もあ

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もあ

気まぐれ投稿。 500~2000文字を投稿します 自分の描いた世界を残したいだけ

明日は、

「お疲れ。」 そういって、昨日の自分に声をかける。 椅子に座って、コーヒーを片手に目の前の大きなモニターを見ていた視線をずらして、私と視線が合う。 「あいよ、お疲れさん。もういいのか?」 「うん。大丈夫。すぐに次が来るし、それにもう寝てる。」 何もない閑静な部屋には不釣り合いなモニターには眠る私たちの大切で愛しいあの子。 大切な自分。 「むかつくくらい寝てるな」 「あちょっと!!むかつくとか言わないでよ!!」 どうして私たちは同じ存在なのにこんなにもちがうのか……と頭を悩ませていると、目の前の自分が口を開いた。 「お前何もしてなかったけど、あれでいいのか。」 「なーにがなんもしてないですか!ちゃんと見てたの?」 「あー見てたよ。何にもないところでコケてたとこ」 馬鹿にするように笑ったところを見て無性に腹が立った。 「そうじゃない!ちゃーんと朝健康的に起きて、三食食べてそれに勉強だってしたよ」 「勉強……?え、あの読書のこと?」 「そう!本を読んで新しい世界に触れた。立派な勉強よ」 「それ娯楽だし、何もしてないじゃん。今日も、昨日も。」 そう湯気のたったコーヒーを軽く揺らして、ポツリと呟く。 「でも、あなたが昨日たくさん寝て、心を休ませたから今日私は楽しんで一日を過ごせた。違う?」 「そうだろうけど。今がよくても未来は何にもならない、勉強すればよかったって後悔する。」 「でも頑張れないくらい悩んで疲れていて、自分が休むべきだって決めたんでしょ?」 ネガティブな自分にむけて、そう言う。ネガティブだから、そう思うのも仕方ないし、大切な役割だけど。大切な自分だから、できるだけ卑下してほしくなかった。 「昨日よりも今日、なにか一つ成長できればいい。無理に成長しようとしなくても、明日のために、今日を守るために寝るとか、好きなことをするとか。そんなのでも、成長って言えるんじゃないかな。」 「それじゃ変わんない。昨日より悪くなってる。」 「昨日の今日で、何か劇的に変わること、ドラマじゃないんだから。5年後の先で、何かは変わって、何か成し遂げてるんだよ。」 「本当に何もしてなかったら昨日を、過去を羨んで、今に悩むこと何てできない。何も変わってないんだから。苦しむことなんてないでしょ。」 悩んで苦しめられる。それが正しいなんて言わないけどさ、悪いこととも思わないよ。 これまでのページの厚さを指でなぞってみる。荒れたページに、濡れてふやけたページ、大切に使われたページ、どれもがすべて愛しくて、私たちとあの子で作り上げてきた世界で一つの物語。 まだ描かれていないページを開く。その色が暖かな黄色で、心になんだかじんわりと色が広がった気がした。 目の前にいるネガティブな自分も、気づいたみたいで 「笑ってんならいっか」 と言うネガティブな自分の手元にある冷めて縁にコーヒーの跡がついてしまったマグカップを見て、 「あ!!そのマグ、私が昔あげたやつじゃない!?」 「壊れてないから使うのは当たり前だろ」 「へぇ、大切に使ってくれてんだ……あんた結構私らのこと好きよね。」 うるさ、なんていいながらも私の分まで注いでくれるあたりちゃんと好きよね。と実感する。 「カフェラテでいい?」 「え、あんたほんとにわたしらのこと好きよね。ミルク多めで!!」 明日は、今日より少しいい日であればいい。

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明日は、

巫女は天に笑う

日差し溢れる青いそらが、どんよりと重い灰色で隠される。 綺麗な青をみたのはいつだったか、 綺麗な星空を眺めたのはいつだったか。 近頃はお天道様の気分が優れないようだ。 ぽつり、またぽつりと雨が降り始める。 地面はゆっくりとまだら模様に飾られていく。 「ねぇ、いつそらは笑うとおもう?」 「そうだなぁ、きっとそらは退屈してるんだよ。」 「そらにきけばわかるかしら。」 なんて彼女は冗談をこぼし、なにを思いついたのか ふと立ち上がる。 「そうだ!わたしが楽しませてあげるわ!」 「楽しませる?どうやって?」 そう訊いた問いには答えず、ご機嫌な彼女は舞い始める。 彼女の舞は見惚れるほど、とは世辞にも言い難いものではあったが、純粋に楽しむ彼女の姿は他のどんなものよりとても輝いて見えた。 次第に灰色は流れゆく。 灰はどこか遠くへ過ぎ去り、青い空が顔を出す。 その間を除くように現れるは数日ぶりに目にする太陽で。 「あぁ、そらがわらっているわ!」 そう彼女は天に両手を伸ばし笑う。 光指す其処は花咲いていた。

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世界終焉の、一週間。

全てが死んだ世界で、一人生きていた話。 ______ もし明日世界が終わるとしたら、なにをする? そんな話を、何度かしたことがある。 もしもの話は考えるのも面白いし、人の話を聞くのも楽しいから 多くの人が考えたことのある話題だと思う。  そんな話の中で、人は言う。 好きな人に好きだって言いに行きたい 大切な人に会いたい 友達と最後までバカしたい 家族と一緒に過ごしたい 一人静かな場所で終わりを迎えたい そのまま、普段通りの生活をしたい 人それぞれの回答があって。 どれも素敵で、どれもドラマのような終わり方。 もし自分だったら、 なにをしたんだろう? ﹣﹣﹣﹣﹣﹣ 世界が終わった星で一人生き残ってしまったら、なにをする? 人はなんて答えるのだろう。 少なくとも自分は、あまりの衝撃で一歩も歩けない。 「…きれい」 地球は終わった。 周りは枯れ果てた建物に、歪んで横転した列車、そして自由に 伸び伸びと建造物を飲み込んでいく草木。 地面から視線をあげれば、キラキラと光に反射して輝く青い海が 広がって、穏やかな波を繰り返している。 空を見上げれば、真っ青な雲ひとつない快晴が どこまでもどこまでも続いていた。 人がいない不安感や、これまでの日常が一気に消えた疑問や衝撃 なんかよりも、目の前に広がる光景に目を奪われた。 あぁいや、心も奪われていたのかもしれない。 一歩、二歩。瓦礫の中から出て、近くの高そうな丘へ移動する。 身にまとっている服は何故かボロボロだし、 靴だって履いていない。 そもそもなんでこんな有様になっているのかすら分からない。 今まで自分が何をしていたのかすらも。 全て分からなくてきっと怖いんだろうけど。 それでも、そんなことよりも、この世界を知りたい。 そんな好奇心だけが、渦巻いていた。 散策して分かったのは、本当に人がいないこと。 人だけじゃなくて、虫や動物とかの生命も何一つ無かった。 でも多分微生物くらいならいると思う。 顕微鏡がないし分かんないけど。 なんでこんなことになってるか調べたけれど、新聞とかも見つからないし、電子のデータなんかこんな世界じゃなにも分からない。 ただ分かっているのは、世界が壊れてしまったことだけ。 そこら辺に転がっていた靴を勝手に拝借して、日差し避けに汚れた麦わら帽子を被って。 この世界で旅をした。 喉が渇いたら綺麗そうな川の水を飲んだ。 お腹が空いたら食べられそうな木の実を食べた。 どれだけこの生活が続くか分からないし自分がゆっくりと 弱っていくこともなんとなく感じた。 どうせ死んでしまうのなら、 本当の最期に相応しい場所で死んでやろう。 揺らぐ体も、霞む視界も何もかも知らないフリをして 果てまで歩いた。 世界が終わった。 全てをなくした世界は、どんな宝石よりも美しく脆く、強かった。 でも、まだこの星は生きている。 本当の意味で、この星も、自分も。まだ終わりを迎えることは できていなかった。 まだ、息をしている。 さいごに選んだ場所は、最初の場所。 やっぱりここが、どんな場所よりも美しい。 始まりと言わんばかりに照らしていた太陽は、今は穏やかで静かな終わりを受け入れるような淡い光を放つ月に変わっていて。 雲ひとつない快晴だった青空は、星々が煌めく星空に変化して。 一面に広がる海には、月明かりに照らされながらゆらゆらと静かに波うっている。 最高の終わりだ。 これまで以上の眠りにつける気がする。 これでようやっと何度も何度も死の練習をした成果を見せられる。 「君らもようやくねれるんだね」 さざ波が、木々が揺れる音がする。 瞼が重くなる。 さいごにゆっくりと深呼吸をして、呟いた。 「おやすみ、みんな」 おやすみ、終焉を生きた七日間の命よ。

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明日、晴れますように。

「明日は晴れるといいな」  そう横にいる彼女はいつもの口癖をこぼしながら、大きな大きな窓に手をついて、しとしとと雨降る街を見下ろしていた。 この街は数年前から雨がずうっと降り続けていた。雨が降り続けるのは前代未聞で、原因はまだ明らかにはされていない。 それからついたこの街の呼び名は”雨の降り注ぐ街”。 街は雨で沈んでいるところもあって、 半分水中都市のようになっている。 水の入ったバケツをひっくり返すような 強い雨ではなくても、だった。 どれだけ優しいものであったとしても、雨がやまない限りはゆっくりと街を飲み込んでしまう。 人々は街を移動するのに舟を使っている。 歩ける水深なんかではなくなってしまったから。 まぁそもそも、住めなくなってどこか遠い場所に引っ越してしまう人のほうが多いけれど。 泳ぐ舟たちに、沈みゆく街。 それらを見守るように空に架けられた大きなてるてる坊主たち。 雨が降りやまなくなってまだ少しの頃、街の子どもたちの 「明日は晴れますように」といった声によってできたものだった。 その願いはむなしく未だ降り続けて、 てるてる坊主たちを濡らしていく。  そんな光景を見ながら、彼女は言った。 「まるで泣いてるみたい。 街の人たちがどんどん減っていくのがさみしいのかな」 そういって苦笑するものだから。 「そうかもしれないね。 …さみしさが減るようにもっと仲間をつくってあげよう?」 その言葉を聞いて、楽しそうにそれを作るための 材料を取りに部屋を出ていった。 二人でそんな穏やかな日々を送っていたある日、日課になりつつあるてるてる坊主を作りながら彼女が口を開いた。 「静かになったね。この街」 「そうだね。家族連れの人とか、私たちと 同じくらいの人は街出ていったしね」 「とてもじゃないけど満足できるような環境じゃないし、注目されることもなくなったから仕方ないんだけどねぇ」 以前は雨のやまない街だ、異常気象だと全国でニュースになって 沢山取り上げられてきた。 さらには街が沈むなんてめったに起きない現象を羨ましがる人や、好奇で住みに来る人だっていたのだ。 その注目の目が気持ちよくて住み続ける人は少なくなかった。 が、次第に同情や哀れみの目を向けられるようになって この街を離れていった。 それ以外にも、神のお怒りに触れたのだと騒ぎ立てたり、外で遊べない不満のたまった子どもたちは街を離れていく。 毎朝起きたらすぐ窓に張り付いて「今日も雨降ってるね」といって、寝る前に小さなてるてる坊主をおいて「明日は晴れますように!」と健気に願う子どもも、親に連れられ引っ越していく。 それを繰り返していたら、この街に住む人は少なくなっていた。  私は今の生活に不満もなければ普通に生活できたから残っていたけれど、ずっとこのままいられるわけではなかった。 今いる場所が雨水に飲み込まれるのも、すぐではないとはいえ時間の問題だった。 だから、私は彼女に聞いた。 「ねぇ、一緒にこの街を出よう? ここもいつかは水に飲み込まれちゃう」 それを聞いた彼女はすぐに申し訳なさそうな笑みを浮かべて、 「ごめんね、一緒にはいけないな。私はまだこの街で晴れを待ちたいの」 なんて。あまりにもさみしげに笑う彼女は、なにをもってここに留まりたいと思う理由が、私には分からなかった。 「そっか。…明日は、晴れるといいね」 そういうことしかできなかった。 晴れてくれないと、彼女を1人にしてしまう。  あれから数年、私は一人雨の降りやまない街に来ていた。 いや、今は雨の降り止まなかった街のほうが正しいか。 今はすっかり雨はやんで、青い空が顔を出している。 人々は傘を差さずとも外を歩いていける。 まだ雨水は引ききっていないけれど、 長靴を履けばなんだってことない。 街の活気も、ゆっくり戻りつつあった。  ――あの時共に生活した彼女は、今何をしているのだろう。 私の後に、ちゃんと街を出ることはできたのだろうか。 あの建物が飲み込まれてしまう前に、 逃げる選択を取ったのだろうか。 そんなことを考えながら、街をのんびりと歩いていると、 妙に街が賑わっていることに気が付いた。 今日は、何かあっただろうか。  あぁ、そうだ。思い出した。今日は雨が止んだ日だった。 数年前の今日、全国のニュースに「雨の降りやまない街が、数年ぶりの晴れを観測しました」と取り上げられ、話題になった。 長年に渡る大雨で、亡くなった方や、行方不明者は いなかったらしい。 一人を除いて。 その一人の身元はどこなのかなどは世に出ておらず、上の人が 隠しているのか、本当に誰も知らないのか。 SNSにはあることないこと、その一人についての噂が 書かれている。 分からないけれど、私にはその一人が誰なのか心当たりがあった。 というか、心当たりしかなくて。でもそれを信じたくはなくて。 受け入れたくなくて。 あの時、無理にでも連れていっていれば、って。 自分が憎くて、雨が憎らしくて。どうしようもなくて。  あの空に架かるてるてる坊主の近くに、「明日も晴れますように」とかかれたポスターが飾ってある。 店を開く人も、お客さんも、小さな子どもから、老人まで 「明日も晴れますように」と声をかける。 ここに、もし彼女がいたら。 「そこのお嬢さん、明日も晴れるといいね」 突然、風船を配っていたおじいさんに声をかけられた。 「明日も、ではなくですか」 そう聞き返すとおじいさんは続ける。 「明日は、ですよ。お嬢さん、どこか思いつめた顔をしている から。お嬢さんの心は晴れていないでしょう?」 はははと軽快に笑って、もう一度明日は晴れますように、と 空色の風船を手渡される。 「ありがとうございます。おじいさん明日も晴れるといいですね」 私は、ある場所に向かって歩き出した。 二人で生活していた建物に入る。 あの日の彼女と同じように、おおきな窓に手をついて外を見る。 気持ちのいい青空に、笑って街を歩く人、風船をもってはしゃぐ小さな子。彼女の、私の大事な友人が望んで仕方なかったこの光景。 見れたのだろうか。この青空を、まぶしすぎるこの太陽を。 自分に明日を望んでいい資格はないだろうけど、 どうか今だけは許してほしい。 「明日、晴れますように」 そう願わずにはいられないから。

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揺蕩う始発列車

電車の景色を眺めながら、寝る話。  遠いところに行きたくなった。 別に気が病んだわけでもないけれど、 リフレッシュがしたくて。 知らない景色を見てみたくて。 だから始発の電車に乗って、終電まで行ってみることにした。  エンドロールのように流れる景色を、ぼんやりと眺める。 青々とした木々に、水を張った田んぼ。 早朝の澄んだ空気に、電車内に走るアナウンスは、全てが相性よくマッチして、自分を現実から隔離させるような感覚になった。 電車に揺られる。 外の景色を眺めるだけの静かな時間は、睡魔に襲われた。 寝てしまおうか、乗り過ごすことなんてないんだから。 起きた頃にはきっと知らない場所だ。 目を瞑る。 着いたらまずなにをしよう。   この車両に、自分ただ一人。

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終電まで

帰りたくない、このまま時間が止まってしまえば。  「ぁー、さむ」 夜の駅のホームのベンチに腰掛けて、空を見上げた。 月明かりのない夜空は、星々が一段と輝いて見える。 夜空に浮かぶ星。あぁ、しし座だ。友人が言ってたのを覚えてる。 …そうだ、レグルス。しし座の中で一際明るく見える星。 ピクルスと響きがよく似ているから、思わずピクルスと聞き返した時は笑われたっけ。  友人との遊びの帰りは、いつも過去の出来事を思い出す。 楽しかったこと、面白かったこと。 喧嘩したこと、仲直りしたこと。 イタズラしたこと、困ったこと。 全部が全部、今となっては大切で愛おしい思い出。 だからこそ、遊んだ後一人で帰る道は寂しくて孤独だ。 電車はまだまだ来ない。 孤独で人気の少なくなったホームは自身の体温と心を少しずつ、 少しずつ奪っていく。 寂しい。  そんな時、手元にあったスマホの画面が少しの振動とともに夜には眩しすぎる光が灯った。 さっきまで遊んでいて、星座を教えてくれた友人からの着信だった。 電話に出ていいだろうか。 人様の迷惑になったりしないだろうか? いいか、今ここには自分一人だ。 人が来たとしても、こんな時間だしきっと許してくれる。 そう思って画面を一回、タップした。 「おつかれー、まだ帰ってないの?」 「うん、まだだよ」 「そうなんだ」 会話が途切れる。 忘れ物でもしたかと思ったけど、この感じはどうやら違うらしい。 切る理由もないし、自分も暇だからと電話を繋げたまま少しの沈黙が流れる。 「あれ、別れた時間的に一本前の電車乗れたんじゃないの?乗り遅れた?」 「ぼーっとしてたら乗り遅れちゃった」 「あははっ、なにしてんの〜!次のも乗り損ねて気付けば電車なくなってました!とかやめてよね?」 そんな馬鹿なことするわけないのに。 ちょっとバカにしすぎやしないか?少し頭にきたのでスルーした。 少しの沈黙の後、「じゃあさ、電車来るまで今暇でしょ?」と聞かれた。 「暇してるよ。早く帰りたい」 「だったら少し話付き合ってよ。寝れないんだよね」 それから他愛のない話をぽつぽつと交わした。 気分が上がって話が盛り上がるわけでもなく、気分が下がって暗い話をする訳でもなく。 ただただ、なんでもない話をして、静かに時間を潰した。 心地よい時間の流れに身を任せていたら、ホームにアナウンスが流れる。 「電車、きた」 「じゃあ帰んなきゃね、電話切ろっか」 「んーん、まだ乗れる電車はこの後もあるよ」 「え?」 「それに、ここ栄えてないから人もいないよ」 「いやまってまって」 「明日朝早い予定ないしさ」 「どういうこと?」 「だからさ、もうちょっとこのまま」 電話越しに小さな笑い声が聞こえる。 その後にため息が聞こえた。迷惑だっただろうか。 「仕方ないなぁ」 まだ、帰りたくないんだ。   「家から見える?ほら、前教えてくれたピクルス」   「だからレグルスだってば」

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ひだまり

窓から入る日差しにぬくぬくする話。  午前中沢山動いて疲弊した体を、引き摺るように家へ入り込む。 ただただ疲れた。 着替えることも億劫で、外着のままソファに全体重を預けた。  ぽかぽかと窓から入る日差しは、疲れた体に染みた。 のんびりとしていると、段々逆らえない眠気が襲ってくる。 あぁ、午後からもやることが山積みなのに。 でも一度寝転んでしまえば起きることは不可能で。可能だけど。 まぶたが落ちる。 起きたらきっと、なんであの時寝たんだと過去の自分に叱咤されるんだうなあ。 でも、いいか。 もう疲れた自分は使い物にならないし、新しい自分に頑張って貰おうじゃないか。 すこしのあいだ、おやすみ。

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居眠り

久しぶりに神社に行ったら、つい居眠りしてしまう話。 −−−−−−−−−−  人気の少ない寂れた神社。 朝に五円を投げて参拝しに行くのが日課だった。 だけど体調が優れなくてここ数日は参拝しに行けてなかった。 だから今日は神様に媚びを売ろうと思う。 正直眠いし行きたくないけど。 「暫く顔出せなくてごめんなさーい」 そう言いながら雑に五百円を投げ入れる。  すぐ帰ろうかと思ったけど、日当たりが良かったからここに少し居させてもらおう。 きゅーけい。きゅーけい。 そう思って、神社近くの木に寄りかかって、目を閉じた。 −−−−−−−−−  どうやら自分は居眠りをしてしまったらしい。 今度こそ神様怒っちゃうかなと思いながら周りを見渡すと、 どんぐりが数個、足元に転がっていた。 たまたまかと思ったけど、自然に落ちるにはあまりにも不自然で。 ここは滅多に人は寄り付かないし、誰かが故意的にやったと思えない。 きっと今日はいい日だ。 ちょっと遠回りして帰ろう。 「今度来る時はつまみでも持っていきますねー」 神社を後にする時、柔らかな風が吹いた。

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居眠り

拝啓、朝を告げる曙色へ

 貴女は僕の小さな朝焼けです。 どんな景色より、朝焼けより、貴女の瞳の朝が一番綺麗です。 あなたのくれた朝で、始まりを迎えられてよかった。  きっとあなたがいれば、どんな景色も楽しめた。 魔女であることを隠している彼女が、 目のみえない子供に目をあげる話。  ある日の夜、子供を拾った。 森の奥で雨に濡れて、体を丸めて佇んでいた。 本当は見なかったことにしようと思った。 面倒事は勘弁だったから。 だけど、どうしても見過ごせなくて。 冷たくて、細くて小さい手を引いた。 あなたの目は、どんないろ? そう子供がぽつりと呟いた。 「生まれた時から、目がみえなくて。 明るい暗いも分からなくて。 ずっと、同じ色がどこに行ってもついてくる」 聞こえないフリをした。 なんて返せばいいのか分からなかったから。 「ねぇ、ぼくを助けてくれたあなたは、どんな色をしてるの? あたたかい色をしてるのかな。 ひんやりとした色をしてるのかな」 子供の顔を見た。 窓がある方を向いて、座り込んでいる。 外は暗くて、星々が空に浮かんでいた。 「とても、きれいだよ」 キミの目は。 「そっか。」  あれから季節が何巡もまわった。 こいつの身長は私の背を追い越して、 目が見えないと言うのに家事もするようになった。 そろそろ独り立ちさせてやろうか、 そう考えていた日の夜だった。 「ねぇ、叶いっこない僕の夢を聞いてくれませんか。」 空を見てみたいんです。 ぽかぽかと暖かさを降らす太陽を見たい。 肌寒くて、寂しい曇りの空を見てみたい。 静かに、時には激しく泣く空を見てみたい。 風に舞う儚く強く、命のような桜を、 蒸し暑い夜の空に大きく咲き散る火の花を、 日が落ちるのが早く、葉で飾られた道を、 肌を刺す寒さに、澄み切った早朝の空を、 あと…、いや。なんでもないです。 なんて、あの日と同じようにキミが言うから。 「もし、目がみえたら。一番始めに何を見たい?」 少し考えて、キミは言った。 「あなたの目が、見たいです」 「そう…、きっと叶うよ。その夢」 「そうだったらいいんですけどね」 叶うよ。ぜったいにね。  一週間後、私は彼の手を引いて外に来ていた。 「どこに行くんですか」 「ナイショ」 「ケチですね。帰っちゃいますよ?」 と言う割には一切の抵抗もなく大人しく着いてくる。 あの頃とは違う、暖かくて、私より少し大きい手を引く。 「ねぇ、目がみえたら何が見たい?」 足を止めて、半歩後ろにいる彼に聞いた。 「それ前も聞いてましたよね?忘れたんですか?歳ですか」 場所は、コイツを拾ったところだ。 「…一番最初はあなたの目が見たいです」 その答えで、私は笑ってしまった。 「最初が空が見たいと、景色が見たいと思わないの?」 「僕の想像通りのあなたかどうか、確認したいだけです」 困惑しながら、私のいる方向に喋る。 「今、叶うよ」 「え?」 瞬間、辺りが光に包まれた。 二人、眩しくて目を瞑った。 「眩しい…?」 「言ったでしょ、叶うよって」 あぁ、今彼はどんな顔をしてるんだろう。 きっと見たことない表情を浮かべてるんだろうな。 とても、見てみたかった。 「なんで」 「キミが願ったから」 疑問を発するその声が、震えていることには気づかないフリをした。 「ちがいます、そうじゃくて」 「キミに目をあげたんだ」 返事はない。 「私の目をあげたんだ。 私の視力と引き換えに、キミの目を見えるようにした。 普段お願いも言わない子だったから、叶えてあげたくてね」 「引き換えにって、あなたが」 「私はもう沢山見れたからいいんだ。もうじゅうぶんだ」 ねぇ、答えてくれよ。 「私の目は、なにいろ?」 目を開ける。 今まで見えていた筈のそれは、全てを映さない。 「とても、きれいです」 「朝焼けにそっくりな、始まりの色」 木々の間から、私の後ろから光が差し込む。 新しい一日の始まりだ。 夜のような紺藍の貴方へ  キミの目、大事にしてますか。 視力は悪くなったら治らないから、大切に使うんだよ。  キミは私の小さな夜空だった。 出会った時も夜で、キミの夜に溶けるような目も、夜のような静けさも全て好きだった。 キミが夜空を見上げる時、瞳に星が散らばっていてさ。  さいごにキミの夜空で終われてよかった。 この先のキミの未来が、明るいことを願ってるよ。

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拝啓、朝を告げる曙色へ

ぬくもりはんぶんこ

二匹の猫と丸まって体温を分け合う話。  寒い。 こたつに篭ってても寒い。 鼻が冷たい。凍る。 こたつの中に体を埋めて、少しでも暖めようと体を丸める。 あぁもう、これだから冬は嫌いなんだ。 −−−−−−−−−−  いつの間にかこたつで寝ていたみたいだった。 寝起きだからか、単に暖まっただけなのか知らないが、寒くはない。 あぁいや、もっと別の理由だった。 自分の体にひっつくように眠る二匹のかわいいかわいいうちの猫がいた。 なんだ、お前らも昼寝に来てたのか。 かわいいやつだな。 あったかい。 もうひとねむり。

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ぬくもりはんぶんこ