南風颯太
5 件の小説鋳の音
タイトル:鋳の音(いのね) シーン0:薄暗い部屋 (古びた部屋。換気扇の低い音。天井をじっと見つめる灯輝。沈黙。時計の針の音が響く。) 灯輝(モノローグ) 「何もやる気がなかった。」 (携帯が鳴る。画面には幼なじみ“日向”の名前。) 灯輝 「……おぅ、久しぶり。」 日向(電話越し) 「元気してた? てか、今なにしてんの? 仕事辞めたって聞いたけど……みんな心配してたよ?」 (少し沈黙) 日向 「……ひさしぶりにさ、ちょっと話そ。時間ある?」 灯輝 「……別に、いいけど。」 (電話が切れる。再び部屋は静寂に戻り、時計と換気扇の音だけが残る。) シーン1:カフェ (店内。日向が先に席に座り、外の光が優しく差し込む。灯輝が少し戸惑ったように店に入ってくる。) 日向 「灯輝! ……久しぶりだね。」 灯輝(少し気恥ずかしそうに) 「……あぁ、本当に久しぶり。」 (2人が席に着く。注文を終え、少し間があく。) 日向(少し声を落として) 「……お葬式のとき、灯輝の顔見て……なんか、すごく心配になっちゃってさ。だから、連絡したの。」 (灯輝、窓の外を一瞬見つめてから、小さくうなずく。) 日向 「仕事、辞めたって……聞いたよ。」 灯輝 「うん……母さんのことでね。入退院を繰り返してて、そばにいないとダメだったから……。」 日向(静かに) 「大変だったんだね……。」 (少し沈黙。チャイが運ばれてくる。) 灯輝 「……おふくろが亡くなってさ。何していいか分からなくなって、なんとなく毎日家でぼーっとしてる。」 日向 「父さんもさ、灯輝のこと心配してたよ。“あいつ、元気か?”って。なんか、自分の子どもみたいに思ってるんだよね、小学校の頃から。」 (灯輝が少し驚いたように、でもどこか嬉しそうに笑う。) (少しの間) 日向 「あ、このお皿……“ラフュイユ”っていうんだ。フランス語で“葉っぱ”。鋳物でできてるの。」 (日向がカフェの食器を見せる。軽やかで美しい、重ねられるアルミ鋳物の皿。) 灯輝 「……鋳物?」 日向 「うん。うちの工場で作ってるの。アルミだから軽いし、使いやすいの。お客さんにも好評でさ。」 (灯輝、皿を手に取り、じっと見つめる。) 灯輝 「すごいな、日向の父ちゃん。川口の鋳物工場も減ってるって聞いたのに、そんな中で前向きにやってるなんて……俺なんか、“なんもない”とか言ってるのにな。」 日向 「よかったら……今度、工場見に来ない? 父さんも、灯輝に会いたがってるし。」 (灯輝、少し戸惑うが、静かにうなずく。) 灯輝 「……日向がそこまで言うなら。おじさんにも、久しぶりに会いたいし。」 シーン3:鋳物工場 (工場内。金属の響きと蒸気。埃っぽくて暑い。大きな音の中に、どこかリズムがある。灯輝が安全ヘルメットをかぶり、少しぎこちなく歩く。) 日向(前を歩きながら) 「うるさいし暑いけど、慣れるとね……落ち着くんだよ。不思議と。」 (灯輝、辺りを見渡す。作業着の男たちが黙々と動いている。誰も言葉を交わさないが、連携がとれている。) (職人が型を外す。熱を帯びた鋳物が現れる。灯輝、足を止める。) 灯輝(モノローグ) 「……何もしゃべらないのに、全部伝わってる。なんだろう、この空気……。」 シーン4:休憩所 (休憩所。ベンチに座る日向の父。缶コーヒーを手に、どこか懐かしそうな目で灯輝を見ている。) 日向の父 「お、灯輝。元気そうじゃねぇか。」 灯輝 「お久しぶりです……。」 (ぎこちなく隣に座る。日向は少し離れた場所でスマホをいじっている。) 日向の父(缶コーヒーを差し出しながら) 「日向から聞いた。仕事、辞めたんだってな。」 灯輝(小さくうなずく) 「……母が何度も入院して。付き添ってたら、だんだん……辞めざるをえなくなってしまって。」 (日向の父が、机の上の文鎮を手に取り、灯輝の前に置く。) 日向の父 「これ、見覚えあるか?」 (灯輝、手に取る。父が最後に作った鋳物の文鎮。) 灯輝 「……父さんのだ。」 日向の父 「あいつ、昔うちに顔出してな。これ置いてったんだ。“試作品だけど、気に入ってる”って。」 (灯輝、じっと文鎮を見つめる。) 日向の父 「鋳物ってのはな、“ただのモノ”じゃない。誰かの手で形になって、誰かの時間に残る。お前の親父も、そういうもんを作ってたんだよ。」 (灯輝、少しだけ目を伏せる。) 日向の父 「日向がな、“灯輝は何か作れる場所を探してる気がする”って言ってた。……俺もそう思う。だから、来てもらった。」 灯輝(ゆっくりうなずく) 「……俺、まだ分からないけど。何か……作ってみたいって、少し思ったかもしれない。」 (日向の父、微笑む。) 日向の父 「なら、ここは悪くねぇぞ。汚いし、暑いけどな。」 (灯輝、小さく笑う。) シーン5:帰り道(夜) (夜の工場を後にし、灯輝が一人で歩く。遠くのキューポラがうっすらと赤く光る。) 灯輝(モノローグ) 「……何かを、残せたら。父さんみたいに。」 (何もなかった灯輝の心に、熱い“憶(おも)い”が湧きはじめる。) ――働く歓び。
波の向こうに
湘南・茅ヶ崎の海辺 – 朝 (波の音、カモメの鳴き声、遠くでサーフボードが波を割る音) 祐一(27)は浜辺に座り、ペットボトルのサイダーをゆっくりと傾ける。海を見つめる瞳には、どこか遠い記憶が宿っていた。 その横に、ひろこ(26)が座る。 ショートパンツにオーバーサイズのシャツ、サングラス越しに朝の光を受ける彼女は、夏そのものだった。 ひろこ 「今日の波、良さそうね」 祐一はサイダーのボトルを揺らし、気泡がキラキラと踊るのを見つめる。 祐一 「そうだな…でも、今日は見てるだけだ」 祐一の足にはまだ包帯が巻かれていた。 先週の大会での怪我が、今も彼を海から遠ざけていた。 ひろこは足を伸ばし、波打ち際に指先で砂をなぞる。 ひろこ 「焦らなくていいんだよ。海は逃げないし、波はずっと待っててくれるから」 祐一は小さく笑う。だが、ふと空を仰ぎながら口を開いた。 祐一 「だけど、いつも思い出すんだよなぁ。浩のこと…」 一瞬、ひろこの手が止まる。 ひろこ 「……うん。」 二人の間に、湘南の潮風が吹き抜ける。 祐一 「あいつは、元気で見てくれてるのかなぁ……」 カモメの鳴き声が響く。 祐一の目の奥には、遠い夏の日の記憶が映っていた——
江ノ島物語
登場人物 ①山本日向(やまもとひなた) 年齢:25歳 性別:女性 仕事:PA商事 営業 趣味:カメラ撮影、保護猫カフェに行くこと 悩み:職場で理不尽なことが多く、会社を辞め たいくらい悩んでいる。理不尽なこととは、 雑用や面倒な仕事はどんどん振られる。 仕事量が彼女に集中するが、職場の人たちは 見てみぬふり。 大事なもの: 父親の源太郎を踏切事故で亡くした。形見とし て、源太郎が毎日していた腕時計毎日仕事にし ていっている。 ②田中清士郎(たなかせいしろう) 年齢:28歳 性別:男 仕事:PA商事 チームリーダー 趣味:パチンコ、タバコ 悩み:パチンコで負け込んでしまっている。 お金がない。 性格:普段は温厚だが、パチンコで負けこん でいるので常にイライラしている。 ③中村裕子(なかむらひろこ) 年齢:32歳 性別:女性 仕事:株式会社江ノ島の代表取締役社長 趣味:カフェ巡り、カメラ撮影、寺院巡り 悩み:カフェ事業の売り上げを伸ばしたいと 考えている。 性格:温厚だが、代表をしている時は厳しい ④山本源太郎(やまもとげんたろう) 年齢;58歳 性別:男性 仕事:無職 趣味:なし 悩み:1年前に踏切事故で死んでしまっ た。一人娘の京子が職場で人間関係がうまくいっていない事を、死んでから知った。娘の元気な顔がなくなってしまっているのが心配。 ⑤山田店長 年齢:34歳 性別:男 仕事:カフェ Bloomyの店長 趣味:ウクレレ 悩み:店舗の従業員が辞めてしまい、人手不足に悩んでいる。 ⑥霊界ポイント交換のカウンターの人 年齢:10000歳 性別:不明 仕事:霊界ポイント交換 趣味:なし ### プロローグ (回想シーン) 音:踏切の音 (お葬式で遺影を持っている日向) テロップ:〜命日〜 (日向は朝の準備をし、家を出ようとしている) 日向:「ずっと忘れない。」 (父の写真に手を合わせる日向) (中村は東京へ出張中) 花束をもって歩いているシーン。 中村:「亡くなったと聞きました。それも踏切事故で。。。」 中村 「あなたたが救ってくれたおかげで立ち直り、江ノ島で会社を経営しています。本当にありがとうございました」 (踏切の前で立ち止まり、手を合わせる中村) --- ### シーン1:朝のオフィス (オフィスの静寂の中、パソコンのキーボードを打つ音が響く) (ここ数ヶ月、日向に仕事が集中していたが、日向は黙々と仕事を続けている) (日向はふと父の形見の腕時計を見る。時計は7時を指している) (窓の外から朝日がオフィスに差し込んでいる) --- ### シーン2:霊界 (源太郎の幽霊が霊界にいる。娘の日向のことが心配で、表情は暗い) (何度も日向に手を振ってアピールするが、気づいてもらえない) (ある日、霊界で「幽霊になった皆様へ」という本を拾う源太郎) (ページをめくる源太郎) (ポイントを貯めることで手紙を書いたり、会いに行くことができると知る) 源太郎:「会いに行ける…。」 ### シーン3:オフィス - 日向の机 (幽霊の源太郎が、仕事の資料が山積みになっている日向の机に株式会社江ノ島の会社紹介のチラシを置く) --- ### シーン4:オフィス - 朝 (同僚がゾロゾロと出社してくる) (出社したばかりの田中が日向に偉そうに話しかける) 田中:「もう、明日のプレゼンの資料できたんだろ?」 日向:「はい、出来ています。」 (日向の手元には、朝から準備していた資料が揃っている) (日向はふと腕時計を見る。時計は9時過ぎになっていた) ### シーン5:株式会社江ノ島 (株式会社江ノ島の代表である中村が手帳を開き、今日の予定を確認している) 中村:「もしもし、中村です。今日のプレゼン資料は揃っていますね?最終確認をしておいてください。」 (中村は会議資料の準備を部下に指示する) 中村(モノローグ):「15時からのPA商事との打ち合わせか」 (中村は手帳を閉じ、オフィスを出る) ### シーン6:株式会社江ノ島 (田中と日向が江ノ電の片瀬江ノ島駅を降りる) (海沿いを歩いて駅から徒歩10分の株式会社江ノ島へ向かう) (デスクに置いてあった会社案内を見て新規取引を打診し、話を聞いてもらえることになった) (田中と共に新規取引の提案をしに行く日向) ### シーン7:株式会社江ノ島の会議室 (田中と日向が会社の会議室に通される) 田中:「失礼します。PA商事の田中です。」 日向:「PA商事の山本(日向)です。本日はこのような場をいただきましてありがとうございます。」 (田中と山本(日向)が中村と名刺交換をする) 中村:「代表の中村と申します。よろしくお願いします。遠いところ、ありがとうございました。御社の取り扱い商品について詳しく教えてください。」 (山本(日向)がプレゼン資料を田中に渡す) 田中「弊社の取り扱いしている商品は多岐に渡ります。オリジナルでAという商品も開発をしております」 田中がプレゼンを始めた。説明はあまり面白くもない説明だった。 (田中が言葉に詰まると、日向が補おうとするが、田中に睨まれて手で遮られる) (中村が田中に睨まれている日向を見て、田中と日向の関係に違和感を感じていた) --- ### シーン8:株式会社江ノ島の会議室 中村:「今日はありがとうございました。契約については、一旦検討してご連絡します。」 (プレゼンが終わり、中村が日向の腕時計に目を留めた。。。。。) 中村(苗字も山本・・・・まさか) (中村が腕時計に見覚えがある様子) 中村:「山本さん、少しお時間をいただけますか?」 日向:「はい、大丈夫です。」 中村:「田中さん、本日はお忙しいところありがとうございました。山本さんと少しお話ししたいことがありますので、お先に失礼していただけますか?」 田中:「あ、もちろんです。では、失礼します。」 (田中が少し驚いた表情を見せるが、すぐに退出する) 2人になり、少しした沈黙の後 中村:「その腕時計、見せてもらえますか?」 日向:「はい。」 (中村が腕時計を手に取り、裏面の刻印を確認する) 中村:「やはり…。あなたのお父様のお名前は、山本源太郎さんですよね?」 日向:「え!なぜ父の名前を…?」 中村:「昔、仕事で悩んでいた時に悩み相談を聞いていただいたの。源太郎さんの娘さん(日向さんで)にこのようなカタチでお会いできるなんてすごく縁を感じます。今日は、お時間があれば何かのご縁なので源太郎さんについてお話ししたいです。急なんですが、夜お時間ありますか?」 日向:「はい、私でよければ。」 (中村が契約書に捺印して日向に差し出す) 中村:「はい、契約書。」 日向:「あ、ありがとうございます。」 中村:「仕事の話はおしまい。それでは、行きましょう。」 (中村が日向にロビーで待つように言い、会議室を出ていく) --- ### シーン9:神社 (中村がロビーに現れる) 中村:「食事の前に、行きたい場所があるの。良いかしら?」 日向:「は、はい。」 (まだ距離感の取り方がわからず気を使う日向。中村は日向を先導するように歩く) 中村:「私とあなたのお父様の趣味はカメラ。元々、会社の写真好きなメンバーで写真を撮りに行っていたのよ。私が仕事が忙しくて写真を撮りに行けないことが続いていて、気にしてくれていたのよね。仕事帰り、いつもの会社近くの踏切で私を見かけて…。その時に、私が飛び込もうとしたのを助けてくれたの。」 日向:「そんな事があったんですね。父は正義感が強かったんで、、、」 (日向はカバンからカメラを取り出す) 日向:「実は、私の趣味もカメラなんです。父からもらったカメラで写真が好きになりました。」 中村:「さすが源太郎さんの娘さんね。」 (中村は笑顔で日向を見つめる) 中村:「日向さんは仏像を撮られた時ありますか?」 日向:「あまり仏像は撮らないです。普段は花やカフェで写真を撮っています。」 (中村は神社にある仏像の写真を撮り始める) 中村:「仏像を撮る時、光のあたり方や背景をどうするかで印象が変わるのよね。やってみて。」 (日向がカメラを持って撮ってみる) 日向:「確かに、強そうに見えたり、悲しそうに見えたり、印象が変わりますね。」 中村:「人間も同じだよと、あなたのお父様が教えてくれたのよ。人間も、その人の背景などの印象を気にすることでその人の印象や考え方が見えてくるかなぁって。」 幽霊の源太郎は遠くから頷いている。 ### シーン10:喫茶店 (中村と日向が喫茶店のテーブルに向かい合って座っている) (コーヒーの氷をストローでかき混ぜる音) 中村:「辛い時、視野が狭くなって相手の置かれている状況とか見えなくなっているかも。上司は期待を込めて言っているかもしれないし、同僚の方はプレッシャーを感じているかもしれない。」 日向:「そうですね…。」 中村:「でもね、無理しすぎることはないんだよ。嫌なら辞めて休む事も大事なんだって、あなたのお父さんが教えてくれた。」 (日向が驚いた表情で中村を見つめる) 中村:「私は一番辛い時にあなたのお父さんに救われたんです。その時の話を聞いて、立ち直ることができました。それがあったから、江ノ島でこの会社を設立する事ができたんです。」 日向:「お父さんがそんな風に中村さんを助けていたなんて…。なんだか、すごいです。」 中村:「源太郎さんが与えてくれたものはとても大きいです。だから、私も何か恩返しをしたいと思っていました。あなたがこうして来てくれたのも、何かの縁だと思います。」 (日向が感動して涙を浮かべる) 中村:「もし仕事で悩んだら、いつでも相談に来てくださいね。」 日向:「ありがとうございます。」 (カメラが二人の顔を映し、笑顔で会話を続けるシーンでフェードアウト) シーン11:霊界ポイント屋さん 源太郎がカウンターでポイントを交換している。 源太郎:「これで、ポイント交換して欲しい。」 カウンターの人:「はい、会って手紙を渡す。時間は3分になりますけどよろしいですか?」 源太郎:「良い。日向に早く会いたい。」 ### シーン12:江ノ島防波堤 (日向が海を見ている) 日向(独り言):「お父さんってすごいなぁ。あんなに感謝してくれている人がいるなんて。私も頑張ろう。」 (源太郎が横に座る) 源太郎:「横に座ってもいいかな。」 日向:「!お、お父さん…。会いたかった。」 源太郎:「ずっと見てるからな。会社は一つじゃない。困ったら中村さんのところに行きなさい。彼女なら、助けてくれるから。」 日向:「うん、わかった。」 (涙が流れる。日向が顔を上げると、源太郎はいなくなっていた) 日向(独り言):「あれは夢だったのかなぁ。」 (源太郎のいた場所に手紙が置いてあった。中には、中村が教えてくれたことと、「いつもどこかで見てる」というメッセージが書かれていた) (画面がフェードアウトし、日向の目から涙があふれる) --- ### シーン13:オフィス (ビルの立ち並ぶ都会の風景、パソコンを叩く音が聞こえる) 日向:「すみません、今月いっぱいで会社を辞めさせてもらいます。」 田中:「無責任なやつだなぁ。そんなんじゃ、どこいったって通用しねーよ。まぐれで契約取れて調子にのってるんじゃねぇよ。」 --- ### シーン14:江ノ電車内 (日向が江ノ電に乗って江ノ島に向かう。日向は、大好きな江ノ電の車窓から外の海を眺めている。目は笑っている) --- ### シーン15:喫茶店 (中村が喫茶店の奥から手を挙げて呼んでいる) 中村:「日向ちゃん!こっちこっち!」 日向:「すみません、お言葉に甘えてお世話になります。」 (中村は笑顔で日向を迎える) 中村:「日向ちゃんには、ここのカフェとか担当して欲しいのよ。店長さんがいるので、一緒に商品開発だったり。あなたのお父様と思い出のあるお店、あなたに担当してほしいとすぐ思ったのよ。」 日向:「はい!頑張ります!」 中村:「日向ちゃんなら大丈夫!あ!失敗はしたって良いのよ、楽しくやりましょう!」 --- ### シーン16:ある日の喫茶店(12月) (日向がサンタの帽子を被ってクリスマスの装飾をしながら、店長の山田と話している) 日向:「このパフェの写真、この海を背景にした方が良いと思いますけど、店長どう思いますか?」 山田:「背景を変えるだけで、印象が変わるんだねぇ。」 日向:「人間も同じですよね!」 (日向は自慢げな顔で得意げに言う) 山田:「日向さんは、随分深い事を言うんだねぇ。」 (二人の笑い声が店内に響く) (幽霊の源太郎の目には涙が浮かんでいた) (江ノ島の夕日の景色が映り、二人の笑い声が響いた)
餅
年末、一恵にとって欠かせない恒例行事はお餅作りだった。もちつき機を使い、孫や子供たちに手作りのお餅を振る舞うのが楽しみであり、家族にとっても大切なイベントだった。クリスマスを過ぎると、商店街は正月準備で賑わい始め、一恵もいつものようにもち米を買いに出かけた。 「もち米くださいな」と、一恵はいつもの店で声をかけた。 しかし、店員は申し訳なさそうに答えた。「今年はもち米が不作で、どこも品薄なんです。今は在庫がありません。」 「少しでいいのよ。孫にお餅を作ってあげたいだけだから……」 「すみません、本当に無いんです。」 一恵は肩を落として店を出た。帰ろうとしたその時、不意に声をかけられた。 「ご夫人、もち米をお探しですか?」 振り返ると、見知らぬ男が立っていた。「もち米ならお分けします。ただし、私のお願いを一つ聞いていただけるなら。」 あまりにも怪しい雰囲気に、一恵は怖くなり、その場を小走りで離れた。だが、その男はしつこく追ってきて、小声で囁いた。 「何か困ったことがあれば、人差し指と親指で丸を作り、『ろくなな』と言ってください。必ず現れます。」 一恵は恐怖を覚えつつも、そのまま家へ戻った。すると、電話が鳴る。孫娘の美江からだった。 「おばあちゃん!今年のお餅、いつ作るの?」 「ごめんね、美江。今年はもち米がなくて、お餅が作れないのよ。」 「ええ!?楽しみにしてたのに……どうにかならないの?」 電話越しに美江の落胆する声が聞こえ、一恵は胸が痛んだ。「そんなにお餅を楽しみにしてくれていたなんて……」と嬉しさと申し訳なさが入り混じる。だが、もち米が無ければどうしようもない。その時、ふと耳元で「ろくなな」と囁く声が聞こえた。 一恵は戸惑いながらも、恐る恐る親指と人差し指を丸め、小声で言ってみた。「ろくなな……」すると、不思議なことに、目の前に昼間の男が現れた。「お餅が必要なんですよね?」と男が問いかける。 「そうですけど、あなたは一体誰なんですか?」 「私はあなたです……と言えばいいですかね。」 「え?」と一恵は困惑する。 男は続けて言った。「交換条件は一つだけ。私のお墓にお参りしてください。それだけです。」 一恵はその言葉に震えた。「お墓?それはどういうこと?」 男は古びた地図を一恵に手渡しながら微笑んだ。「この場所にあります。そこに行って手を合わせてくれれば、もち米をお渡しします。」 翌朝、一恵は地図を頼りに指定された場所へ向かった。山の中にある小さな墓地にたどり着くと、苔むした古い墓石が並んでいた。その中に、一つだけ異様に新しい墓石が目に留まった。そこには「勝俣一恵」と自分の名前が刻まれていた。 「嘘……」と一恵は目を疑った。恐る恐るその墓石の前に立ち、手を合わせた。「これでいいのかしら……」すると突然、強い風が吹き、一恵の足元に袋が現れた。袋を開けると、中には輝くようなもち米が詰まっていた。一恵は安堵と恐怖が入り混じる中、そのもち米を持ち帰り、早速お餅を作り始めた。そのもち米は驚くほど香り高く、粘り気が強かった。 お正月、孫たちは「今までで一番おいしい!」と大喜びし、家中が笑顔に包まれた。一恵は家族の幸せを噛みしめながら、ふと心の中に小さな疑問を抱えた――あの体験は一体何だったのだろうか? 数日後、不思議な男が再び現れた。 「もち米、喜んでいただけましたか?」 「ええ。でも、あの墓石は何だったの?」と一恵は震える声で尋ねた。 男は静かに答えた。「あれは、あなたが選ぶかもしれない未来の一つです。でも心配しないでください。あなたが家族を思い続ける限り、その未来は訪れません。」 その言葉を最後に、男は再び霧のように消えた。 それ以来、一恵はお餅を作る度に、家族との時間の大切さを改めて感じるようになった。そして心の中でそっと願った―
トンボの涙
シーン1: 夏の思い出 セミの鳴き声、子供の笑い声が聞こえている。 そんな夏だった。夏の暑い時期に親父は亡くなった。突然のことだった。俺は、現実を受け入れるのに時間がかかった。 シーン2: お葬式 お葬式では、親戚のおじさんやおばさんが来てくれた。親父の事を悪く言う人は少なく、みんな涙を流していた。 「お葬式が終わり、49日が過ぎた秋の初め。親父の思い出が心に残る。」 シーン3: 実家 季節は秋 (背景音)秋の風 田中が実家の玄関を開ける。庭には赤とんぼが飛んでいる。 (田中)「着いたよ。」 (母)「まだ暑いわねー。お父さん亡くなった 気がしないのよねー」 (田中)赤とんぼが庭に飛んでいるのに気づく。 (田中)「親父か?」 (母)そうなのよー、私もそうかなぁって思ってた。 赤とんぼが静かに飛んでいる。 シーン4: トンボの視点 赤とんぼが田中と母を見ている。 (トンボ(親父)(心の声)) 「あぁ、俺だよ。よくわかるもんだなぁ。特に何もしてないけどなぁ。」 シーン5: 田中の告白 田中が庭のベンチに座り、赤とんぼに話しかける。 (田中)「親父には、いろいろ迷惑かけたけど...」 田中の手が緊張で震えている。 (田中)「日向ちゃんと結婚したいなって、母ちゃんには先に話しちゃったけど。」 赤とんぼが近くの枝に止まる。 シーン6: 感謝の言葉 田中の目がうるむ。 (田中)「親父、今までありがとう。」 秋の風の音が強まる。 風がふわっと入ってきて、赤とんぼが飛んでいった。その瞬間、赤とんぼの目が涙で光ったような気がした。 シーン7: 母の確信 田中と母が空を見上げる。 (母)「やっぱ、お父さんだったのね。」 夕暮れの空に飛んでいく赤とんぼ。 (田中の声) 「親父は、いつまでも俺たちのそばにいる」 シーン8:結婚式 (司会の方) 「それでは、新郎新婦のご入場です」 ドアが開いた時、季節はずれの赤とんぼが 田中の方に止まった。 田中「親父。。。」 田中は大粒の涙を流した。 (友達)泣くの早いんじゃない。日向まだ泣いてないから。 まわりは、祝福と笑いの声でいっぱいになった。