わさび
95 件の小説電池
「あー電池切れ…また電池買ってこないと」 そう言って機械人形はぽいっと投げられた。 機械人形、というか、この世界は全部電池のようなもので、私たち機械は電池がなくなれば使われなくなる。 ましてや機械人形なんてものは…。 こんなモノに金を使おうと思ってくれる人間は少ない。 大体子供のためだ。 「まなちゃん、今日はなにをする?」 『きょーはね!お医者さんごっこするのお』 「いいね!わたしは何役をすればいいかな?」 『お人形のあいちゃんはー、うーん、そうだ!患者さん!それで私がおいしゃさんになるの!』 小さい子供は無邪気でかわいいし 電池なんていう存在なんかも知らずに私たちを同じ生物のように扱ってくれる。 でもね、私には命があって その命ももう切れかけ。 あなたがまた私の背中を開けて 私に二つの電池を差し込んで またスイッチを押して……… たった少しの作業なんだよ? でもね、人はそれを嫌がる。 “電池を買いに行くのが面倒くさい”からね 『あれえ?あいちゃんうごかなくなった!私、手術しっぱいしちゃったのかなあ?ごめんね、あいちゃん』 そう言って私をおもちゃ箱の奥にしまって ゾウのぬいぐるみとキリンのぬいぐるみ。 いいなあ 彼女たちには命の制限がないんだもん。 私には制限があって、 その制限の上限に達するとあなたと話したくてもあなたの手術を成功させたくても何もしてあげられなくなるんだよ。 でもゾウやキリンは あの子の無邪気な手に、純粋な手に握られて いつまでもいつまでも眩しい笑顔の前で遊んでもらえるんだろうなあ かなしい、とっても。 『こら、お人形さんの電池きれてたらママに言うってお約束でしょ?』 そう言って私を手に取る。 ごめんねママ。動かないんだ昔のようには。 私をずっと前から遊んでくれてたママ。 いや、今はまなちゃんのお母さん…って言うべきなのかな、 わたしはずっと前からあなたの子供で あなたは電池が切れても私をずっと大切にしてくれて。。 『電池あるからすぐママにいうんだよ?まな、お人形さんとお話しできなくなっちゃいやでしょ?』 『えーでも、ゾウさんとキリンさんでいいー』 『そんなこと言わないの…』 お母さんはそう言いながら私の背中を開けて 電池を二つはめ込む 『考えてみて…もし、もしね。まなが死んじゃった時、みんなもうあなたのことなんて忘れて新しい命にすぐに目を向けたらどう思う?』 『やだ!!まなのことおぼえててほしい…』 『でしょ?それとおんなじ。お人形さんも、まなのこと大好きでずっとまなのこと忘れないの。だからまなも忘れちゃだめ』 そうして私のスイッチを押す。 『わたしもずっと、忘れたくないから。だから何年経ってもこのおもちゃ箱にいれてるんだ。』 懐かしいあなたの瞳。まなちゃんよりもよく見たあなたの顔。 『私はあい!今日は何するひとみちゃん!』 久しぶりに呼んだあなた、いや、ひとみちゃん…じゃなくて まなちゃんお母さんの名前。
交差点
あの交差点で、 もう一度だけ私の横を通ってくれないかな 5年前のあの日、私とあなたの赤い糸が切れた日に戻って、ね。 この交差点はいつも人でウジャウジャしてて 人の顔なんて全ておんなじに見えるし 性別だって見極めてる暇もないくらいに人で溢れかえってる。 だけど、あなただけはいつもはっきり見えた。 好きな人ってどうしてこんなにも煌びやかなオーラを放っているのか不思議で仕方ない。 でもここに歩いてる全ての人が 誰かの愛する人であって、 いろんなオーラを纏ってるんだよね。 いつもこの交差点を7時57分にとおると あなたにあえる。 仕事のカバンを持って焦って走る。 人にぶつかりそうになって、ぶつかって 軽く頭を下げながらはしるあなたにね。 私はずーっとみてた。 わたしはあなたようにカバンは持っていなかったし、焦っても走ってもなかったよ 手には何ももっていなくて 私が持っていたのはあなたが私のことを見てくれる欲求。 それだけだった でもあなたはI年ぐらいたったら 仲良さそうに同じ服を着て、同じカバンを持った女の人とあるいてて そのときのわたしは、 私の身からは負のオーラが溢れ出ていたんじゃないかなってそうおもってるんだ、へへ でも、あなたはとたんに姿を表さなくなって ゆっくり焦らずぼーっと歩いてる女の人だけを見かけるようになった。 私は困ったわ。 ここにくる意味が無くなったものね。 だから家に閉じこもった。 ずーっと、あなたをかんがえながら。 なんであなたがあの交差点を通らなくなったか長い間かんがえていたよ。 あの運命の希望が本当に消えた、あなたに会えなくなった9月8日。 気づいた時。 そうか、ってちょっと嬉しくなっちゃった。 だからあの女の人は1人で歩いてたんだって 納得した。 あなた、ずっと私に気づいてたんだね。 見てくれてたんだね。 だから、今、わたしは目の前に警察で溢れかえっているわけか。 そこまでして警戒しなくてもよかったのに。 ストーカーだなんて思われてた? そんな汚い言葉の愛じゃないのに。 あなたをみてただけ…ただそれだけ。 でもいいわ。 ある意味であなたに人生の交差点 いいや、分岐点をもらってしまったのね
栗ご飯
秋、というのももう場違いな気がする11月。 栗ご飯の匂いが家中に漂って、鼻腔をくすぐられ食卓に目をやる。 栗ご飯が並べられていた。 「今日の晩御飯は栗ご飯だよ」 ばあちゃんの掛け声で席に座る。 俺はばあちゃんの作る栗ご飯が好きだ。 甘くて甘くて、小さい俺には最高だった。 ある日。 小学校の家族を自慢しようという発表会があった。 前の席の子が発表する。彰人くんだ。 「オレの自慢は、お母さんです!なぜなら、いつもローストビーフを作ってくれるし、ジュースも飲ませてくれる最高なお母さんだからです!」 いろんな家庭の親が拍手をする。 そして俺の番。 「僕の自慢は、おばあちゃんの栗ご飯です。なぜなら、とても甘くて僕好みだからです。たまに出てくるのも幸せ度が高まります、!」 なぜだか教室はシーンとした。 聞こえるのはかすかな笑い声だけだった。 そして先生がいう。 「あ、あのね大和くん。これはご両親の自慢でおばあちゃんのは、その家族なんだけど、えっとね、、」 家族の発表会、と言っているのに何と言うおかしなものだと、今は思う。 でもその時はみんなの笑い声に包まれて沢山の人からの目に耐えられなかった。 「…それでも僕は、おばあちゃんの栗ご飯がすきなんだっ…」 小さくつぶやいて、次の人の番になった。 これがトラウマで社会人の今でも、栗ご飯の話はできていない。 変わらず好きなままなんだけどなあ。 「大和くんは好きな食べものもかあるの?」 合コン相手の女の子にきかれる。 「まあ、そうだな、なんだろ…」 栗ご飯、栗ご飯、栗ご飯。 それしか思い浮かばなかった。 でもきっと笑われるんだろうなと、思ってしまった。 「とくに、ないかな…笑」 気持ちを隠した。 「え、そーなの?私、栗ご飯すきなんだ!」 目の前にいる女の子がそういう。 その時、俺は勝手に口が動いていた。 「そうなんだ!俺もすきだよ、そうだ。思い出したよ。本当に1番好きなのは栗ご飯だ。」 「奇遇だね、栗ご飯、おいしいよね。」 「本当に、ほんとに、おいしいよ…栗ご飯」 あの参観日の日から、ばあちゃんは栗ご飯を作らなかった。 俺のため、なんだろうな。 俺はいつもいつも、待ち遠しかった。 あの、鼻腔をくすぐる、あの匂い。 でも1番鮮明なのは、ばあちゃんの匂いだ。 「なあばあちゃん、また、作ってくれよ…」 冬に入りかけの季節。 ばあちゃん、そっちは寒いかな?
お題募集します♡
お久しぶりです! すごく嬉しいコメントをもらったので今、小説を書く気持ちがすごいあります笑!! なんでもお題ください! ほんとに何でも🩷 まってまーーす!
ありのままで
なにも思い浮かばない時は寝たらいいし やりたくて仕方がないって時は体の思うまま動いて仕舞えばいいし 辛くてなにも出来そうになくて、なにを言われても無理しんどいって時は泣いたらいいし休んだらいいし わがままだって分かってるけど自分の意思を通したい時は通してみるというチャレンジをしてみたらいいと思うし それがもし無理だったとしても、断られたということに悲しむ必要は全くなくて 違う選択肢を選んでくれたって思えばいいと 思うんだよね。
あいす、溶。
暑さが肌をヒリヒリと焼いていく。 今年の夏は猛暑だ。 そして、君と再会した夏でもある。 「え、なんでここにっ、」 驚きで言葉がうまくでなかった。 持っていたアイスもするっと手から落ちた。 「お久しぶりです、せんぱいっ」 日傘をさしていた。 日陰の下でにこっとはにかむ顔は太陽のせいか眩しくて直視できなかった。 再会、というものは嬉しいことだ。 この子は中学時代の後輩、のどかという子。 「先輩、焼けましたね」 あまり変わってない気がしたけど 雰囲気が全体的に大人びていた。 話し方も、目の使い方も、声のトーンも。 「ああ、部活がんばってるからっ!」 まるで俺の方が後輩みたいだ。 何だか焦って声が裏返ったりして。 「ちょっと、時間あります?」 懐かしいこの言葉。 2年前の中3のとき。 のどかに俺は告白されたんだ。 『ーーー先輩、すきです!!』 勢いのまま俺に手を伸ばした。 でも俺はその手を握ってはやれなかった。 「懐かしいですね、よく一緒に帰ったりしてくれて」 「まあ、後輩だったからな」 「後輩、ですもんね」 その一言に沢山の意味が込められてた。 「先輩、コンビニ寄りましょ。アイス奢りますっ」 俺の手をぱっと掴んでコンビニに入る。 さりげなくこういう事をしてくると、ちょっと心が揺らぐ。 「んー!!アイスおいしっ」 口にアイスを運んだ瞬間、目を閉じて幸せそうな顔を浮かべた。 …かわいい。 無意識にそう思った。 「俺、この後また部活なんだよ。もう行かなきゃ」 「じゃあこのアイス食べ終わったら、!」 そうわがままを言われた。 仕方ない、かわいいから。 「そんなゆっくり食べてたら溶けるぞ?」 「溶けたらまた買って一緒に居られるでしょ?」
表裏
明けない夜はないように、病まない雨もない。 でも果たしてそれは本当だろうか? 交通事故に遭った男性。 頭を強く損傷し、目に傷が入り目は見えなくなったそうだ。 義眼をつけて生活しているが彼にとっては毎日夜の世界が見えているんだろうな。 そしてその男性の横にいた可愛らしい女性。 男に人にぴったりとくっついてる。 微笑ましい姿だな。 でも彼女は毎日目が腫れている。 私の事を見つめたくても見つめられない彼氏が目の前にいて。 ごめんと悪くもない彼氏が謝る姿。 そして何もしてあげられない罪悪感に苛まれて毎日涙を流してる。 彼女の中では毎日雨が降っているんだ。 そして私が見ている子供の中には、毎日元気な子がいる。世間的にいえば障害者、脳の発達が遅れている子だ。 その子は何をされても笑っているし、みんなに気持ち悪いと避けられるが笑う。 でも何が障害なのだろうか? 笑うことは良いことなんじゃないだろうか? 彼の心はいつも晴れに見えて、もしかすると心の中は悲しみの豪雨や落雷かもしれない。 見えないものは、わからない。 目が見えない人は想像の世界で朝を作っているかもしれないし。 毎日泣いている彼女は、寝ている時だけは笑っているかも知れないし。 毎日笑っている君も、ほんとは苦しんでるのかも知れないし。 表面だけを見ないであげて。 明けない夜の裏側には、何かあるから。 毎日眠れない日々を送っている人。 朝が来るたび、憂鬱になるだろう。 そんな人にとっては明けない夜は、なんて素晴らしいものなんだろう。 ほら、ね。 人それぞれ感じ方が違うから。 違ってていいんだよ。
暑い日のこと。
太陽が照りつける空の下で私は泣いた。 先輩の引退だ。 今日は最後の試合、総体だった。 3年生の先輩達はいつも通り楽しくやってた。 私も出る試合の本数が多かったから、何も思わず自分のベストなものを出せるように何も考えないようにしていた。 1レースが終わり、ほっと腰を下ろす。 このレジャーシートの上でみんな固まって過ごす時間を何回繰り返してきて、何回はやく試合が終われと願った事だろう。 今ではそんな気持ち、全くわかない。 「ひゃっあっ!」 先輩が私の頬にスポーツドリンクをあてる。 冷凍して固まっていたもの。 私はいつもこの飲みはじめの甘い部分だけ飲む。 「すきだろ、スポドリ」 「はい、めっちゃ好き」 「飲みたいとこだけ飲んでくれていいから」 そういってちょっと笑った。 先輩の顔、まぶしい。寂しい。大好き。 色んな感情が胸のうちから込み上げる。 喉元まで色んな感情が込み上げてきて、すぐさまトイレに駆け込んだ。 別に、不快な気持ちはなくならなかった。 レジャーシートの下、日陰ができてる。 私と先輩、並んで話す。 「先輩、おわかれしたくない。」 「、俺も」 「引退しても部活きてくれる、?」 「わかんない」 曖昧な関係も、引退したいものだ。 先輩達の最後の言葉。 太陽が沈みかけていたころ、お別れ期。 「つぎ、宮下からお別れの言葉だ」 そういって先輩は前に出てくる。 ちょっと深呼吸してから、こう言った。 「俺、後悔してます。みんなともっと関わらなかった事、今更言っても無駄です。分かってるけど、ほんとに悔しい、別れることが。悔い残らず引退できるよう、2年は頑張ってください」 それだけだった。 私の方ちらっとみて、戻って行った。 私、次は涙が込み上げてきた。 さっきみたいに引っ込めばよかったのに、飲んだスポドリも全部一緒に流れた。 帰りの電車、先輩と2人。 先輩は座る私の前にたって顔をじっと見る。 「ねえ、せんぱい」 「なに、」 終わらない関係だってわかる。 曖昧な関係だよ、ずっと、多分。 夏の日差しにやられて仕舞えばよかったのに。 先輩、負けなかった。 今回の敵、強かったのに。優勝したよね。 私は負けた、色々と。 「すきです」 電車の窓から夏の終わりの夕陽が差し込む。 先輩、さようなら。
甘くなったコーラ
暑さが厳しい。 そんな日も私は泳ぐ泳ぐ。 早くなるために。大会でいい記録を出すために。 顧問から言われてやってみれば、いいタイムが出た。プールから上がって息が荒ぶる。 でもはあはあ、と言いながらも全て喜びの音だ。 家に帰る。 ソファーへすぐに駆け込んで、スマホを手にとる。 親がバーガーセットを買ってきてくれた。 私の好きなテリヤキ。ありがたい。 コーラと一緒にバーガーが喉元を通れば、幸せしか感じない。 疲れ果てた体に最高の栄養分であった。 冷たいコーラはしゅわしゅわとしていて、脳にジーンと染み渡っている気がする。 そして私はまたソファーに横になる。 何だか、うとうとしてきた。 そのまま、私は眠りに落ちる。 そして起きて机にコーラが置かれたまんま。 2時間ぐらい寝てしまっただろうか… コーラを飲めば氷が溶けていて甘い。 私は捨てた。 カーテンから漏れ出ている光を見ると、何だか懐かしい気持ちになれる気がする。 去年はああだった、こうだったと。 この感情こそが 初夏の始まりです。
第4回N1 隠れた惑星。
宇宙が好きな彼女と、彼女が大好きな俺の話を聞いてくれるだろうか。 彼女は宇宙、といっても星や惑星を調べるのがすごく好きだった。いつも本を手に抱えて、面白い知識を見つけては俺に顔を明るくしながら見せてくれる。 「ねえ、これみて!金星って英語ではヴィーナスって言うらしくてね、何でかと言うとローマ神話の愛と性と美の女神の名前が由来なんだって」 「面白いね、惑星にもそんな意味があるなんて」 「いつか行ってみたい。どんな歳になってもいいから一度この目で見てみたい!あとね、金星って隠れる?みたいな意味もあってね。なんだか私達2人だけの世界みたいだよね」 「そうか、分かった。俺が連れて行くよ。その代わり、何歳でもずっと俺のそばに居てくれるか?」 俺がそういうと彼女は顔を赤くして頷いた。 「金星みたいに大切に愛する事、誓ってね」 その時も彼女は惑星で例えた。ほんとに、惑星愛が滲み出ている。いつか俺も惑星と同レベルにならなければ。 そんなこんなでこれが俺の彼女へのプロポーズだった。 彼女が好きな惑星の話をしているときにプロポーズをするなんて、俺達は何か宇宙と繋がりのようなものがあるのかも知れないと考えた事もあった。 そして結婚指輪を彼女と見に行った時の話。 彼女は「やっぱり惑星をモチーフにした指輪なんて無いよねえ…」と少し悲しそうにしていた。 「まあ、やっぱりダイヤモンドとかが多いな」 「でも、こっち見て!このシリマナイトキャッツアイ…?っていう宝石、ちょっと土星に似てるの!」 「あー確かに。ちょっと茶色だし似てるな。」 「ねえ、これが良い…だめ?」 彼女にそう言われて値段を見ると60万。 俺に取っては高額の品だった。 でも彼女のうるうるとした瞳にやられて、気がつけば店員さんに“これください”と言っていた。 そうすると“やったっ!”と小さくガッツポーズを取って俺に礼を言った。 ああ、何て可愛いんだ。 俺はズブズブと彼女の沼に、ブラックホールかのように吸い込まれていった。 そんなある日。 彼女がものすごく酷い顔で立っていた。 そして体の気が全身急に抜けたかのように崩れ落ちた。 「どうした!?」 俺が急いで駆け寄るとそこに一枚の紙が落ちていた。 検査結果……? 「ねえ、こうすけ。あたしさ」 いつもの彼女の笑顔がない。 ねえねえって、小悪魔みたいにはにかむ君の笑顔がない。 「胃がん…だった、」 検査結果と書かれている紙をペラリと捲るとそこには胃がんステージIVと書かれていた。 「…どういうことだよ」 「私達、この前したばっかだったからさ。吐き気とか、ご飯が喉を通らないのも妊娠したからだと思ってた。でも違うんだっ、て。」 声が震えながらも明るく話そうとする彼女により一層悲しみが込み上げてくる。 ステージIVはどれぐらい不味い事なのか。 彼女はこれから先どうなってしまうのか。 考えたくない事ばかり浮かんできていた。 「私、結婚したばっかだよ…まだこうすけと一緒にいたい…」 「絶対一緒にいれる、これからも!だって俺、結婚する時に誓った。必ず金星に連れて行くって」 「ふふっ…本気だったんだ。そんなの冗談かと思ってた。でも、ありがとう。本気で考えてくれててちょっと嬉しいかも」 「冗談なんかじゃない、俺は誓った。だから見に行くまでは絶対だめだ。」 俺がそう言って彼女を強く抱きしめると、背中に冷たい水がポタポタと染みる。 そして彼女がこう言った。 「この買ってくれた指輪ね。すごく綺麗だなって思うの。私、こういう綺麗なものとか見るとその物の意味を知りたくなっちゃうんだよね」 指を天井にかざして、ぼんやりと見つめていた。 「だからこの指輪の宝石の意味、調べたの。そしたらね、“警告”だって。」 彼女が重たい口を何とかの気力であける。 きっと、彼女が1番辛いはずなのに。俺は何にも言えず黙って話を聞いてるだけ。 「そしたら怖い意味なのかな〜って思ったの。そしたら危機を察知して回避してくれるって書いてあったの。だから、ね?絶対大丈夫なの」 さっきとは違って涙を落とさずに、少しだけ笑ってくれた。俺があんなに騒いで不安な気持ちを彼女に見せたから、きっと心配して明るい言葉をかけてくれたんだろう。 「はーあ、それにしてもステージIV。もう来るとこまで来ちゃってる、なんて。あはは」 そして彼女は深く息を吸う。 「でも、金星に行けたなら。こうすけとずっと2人。隠れた世界で生きていられる。」 彼女はそう言った。俺は何も言い返せなかった。まるで、もう死を覚悟してたように見えたからだ。 その日、彼女は俺をぎゅっと強く何分か抱きしめてくれた。俺が何か彼女にしてあげなければならないのに。 彼女は強かった。 胃がんと知ってから俺たちの生活はガラッと変わった。彼女は病院で入院生活になった。 「こうすけと折角同じお家になれたのに!なんでこんな事になっちゃったのー!もうっ」 「早く治るといいな…ずっと願ってる」 彼女が明るかったのは俺の前だけだったらしい。変な気を遣わせてしまったな。 彼女は日に日に弱っていった。 食事も取れない。ずっと天井を見てるだけの毎日だった。 段々と肋の骨が見えるようになっていき、そして耳も聞こえなくなってしまった。 俺は何もしてあげる事はできなかった。 ステージIVの彼女は、進行の進み具合が早く手術をしようとしても体が持たないとのこと。 その日を待つのみの生活だった。 彼女は黙々と宇宙の本を読んでいた。 そして俺に、本を指差して見せてくれる。 その本にはこう書かれていた。 “惑星は、ただの惑星というものではない。惑星に意味があるのも、その惑星ができる前に何かが宇宙で起こったから意味があるのだ。” 彼女はこれを見てすごく共感していた。 でも前みたいに何も発しはしなかった。 そして、彼女は死んだ。 俺に本を見せてくれた明後日だった。 彼女の指にはめている指輪の効果は、何一つなかった。彼女はやっぱり、土からのものではなく、空からのものではないと。 …結局、金星に連れていってやる事はできなかった。 冷たくなった彼女を触って俺も涙を流す。 綺麗に服やメイクをして貰ってる彼女に涙が落ちて、染み込む。 俺は彼女の指についているシリマナイトキャッツアイの指輪をそっと外した。 そして、彼女の為だけの、世界に一つだけの、一つだけの意味が込められた金星の指輪を彼女の指にはめた。 これで金星に連れて行ったことにしてくれるだろうか。 俺はその指輪をはめた後すぐに病室を後にした。 そこから20年後。 俺は、やっと宇宙に行けるところまで来た。 毎日、空を見上げて彼女のことを思っていた。 人々が空を見上げて心がすーっと軽くなるのはきっと空で彼女が笑ってるから。 みんなそれを見て優しい気持ちになれるんだ。 そう言い聞かせて、俺は毎日頑張った。 そして、45歳の俺は今から宇宙へと行く。 それも、金星に。 食料も何も積んでいないロケットは、心なしか軽く思えて宇宙へ上がるのもすぐに感じた。 俺が宇宙へ持ってきたのは、一つの宝石だけだった。 そして、金星の上にたち、俺は宇宙服の頭の部分だけ取った。 呼吸ができない。でも、もういいんだ。 やる事はやったから。 彼女の夢を今日、叶える事ができたから。 俺は段々と意識が飛ぶ中、一つの指輪を宇宙へ舞わせた。 “冥王星” 隠れた世界。