らん。
2 件の小説壊れる音がした。②
『Shinさん、この前は配信見てくださってありがとうございました!』 コメントを早速送った。 「あ、らむさん!聞きにきてくれたんですか。こちらこそ、ありがとうございます。」 私の好きな声で、そう返してくれた。 褒め合うようなやり取りを繰り返しながら、お互いに配信をする度に、コメント越しに話をするようになった。 Shinさんは、歌だけでなくゲーム実況もしていて、たまにお茶目なことを言うような、とても面白い人だった。 意気投合した私たちは、SNSのDMを送り合い、どんどん仲良くなっていった。 そんな楽しい日々を過ごしていたら、あっという間に大学卒業の日がやって来た。 何度もオーディションに落ちていたが、事務所直属の養成所には入ることができた。 しかし、芸能界に入るとなれば、SNSでの今までのデータが気になってしまった私は、この機に削除した方が良いと思い、決断した。 最後にさよなら配信をしなければならない。 恋心を抱いた、Shinさんとも。 実際に会ったこともないわけだし、Shinさんは私のこと、ただのネッ友としか思ってないはず。 今身を引いた方が、個人的に気持ちも楽だ。 自分自身に色々と言い聞かせながら、最後の配信をした。 「皆さん、今回は重大なお知らせがあります。私の配信は、今日で最後です。詳しい理由は言えませんが、自分の夢と向き合うための踏ん切りをつけたくて、決断に至りました。」 そう話していると、やはり素早くコメントをくれたのはShinさんだった。 『突然のことで驚いたよ…。でも、らむさんが夢に向かって頑張りたいって思ったのなら、引き止めずに、陰ながら応援してるよ。ファイト!!』 私は思わず、泣いてしまった。 「ありがとう。もうお話はできないけど、ずっと忘れません。みなさん、今まで本当にありがとう。それでは…さようなら。」 配信終了した後、震える手で削除ボタンを押した。
壊れる音がした。
眩しい太陽。 舞い散る桜。 大きな大学の校舎。 私は、夢を叶える第一歩を踏み出した。 芸術専攻の学科は、決して甘くはなかった。 絵や歌の知識、滑舌や話し方のレッスン。 声優になりたいと思ったことを、後悔しそうになる程に辛い日もあった。 そんな時、ネット配信アプリを使った活動ができることを知り、興味本位で始めてみることにした。 歌ったり話をしたり、自分のスキルを磨くにはとても良い機会だった。 そこには同じ趣味を持つ人たちが沢山いて、話すことがとても楽しかった。 活動を始めてから半年ほど経ったある日、歌配信をしていた時に、同じく歌うことが好きだという視聴者が入ってきた。 私の歌を「最高」「綺麗だ」「好きな声」と、褒め称えてくれた。 まだまだ視聴者数が少なかった私は、見に来てくれた視聴者の配信を見に行き、コメントを残すことも頑張っていた。 ただ、沢山褒めてくれたこの人は特別気になった。 あんなに良い言葉を投げかけてくれるこの人は、一体どんな人なんだろう… 私は、その人の配信を見てみた。 配信枠に入った瞬間、心臓が今までに知らない鼓動を打った。 深みのある低い声、少し掠れた大人の声。 戸惑う程に魅了された私は、いつの間にかファンになっていた。 それが、20年間生きてきた私の、初めての恋だった。