癪SUMMER

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癪SUMMER

気まぐれ更新

私が自殺をした理由

死にたくて仕方がなかった。 修学旅行を休んだ日に学校のウェブページで同級生がホテルでエビグラタンを食べている写真を見た日も、誕生日に重なった体育祭を休んだ日も、二年間片思いしていた男の子に振られちゃった日も、私より頭の悪かった友達が学年三位を取っていた日も、変な夢から目覚めて生きている実感が湧いた日も、熱が出て久しぶりにお母さんから優しくしてもらった日も、私の親友のことが好きな男友達に抱きしめられた日も、アイテープが剥がれてしまった日も、経血が漏れて学校の椅子に血が付いてしまった日も、バスを乗り間違えて知らない土地に行ってしまった日も、いい感じだった人に海デートをドタキャンされた日も、同じ誕生日の友達がSNSで盛大に祝われているのを見た日も、体重が五十キロを超えてしまった日も、部活でスタメンから外された日も、毎日毎日死にたかった。 どうせ死ぬから短い人生を楽しもう!と考えている人が嫌い。私を抱きしめた男友達も同じようなことを言っていた。彼は自殺未遂をした事があって、失敗に終わってから沢山哲学を学んで自分の考えを持つようになってしまった。私だけ出口の無い世界に取り残されてしまったみたいで嫌だった。なにも行動出来ずに死にたいと呟ている自分が嫌だった。 「ねえ、死にたい」 「もうずっと死にたいと言っているけど、行動に移せていないからきっとまだ希望があるんだよ。……なんて言葉は望んでいないんでしょ?願っているけど手が出せないことは誰にでもあるから本当は死にたくないんだろなんて思わないよ。俺はね、折角生まれてきてしまったんだからこの世の全てを知り尽くしてから死のうと思うよ。でも椿には知的好奇心がまるで無いし、人から愛されたいだけなんだろ?心の拠り所が欲しいだけだ。俺はそれが分かるからと言って、椿を愛せたりはしないけどね」 「……分かってるよ」 私はケイのことが好きだった。暖かくて、冷たいから。 愛されたかった。自分がまだこの世に留まる理由が欲しいだけかもしれないけど、一度で良いから心から安心して眠りたかった。私は必要とされてる、大丈夫、目が覚めてもこの世界にいる資格がある。そんな夜が欲しかった。愛されたい、死にたいと言っているだけでやっぱり行動には移せなくて、同級生が可愛くなっていく中、私は二日洗っていない髪を触っていた。怠惰な自分が情けなかった。二年前まで私のSNSは友達との写真で溢れていたけど、今はもう見るのがキツくてアプリを消した。趣味もない、友達もいない、もう私に残ってるのはケイだけだった。自分の芯があって、かっこよくて、努力が出来るケイは自殺未遂をした頃とは違ってみんなから尊敬されていた。私はそんなケイと友達な事だけが自慢できるところ。もう私は音楽を聞いたり本を読んだりしないから、ケイと趣味も合わないし、可愛くないからケイの気を引くことも出来ないし、死にたいのにいっちょ前に好きな人がいる事が恥ずかしくて死にたかった。 「俺、椿がなんの取り柄も無くなったら死ぬって言ってたの覚えてるよ、まだ生きてるってことは何かしらあるんでしょ?そこに、縋っていこうよ」 「もう、してるつもりなんだ…」 ケイの携帯の画面を見ると、誰かとメッセージを交わしているようだった。私の親友だ。ケイは好きな人には凄く誠実で紳士的で努力をできる人だ。きっとそろそろ、両思いになっちゃうのかな。 ケイの部屋には本が沢山ある。自殺未遂をした後に読みたくったらしい。沢山のCDもあった。私が二年前までよく聴いていたものが多かった。夏休み、毎日のようにケイの部屋に逃げ込んでいるけど、ケイは何もしてこないしずっと泣いている私の隣で音楽を聴くか本を読むかをしているだけだった。時間を非効率的に使うことが嫌いなケイが、ただ私の傍にいてくれるのが嬉しかった。 「ねえ、バイクで海に連れていってくれる約束は?」 「ああ、覚えてるよ。行く?」 「うん」 中学生の時にしたそんな約束は、身体だけ大人びてしまった私しか覚えていないと思ったけど、ケイは何気に高校に入ってすぐ二輪車免許を取ったし、バイトしてお金を貯めてバイクを買っていた。私との約束の為だったのかななんて乙女っぽく考えている自分が嫌になって死にたくなった。 ケイの背中を抱いて、夜風を浴びている時もずっと死にたかった。いつかはこれがケイにとって浮気になってしまうかもしれないから。私の中でずっと変わっていないのはケイだけで、ケイが変わってしまうのが怖かった。ケイの背中はもう大きくて、泣いている私を隠してくれるくらいには成長したんだなと思った。 海に着くと、ケイは私のヘルメットを取ってくれた。通知の鳴る携帯をバイクに置いて、一緒に桟橋へ歩いた。 「椿の願いは、叶えてあげるから」 「私の願い?」 「うん」 なにも思い当たらなくて、海を眺めながら頑張って考えようとしたけど、私の願いが自分でも分からないくらい何も考えていない人間だと思われたくなくて、考えるのをやめた。ケイは海を眺めていた。私は海を眺めているケイを見つめた。首には二年前自殺未遂をした時の跡が残っている。私はその跡さえ、大好きだった。だけどケイは、首や手首になんの傷跡も無い女の子が好きだった。 「中学生の頃に戻りたいな。全然そんなことないのにやっと大人の仲間入りしたような気持ちで、起こる全てが新鮮で、将来何をしようとかどこの高校に行こうとかなんのバイトをしようとか、そんなの考えているだけで良かったよね。ケイが自殺未遂した前の日も一緒に海に来て、あのCDを聴いたよね」 「廃盤になったやつね、海に落としたやつ」 「うん、もう聴けないね」 「ケイ、大好きだよ」 「うん」 「私の唯一の取り柄って、ケイなんだ。あの…本当に、感謝してるし、大好きだよ」 翌日、ケイの部屋のドアを開けると首を吊ったケイの死体があった。 『俺も本当はずっと椿が好きだったんだと思う。だけど椿を知っていく程、椿がいつ死んでしまうか分からなくて怖かった。何も言葉に出来なかった。せめて、お前の願いを叶えたかった』 茶封筒には綺麗な文字でそう書かれた手紙と、私が去年の夏に「死ねますように」と書いた七夕の短冊が入っていた。

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私が自殺をした理由