Lokonik

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世界が終わった。 ヒビが入った倒壊寸前のビル。そのビルとビルの間の通り。アスファルトの割れ目に生える雑草。主をなくして道路いっぱいに佇む車。元々都心だったのであろうが、今は人の気配どころか雑草以外の生き物の気配さえしない。ノスタルジックな絵としてネットに上がってる画像で見たことあるような光景だった。その画像の中で呆然として男が一人立ち尽くしている。驚きでしばらく出なかった声を絞って、 「なんだこれは…。」 日差しが入らなく、薄暗くなっていたからであろうか、ビルとビルの間に見える青空の青さが際立っている。 一章 「…何が起きてんだ…」 彼、遠野ハスミは長い呆然の後、言葉をやっと紡ぎ出した。さっきまで目にしていた、なんの変わりない通学途中の電車内の光景と、今目にしている廃墟群との光景の繋がりが説明できない。一度冷静になってしばらく考えてみた結果、いわゆるテレポートや異世界召喚という単語を思い出した。この点を思いつく速さは異世界召喚やら瞬間移動というSFチックな単語によく馴染んでいる現代人だからであろう。実際、元いた世界では彼はそういう異世界召喚もののアニメをかなり見てきた、そしてその異世界召喚ということに憧れてきた数あるうちの一人である。しかし、今回はそれとは違うみたいだ。廃墟ビル、佇む車のナンバープレート、道端に落ちてる空き缶。全て、ここがハスミの知っている世界であり、その末路であることを表している。つまり、 「タイムスリップ…ってことか…」 道端に捨てられた空き缶の賞味期限は、2140年5月3日と書いてある。 彼の、いわゆるタイムスリップの顛末は、高校へ通学途中の電車内で、手元のスマホを眺めていたら、突然周りが薄暗く、そして無音になって、顔を上げたら、そこは廃墟群だった、ということだ。アニメのように急に光に包まれるとか、誰かの呼ぶ声がしたとか、そんなファンタジーのようなものではなく、ただ、突然、ストンとここに召喚された。しかし、今目にしている非日常的な光景の感動は、そんな無味乾燥な召喚などどうでもいいと思わせてくれる。空気が美味しい。肺いっぱいに空気を吸い込む。鼻から入ってきたそれは清々しかった。 アスファルトのヒビから生えている雑草に目をやる。人がいなくなっても力強く生きる、生命の神秘さを感じた。雑草に微笑んで、もう一度深呼吸を… ドガッシャン‼︎ 「うぎぎぎぐぐぐああああ‼︎」 突然の大きな物が落ちる音に、驚くというよりは奇声を上げたハスミ。後退りしながら背後を振り向く。すぐ真後ろ、巨大なコンクリートの塊がビルの前の道に亀裂を入れていた。こいつが音の正体だとすれば、落ちてきたのは… 「ッ…!」 見上げると、ビルの屋上、自分を殺そうとした犯人がいた。 「なっ…!」 犯人という表現は正確でない。なぜならそれは人じゃないからだ。獲物を外した、犬に似た怪物が自分を憎憎そうに見下ろしている。

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