77 件の小説
Profile picture

「そら」じゃなくって「クウ」。 小さな物語をただひたすらに書いて いつか空の上から見る 大きな物語を書きたい。 ただいま低浮じゃなくなりかけ中…… -2024.9.14〜終わりなき旅

終電

ガタンゴトンと揺れる電車。 今日はなぜか星がお出迎えしてくれるように見えた。 私以外誰1人としていない静かな電車。 私を優しく包み込んでくれるような電車。 私の心に寄り添ってくれるような電車。 今までの出来事が全て温かく感じれた。 何もかもが。 その全てが。

1
0
終電

三人の海

 夏、といえば 「海だーー!」  眩しい日差しが私たちの肌を焼く。  砂浜はフライパンのように熱く、それに自ら飛び乗ってる目玉焼きのような私。  日陰なんてこれポッチもない。あるといえば少し離れた場所にある屋台か、そこら辺の人のビーチパラソル。今日は海に入りに来たんじゃなくて、肌を焼きに来たと同然。  隣にいる流夏なんて沖縄の少女みたいに真っ黒焦げ。ちょーうるさくてはしゃぎまくって。周りの人なんて耳塞ぎたいくらい。 「ねえ。うるさい」 「仕方ないじゃん。楽しみにしてたんだから。3人で来るの久々だし」  何が仕方ないだ。周りは迷惑してるんだから。私と莉愛に聞こえる声で良いでしょ。  そんな暑かったりうるさいのを和らげてくれるのが波の音。  ずっと揺れる波は莉愛の髪の毛みたい。 「ね。莉愛」  あるはずもない返事を私たちはただただ待ち続けていた。 「早く、琴葉も入ろ?」 「うん」  バーンって大きな音を経てながら海に飛び込む。その音が2回続くと、微かにもう1回、聞こえた気がした。  この飛び込む音を聞くのは、今日で2回目。1回目も流夏と莉愛と私の3人で行ったっけな。その時は、この倍、うるさくてうるさくて暑かったんだけど。もうそんな日々は帰ってこないのか。キセキは起きないのか。 「琴葉……。今は全力で海を楽しも!莉愛の分まで!」  にっこりと笑った流夏。うるさくてうるさい流夏だけど、その分人思い出だ。あの日以来。自分より他人のことを引っ張って。  流夏が私へと手を差し出すと、バンっと大きな音を鳴らしながらその手を取る。 「言っとくけど、莉愛はもう全力で楽しんでるよ!」 「そうだね!私たちに構わず真っ先に海に飛び込んでたもんね」  莉愛とはずっとずっと一緒。一緒だから。  見てる?私たちのこと。  全力で楽しんでるから!  

0
0
三人の海

夏の空

夏になると空は真っ青に染まる。 夏になると空は綿飴で覆われる。 夏になると空は雨の雲で覆われる。 夏になると空には七色の橋が現れる。 夏の空はまるで遊園地。 たくさんのパラダイスが待っている。 一筋の飛行機雲が空に浮かぶ。 その先に小さな翼を広げて飛行機が 風を切りながら優雅に飛んでいる。 まるで青い空を駆け抜けながら 白い雲のスタートラインを切っているように。 そしてそのスタートラインはまた姿を消した。 次の日は空から水がよく降る日だった。 大粒の雫。 縦に 地面に叩きつけるように降り注ぐ。 傘を広げても突き破る勢いで。 バタン バタン バタン。 少し経つとそんなの嘘。 真っ青な空には一本の橋。 赤 黄 緑 青。 いろんな色の橋が7つ現れて 重なると同時に雨は息を止めた。 大きな大きな橋。 あっちの雲からこっちの雲までかかってる。 夏の空は気持ちがいっぱい。 悲しくなったり嬉しくなったり。 夏の空はどこまでも続く 一本の橋に覆われた。

7
7
夏の空

パレット

真っ白だったパレットに 色とりどりな色がやって来る。 色同士がパレットの上で 仲良く喋ったり喧嘩したり そうして 真っ白だったパレットが だんだんと変わってくる。 緑やオレンジや紫 たくさんの色たちが話してる。 ぐるぐる回ったり 水遊びをしたり そうして 真っ白だったパレットが だんだんと変わってくる。 黄緑やピンクや水色。 たくさんの色たちが遊んでる。 それを静かに見守るパレット。 だんだんと自分の色を失うパレット。 色々な色に染まるパレット。 たくさんの色に囲まれながら その色は水に流される。 薄く残る色。 色が生きた証。 そうしてまた 真っ白に生まれ変わったパレット。 遊んだり帰ったりする仲間たち。 ゆっくりと眠るパレット。 ゆっくりと眠る仲間たち。 そうしてまた 真っ白なパレットに 色とりどりな色がやって来る。

9
3

青に飛び込んで。

瞼の裏まで広がる 透き通った青色。 ぷくぷく泡を生みながら 体全部で青を感じるの。 全部解放して 青に流してもらうの。 嫌なことも 嬉しかったことも 全部全部忘れて 全部全部青に染めるの。 青は優しく私を包んで “大丈夫だよ” って言ってるみたいで。 青は優しく私を包んで “早く行こう” って言ってるみたいで。 青に体全部を預けるの。 私を青に染めて 青を私に染めて 私を消して 青の結晶に 青の宝石に 青の全部に 溺れるの。 青に飛び込んで 青に身を包んで 青を纏って 青に溺れるの。 青を抱きしめながら “青に飛び込むの”

24
6
青に飛び込んで。

水を溢すの

目からいっぱいの 水を溢すの。 バケツから溢れるくらいの 水を溢すの。 “うわーん。うわーん” って いっぱい泣いて いっぱい水を溢すの。 顔が真っ赤になるくらい 顔がくしゃくしゃになるくらい 顔が壊れるくらい 水を溢すの。 小さい手で いっぱいの水を拭き取るの。 “ダメ。泣いちゃダメ” って。 今までの事は無かったことにして 全部拭き取るの。 バケツいっぱいに入った水も 全部海に流して くしゃくしゃになった顔も 元に戻して 溢した水も 全部拭き取って。 でも やっぱり水を溢すの。 “うわーん。うわーん”って。 やっぱり 悲しみを抑えられないって。 みんなに逆らえないって。 やっぱり いっぱい泣いて いっぱい悲しんで いっぱい水を溢すの。 こも悲しみを拭き取るまで いっぱい “水を溢すの”

15
3
水を溢すの

お遊び鬼ごっこ

6−突撃  そう悪の心が清佳を覆い尽くす。  操られていた体も林へとゆっくりと歩き出す。一歩ずつ。ゆっくりと。  林へ入ると予想通りに人が溢れていた。それも逃げる人ばかり。  1番近い位置にいる人をタッチするために手を伸ばす。  しかし,逃げる人たちは鬼が迫って来るのに気付いて,勢いよく逃げ出す。他の仲間を押し倒しながら。  でも清佳は決して足を止めなかった。  1番近い位置の人を無差別に狙う。  あと,ちょっと……!  転びそうになりながら逃げる人の背中に手を伸ばす。 「っ……!」  ……解放,された!体が自由になった!逃げる人になれたんだ!  清佳は前の人をギリギリでタッチし,鬼から解放された。  しかし,それはあの男の子だった。  密集したこの空間であの足の速さは封印されてしまったのだ。  男の子は勢い良く振り返ると,再び真っ黒に染まった目を向け清佳に突進する。男の子の足が私の足を踏み,2人は一緒に転んでしまった。まるで先程と入れ替わったよう。  あの男の子はこんな気持ちだったんだ。ヤバい……!逃げきれない。  私じゃ男の子のような身体能力はない。かといって男の子が離れてくれるわけでもない。本当に,今度は……。  整った顔が私の顔に少しずつ距離を縮める。無の表情だけどその中はさっきの私と同じ事を思ってるのかな?  どうしよう。助けてほしいけどほおっておいてくれれば……。ダメダメダメ。何考えてるんだ。まだ何かここから抜け出す方法があるかもしれない。 「コラァ!ウチの清佳に何してくれとんねん!アァ!」  すると,どこからは不良のような喋り方をした誰かが近づいてくる。まさか,叶菜!   なんだか複雑……。いやだからダメなんだってば。お願い,早く!もう……。 「プハァ!」  その瞬間,叶菜が男の子の腹を勢い良く殴る。男の子は吹き飛ばされ白目を向ける。  こんな叶菜がいたなんて……。恐ろしい。それより,お礼伝えなきゃ。 「ありがとう。叶菜。助かったよ。………え?」  パシッと一発叶菜が私の頬を叩くと私の顔をじっと見る。  そうだ。叶菜は鬼だった男の子に触れたから一度鬼になって,目の前にいた私をタッチしたんだ。……という事は,今は私が鬼だ。  前後は男の子と叶菜。どっちを選べば良いんだ。いや,選ぶと言う選択肢はないんだ。だから私の体がどっちを選ぶか。  一直線に向かったのは,目に一番最初に入ってきた叶菜だった。  でも,このままじゃ叶菜と私が鬼を変わるのをループするだけで,いずれどちらかが脱落してしまう。  こうなったら,一か八かで私が人が密集している場所へ叶菜を連れていって,他の人を犠牲にする方法しかないんだ。  そう決心した清佳は林に奥へと走っていく。ここで私が捕まってしまえばもう脱落してしまう。  現在タイマー1分を切っている。誰かの犠牲はあるんだから仕方ないの。  林の奥へとだどり着くと人が溢れかえっていた。  やった!人がまだ沢山いる。でもあの男の子も……。なんとかあの男の子だけは捕まらないようにしないと。  男の子の横を風を切るようにして抜けると,人が密集している場所へ突撃する。叶菜もついてきてる。  叶菜はその瞬間,一番近くにいた中学生くらいの女の子をタッチすると,急いでその場を離れる。  タイマーはもう10秒を切っている。このままいけば……!  その時,女の子が目をつけたのはあの男の子だった。  女の子は男の子へ突進する。  しかし,男の子はまだその状況に気づいていなかった。もしここで鬼になってしまったら助かる確率は限りなく0に近い。 「ダメ!」  清佳がそう叫ぶと男の子は目を丸くさせる。 「避けて!」  叫び続けるも男の子は身動きを取れず固まったまま。  このままでは男の子が脱落してしまう。それだけは嫌だ!  清佳は頭を真っ白にさせたまま咄嗟にその場を離れる。  女の子はもう真後ろまで来ると手を伸ばす。  その瞬間清佳は男の子の手を引っ張る。もう,男の子を助けるのに無我夢中で。  その時会場にゲーム終了の笛が響いた。  男の子は無事助かったけどあの女の子は。でも誰かの犠牲はつきもの。仕方ない事。  というか,今これ……。 「ご,ごめん。急に」  慌てて清佳が謝ると照れた顔で男の子は呟いた。「ありがとう」と。  その顔は顔が真っ赤になりあの時とは違う可愛さだった。  すると,タイマーが0になった時鬼だった女の子の体が一瞬止まると,血狐の方へと歩いていく。  なんだか見たことのある動き。でもそれがわからない。  血狐の周りには狐の面を被ったあの子供たち。そいつらは脱落した人の頭目掛けて包丁を振り下ろす。死ぬまで滅茶苦茶に。  血が暴れているように飛び散っている。痛いなんて感情で収まるほどではないだろう。  すると,あの女の子が一瞬だけ清佳を睨む。自分がこうなったのはあなたのせいと言わんばかりに。  それでも,包丁には勝てずそのまま息を引き取った。  あんな目に私もあっていたかもしれないなんて。  少し一安心すると,血狐が拍手をする。 「第一ゲーム『変わり鬼』のクリアおめでとう!鬼13人が脱落して現在30人!次のゲームは,『氷鬼』だよ!」  

6
0
お遊び鬼ごっこ

お遊び鬼ごっこ

5−操り人形  会場のシンボルのような位置にあるタイマーは現在20分。それが0になった時鬼だった人が脱落する。  清佳たちは鬼の元へと駆けていく。  手を限界まで伸ばして今すぐにでも誰かにタッチしてもらえるように。  しかし,鬼は清佳たちに目もくれず一直線に目の前の人をタッチしていく。タッチされた人もまた別の人をタッチする。  清佳たちは鬼の死角にいたから。  そうして鬼が清佳たちの元から離れていってしまった。  しかし,そんな目にあったのは清佳と叶菜だけではなかった。  隣で座り込んでいる男の子は鬼の行き先をじっと見ている。年は清佳と同じくらいの小学5年か6年生。  まだ数秒しか経っていないのに,その男の子の額からは汗が吹き出していた。その汗を首元の裾で拭う姿はアニメの主人公のよう。  清佳がじっと男の子を見つめていると,澄んだ瞳で睨みつける。  そして鬼の元へと走っていった。その速さは異次元で恐ろしいほど美しかった。 「なに?一目惚れってやつ?」  叶菜がからかうように問いかける。  しかし否定は出来なかった。あの美しさは忘れられない。  ダメだ。今は“死”のゲーム中。清佳は頬を一叩きするとこのゲームに集中する。  現在タイマー18分20秒ほど。急いで鬼になって他の人に変わってもらわないと本当に危ない。 「行こ。本当に脱落するかもしれない」 「話逸らした。まぁ,正当なんだけど」  少し気軽そうに話す叶菜はあの最初の時とは別者だった。  2人は鬼がいる方へもう一度走り出すと額から汗が滲み出る。 「鬼見ーけっ」  叶菜が叶菜じゃないような目でそう言い放つ。『鬼』という言葉が脳内を埋め尽くしているよう。  急いで清佳も鬼の元へと走っていく。  あっ!あの男の子。  清佳の一番近い位置にはあの男の子。鬼になったようで今私が向かえば男の子が助かる確率は上がる。それに私も。  でも鬼を変わるにはボディータッチを……。  あー。また恥ずかしがっちゃって。今は“死”のゲーム中なの。生きるか死ぬかの戦い。こんな事思ってる暇があるならもっと早く走れ。  そんな清佳を見つけた男の子は今まで以上の主人公で向かって来る。あの澄んだ瞳は真っ黒に染まり,まるで何かに取り憑かれているよう。  2人はお互いの顔をじっと見つめたまま,手を限界まで伸ばして走る。止まれと言われても止まる事はできない速さで。 「っ!」  その瞬間一瞬だけ2人は手を繋ぐ。  鬼になった清佳と逃げになった男の子は。  恥ずかしさを抑えきれず清佳はその場を離れようとする。しかし体は言う事を聞かず,目の前にいる男の子へ突進する。  体が操られている。意識だけが清佳に残りそれ以外は何もかも失われた。まさに操り人形状態。  状況が理解できず清佳は操られるまま。このままだと。  少し清佳の胸が高鳴る。  男の子の頬も赤く染まる。目は真ん丸でさっきまでとは違い少し可愛い。  あぁ……。ダメだ。ダメなんだけど私には阻止できない。  2人の顔の距離が残りわずかになった時,清佳の視界は地面の砂で埋めつされた。  ギリギリのところで男の子がその2人のわずかな空間を抜け出したのだった。  これで良いんだ。良いんだけど……。  すると清佳の顔が男の子に目を向け,ロックオンする。  鬼になってしまった清佳は操り人形状態。意識だけが残っているので,体は操作できない。一度目にすると視界から隠れるまで追いかけ続ける。なんだかハンターになった気分。  そんな事よりこの足の速さはなんなの!私じゃないじゃない!  操られている清佳の体は,異次元の足の速さで男の子に向かっていく。  あの男の子の足の速さでもこの鬼の速さでは追いつかれてしまいそうなほど。  ものの数秒で清佳は男の子の背中に追いつく。その背中に清佳が手を伸ばした時,勢いよく男の子がカーブする。  その速さに追いつけなかった清佳の体は,止まる事なくつまずいてしまう。  その間に男の子は鬼を振り切り,清佳の視界からは消えた。  息が荒い。慣れない走り方で清佳の意識は吹き飛んでしまいそう。  現在タイマー10分30秒ほど。あと少しで半分を切る。  このままじゃ,私が脱落してしまうかもしれない。  どうしよう。どうしよう……。こんなところで私の人生を終わらせたくない。どんな方法でも良い。だから,生き残りたい。  精神的にも体力的にも追い詰められた清佳の目は殺意に満ちていた。真っ黒に染まり人の目とは言えるほどでは到底ない。  笑みを浮かべながら,清佳はゆっくりと立ち上がる。  真っ直ぐと前を見る。振り返る事はもうない。前を進むだけで良いんだ。  その先は,あの木々が集まった林だった。 “人がうじゃうじゃいる場所はあの場所しかないんだ……”  

5
0
お遊び鬼ごっこ

物語の始まり

ただひたすらに真っ白な風景が続いて 素敵な『文字』も与えられなくて 輝けなくて そんな『空白』として生きるのが 僕はもう嫌だ “『空白』だって輝いてるよ!” とか “『空白』がいたから僕たちは輝ける!” だとか 綺麗事を言っておけば良いってのが その『文字』に出ていた 何が輝いてるとか。僕がいない時のデメリットとか。全然教えてくれなかった ね? 別にさっきのままでも全然読めるでしょ それと反対 『文字』たちがいなきゃ 何も始まらない ただ僕の『空白』という風景が続いて 無駄な空間があるだけ 僕がいなくても 世界は成り立つ 僕の存在なんて ないのと等しい そんな僕のもとに 『物語』がやって来た 『文字』が集まった 『文章』という 素敵なものを持っている『物語』が 優しい声で教えてくれた “『空白』がいたから『物語』が始まる  段落って『空白』でしょ?  段落がなきゃそれは『物語』とは言わない  ただの『文章』と等しい  でもそこに『空白』が加わると  『物語』となる  『空白』がいるから『物語』がある  ありがとう!” って その時初めて 必要とされたと知った 僕は『物語』の始まりなんだ 素敵な『文字』を与えられなくても 僕は『空白』という 一つの存在で 『物語の始り』だから

11
0
物語の始まり

お遊び鬼ごっこ

4−第1ゲーム 建物内には人の血や死体が散乱し,あまりにも無惨な光景だった。 そして,その中心にはあの小さくて可愛い女の子。 無邪気に笑うその裏は嘘だと言いたい。 清佳と叶菜はお互いの手を強く握る。 2人の手は震えが止まらなかった。 「じゃあ,ルール説明……ってあっ!」 女の子がそう何かを話すと,もう殺されるのではないかと体も心も震えていた。 耳を塞いだり目を塞いだり。 もうその言葉や光景を受け入れたくなかった。 「私自分のこと紹介するの忘れてた!私の名前は血狐!チコちゃんって呼んでね!」 明るい声でそう言うと,黒いドレスをひらひらさせながらクルッと回って見せる。 まるで天使が悪魔に支配されているよう。 「じゃあ,ルール説明をするね!邪魔者がいなければこんなに遅くならなかったのに……まっいっか!」 ルール説明,ゲームの流れを遠回しにするように話をする血狐。 邪魔者は血狐の方……でも,もしそんな事を口に出してしまったら。 「じゃあ,ルール説明をするね!さっきも言ったけど1つだけ!でもその1つをできなきゃ死んじゃうの!どう?スリル満点のゲームでしょ!生きるか死ぬかの戦い!で,そのルールは……」 少しの間の後ルールを話す。 「走って走って走り回ること!」 そう聞いてた清佳は反応に困る。 頭を使わずにゲームを進められる希望は持てたものの,足には自信がない。 どう生き残ろうか考えていると,血狐がパンパンを手を叩いた。 「て事で!次のゲームは『変わり鬼』!鬼ごっこの基本中の基本!楽しみだな〜!」 『変わり鬼』か……。 相手を見捨てる事もできるけど助ける事もできる。 基本とはいえ走る事はやっぱり速い方が有利。 隠れる場所があるならずっと隠れておきたい。 でも,それがこんな“死のゲーム”というものなのかが分からない。 それなら,ほとんどの人が隠れて元々鬼だった人たちが……。 「みんな『隠れてよう……』なって思ってないよね?まぁ無理なんだけどね!」 考えた事が当てられたのはなんだか悔しいけど,それより「無理」の意味は? ずっと隠れているのが不可能,それがこのゲーム。 「1人一回は鬼にならなきゃいけないんだよ!鬼に一回もならなかった人は即脱落!ルールにも合ったでしょ?「走って走って走り回る」って!」 「即脱落」それは「死」を表すのだろう。 「それじゃあ,ゲーム会場へ移動するね!」 血狐がある一点を見つめると,そこには大きな扉があった。 そして血狐がその前まで行くと自動で扉が開く。 あんなに大きな扉が自動で開くなんてすごい技術,それよりも気になる事があった。 「あそこにあんなのあったっけな……?」 清佳が目を覚ました時あんな扉はなかった。 暗く細部まで見えないとはいえあんな目立つ扉は必ず目につくはず。 それを見落としたとは考えられない。 でも今はゲームに集中しよう。 そう考えているうちにほとんどの参加者が扉を通っていた。 慌てて立ち上がると叶菜もすぐそばに立っていた。 いつの間に手を離したんだろう? そんな小さな疑問を持ちながら清佳たちも扉を通る。 扉の先には一方通行の細長い通路があった。 全面真っ黒く塗られており,血狐の楽しそうに喋る声だけが頼りだった。 数分間そんな空間が続くと少し先に明かりが見えた。 それに向かって駆け足で行く。 通路を抜けると,そこは小学校にある校庭のような場所だった。 左には遊具。 右にはバスケットゴール。 正面にはサッカーゴールがあった。 奥には木々が植えてあり,隠れようと思えば隠れられる程だった。 清佳たちは運動場の真ん中に集まると,血狐が何かを取り出した。 「ジャッジャーン!くじ引き!これで当たりを引いた人が鬼だよ!」 そして次々とくじを引いていく。 悲しむ声や喜ぶ声。 でも,一回は鬼にならなければいけないのならば最初に鬼になった方が楽。 しかし,清佳たちは中々選べなく最後の2択になってしまった。 よくよく考えると人数がとてもピッタリになっている。 元々の参加人数が分かったとしても最初の方で死んでいる人がいる。 だとしたらなぜこんなにもピッタリなのか? 元々この人数になるように仕向けていた? あれこれ考えながら清佳と叶菜もくじを引く。 そして2人は鬼ではなく逃げる方になってしまった。 でも鬼に捕まれば良い話。 「参加者43人で鬼に13人!最後に鬼だった人が脱落!分かった?」 その言葉に参加者は頷く。 「じゃあ逃げる人は今の間に好きなところへ!」 その瞬間,走り出す人もいれば走り出さない人もいる。 私たちは走り出さなかった。 最初に鬼になって他の人をタッチすればいいから。 「じゃあ第1ゲーム『変わり鬼』の………」 「スッターーートーー!」 そう血狐が叫んだ時恐ろしいゲームの最初の地獄が始めることとなった。

5
2
お遊び鬼ごっこ