夢
夢を見た。
どんな夢だったのか、目が覚めた瞬間にはもう思い出せなかった。
ただ、胸の奥に何か大切なものを置いてきたような感覚が残っていた。
夢の中では、もう会えない人が笑っていたのかもしれない。
昔の自分が、まだ何も知らずに走っていたのかもしれない。
あるいは、これから出会うはずの誰かが、ずっと前からそこにいたのかもしれない。
夢は不思議だ。
眠っているあいだだけは、
失ったものも、届かなかった願いも、遠ざかってしまった時間も
何事もなかったように戻ってくる。
けれど、朝が来れば消えてしまう。
手を伸ばせば触れられそうだったものほど、目を覚ました途端に遠くなる。
名前を呼ぼうとした瞬間には、声さえなくなっている。
それでも、人は夢を見る。
きっと、叶わないと知っているからこそ、夢は美しいのだと思う。
永遠に続くものなら、いつかそれを当たり前だと思ってしまう。
だから、一瞬だけ咲いて朝の光に溶けていく夢は、心の中に深く残る。
目を閉じれば、また会えるだろうか。
そう思いながら夜を待つ。
けれど次に見る夢は、きっと今日の夢とは違う。
だから私は、消えてしまった夢を追いかけるのではなく、
覚えている限りのその温度だけを、そっと胸の奥にしまっておく。
夢とは、叶うものではなく、消えていくものなのかもしれない。
そして消えてしまうからこそ、人はもう一度、目を閉じたくなる。