鼻血の親分
35 件の小説鼻血の親分
鼻血の治りかけに出てくる血塊って知ってる?それが鼻血の親分なんだよー。(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ @O_hanaji アルファポリス、エブリスタでも活動してます♪ https://www.alphapolis.co.jp/novel/227569206/910507340
美容クリニック? 4回目
五月二日は平日。遠足の日か。ワシの地域じゃそうなんよ。忘れとったわ。 公園で散歩しよって出掛けたら小学生の行進に出会し、仕方なく皮膚科へ直行じゃよ。早めに行くと混雑しとるけん昼前がベストなんじゃがの…… と、言うわけで一時間半くらい待ってしまった。ケツが痛いわ。 因みに右側は二回目の治療。黒い瘡蓋は二箇所しか取れとらん。ほぼほぼ治っとらんが? そんな不安な気持ちのまま、診察室に呼ばれたよ。 「ふむふむ。先週は左じゃったな。うんうん。瘡蓋が出来とる。右は……まだ出っぱっとるな。よし、やろか」 おいおい、ほんまにええがになるん?って聞きたいところじゃが「何回か通えばええがになるよ」って答える姿が目に浮かんで聞く気が失せた。診察は二十秒で終了。 さて、今日は執拗に右首を攻められた。そんなにないはずなのに液体窒素の針を突き刺しまくられ、終わって鏡を見たら赤い湿疹だらけの首になっておる。 どしたん?って言われそうじゃな。ワシの右側に立たんでくれよ。まぁ、連休中じゃけん、誰にも会わんがね。ほほほ…… と、言うわけで本日の治療代、いつもの千三十円なり。 来週月曜は休めんけん、二週間空けることになるな。ワシの“美しい肌計画”はまだ道半ばじゃあぁぁ。
美容クリニック? 3回目
今日は左側の再チャレンジじゃな。あれから二週間経ったが、昨日やっと首の黒い瘡蓋が取れたばっかしよ。おいおい、ぎりぎりじゃないか。 ま、首イボは確かにない。………が、赤い跡が多々残っておる。顔面に至っては瘡蓋さえ、ほぼ取れてないわい。 むむむ。大丈夫かいの。 と、言うことで、不安な気持ちを隠しつつ処置室へ入った。 「おお、黒いの取れたね。じゃが、まだざらざらしとるな。右は黒くなっておる。よしよし」 何が“よしよし”なのか? 順調だと言いたいのか? む……ん。ま、ここまで来りゃ、先生を信じるしかないかのう。 どうかワシの肌を美しくしておくれ。透き通るような肌にしておくれ。 ワシはベットへ横たわり、看護士に身を任せた。 液体窒素がチクチク突き刺さるわい。顔面は何回も同じとこ突き刺すのぉ。そこね、シミが残ってね、気になるところなんよ。念入りに頼むで…… 治療はあっという間に終わった。 火傷したような顔の赤いシミ。斑点だらけの首元。全て綺麗に取り除けたら、いや、前よりも綺麗になったら、ワシはお前らを一生尊敬するぞ。 そう思いながら皮膚科を後にした。 本日の治療代 千三十円なり〜。
美容クリニック? 2回目
あれから一週間経過した。半年も苦しんだ背中の痒みは、たったの三日で完治。流石じゃな。早よ行けば良かったわい。 さて、気になるのは左側の首イボと顔のデキモノ。 液体窒素で赤く染まった箇所は首十二、顔面七箇所にも及ぶ。ちと欲張ったかの。これがね、徐々にくろ〜く、くろ〜く、変化してね、返って余計目立つのよ。 ……不安しかないぞ? 気になって風呂で擦ったら二箇所ほど黒いデキモノが剥がれ落ちた。 おっ、落ちたか?じゃが、シミがっ。シミが残っとるやんけ! ……不安しかないぞ? 先生は一〜二週間空けろって言っとったけん、まだ結論は早いが、今日は有休。暇じゃし不安じゃし行ってみるか。 と、言うことで2回目の治療に向かった。昼前もあって患者が少なく、ほぼ待たずに名前が呼ばれた。しかもいきなり処置室じゃ。 暫くすると「ふんふんふん」と軽い足取りで先生が来る。昼飯が近いけん、ご機嫌のようじゃな。 「うんうん、順調じゃ。今日は右側やるぞ」 順調? えらい自信じゃな。ワシとしてはな、左の成果が出とらんうちに右までやると、顔面シミだらけになりゃせんか不安でしょーがないんよ? 「せ、先生。左はまだ……」 「あー、左は次回ね」 「じゃが、シミが……」 「あー、何回かやれば薄くなるけん」 何回も……か。まぁ一回で跡形も無くなる様な上手い話じゃないやろって薄々分かっとったが…… と、自分の中で思考を巡らせてるうちに「切るぞ」ってハサミを取り出し、“チョキン” 「ひぃぃ!」 「じゃ、後はよろしく〜」 ったく心臓に悪いの…… そんな訳で今日は右側を攻めた。首イボはそんなに無いと思ったけど、超極々まで治療してくれて十二箇所、顔のデキモノは八箇所。 治療代 千三十円なり。 次回は来週月曜日。左をもう一度攻めちゃるけん、待っとれよ! 夏までには綺麗になりたいけんね〜
美容クリニック?
ワシね、実はね。半年前からね…… 背中が痒いんじゃあぁぁ。すっごく痒い時があるんじゃあぁぁぁ。 思い当たるフシはない。ストレスかのう? 昔貰った帯状疱疹の塗り薬で誤魔化しとったんじゃがその場限りでの。 ネットで調べると“肝臓”が原因とか? ならカレーかの。ウコンかの。ってカレーばっかり食っとったけど一向に治る気配なし。 む、こりゃ皮膚科じゃわい。ばぁちゃん通ってたっけ、首イボ治療で。ワシもそこ行こか。 と、言うことで今日はクリニックに出かけた。ここは初めての病院。問診票渡され黙々と記入する。 “背中が痒いっ”とデカい字で書いたが、ふと思った。 ワシもちっちゃいイボあるけん、取ってもらおっか? 顔もちょこちょこ気になるデキモノあるし、相談してみようかのう。 で、“首イボ、顔のデキモノ相談”と、小さい字で付け足した。 混雑してたので一時間ほど待って看護士に呼ばれる。 先生に背中見せると、あっさり「湿疹じゃね」って。「塗り薬出すけん」で話は終わり。続いてワシの首と顔を見て「ふむ。今日は左側やろうか」 えっ、もう取ること前提? つか、取れるん? 半信半疑ながら処置室へ誘導されたワシ。レーザー光線出すような機械の隣で寝かされ不安がよぎった。 「あー、レーザー使わんよ。コレコレ」 耳元でチョキチョキと音が聞こえる。 ハサミで切るんかい! ちょっと待たんかい! ワシの怯える表情を見た先生は「レーザーとえっと変わらんけん」って。 い、いや、怖いじゃろ、先生。麻酔無しで大丈夫かいな? 「チクッとするで」 チョキン、チョキン、チョキン。 「ひぃぃ……」 後はヨロシクって先生は看護士に任せて次の患者の診察を始めた。放心状態のワシ。看護士はガチャガチャと何やら準備してる模様。 「鼻血さん、液体窒素使いますね」 「ん? な、なんスか、それ?」 「冷凍凝固療法って、凍傷おこしてデキモノを壊し、取り除く治療です」 「痛いん?」 「チクッっとする程度ですよ。火傷の跡みたいに水ぶくれになって黒ずむけど、デキモノは一〜二週間で剥がれ落ちます」 ほう。何かテレビで見た気がするの。じゃがアレって美容クリニックじゃ……? 「あの、それって保険効くん?」 「はい。大丈夫ですよ」 ほう。ほう。それで美しい肌が取り戻せるならお安いのう。マスクで隠れるし途中経過は会社のモンにもバレんじゃろうし。 「ここの三箇所でいいですか?」 「いやいや、極々ちっちゃいのも全部やっちゃって」 「かしこまりました」 うふふん。こら二週間後が楽しみじゃのう。うふふん…… と、言うことで本日の治療代 千九百円 塗り薬(軟膏)六百六十円なり。 なお、大きさにもよるが一回で消える補償はなく、数回通うこともあるらしい。結果はまたの報告予定?……じゃな。
脱げ。とっとと脱げ。
職域接種の運営スタッフに駆り出されたワシ。いつものごとく経験してない場所へ配置され、少々腹が立った。 幹部社員から“君はオールマイティだから”などと言われても嬉しくはない。一つを極めたいのに全くもって腹が立つ。 くそ、まぁええわい。もう始まるし。 と言うことで、本日のミッションは「接種前準備and接種補助」だ。予診表に産業医のお墨付きである“接種可”がチェックされ捺印されてるかの確認と、肩を出して接種できる状態にさせること、そして接種ブースに案内し荷物を置かせ座らせ、保健師(打ち手)に予診表の名前を見せる。最後に次の“接種証明シール貼り工程”へ書類を渡す役目なのだ。………て、中々忙しいやないけ。 それを簡単な説明を受けてぶっつけ本番でこなしていく。かなり不安だが、もうやるしかない。 時計の針は九時を差した。 「おはようございます。予診表お預かりしますね。……はい、オッケーです。今日はどちらの腕で打たれますか?」 次から次へと押し寄せる人々に、柄にもなく丁寧な対応するワシ。 だが、気づいたことがあった。春先とは言え、朝はまだ肌寒いのだ。羽織ってる上着は脱いでもらうが、パーカーやトレーナー、長袖カジュアルシャツなど中途半端な服を着てる人が実に多かった。そして大概彼らは無理矢理腕まくりして脱ごうとはしない。 いや、無理じゃろ。片腕出すか脱げや。 と、心の中でつぶやく。 「もう少し上がりますか? 肩付近まで」 「あー、限界ですわ。これじゃダメですか?」 「うーん、厳しいですね。片腕出すか脱ぎましょう」 「はぁ……」 彼らは残念そうに脱ぐ。だが、ブース前でモタモタすると列は更に広がるのだ。 くそ、これはいかんな。 ワシは目の前の奴、そして後ろの奴にも目配りしながらミッションを進めていく。たまにTシャツ君に遭遇すると誉めてやりたい気分になる。 そんな時、ふと知り合いに声をかけられた。 「お疲れ様です。鼻血さん」 「お? おう。お前か」 五百人いる同じ課の男。厳密に言うと元部下だ。 こらまたごっついパーカー着とるやんけ、こいつ。 「これ、脱いだ方が良いですよね?」 「当たり前じゃ。脱げや」 最初の丁寧な受け応えなど忘れ、つい命令形になる。だが、よく辺りを見渡すとチラホラ知った顔がいるのだ。 む、そうじゃ。これは職域接種。こ奴らお客さんでも何でもないわ。方針変えよ。軍隊式やで。 「はい次っ。ん、オッケー。で、どっちの腕じゃ?」 「ひ、左です。あの、これくらいで大丈夫ですか?」 「ダメじゃろ。脱げや」 「はい」 「おい、後ろの。お前も脱げ」 本日の接種は二千四百名。八ブースあるのでワシのレーンは三百名こなさないと終わらない計算だ。休憩のたびに各ブースの注射針を確認するが若干遅れてるのでトロトロしてはいられない。 「はい、次!」 ーーと、目の前にスタイル抜群の物凄い美人が立っていた。 め、滅茶苦茶綺麗やないけ! 彼女に“脱げ”とは言えんわい。 「あの、どちらの腕ですか? あー、ちょっとそれでは厳しいかなぁ?」 「あ、はい。脱ぎます」 うんうん脱いで。いやいや近いな。じゃがいい匂いがするわい。肌すんごい綺麗じゃな。どこの部署? ワシの女になれや。 などと妄想が始まる。 「あ、右ですね。椅子の向き変えますねー」 この美しい女性に付きっきりで最後までエスコートしたい。だが、現実に戻らねばなるまい。順番待ちのむさ苦しい野郎共が待っているのだ。 その先頭の男。長袖ワイシャツを無理に捲り上げていた。ワシは思わず睨む。肘と肩の中間(やや肘寄り)で止まっておるのだ。 お前、それで注射出来ると思っとるんか? 三回目じゃろ? ーー脱げ。とっとと脱げ。
#30 みんな襲われてるのに、どうやら俺は相手にされてないようだ。【最終回】
第三十話 明日への希望 「そうだねー、そうするよう……だけどね」 「だけど、何だ?」 「今はそう思っても僕は種を守らないといけない立場だからさー」 「いずれまた戻って来ると?」 「うん、だって人間と交尾しないと繁殖出来ないし」 「それはいつ頃のことだ?」 「まぁ人口が元に戻るころかな。百年後あたり」 百 年 後か。だったら俺はもう死んでるな。 ーーだが、 だが、それでは問題を先送りするだけだ。またヤツらの脅威に晒される。 「じゃねー! それまで僕を倒す手段でも考えておいてよー。パワーアップして帰るからー」 「あ、のりお。まだ話が……」 猛スピードでクィーンが宇宙へ飛び立っていった。それに伴いマァンティスの大群が後を追う。 「行っちゃいましたね。ありがとう、正随さん」 「う……ん」 これで一旦、平和が訪れるのだ。だけど達成感はまるで感じなかった。 この気持ちは何だ? 普段使わない頭がぐるぐると回る。 あっ。 「青葉さん?」 「思いついた。信長公の様にマァンティスを喰って百年後に備えるってのはどうだ? まだ死骸が沢山ある」 「もしかして上様と同じことを?」 「そうだ。のりおを倒し俺がクィーンとなり代わった上で自害する」 我ながら良い考えだ。俺が信長の意思を継ぐんだ。何百年かけてでも。 「ダメです! リスクが大きいです。第二の正随さんが現れるかもしれないし」 「う、うーむ。そうか?」 「それより私から提案があります」 「何だ?」 「黄金血液の人口を増やすのです。確率は低いかもしれませんが」 「どうやって?」 もみこは少し恥ずかしそうな素振りをする。その仕草に俺は彼女が何を言わんとしてるのか察しがついた。 それってもしかして…… 「だから、同じ……」 「待って、それは俺から言わせてくれ」 「えっ?」 「お、俺と結婚しないか? 同じ血液型同士だ。可能性はある。あ、勿論好きなのが大前提だっ」 富士の樹海という非日常な空間で世界のために戦ったという経験が俺を後押しした。コミュ症で冴えない日々を過ごしてきた男が好きな女にプロポーズしたのだ。 「私のこと、好きですか?」 「大好きだ!」 「良かった。私もですよ!」 おおーっ、何という日だ! 希望が、世界が輝いて見えたー! 俺はもみこと結婚し沢山子供を作るんだ。そして黄金血液の人口を増やし、多くの人々に輸血する。その血はきっと守ってくれるだろう。そうだ、その考えを世界へ呼びかけよう。 それが俺の役目だ。明日への希望を持て! 百年後の脅威と戦うために。 【 完 】
#29 みんな襲われてるのに、どうやら俺は相手にされてないようだ。
第二十九話 全身緑色 俺ともみこはその場にへたり込んで自衛隊の到着を待っていた。あの強烈な個性を持つ信長の死をまだ受け入れられないでいる。 「ギィー、ギィー!」 「うるさいな」 これまで静かに見守っていたマァンティスの軍団が何やら騒ぎ出す。女王を失ってヤツらはどうするのだろうか? 全く見当もつかない。 「……ガーッ、ガーッ……あ、青葉さん……キャーーッ! た、大変ですー!」 大園夏子の叫び声が耳元に響いた。ただならぬ様子だ。 「お、おい、どうした? 何があった?」 「正随さんが……!」 「のりおが?」 「正随さんの背中から羽がっ!」 「……は?」 「全身緑色の……まるでマァンティスです!」 「……は?」 こ、こいつ……まさか…… もみこと顔を見合わす。そして同時に叫んだ。 「マァンティス喰ったのかーー!」 俺はそれが何を意味するのか直ぐに悟った。のりおが新たなクィーンとして誕生したのだ。これまでの戦いが全くの無意味となる。振り出しに戻ってしまった。 変異したのりおがどれだけ強いのか未知数だが、最早俺らに戦う気力も体力も残ってない。 この討伐は失敗だ。世界はまだ地球外生命体の脅威に晒されている。世の男は絶滅するだろう。 「青葉っちー、もみこちゃーん!」 突如、バタバタと大きな羽音がした。巨大マァンティスが空中に現れたのだ。 「の、のりおか?」 「そーだよー、ゴメンねー。僕、こうなるって知らなかったんだー」 「お前、何で喰ったんだっ!」 「だって長生きしたかったんだもーん」 「正随さん、もうそのことは咎めないから宇宙へ飛び立って! マァンティスを引き連れて地球から離れて! お願い!」 そうだ。それしかない。まだあいつはのりおのココロを持ってる。姿形は巨大カマキリだけど脳は完全に変異してないぞ。 「のりおー、地球を救ってくれー! 頼むー!」 俺はありったけの声で叫んだーー
#28 みんな襲われてるのに、どうやら俺は相手にされてないようだ。
第二十八話 変異 クィーンは血塗れで倒れていた。息絶えてる様だ。信長は勝ったのだ。だが、信長も相当なダメージを負ってる。傷だらけだった。 「上様、大丈夫ですか!」 もみこが走った。俺は信長も心配だったけど、この雰囲気に何か違和感を感じている。マァンティスの女王が死んだというのに、ヤツらは樹海にうじゃうじゃいるのだ。何も変わりはない。 この討伐は成功したのだろうか? 「お、お主らに伝えておくことが……はぁはぁ」 またかい! と、ツッコんでる場合ではない。 「基地まで戻りましょう。手当しないと」 「上様、あちこちに傷がおありですよ!」 「もみこ、無線で大園さんを呼ぼう」 「はい」 「もうよい。……いいか、よく聞け」 「な、何ですか?」 「余の……刀を取ってくれ」 「……は?」 クィーンの喉元に刀が刺さったままだった。それを抜いて信長に渡す。 「人が……マァンティスを喰うとな、変異して死なないカラダになる」 「その話、聞いてます」 「続きがあるのじゃ。こやつの様に強制的に死ねば種を守るため……繁殖の強い新たなクィーンが……た、誕生する」 「だから? つか、もう喋らない方が」 「クィーンは人の変異のみ誕生する……よって、次のクィーンは……マァンティスの血肉が同化した者が継承するのじゃ」 「えっ? それって」 突如、信長の背中から羽が生えてきた。顔が緑がかっていく。 「ひぃっ!」 「はぁはぁ……余が新たなクィーンじゃ。だがまだ人のココロを持ってる。完全に変異する前にぃ」 「「「ーーグザンッ!」」」 「ああっ、上様!?」 「余の秘策じゃ。これで……泰平の世が……」 「の、信長様ぁ! 何てことするんだよー!」 俺の叫びも虚しく、切腹した信長はガクンっとその場に倒れた。自らがクィーンを継承し、身を呈して消滅させたのだ。 ア、アンタは正真正銘の戦国武将、織田信長だ! 俺は認めるぞ、信じるぞ! 日本の、いや世界の脅威を救った英雄だぁぁ! 「ワーーッ!」 余りにも壮絶な結末に気が動転してしまった。 ーーだが、 だが、これで終わりではなかったのだ。
#27 みんな襲われてるのに、どうやら俺は相手にされてないようだ。
第二十七話 怪物 ……織田信長よ、お前は執念の塊だねー。 ふん、余は日の本を救いたいだけじゃ。 「えっ?」 俺ともみこは互いに顔を見合わせた。 クィーンと戦ってる信長とはかなり距離がある。もう豆粒くらいしか見えないのだ。なのに会話が耳に入ってくる。 「聞こえた……よね?」 「はい。これって……」 テレパシーと呼べるものか定かじゃないけど、無線からの音声とは違う。 もう四百年以上もワタクシの邪魔をしおって。 今日こそは決着つけてやろうぞ。 ヤバい。マジ聞こえる。怪奇現象だよ。やっぱこの人は超越した人間なのか? 「青葉さん!」 その時、大園夏子が慌てて駆け寄ってきた。どうやら自衛隊の待機場所まで到達した様だ。 「のりおを救出してきた。カラダ中傷だらけだ。基地で治療を頼みたい」 「かしこまりました。あの、織田さんは?」 「今、クィーンと戦ってる」 「見つかったのですか!」 「ああ、だがアレは怪物だ。俺らでは足手まといになる」 残念だけどあの戦いに加わるのは危険過ぎる。だが、ことの顛末は見届けなければならない。 俺はのりおを自衛隊に託し、もみこと再び戦場へ向かった。 ぐわっ! 羽を狙うとはどういうつもりか! ふふん、しれたこと。抹殺するためじゃ。 退路を断つのか? その意味、分かってるんだろうな? 余には策がある。とっておきのな。よってお主は…… カキッ、カキッ、 安心して死ぬがよいーーーーっ! グザーーン! ぐあぁぁぁぁっ……。あ、相打ちだと? はぁはぁはぁ、これで終わったな、クィーン。 ば、馬鹿な、ワタクシを殺しても……まさか? ーーバタンッ 「青葉さん、上様が!」 「ああ、倒したな。急ごう」 流石は信長。あの怪物を斬り倒すとは相当な手慣れだ。でも相打ちって聞こえたな。これは信長も大怪我してるに違いない。 早く助けないとーー
#26 みんな襲われてるのに、どうやら俺は相手にされてないようだ。
第二十六話 救出 カキッ、カキッ、カキーーン! 信長とクィーンは壮絶な戦いを繰り広げていた。人間の倍ほどの巨大マァンティスに物怖じせず真っ向から立ち向かう姿は正に戦国武将そのものだ。 本物の信長なのかな。 その強さやカッコよさについ思ってしまった。そして最早、雑魚狩りに何の意味も持たないと悟る。女王を追い出せば全てが解決するからだ。 ここは信長を信じるしかない。俺の役割はもみこの安全を確認してのりおを救い出すこと。 そう思い、辺りを見回すとヤツらが輪になってる光景が目に入った。二人がいるかもしれない。 「もみこー、のりおー!」 叫びながら走った。まだアドレナリンが効いてる様だ。 「ギィー、ギィー!」 「うるさーい!」 「「「ザクン、ザクンッ」」」 ヤツらをなで斬りにしてその輪へ入る。そこに「はぁはぁ」と肩で息するもみこがいた。この界隈はマァンティスの死骸でいっぱいだ。彼女は返り血を浴びて全身真っ赤に染まっている。 「……青葉さん!」 「大丈夫か?」 「ありがとう。助けてくれて」 「いや、俺の倍は斬ってる様だし疲れて当然だ」 「流石にしんどいわ」 「のりおはどこにいるか知らないか?」 「多分、あの岩陰だと思う」 もみこが指差したのは少し高台で岩だらけの場所だった。確かに毒にやられ悶えるヤツらの姿が見える。 「よし、救出しよう。ここは危ない」 「危ない?」 「上様とクィーンが近くで戦ってる。巻き込まれてしまうぞ」 「はい。では正随さんを助けに行きましょう」 こうして俺ともみこは高台へ登った。二、三匹のマァンティスを斬り倒し、岩陰を覗くと血だらけで倒れてるのりおがいる。 「し、正随さん!」 「自衛隊の待機場所まで運ぼう。手当して貰わないと」 二十ヶ所以上の噛まれた傷が痛々しく感じた。と同時にこんなに交尾したのかと少々呆れてもいる。 ま、まぁいい。とにかく頑張ったな。 俺はふらふらになりながらも、のりおをおんぶしてひたすら歩いたーー。