蒼白ねっこ
3 件の小説殺人鬼。一目惚れの恋をした
「みんな消したかっただけ。」 殺人を犯した一人の男子高校生の言葉。 殺人鬼と呼ばれる存在になった。 いわゆる、人を殺した人間のことを指すだろう。 自分のその人間の類に含まれる人間だ。 「嫌なやつみんな消してやりたい」 「仕方ないよね、あなたは必要ない」 「私に構わないで。気持ち悪い」 つらつらと並べられる負の感情を重ねた言葉。それを平然と言う世の中にいつしか変わり、当たり前として捉えられた。それを受け入れられなかったのが、自分と呼ばれる。「僕」なのである。 気持ちの悪い口実で、人を糸に縛り上げ、友人としても利用し、操り人形としても利用する側の存在。 対し、口実は苦手な類であり、糸で縛るよりは縛られる、マリオネットと呼ばれる、操り人形のようになる存在がいる。 僕は誰との糸も紡ぎ続けた、マリオネット。 「おら!やれよ!!」 毎日クラスの中心にいる男子五人組にからかわれている僕の存在がその場所にはあった。 高校一年生に上がって少し経った頃。僕の内面では、未だ人と会話を交わすことすらままならない。孤独を感じながらも焦げが少しついている卵焼きを口に含む。 「……」 甘めの卵焼きは、口の中でぶわっと味が広がった。それと同時に、次に口に運ぶ白米を箸でつまむ。 お昼が終わると、五限目六限目に入る。 基本話を聞く時はペン回しをし、ノートに絵を描いて授業を終わらせる。 心無しか、自分は授業内容に興味は無かった。皆、そうなのかもしれないと、思うところがあったが、あえて口にはしない。気がついたら口にしていた。それが原因で今の状況が出来ているのだから。 (あぁ、殺してみたい。人を。) そしてそれと同時に、自分に対する他者の行いが、段々と、自身の殺害への興味を湧かせていた。 人を一人殺し、捕まれば家族は悲しむ そして、自身は社会から抹殺される。 分かっていたのに。 課外学習で偶然顔を合わせた彼女に一目惚れをした。関われば関わるほどわかる心優しい女だった。いつしかそんな彼女に更に惹かれ、段々と、殺害衝動は制御が効かなくなってきた。 「最近、どう?」 「ん〜、まぁまぁかなぁ。」 彼女と交わす他愛ない会話。いじめられていることを知れば、彼女は迷いなく庇ってくれるかもしれない。それと同時に怖かった。 弱い自分を見捨てられてしまうような気がして。だから、自分を虐げる人は全員殺した。弱くないんだと見せつけるように。 溢れ出した涙は、止まらなかった。ずっと、死んだ同級生の前に立っていた。もう既に息を引き取っているのにも関わらず、同級生の顔を見るだけで鳥肌が立った。 「………ごめんなさい」 そしてその日から、何もかもが壊れた。 犯人だとバレてからは、警察に連絡をされ、彼女との関わりもなくなった。 大きいため息をつきながら、取調室に入る。椅子の上に座る姿は、手錠を着けられ、ガラの悪い男を演じていた、鏡に映る僕の姿は、いつも通り惨めだったが、内面は清々していた。 「なんでこんなことを?」 警官が問うと、僕の瞳はぎょろりと警官を捉えて離さなかった。やがてゆっくりと口を開くと、僕の低い声は背筋を凍らせた。 「みんな、消したかっただけ」 彼女に向けた一目惚れの恋心は失恋で終わり、僕は殺人鬼として、人を縛り上げる側に変貌した。 操り人形は、ナイフを向け脅せば動く。 僕はいずれ分かる。自分への処罰が来ることを。
CD
ある日、有名な歌手のCDを購入した。 家にあるラジカセに入れて、パソコンに繋いで、と思考回路を巡らせ、今日はウキウキで帰宅路につく。 母親が早死にしていない自分にとって、母の残した機械は私にとって、何よりも楽しいものだった。また、高校生になってからは、バイトのおかげで機械を購入することが増え、楽しさはさらに増した。 早速、家にあるラジカセのコンセントを繋いで、中を開けてみた。高校生になってからは、ラジカセよりもパソコンに繋ぐ方が多かったため、ラジカセは出していなかった。ラジカセはホコリを被っていたが、なんとか蓋を外すとCDを入れる場所に、何も書かれていないディスクが入っている。 「………??」 興味本位で、CDを流してみる。 ゆっくりと中から流れたのは、もう居ないはずの母親の声。とても優しい声は、母の生前と変わらず、少し弱々しくもあった。 「う、お母さん、あなたを愛してる」 一言ではあったが、その言葉にとてつもなく涙を流した。やがて落ち着くと、何度もそのCDを聞いていた。 ずっと窓際に置かれている、母親の写真。 私が今どんなに幸せでも。忘れないよ。
お花見
彼女と見た桜は綺麗だった。 私の心を癒すような彩った桜。 毎年行くお花見は、 いつしか私の楽しみになっていた。 しかし、今年からは違う。 彼女の病気が発覚してからは、お花見に行くのも厳しくなっていった。 だんだん顔色を悪くしていく彼女に、ただただ何も出来ない自分の存在が嫌になっていく。毎日ベッドでぐったりしている彼女の身体を、彼女が起きている時に抱きしめる。 「お花見、、いきたいね、いきたいよぉ、」 彼女はついに、自分が死ぬかもしれないという現実を悟った。そして自分の前で涙を流す彼女に、何も言ってあげられない。 いつしか、そんな自分を嫌悪した。 「お花見、行かない?」 「……え?」 「お医者さんは同伴かもしれない!」 「せめて、二人で、」 だから彼女の腕を掴んで提案した。 嫌悪した自分のまま、彼女を送るなど許せないからだ。 「うん、行こ、」 そしてお花見の日、当日に。 車椅子の上で一緒にお花見をした後、彼女は今までよりも綺麗に彩った桜の下で。 お花見をしながら息を引き取った。 彼女の上に舞う桜は、そっと彼女を包み込んだ。