白石goo

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白石goo

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ヒューマンデッド 第1章

整然とした軍用車両の車列が、まるで何事もなかったかのように静まり返った住宅街へと進入し、ハンヴィーや大型トラックが次々とアスファルトの路面にタイヤをきしませて停止した。 車体のドアが重く開閉する音と共に、完全防備のガスマスクと特殊防護服を纏った冷徹な軍人たちが一斉に飛び降り、足音を高らかに響かせながらそれぞれの家々の玄関へと駆け寄っていった。 無機質なコンクリートの壁を叩く乾いたノックの音が連続して響き渡り、恐怖と困惑に満ちた空気が辺りを支配する中、恐る恐る重い木製のドアを開けたのはウーソン家の主であるピープルだった。 軍人の冷たい視線が向けられる中、身分証明を求められたピープルは震える声を押し殺しながら、自らの名前や家族全員の出身地であるロサンゼルスの記憶、そして連絡用の電話番号を必死に告げた。 「ご協力ありがとうございます。現在、アメリカの主要都市で『新種の強毒性インフルエンザ』の集団感染が確認されました。これより本地区を法的に隔離し、全住民の健康状態を検査します。皆様は荷物をまとめ、シカゴ国立公園へ集まってください。防疫対策に関する緊急説明を行います。パニックを防ぐため、外部への連絡は一時的に制限させていただきます」 告げられた冷酷な宣告に従い、父ピープル、母ソフィア、次男キル、長女ニコラ、そして幼い末っ子のパルは、最低限の荷物を抱え込みながら他の住民たちと共に指定された広場へと押し出されるように移動させられた。 殺伐とした空気の漂う広場の中央、仮設された演壇の上に立った将校が冷徹な眼差しを群衆に向けながら、バインダーの分厚いページを慌ただしくめくり、ペン先で冷たくチェックを入れていった。 ――いいか?よく聞け。 将校は一度だけ鋭く顔を上げ、不安に顔を歪める広場の群衆を見渡してから、再び手元の冷たいバインダーへと視線を戻した。 「本日1800時をもって、パークリッジは連邦政府及び米軍による特別隔離避難受け入れ指定区域に分類された。先ほど、政府より支給された大型発電機の試運転が完了した。これより、本広場および各家庭、医療テント、外周フェンスの高圧電流へ、限定的な電力供給を開始する」 冷え切った夜風の中で、将校は手際よくバインダーの次のページをめくり、さらに絶望的な規律を読み上げていく。 「ここからが重要だ。よく聞いて、メモを取りたい者は取れ。配給される電力は、君たちのスマートフォンを充電するためでも、娯楽のためでもない。すべては生存の維持と、外周の防衛ラインを維持するために使われている。各自の私有物への個別給電は一切行わない。しかし、各家庭内の必要最低限の電力供給などは例外とする。しかしなるべく原始的な道具で凌ぐことを強要する。また、消灯時刻の21時以降、広場での不要な発光、および騒音を立てる行為は一律禁止とする。違反した場合は、燃料の無駄遣い、および利敵行為とみなし、即座に重い処罰を受けてもらう」 冷酷な通告を終えた将校は、バインダーをパチンと音を立てて閉じ、脇にしっかりと抱え込みながら広場の住民たちをまっすぐに見据えた。 「質問は受け付けない。我々は生存のために最善を尽くしている。お前たちも、配給されたルールを守ることで、その義務を果たせ。……各部隊、配置につけ」 シカゴのセーフゾーンが、わずかな規律と弾薬によって辛うじてその形を保っていた崩壊前夜、最悪の災厄は外側からではなく、完全に内側から静かに忍び寄っていた。 アマゾン奥地の古代ウイルスが地球温暖化で活性化し、バイオ科学研究所での遺伝子操作やミラーウイルス、エボラの組み込みを経て生み出された最悪の病原体――それこそが「スポアウイルス(公式名:模倣性脳幹凶暴神経性病)」である。キノコの胞子のように一気に拡散し、感染すれば数分から12時間以内に人間の生存本能やドアを開ける知性を残したまま凶暴化させるこのウイルスは、瞬く間に世界を呑み込んでいった。 アトランタでの過酷な派遣任務から奇跡的に生還したはずの長男・マイケル。しかし、彼の肉体はすでにこのウイルスによって完全に侵食され、人間としての理性を失った「ダークインフェクト」へと成り果てていていた。 人間の頃の記憶や絆をすべて喪失し、生体としての殺戮を最高の快楽として認識するようになったマイケルは、鋭い爪を光らせながらセーフゾーンのわずかな隙間をすり抜け、周囲に潜んでいた通常のインフェクトたちを手招きするかのように内部へと引き入れた。 「くひひひ……」 夜の闇に紛れて響き渡る異様な笑い声と共に、マイケルたちは牙を剥き出しにして牙城の内側で暴虐の限りを尽くし始めた。 その混乱の渦中、基地内の仮設通路を逃げ惑っていた長女・ニコラは、信じられないシルエットの人物と真っ向から遭遇して足を止めた。 「お兄ちゃん……?」 変わり果てた血塗れの姿でありながら、確かに愛していた家族であるマイケルの面影を認めた瞬間、マイケルは妹の存在すら完全に無視して獣のような狂気と共に襲いかかった。 「キャッ……!」 ニコラが恐怖のあまりに鋭い悲鳴を上げたその刹那、暗闇を切り裂くような乾いた銃声が冷たい空気を震わせた。 バンッ! 神業のような的確な射撃がマイケルの頭部を正確に撃ち抜き、ダークインフェクトと化した長男は激しい痙攣を起こしながらアスファルトの地面に崩れ落ち、二度と動かなくなった。 血煙の舞う中で冷めきった銃口を下ろしたのは、腕に生々しい深い噛み傷を隠し持ったマコ・ハーラム少尉であり、彼の顔面はすでに青白い死の色に染まっていた。 「お前たち……ぐずぐずするな、早く行け! ここはもう完全に終わりだ!」 マコ少尉は自らの腕に刻まれた致命的な傷を必死に隠しながら、何が起きたのか理解できずに凍りついているウーソン一家の面々を激しく怒鳴りつけ、暗闇の通路へと力づくで走り出させた。 自らの身体の中で急速にインフェクトへの転化が始まっていることを悟っていた少尉は、自分に残されたわずかな時間が秒単位であることを理解し、家族の背中を見送りながら静かに銃を構え直した。 ウーソン一家が死に物狂いで闇の中へと走り去ったのを見届けると、マコ少尉は押し寄せる無数の感染者の群れへと単身で飛び込み、最期の銃弾を浴びせ続けながら壮絶な戦闘の渦へと消えていった。 そしてこの瞬間、シカゴを含む全米の主要都市には、NATO国際救命法に基づく極限の非人道的作戦――**【通称:オペレーション・ヴォイド(ヴォイド作戦)】**の最終コードが発令されていた。 セーフゾーンの陥落と共に発動された最高警戒レベルの「コードレッド」により、軍は市民の救出を完全に放棄し、アメリカ空軍による主要都市へのサーモバリック弾(燃料気化爆弾)の無慈悲な投下を開始したのだ。 マコ少尉も、群がり狂うインフェクトたちの群れも、そしてシカゴという巨大都市のインフラのすべてが、轟音と共に広がる高熱の衝撃波と爆風の中にすっぽりと飲み込まれて跡形もなく消え去った。 2016年1月20日――のちに世界のアポカリプスを生き抜いたわずかな生存者たちが、人類の歴史における最大の敗北を刻み込む「ヒューマンデッド(人類敗北の日)」として語り継ぐ、悪夢の歴史がこうして幕を開けた。

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ヒューマンデッド 第1章