紙切れ
私は亡くなった祖父の事が大好きだ。
季節労働者で、4月になると遠くに行ってしまう祖父。
見送りに行くと、すぐ帰ってくるよと言っていたけど、子供心ながらにそうじゃないことは分かっていた。
泣くのを堪えて手を振りながら、見えなくなるまでずっとその背を見つめていた。
そんな祖父に異変があったのは、定年退職後地元の漁師として働いていた最中だった。
パーキンソン病という、手足がガタガタ震える病に侵された。
日常生活は家族の援助なしには送れなくなった。
そんな祖父に酷だが、私自身病気で弱気になっていたため、「けっぱれ」って書いて欲しいとお願いした。
「けっぱれ」とは方言で、「頑張れ」という意味である。
震える手で、ペン先があっちこっちいきながらも書いてくれた。
その紙切れは20年程たった今でも手帳にしまってある。辛い時、私はそれを見る。
ーおじいさん、挫ける時もあるけど私はけっぱるよー