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3 件の小説生きる意味
嫌な予感がした。曇った空。蒸し暑く気持ち悪い湿度。急いで“あいつ”に電話をした。やっぱりだ。風の音が聞こえる。 「お前、今どこで何してんだよ」 「………」 “あいつ”は何も答えない。 「、、、、死ぬなよ。」 それだけ言い残し、俺は通話を切って病室を出た。点滴を外し、ベットから跳ね起きて走り出した。後ろからは看護師が追ってくるが、そんなの関係ない。 俺はただ“あいつ”が死なないようにあそこへ0.1秒でも早くつくことだけを考えた。 風の音がして、ほかの音は何も聞こえないということは高い場所にいるはずだ。この辺で高いところと言えばあのビルしかない。 俺は2段飛ばしで階段を駆け上がった。 屋上に着いた。やっぱりだ。あいつはビルの屋上の端っこで立っていた。 「、、、、何してんだよ」 「………」 お互い黙り込んでしまった。 何分経っただろう、先に口を開いたのは飛び降りようとしている涼だった。 「……生きる意味なんてないと思うんだ。」 「、、、は?」 「いいよなお前には趣味があって。」 俺は不意に怒りが湧いてきた。気が付いたら無意識に口が動いていた。 「………何が趣味だよ。俺は確かに本を読むことは好きだ。ただ本を読むことはこのくそみてぇな世界から現実逃避するため。生きる意味なんて誰も持ってねえんだよ。何が趣味だ?何が生きる意味だ?んなの知らねえよ。俺だって死ねるなら死にてえ。けどお前が生きてくれてるから俺も生きることが出来てんの。生きる意味だかなんだか知らねえけどさ、黙ってのうのうと生きてりゃいいんだよ。学校なんて行かなくていい。仕事なんてしなくていい。死ぬまで生きてろ。それが唯一の俺らが生きる意味なんだよ。」 生きる意味なんてどうでもいい。生きる目的なんてどうでもいい。幸せに生きるなんて無理言うな。死ななけりゃ何したっていいんだよ。 そんなことを涼に伝えた。あいつは泣きながらこっちに寄ってきた。俺は優しく抱擁してやった。
意味怖
ある俳優のAは、仕事の休みを利用して自分の故郷へ戻っていた。Aの故郷は甲信地方の山奥にあり、大きめな村であった。 Aは夜に車を走らせていたのだが、真っ暗な夜道で森の中の道路であるため、ライトをつけていても車の外は全くと言っていいほど見えないのだ。 30分ほど走らせていると、横から何か白く光るものが見えた。急ブレーキも虚しく、その“何か”を轢いてしまったようだ。おそるおそる車から出てぶつかったであろう部分をのぞき込む。 何も無い。 おかしいな、、と思いつつも怖くなって車に戻り、さらにスピードをあげて走り出した。ふとバックミラーを見ると、そこには真っ白で口が裂けたような顔が映っていた。 意味:2段落の「ライトをつけていても車の外は全くと言っていいほど見えない」ということから、バックミラーに映ったそれは車の外ではなく、運転手の後部座席にいるということが分かる。
君のいない世界線
「以上で夏休みの注意点についての説明を終わります。質問がある人はいませんか?」 やんちゃな涼太が手を挙げた。 「先生はこの夏休みに奥さんと旅行に行きますか?」 クラスのみんなは笑った。 そんな涼太を端の席から見つめる咲。 咲は生まれてから今までの10年間ずっと涼太のそばにいた涼太との幼なじみで、涼太に対して好意を抱いていたのだが、気持ちを伝えられずにいた。 夏休みに入ってから10日が経った。 涼太はもちろん勉強なんかせず、同じサッカー部の圭太、勇人と公園でサッカーをしていた。 「勉強なんてつまんねーよな。やっぱサッカーしか勝たんわ」 と涼太。圭太と勇人もそれに頷いた。 その頃咲は公園の近くを通った。ふと公園に目をやると、サッカーをやっている涼太、圭太、勇人が目に入った。 手を振るがこちらには気付いていないようだった。いや、気付くはずも無いのだ。3人の間を、邪魔するように横切ったって誰もこちらに気付きやしない。 夏休みのある日、夜の8時に涼太はランニングをしていた。県大会で優勝し、関東大会へ進出したため、トレーニングとして走っていたのだ。スピードをあげて右折をしようとした時、何か光が見えたと思うと、急に身体に激痛が走った。大きなトラックに衝突してしまったのだ。 どれだけ時間が経っただろうか。周りを見渡しても何も無い。すると誰かの声が聞こえた。 「やっとこっちの世界に来てくれたんだね、」 間違いない。咲の声だ。そう、咲は7歳の頃に病気で亡くなってしまった幼なじみで、涼太はトラックに轢かれたことで即死してしまっていたのだ。