澪苺莉【みおり】
18 件の小説メモリ
私の恋心は、コップ一杯分じゃ収まらない。 じゃあ、どれくらいのメモリがついた計量カップなら、この気持ちは測れるのだろう。 200ミリリットル。 500ミリリットル。 1リットル。 どれを使っても、きっと足りない。 あなたに会う。 目が合う。 小さく手を振ってくれる。 「おはよう」って笑ってくれる。 その一つひとつが、私の恋のメモリを少しずつ上げていく。 昨日より今日。 今日より明日。 好きが増えていく。 最初は、ほんの少しだったはずなのに。 気づけば胸の中は、あなたでいっぱいになっていた。 放課後、偶然会えた日。 髪型を褒めてくれた日。 いつもより少し長く話せた日。 そんな小さな出来事だけで、簡単にメモリは振り切れてしまう。 だから毎晩、私は考える。 どれくらい大きな計量カップなら、この恋を全部入れられるのだろう。 2リットル? 5リットル? 違う。 そんな問題じゃない。 だってあなたを見るたび、この恋は増えてしまうから。 測っても。 閉じ込めても。 すぐに溢れてしまう。 好きが止まらない。 会いたいが止まらない。 こんなの、きっと最初から測れるものじゃなかった。 だから私は、計量カップを床に叩きつけた。 ぱりん、と透明な音が部屋に響く。 床に散らばったガラスの破片。 ぐしゃぐしゃに歪んだメモリ。 それを見ながら、私は少しだけ笑った。 もういい。 測れないなら、測らなくていい。 この恋はきっと、 壊れるくらいで、ちょうどいい。
門の番人は笑わない
門の番人。 私は門の番人に恋をした。 門の番人は決して笑顔を見せない。 門の番人は決して笑わない。 それでも恋をした。 一目惚れ。 かっこいい。 それだけで十分だった。 あなたはいつになったら笑ってくれるの。 私で笑ってはくれないの。 あなたがニコッと笑顔を見せるのは、料理が運ばれてきた時だけだった。 料理を運んできた女の子に、「ありがとう」と優しく笑う。 私じゃないのは悔しい。 それでも、あなたの笑顔が見られることが嬉しかった。 彼を観察していると、大きな違いが見えてくる。 今日は常連のおじさんにニコッと笑った。 おとといは子供に、少し柔らかい声で「危ないよ」と言っていた。 その前の雨の日には、貴族のおばあ様に「足元をお気をつけてください」と優しく微笑みかけていた。 全部見ていた。 全部覚えている。 それなのに、その笑顔は決して私には向かない。 ――そう思っていた。 「いつもこんな時間にどうしたの」 素っ気ないような、でも少し優しい声だった。 私は驚いて顔を上げる。 「いつもこの時間帯に、王子さまへお花を運んでいるのです。町の花屋なので」 初めて会話をした。 彼が私を覚えていてくれたこと。 彼が私に話しかけてくれたこと。 その全部が嬉しくてたまらなかった。 もう違う。 見ているだけの恋じゃない。 触れた恋。 それからも彼は、少しずつ私と話すようになった。 一週間に一度、彼は私にお菓子をくれる。 最初はクッキーだった。 「王子様が食べるクッキー。余りものだけどね」 もちろん、そんな言葉まで嬉しかった。 次の週はキャラメル。 そのまた次の週には、なんとケーキまで用意してくれていた。 とても幸せな時間だった。 彼はどんどん、私へ物を贈ってくれる。 毎回同じ時間。 夜の十時。 彼はいつもそこへ立って、私用のお菓子を準備して待っていてくれる。 これはもう、恋人と言っても過言ではない。 次の日も、その次の日も、私は彼のもとへ向かった。 けれど、ある日。 夜十時を過ぎても、彼は来なかった。 しょうがない。 そう思って帰った。 だが、その次の日も。 またその次の日も。 彼は来なかった。 彼が来なくなって二週間ほど経った日。 「ああ、いた!」 私は思わず駆け寄った。 けれど、それは彼ではなかった。 彼とは似ても似つかない、すらりとした男だった。 優しそうなのに、どこか冷たい目をしている。 「あの……彼は、どこですか」 「彼?」 門番は少しだけ首を傾げた。 「今日から夜十時から朝五時までは、私が門番を務めます」 「今日から……? じゃあ、今までいたあの人は?」 昼には姿を見せなかった。 それでも、夜だけ会える幸せが、私の中ではとても大きかった。 すると門番は、かわいそうなものを見るように言った。 「最近、不審者が出まして。自分を門の番人だと名乗り、この城で勝手に番をしていた男を捕らえたのです」 息が止まる。 「安心してください」 門番は続ける。 「明日は、彼の処刑日です」 処刑。 その言葉だけが頭の中で響いていた。 待って。 あの人は門番でしょう。 あの鎧も。 大きな槍も。 低くて優しい声も。 全部、嘘だったというの。 分からない。 分からない、分からない。 私は城へ入り込もうとした。 もう彼に会う方法は、それしかなかった。 けれど、それすら叶わなかった。 あっさりと兵に取り押さえられ、地面へ押さえつけられる。 私は最初から、この恋は叶わないと神様に言われていたのかもしれない。 そう。 絶対に叶わないと。
消えてしまう君へ
拝啓 消えてしまう君へ あなたは今どこにいるの。 なにをしているの。 早く帰ってきてよ。 約束、まだ守ってもらってないんだから。 このクラスには、一人だけ存在感の薄い男の子がいる。 顔も名前も知っているはずなのに、時間が経つと不思議と忘れてしまう。 まるで最初から、そこにいなかったみたいに。 でも――私は、君のことだけは忘れられなかった。 四月。春。 新しい教室の窓際、一番後ろの席。 彼はいつもそこに座っていた。 黒髪で、少し猫背。 授業中はずっと窓の外を見ている。 誰とも話さないし、笑わない。 なのに私は、なぜか目で追ってしまう。 「……プリント」 ある日、彼が初めて話しかけてきた。 前の席から回ってきた紙を受け取れなかったらしい。 私は慌ててプリントを差し出した。 「はい」 指先が少し触れる。 彼は小さく、 「ありがと」 と言った。 その声が思っていたより優しくて、少しだけ胸がざわついた。 それからだった。 消しゴムを拾ったり、ノートを貸したり。 雨の日、昇降口で一緒になったり。 特別なことなんて何もない。 でも私は、教室に入るたび彼を探すようになっていた。 ある日の放課後。 クラス全員で撮った写真がスマホに送られてきた。 何気なく画面を見ていた私は、あることに気づく。 ――彼がいない。 何度見返しても、そこに彼の姿はなかった。 隠れているわけじゃない。 最初から存在していなかったみたいに、綺麗に消えている。 背筋が冷たくなった。 「ねえ」 隣の席の子にスマホを見せる。 「この人、覚えてる?」 その子は不思議そうに首を傾げた。 「え、誰?」 心臓が嫌な音を立てる。 嘘でしょ。 だって、ちゃんといるのに。 次の日の放課後、私は彼を追いかけた。 「待って!」 彼は振り返る。 その目は、少しだけ困っていた。 「……なに」 「なんで写真に写ってなかったの」 沈黙。 彼は逃げるように歩き出そうとする。 私は反射的に制服の袖を掴んだ。 「ちゃんと教えて」 夕日が差し込む廊下で、彼はしばらく黙っていた。 やがて、小さく笑う。 その笑い方は、どこか諦めたみたいだった。 「……俺さ」 窓の外を見る。 「好きになると、消えるんだよ」 意味が分からなかった。 でも彼は冗談を言う顔じゃない。 「最初は写真に写らなくなるくらい」 「でも、本気になると、周りの人が俺を認識できなくなる」 風が吹く。 カーテンがふわりと揺れた。 「だから誰とも関わらないようにしてた」 彼は小さく息を吐く。 「なのに、お前が話しかけるから」 胸が苦しくなる。 「……それって」 喉が詰まりそうだった。 「好きってこと?」 彼は答えなかった。 でも、その沈黙だけで十分だった。 それから彼は私を避けるようになった。 話しかけても目を合わせてくれない。 帰る時間もずらされる。 まるで必死に距離を取ろうとしているみたいだった。 「なんで逃げるの」 廊下でそう聞くと、彼は背中を向けたまま言った。 「これ以上近づいたら、本当に消える」 その声が、少し震えていた。 私は唇を噛む。 「だったらどうして優しくしたの」 彼の肩が小さく揺れた。 長い沈黙のあと、かすれた声が落ちる。 「……好きになったからだよ」 その瞬間、胸の奥が熱くなる。 嬉しいのに、苦しい。 泣きたいのに、笑いたい。 そんな感情、初めてだった。 数日後。 彼はほとんど見えなくなっていた。 教室にいても、誰も気づかない。 先生ですら空席だと思っている。 放課後。 夕日に染まる教室で、彼は静かに笑った。 「ほら、言っただろ」 輪郭が薄い。 今にも消えてしまいそうだった。 「だから関わるなって」 私は首を振る。 「やだ」 彼が目を細める。 「消えるなら、それでもいい」 「……は?」 「覚えてるの、私だけでもいいから」 一歩近づく。 「だって、好きだから」 彼の目が大きく揺れた。 私はそっと彼の手を握る。 ちゃんと、触れられた。 薄くなったその手は、少し冷たかった。 次の日。 教室では誰かが空席を見ながら言った。 「この席、誰だっけ?」 誰も答えない。 私は静かにその席へ向かう。 そして、小さく呟いた。 「……いるよね」 その瞬間。 揺れる空気の中で、かすかな声がした。 「なんで、お前だけ……」 私は笑った。 「忘れないから」 夕日が差し込む。 その光の中で、彼の輪郭が少しだけ戻った。 完全じゃない。 でも確かに、そこにいた。 彼は困ったように笑う。 「……なんでそんな必死なんだよ」 私は少し考えてから答えた。 「好きな人だから」 沈黙。 それから彼は、小さく笑った。 きっとそれが、初めてちゃんと見せた笑顔だった。 拝啓 消えてしまう君へ 今日も私は、ちゃんと君を覚えています。 だからお願い。 今度は、私を置いて消えたりしないで。
なくしものは君だった
いつも使ってた物が無くなると悲しい。 それは人に置き換えても変わらない。 いつもいた人が急にいなくなると、誰しも悲しい。 君はそれを知ってるくせに、 私の前からいなくなった。 高校二年の夏。 あなたは急にやってきた。 決して穏やかとは言えないこの高校で、あなたは高嶺の花みたいな容姿でみんなの視線を奪った。 女子たちは騒ぎながら連絡先を聞いていた。 するとあなたは、何の迷いもなくQRコードを差し出した。 「はい、これ」 歓声が上がる。 でも次の言葉で、教室は静まり返った。 「家の喫茶店の公式LINEだけど」 数秒の沈黙。 それから男子の笑い声が響いた。 「っはは、普通店の公式LINE渡す!?」 「予約とか問い合わせ、そこに来るから」 あなたは平然とそう言った。 その瞬間、教室が笑いに包まれる。 私も笑ってしまった。 なんて変な人なんだろうって。 それが最初だった。 彼は人気者だった。 でも、誰のものにもならなかった。 優しいのに壁がある。 笑うのに踏み込ませない。 まるで最初から、“いつかいなくなる人”みたいだった。 ある日、彼は私に聞いた。 「静かな場所、知らない?」 昼休みになるたび騒がれるのが疲れるらしい。 私は屋上前の階段を教えた。 次の日、なんとなくそこへ向かうと、彼は眠っていた。 夏の風に揺れる髪。 閉じた目。 静かな呼吸。 教室の真ん中にいる時より、ずっと綺麗だった。 「……委員長?」 目を開けた彼が笑う。 「ここ、好きかも」 その瞬間からだった。 私の日常に、彼が入り込んできたのは。 毎朝「おはよ」が来るようになった。 放課後、私は彼の家の喫茶店に寄るようになった。 木製のドアについた小さなベル。 少し苦いコーヒーの匂い。 窓際に差し込む夕方の光。 彼はコーヒーが飲めないくせに、カフェオレを作るのだけは上手かった。 「甘い方が好きそう」 そう言って差し出されたカフェオレは、悔しいくらい美味しかった。 夏祭りも行った。 帰り道、ラムネ瓶を鳴らしながら歩いた。 くだらない話をして笑った。 無言も苦じゃなくなった。 気づけば、 “彼がいる”ことが当たり前になっていた。 でも。 幸せって、多分、 壊れる直前が一番綺麗なんだと思う。 二学期に入ってから、彼は少しずつ変わった。 返信が遅くなった。 学校を休む日が増えた。 喫茶店も閉まっている日があった。 「大丈夫?」 そう聞くたび、彼は笑った。 「大丈夫だよ」 その笑顔が、 どうしてあんなに苦しそうだったのか。 あの時の私は知らなかった。 九月の終わり。 彼は突然いなくなった。 転校だった。 理由は誰も知らない。 担任も詳しくは話さなかった。 机だけが残っていた。 まるで最初から誰もいなかったみたいに。 毎朝来ていた「おはよ」は来なくなった。 屋上前の階段も静かになった。 喫茶店は閉まったままだった。 ねぇ。 人って、 こんな簡単にいなくなれるんだ。 それでも私は、 彼がいた夏から抜け出せなかった。 冬になる頃には、もう諦めたつもりだった。 なのに。 「……委員長」 その声で、全部壊れた。 振り返る。 そこには、夏みたいな人が立っていた。 少し痩せて、 少し大人びて、 でも変わらない顔で笑っていた。 「……久しぶり」 本当は聞きたいことなんて山ほどあった。 なんでいなくなったの。 なんで何も言わなかったの。 なんで今さら戻ってきたの。 でも。 「店、また開けるんだけど」 彼はスマホを差し出した。 表示されたQRコード。 あの日と同じ。 「予約第一号、する?」 泣きそうになる。 ずるい。 ほんとに。 こういうところが。 だから私は、 呆れたみたいに笑って言った。 「……今度は個人LINE教えてよ」 彼は少し目を丸くして、 それから静かに笑った。 冬なのに。 その笑顔だけ、夏のままだった。
美人の特権
美人は得だ。 そんなこと、誰より自分がよく知ってる。 生まれた時から、世界は少しだけ私に優しかった。 転んでも「大丈夫?」ってすぐ誰かが手を差し伸べるし、 テストで悪い点を取っても「意外と抜けてるんだね」で済まされる。 少し機嫌が悪いだけで「ツンデレ」。 少し黙ってるだけで「ミステリアス」。 みんな勝手に、綺麗な言葉に変えてくれる。 だから私は、 努力を知らないまま高校生になった。 恋だってそう。 好きだと言われることには慣れてた。 放課後の呼び出しも、 机の中の手紙も、 インスタのDMも。 でも一度も、自分から誰かを追いかけたことはなかった。 追いかけなくても、 みんな勝手に好きになったから。 ──だからきっと、知らなかったんだと思う。 好きな人に選ばれない痛みを。 「おはよ」 朝の教室。 窓際の席で頬杖をつく彼は、気怠そうに片手を上げた。 それだけで心臓がうるさくなる。 多分、恋だった。 彼は他の男子みたいに、 露骨に私を特別扱いしなかった。 顔を見て固まったりしないし、 やたら優しくもしない。 むしろ少し冷たいくらい。 なのに時々、 どうしようもなく優しい。 私が眠そうにしてたら、 何も言わずにカフェオレを机に置いてくれる。 髪を切ったら、 「そっちの方が似合う」 って一言だけ言う。 そのくせ、 他の女子にはそんなことしない。 だから期待した。 馬鹿みたいに。 “この人はちゃんと中身を見てくれてる” そう思ってた。 「あ、ねえねえ」 昼休み。 彼の隣に、小柄な女の子が座った。 クラスの端っこにいるような子。 別に可愛くない。 髪は少し癖っ毛だし、 制服も着崩れてるし、 いつも眠そうで。 正直、目立たない。 でも彼は、 その子と話す時だけ少し笑う。 私はそれに気づいてしまった。 気づきたくなかった。 「それ違うって」 「え、うそ!」 くだらない会話。 なのに、 私には向けられない顔をしてる。 胸の奥がざわついた。 変な感じだった。 今までなら、 そんな子に負けるなんて思わない。 だって私は、 “こっち側”の人間だから。 比べられるまでもなく、 勝ってるってわかるから。 なのに。 彼の目には、 私じゃなくあの子が映ってた。 「……付き合ったらしいよ」 友達がそう言った瞬間、 耳鳴りがした。 誰と誰が、なんて聞かなくてもわかった。 教室の後ろ。 彼の隣で笑うあの子。 頬が熱い。 苦しい。 なんで? どうして? 私の方が可愛い。 私の方がモテる。 私の方が、 ちゃんと彼を見てた。 なのに。 どうして、 選ばれないの? その日、初めて鏡を見るのが嫌になった。 今までは武器だった顔が、 急に意味のないものに見えた。 可愛いね。 綺麗だね。 昔から何回も言われてきた。 でも、 好きな人ひとり振り向かせられないなら、 そんな言葉になんの価値があるんだろう。 「美人はいいよね」 そう言われる度に、 曖昧に笑ってきた。 でも本当は。 美人だから苦しかった。 みんなが勝手に期待する。 美人なんだから、 なんでも持ってるって。 傷つかないって。 失恋なんかしないって。 だから誰も、 私の負けに気づかない。 放課後。 人気のない廊下で、 彼とすれ違った。 「……元気ない?」 その一言だけで泣きそうになる。 優しくしないで。 今さら。 「別に」 笑おうとしたのに、 声が震えた。 彼は少し困った顔をしたあと、 小さく「そっか」って言った。 その顔を見て、 わかってしまった。 この人はきっと、 最後まで私を選ばない。 どれだけ可愛くても。 どれだけ頑張っても。 恋って、 そんな簡単なものじゃない。 じゃあ私は、 どうすればよかったの? もっと普通だったらよかった? もっと不器用だったら? もっと、 守ってあげたくなるような子だったら。 ねえ。 “美人の特権”って、 一体なんだったの。
君が知らない恋の仕方
君のために恋をしているわけじゃない。 私は、私のために恋をしている。 あなたは、きっと気づかない。 だって、あなたは自意識過剰だから。 誰かに愛されることを前提にして、 誰かのために心を差し出すことを、 それが“恋”だと思っている。 でも違う。 恋は、本来もっとわがままだ。 もっと、利己的で、衝動的で、どうしようもないものだ。 自分が満たされるために、誰かを求める。 それでいい。むしろ、それが自然だ。 あなたは知らない。 自分のために恋をする、ということを。 あなたが知っているのは、 誰かに選ばれるための恋だけ。 誰かの隣に収まるための恋だけ。 ——嫁ぐための恋。
【みおり】のお話♡&皆様にお願い
こんにちは♪ 澪苺莉(みおり)と申します。 少しだけ自己紹介をさせてください。 主に恋愛小説を書いています。 純愛や、少し堕ちていくような恋のお話が大好きです。 王道の恋愛小説はあまり書けませんが、 だからこそ私らしい恋を書けたらいいなと思っています。 私は今学生をしているので、 平日は夜の投稿が多めになると思います。 甘いものが大好きで、辛いものは少し苦手です。 でも韓国料理のお店に行ってみたくて、 最近は甘口カレーから中辛に挑戦しています♪ そして皆様にお願いがあります。 私は恋愛が大好きですが、 恋愛の知識は本や友達の恋愛話から得ているものばかりです。 なので、 「こんな恋が見てみたい」 「こんな経験をしたことがある」 などがありましたら、 ぜひコメントで教えていただけると嬉しいです♡ 相談でも雑談でも大歓迎です♪♪ 小説ではないのに、 ここまで読んでくださってありがとうございました。 皆様の日常の中に、 少しでもキュンとする恋がありますように❤︎ それでは、小説の中で会いましょう
不器用だけど優しいあいつ
リボン。ふわふわのレース。可愛いワンピース。 全部が憧れ。 でも今の私は、少し筋肉質な体に昔から変わらないショートヘア。 4人兄妹の真ん中。兄2人に弟1人。 虫取りも仮面ライダーごっこも当たり前で、気づけば私は“かっこいい”側の人間になっていた。 学校でもそう。 女子らしい話題には上手く入れなくて、でも男っぽく振る舞えばみんな笑ってくれる。 だから私は、“王子”を演じるようになった。 本当は可愛いものが好きなのに。 似合わないって、ずっと思ってたから。 そんなある日。 「お前、似合わないよ」 教室の端にいる一匹狼の男子が、突然そう言った。 女子から“裏の王子”なんて呼ばれてる、綺麗な顔の男。 意味が分からなくて睨み返したけど、それ以来、彼はやたら私に絡んでくるようになった。 「今日もかっこいいね」 「うるさい」 からかってるみたいな言い方ばっかり。 なのに、時々視線だけ妙に優しい。 ある日、廊下で女子が落としたうさぎのキーホルダーを拾った。 ふわふわで、ピンクで、すごく可愛かった。 思わず見つめてしまった瞬間。 「やっぱ似合うじゃん」 後ろから、彼の声。 「かっこつけてる時より、今の方がいい」 心臓が変な音を立てた。 でも素直になれなくて、私は「可愛いのとか好きじゃないし」と嘘をつく。 すると彼は小さく、 「嘘」 と言った。 その声だけ、やけに優しかった。 彼はいつも不器用だった。 可愛いって言わない。 似合うってちゃんと言わない。 そのくせ、 「その髪型、似合ってない」 とか、 「髪結んだ方がいい」 とか。 ある日なんて、小さな紙袋を押し付けてきた。 中に入っていたのは、白い花のついたピンクの髪ゴム。 「余ってたから」 なんて絶対嘘なのに、彼はこっちを見ようとしなかった。 「……可愛いね、これ」 そう言うと、彼の肩がぴくっと揺れる。 しばらく黙ったあと、彼は小さく呟いた。 「お前の方が似合う」 ——きっと彼は、不器用なだけだった。 本当はずっと、“可愛い私”を見つけてくれていたのだ。
午後5時、カフェオレ依存症
午後5時になると、彼女は学校の外にある自動販売機にいる。 理由は簡単。そこに彼がいるから。 一つ上の先輩。委員会が一緒で、やり方がわからない私に声をかけてくれた人。 かっこよかった。 告白の仕方なんて知らない。 でも会いたい。 先輩は必ず午後5時に自動販売機にやってきて、カフェオレを買う。 だから私も午後5時にそこへ行く。 別にカフェオレが好きなわけじゃない。 むしろ少し苦手だ。 甘いくせに、最後に変な苦さが舌に残るから。 でも先輩がいつも買うから、 私も同じボタンを押した。 「またカフェオレ?」 初めて話しかけられた日は、春の終わりだった。 「え、あ……はい」 嘘だった。 本当は三分の一くらいで飽きる。 先輩は「ふーん」とだけ言って、プルタブを開けた。 炭酸みたいな派手な音じゃない。 小さくて静かな音。 でもその音を聞くだけで、 午後5時が来たって思うようになった。 それから少しずつ、 会話が増えた。 「今日暑かったね」 「その委員会まだやってんの?」 「テスト終わった?」 たったそれだけ。 たったそれだけなのに、 帰り道で何回も思い出せるくらい嬉しかった。 だから今日もカフェオレを買う。 飲みきれないくせに。 夏が近づく頃には、 私は先輩が来る前から自販機の横に立つようになっていた。 スマホを見てるふりをしながら、 足音を待つ。 先輩のローファーの音は、もう覚えてしまった。 「待ってた?」 からかうみたいに笑う先輩に、 「違います」としか言えない。 ほんとは待ってた。 ずっと。 先輩は笑いながらカフェオレを一本取り出す。 その横顔を見るたび、 胸が少し苦しくなる。 たぶん恋って、 もっとキラキラしたものだと思ってた。 でも実際は違う。 自販機の明かりとか、 ぬるくなった缶とか、 帰り道のオレンジ色とか。 そういう、名前もない時間を、 ずっと覚えていたくなるものだった。 九月の終わり。 いつもの午後5時。 でも、その日だけ、 先輩は来なかった。 五分待った。 十分待った。 カフェオレはもうぬるい。 暗くなり始めた空を見ながら、 変だな、と思った。 その時だった。 「ごめん、遅れた」 聞き慣れた声。 振り返ると、 少し息を切らした先輩が立っていた。 「……来ないかと思いました」 そう言うと、 先輩は珍しく困ったみたいに笑った。 「来るよ」 そして先輩は、自販機にお金を入れながら小さく言った。 「俺も会いたかったし」 その瞬間、 カフェオレの甘さが少しだけわかった気がした。
狐を喰らう羊
この話は、学校という檻の中に閉じ込められた哀れな狐と それでも檻の中で楽しみ落ちていく羊の 夢物語。 学校なんて嫌いだ。 いや、もうこの感情は好き嫌いで表せるほど軽くない。 測定不能。 毎朝同じ時間に起きて、同じ制服を着て、同じ校門をくぐる。 同じような笑い声。 同じような会話。 同じような人生。 まるで家畜小屋だと思った。 この学校という檻の中で、 みんな大人しく飼われている。 あと二年。 あと二年経てばここから出られる。 その数字だけを数えて生きていた。 昼休みのチャイムが鳴る。 教室が騒がしくなる前に、俺は席を立った。 向かう先は、屋上へ続く立ち入り禁止の階段。 誰も来ない。 静かで、 薄暗くて、 息がしやすい場所。 鉄製の重い扉にもたれながら、イヤホンを耳に押し込む。 世界の音を閉ざそうとした、その時だった。 「やっぱここいた」 声。 明るい。 軽い。 耳障りな声。 「……誰」 「ひど。クラスメイトなのに」 顔を上げる。 そこにいたのは、羊だった。 ふわふわした髪。 緩く結ばれたネクタイ。 笑うたび細くなる目。 クラスの中心人物。 誰とでも話せる。 誰からも嫌われない。 俺が最も苦手なタイプ。 「何しに来た」 「サボり」 「帰れ」 「狐くん冷たーい」 勝手に隣へ座ってくる。 近い。 柔らかいシャンプーの匂いがした。 「……その呼び方やめろ」 「えー、ぴったりじゃん」 羊はけらけら笑った。 「いつも一人で、目つき悪くて、警戒心強いし」 「褒めてないだろ」 「褒めてるよ?」 そう言って笑う。 その顔を見て、思った。 あぁ、無理だ。 こういう人間とは、一生分かり合えない。 なのに。 「ねぇ」 羊がフェンス越しに空を見る。 「狐くんってさ、この学校嫌いでしょ」 「……だったら何」 「私も嫌い」 思わず顔を上げた。 羊は笑っていた。 いつも通り。 明るく。 なのに目だけが、 少しも笑っていなかった。 風が吹く。 ネクタイが揺れる。 「でもさぁ」 羊は空を見たまま言う。 「どうせ檻の中なんだから、楽しまなきゃ損じゃん?」 その言葉は、 冗談みたいに軽かった。 けれど。 その軽さが、 妙に怖かった。 「……意味わかんねぇ」 「だよねー」 また笑う。 明るく。 明るく。 壊れた信号機みたいに。 その日から、 羊は毎日のようにここへ来た。 昼休み。 放課後。 時々授業中まで。 「狐くーん、ポテチ食べる?」 「いらない」 「えー、美味しいのに」 「うるさい」 「また寝不足?」 「関係ないだろ」 「あるよ。隈やばいもん」 距離感がおかしかった。 人懐っこい犬みたいに、 ずけずけ入ってくる。 なのに。 時々ふと、 全部が嘘みたいな顔をする。 教室ではいつも笑っている。 友達に囲まれて、 先生に好かれて、 誰より楽しそうで。 でも、 一人になった瞬間だけ、 表情が消える。 まるで電源が落ちるみたいに。 その瞬間を見てしまってから、 俺は羊から目を離せなくなった。 ある放課後だった。 夕焼けが階段を赤く染めていた。 羊はいつもみたいに笑っていた。 「今日さ、男子に告られた」 「へぇ」 「三人目」 「モテるんだな」 「興味なさそう」 「ない」 「ひどー」 笑う。 でもその直後。 「ねぇ狐くん」 羊はぽつりと言った。 「私さ、誰かを好きになれる気がしないんだよね」 静かな声だった。 初めて聞く声。 「みんな、“私が好き”なんじゃなくて、“笑ってる私”が好きなだけじゃん」 夕焼けが、 羊の横顔を赤く染める。 「だから私も、ちゃんと笑わなきゃって思うの」 その瞬間。 狐は気づいてしまった。 この羊は。 学校に馴染んでいるんじゃない。 壊れながら、 食べられながら、 笑っている。 なのに。 どうして。 こんなにも綺麗なんだと思ってしまったんだろう。