いい たけひこ

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いい たけひこ

自分の好きを詰め込んで書いているので、それが同じように好きな人に届いたら、とてもうれしい

15分で書くお題:足跡

波打ち際で手を繋いで歩く。 私たちの通った跡を、たちまち白く泡立った波が覆いかぶさって、何もかもを曖昧にしていく。 それがどうしても寂しく感じて、知らず知らずのうちにたちどまっていたようだった。 「どうしたの?」 不思議そうな声で、隣から顔を覗き込まれる。 晒している素足にも、波は寄せるので。 足の指の間をくすぐるように駆けていく海水を、何を言うでもなくじっと眺めていると、なにごとか察したような声音で「はあ」と頷く気配。 最早辛うじて引っ掛かっているように繋がっていた手を、ぐうと引き上げられる。 それに驚いて目で追えば、茶目っ気たっぷりに笑う彼女がいた。 「おセンチになってるのね」 「別にいいじゃない」 「ええ、いいわ」 彼女は白いワンピースをひるがえし、前を向く。手を引かれ、私はまた一歩歩き出した。 しっかりと握ってくる彼女の手の強さが、私の不安も寂しさも纏めてなかったことにしていく。 「これからまた、歩いていけばいいのよ」 彼女は歌うように言った。

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恐らく親友ではない

同い年じゃない。いくつか歳の離れた、けれど誰より気を許せるひと。 親友のように仲が良い、いやもう親友…なんだろうか。 SNSでたまたま知り合っただけの関係から、長い時間をかけて慎重に。 お互いが大切に、この関係を育んでいって。 今こうして、初めて対面でのお泊まり会なんてやっている。 文面のやり取りでは冗談混じりにお礼のキスを飛ばしたり、大好きだとか、会いたいだとか好き勝手言い合っていたけれど、いざ家に招かれるとそのどれもこれもが、嘘のように口に出来ない。 「もう、なあに どうしたの」 なんかべつじんみたいだね。 向こうとて初対面のようなものだからか、どこか照れくさそうに言う彼女。 それはいつも電話で聞く声そのままだ。 「ね 思ったより、かわいくなかったでしょ…」 彼女が横髪をいじる。電話で話していて、いつもいずれ会おうという話題になると、きまって口にする文句だった。 目線を自信なさそうに揺らす度、遮られるのか時折くぐもって聞こえるところが、これが肉声なのだとありありと伝えてきて余計に言葉に詰まる。 今まで声だけの存在だったひとが、質量をもって存在している事を、ただひしと感じていた。 不安そうな彼女の誤解を解こうと、私は慌てて反論する。 「そんなことない、どんな**ちゃんだってかわいいっていつも言ってるでしょ」 「それは、そうだけど…」 「なによ」 「いつもはすぐ『お仕事お疲れ様♡チュッ』とかやってくるじゃない」 痛いところを突かれて知らないふりで通す。 いつも振り回す側は私だった。まさかちゃんと緊張していました、だなんて。絶対悟られたくなかった。 「なに、キスしてほしいの?」 「えっ!や、そういうことじゃ」 からかえば少し戸惑う姿にこちらも余裕が出てくる。よし、いつもの私達だ。 安堵が背を押して、私は彼女によしかかり、二人して背にしていたシングルベッドに倒れ込んだ。 笑い混じりの悲鳴に気を良くして、羽毛布団の海を分ける。 「もう!ちょっと慣れてきたんでしょ」 「わかる? ねぇ、ベッドダブルにしてって言ったのに」 「ふふ、だから住むとこなくなっちゃうってば 一人暮らしなのに要らないでしょう」 「私が寝るでしょ!二人で一緒にねよ」 ぎゅうと半ば締め上げるようにじゃれて抱きつけば「あはは」と身をよじられる。 はしゃぐ気持ちとは別に、心の冷静でフラットな部分が、抱きしめた体の柔らかさを認識していた。 「はぁ…ふふ、じゃあやっぱり一つでいいよ」 じんわり汗をかいた彼女が、腕の下でこちらを見上げた。 その声が少しだけ掠れていて、乱れた髪が首筋に垂れていて、私は思わず静止した。 「ほら、これで十分」 そのままの体勢で、彼女が囁くような声で言った。 私の頬にその吐息が掠めて、その時初めて……いや、気付かないようにしていただけだろう。 私はようやく、私達がおかしな方向に進んでいる事に気が付いたのであった。 創作百合 私 :人嫌い 仲の良い人間以外には少し臆病 愛されることが苦手 **:4歳年上 寛容でほがらか 年上ぶりたいが上手くいかない

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