鈴木ゆうあ

21 件の小説
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鈴木ゆうあ

がんばります。

鳥になりたい

 わたしのせい。全部全部わたしのせい。  家が朝から暗い雰囲気なのも、夫婦円満じゃないのも、全部全部。  ああ、辛い。みんなわたしを羨む。  人望があって、文武両道で、今回の班長にも推薦されてたよね!  あなたなら絶対いい班長になるよね!  なんて、ほんとにいや。家で一人でいるのが好きなの。  昼休みと放課後が班長会議とかいうやつで潰れる。受験生なのに勉強する時間がなくなる。  ちょっとでもその愚痴をこぼせば家の雰囲気は最悪になる。怒られる。だから誰にも言えない。  ああ、辛い。人望があるのは、文武両道なのは、羨ましいと思われることじゃないんだよ。  常に仕事を押し付けられて。すごい人ってレッテルを貼られて。  ああ、辛い。鳥になりたい。  今すぐ、飛んでいきたい。

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君の涙は

 君の涙はいつも、僕の心を抉った。  君の笑顔はいつも、僕の心を救った。  君の言葉はいつも、僕に気づきを与えた。  僕の涙はいつも、君に迷惑をかけた。  僕の笑顔はいつも、君を苛立たせた。  僕の言葉はいつも、君を傷つけた。  ああ、どうして世界は矛盾だらけで、苦しくて、虚しくて。  人の数だけすれ違い、学び、でも学んだ頃にはもう君はいない。    星の数だけ人がしんだのなら、星の数だけ人を愛そう。  花びらの数で好き嫌いがわかるなら、好きだとわかるまで調べよう。  失敗の数だけ成功するなら、たくさん失敗しよう。  なんて。  僕は君が嫌い。朝が、友達が、希望が。  全て怖くて、怖くて怖くて、どうしようもない。  でも早く学びたい。  学び終わったときに君ともう一度出会えるなら。

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言えない。

 好き。    たったそれだけの言葉が、このまま一生言えないなんて。  神様はどうしてこんなに残酷なんだろう。  「先生、好きです」

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チューインガム

 クッチャ クッチャ クッチャ クッチャ、  私の彼氏は、いつもガムを噛んでいる。  食事、お風呂、就寝以外はずっとその音が隣から聞こえる。  うるさい、  虫歯になる、  迷惑、  臭い、  みんなそう言って私の彼氏を避ける。  でも、わたしはこの音が好き。  彼のからだの中にいるような感覚、と言ったら気持ち悪いと思われるだろうか。  その音がわたしを安心させる。  いつも彼に抱きしめられているような感覚、と言ったら引かれるだろうか。    ねえ、口開けて。  何で恥ずかしがるの。いつもしてるじゃん。  そうそう、はい。  どう?美味し?  本当に好きなんだな。  でももう味しないでしょ?  え、なんて?  ははっ、聞いたことないな、その味。  はい、じゃあ返して。  また百回噛んだら、ね。

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送信ボタン

 アイコンと文面。  彼という人間を理解する材料はそれだけだ。  ちょっと可愛い、少女漫画のキャラクターのアイコン。  「ww」じゃなくて「笑笑」って笑い方。   興味がないことには「それなー笑笑」しか言わない。  照れるときは絵文字を使う。  たったそれだけのことが、最高に愛おしい。    あの子にだけ、イジワルしないで?    わたしも、容赦なくイジって?  他の人と、喋らないで?  声を、聴かせて?  顔を、見せて?    もしも、ネットじゃなくてちゃんと出会っていたら、なんて。        声も聞けない、顔も見えないあなたへ。    『好きです。  わたしと、付き合ってください。』    ドキドキ高鳴る胸をおさえながら、送信ボタンを押した。  

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みんなと違う正論

 わたしは、みんなとは違う。  そんな感情が、もうずっと私の心に喰らいついている。  この感情がいつからあるのかは、私自身もわからない。  ただここにあって、これからもただここにあるだけだ。  みんなに慕われている人がキモいとハブる人のことは、なんと思わないのに  みんなに慕われている悪口を言う人は、キモいと思う。  みんなが好きだと言う曲は好きになれないのに  みんなが興味のない曲は素晴らしい曲だと思う。    みんなの正論は、悪口を言う、人を傷つけることなのに 私の正論は、悪口を言ってはダメ、人をいじめてはダメ、傷つけるなんてあってはならないということ。  みんなの傷つけ方は、嫌な言葉や暴力なのに  私の傷つけ方は、人の弱さを正論で否定すること。  そんな正論が私を鎖で縛って離さない。    いや、そもそもそれは正論なのか。  私のその正論に、たくさんの人が傷ついてきたことは事実だ。  たくさんの人を傷つけるものは正論と言って正当化してもいいのだろうか。  ああ、わからない。  みんなと違う私が。  皆んなの正論を正論ではないと思う自分が。  誰か、教えて。  

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思い出した昔

 ふと、あなたのことが頭をよぎった。  私は今、夫と飼い犬の散歩に行っている。  左目の端で夕陽がチラチラと映ったり消えたりしている。  そんな時に、思い出してしまった。  −あなたのことを。  十何年も忘れていたのに。  なぜ今頃思い出したのだろう。    『なあ、俺さ…』  あの時あなたが言いかけた言葉があったと蘇ってくる。    「あのとき…」  「ん?どした?」  つい口に出してしまったらしい。夫が立ち止まった私のことを見つめている。  「ううん、なんでもないよ」      −あのとき、ちゃんと聞いてあげていたら、今隣にいたのはあなただっただろうか。  暗い顔をしたあなたに、心配の言葉を投げかけていたら、あのまま愛し合えていただろうか。  いや、やめよう。こんなことを思うのは。  私はまた、前を向いて歩き出す。  理想とかけ離れているけれど、安定と言う幸せがある今を、必死に。  そうして努力したら、あなたにもう一度会えるのだと信じて。

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季節遅れの恋

 いつからか、きみのことが頭から離れない。  授業中、休み時間、お風呂に入ってるとき、ベッドで横になったとき。  きみはいつも僕の中を占拠して、僕を離さない。  これが、好きって言うことなんだろうか?  これが、愛してるってことなんだろうか?    ああ、まただ。  きみの声がする。  懐かしいきみの声が。  でももう、遅い。  この気持ちは季節に遅れてやって来てしまった。  一夏の恋は叶わなかった。  秋の初め。  コオロギの声と共に、きみの声が響く。

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台風

 みんなは雨が嫌いっていうけれど、わたしは大好きだ。  だって、あなたとの思い出があるから。  今もあの日の雨音が耳の中で聞こえる。  それはあの日。あの台風の日のことだった。 「おーいなにやってんだー?」  真正面からぶつかってくる雨粒と格闘しながら一人黙々と登校していると、後ろから聞きなれた声が聞こえた。  わたしの、大好きな声。  「…うわっ、びっくりしたじゃないですかー」  わたしはあえて振り返ってからびっくりしたと言う。  そこにはビニール傘を差したあなたが立っていた。  傘に雨がぶつかって、ぼたぼたっ、びたびたっ、と音を立てる。  「なにって。今日台風で学校休みだぞ?学校メール見たか?」  「…え?」  今度こそ本当にびっくりする。急いでスマホを取り出して確認すると、学校から今日は休校だとメールが届いていた。  「もしかして間違えて来ちゃった系?」  ニヤニヤしながらあなたが言う。  「間違えて来ちゃった系ですねー…」  私はため息をつきながらそう言う。  「そっかー、そりゃ残念ですねー」  沈黙が流れる。  雨の音が鮮明に聞こえる。  いつもと違う、そんな空気感に私は興奮する。  「じゃ、気をつけて帰ってねー。また明日」  沈黙をあなたはそう言って破った。  でも、まだ雨の音は続いている。  「あっ!」  急に吹いた風に、傘が飛ばされてしまった。  走って追いかけるが追いつけそうで追いつけない。  ぐらっとバランスが崩れた。  必死に立とうとするが立てない。  「やばっ、」  これから来るであろう痛みに備えて目をぎゅっと瞑る。  でも、感じたのは痛みではなく、暖かい誰かの肌だった。  「っぶねー。気をつけな?」  その温もりは、あなたの肌だった。  転ばないように支えてくれたのだ。  「……」  恥ずかしくて声が出ない。  「っと、さすがに触るのはまずかったか?ごめんごめん」 そう言ってあなたは私を離した。 「……」  私は相変わらず恥ずかしくてなにも言えない。  「ごめんって、本当にごめんなさい」  そう言って頭を下げる姿を見て、わたしは自分を責める。  そうじゃないんです。  私はただ、あなたが好きなだけなんです。  それを自分の中で整理できてないだけなんです。  雨が強くなって来た。風もさっきより強く感じる。  あなたを見る。綺麗な顔だ。  欲しい。  「ねえ、一緒に学校行きましょう、ね?」  「は?え?っちょっと、」  私は戸惑うあなたの腕を掴み、学校へと全力疾走する。  湿った水滴が制服を濡らし、肌を濡らしていく。  でもそんなこと、気にならなかった。  「ねえ見て、めっちゃ濡れちゃいました」  「……ああ、そうだな、」  「ねえ、」  ハンカチであなたの顔に滴る水を拭く。  「寒くないですか?」  「……ああ、寒いな、」  あなたは変な顔をしている。  「寒い時って、なにするかわかりますか?」  「……いや、わからない」  「そうですか?」  最後に前髪を上げて、おでこを拭いた。  そしてそのまま、  「こうするんです」   キスをした。  「っ?ちょっ、お前っ、なにやって?」  「そのあとはこうするんです」  あなたのベルトを外していく。  「わあ、すごい」  それを見て、わたしはそう言った。  「先生、誰もいませんね」  口に含む。  「っおいっ!いい加減にし…っん」  「先生、たまにはいいんじゃないですか?」  お願い先生、今日だけは、わたしのものになって。

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愛したい

 「ねえ、わたしのこと愛してる?」  「………」  「愛してるって言ってよ!!」  彼女にそう言われたのは昨日のこと。  そのとき俺は、どうしても、 「愛している」と言えなかった。  「愛されたい」  「愛されている証拠が欲しい」  そんな言葉をよく見たり聞いたりするけど、俺の場合はそうじゃない。  俺は、  「誰かを信頼してみたい」  「誰かを愛してみたい」  と、そう思う。  家族も、親友も、恋人も、 心の底から信頼できない。愛することができない。  −トラウマがあるわけじゃない。  虐められたとか、そう言うわけじゃない。  でもだからこそ、人を愛せない自分が大嫌いだ。  「愛されない恐怖」じゃない。  「愛せない恐怖」。  俺は誰かを、愛せる日が来るのだろうか。

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