春の知らせ
ある日、目が覚めた。
春が来たのか。
窓からあの曲が聞こえる。胸が高鳴るのをかんじる。身を乗り出して春の匂いを深く吸う。もうこちらへ帰ってきているのだ。
急いで窓から丸太のハシゴをくだる。春がきたばかりの草木は薄い緑で覆われている。
最後に見たときよりも雪が溶け、かさが増している川にかかるアーチ状の木の橋の上。春になると帰ってくる大好きなあの姿を捉える。
ハーモ二カを吹く姿は何も変わっていなかった。
君はこちらに気がついて、手を振っている。
僕も走りながら君の名前を叫びながら振り返す。
冬になると僕をおいて南の方へ旅に出てしまう君。どんな冒険をしてきたのだろう。どんな景色を見てきたのだろう。早く聞かせて欲しい。
「孤独がないと帰ってきた時の喜びがない」
なんて君はいつか言っていた。だから僕は行かなかった。
本当は一緒に旅に行きたいけれど。
次の冬が来るまで君はここにいるだろう。
そしたらまた色んなことを話せるね。
春の暖かな匂いとハーモニカの音とともに
帰ってくる君は孤独を愛する人。