いろ
3 件の小説バイト先
『"夏生''せんせっ♡やっほ〜!』 はっと気づくと、そこには俺が担任しているクラスの生徒が立っていた。 (そうだ。ここは、ひなたのバイト先だったな。) 「おい、下の名前で呼ぶな。」 『なんで?いいじゃん夏生せんせっ♡』 「みんな、綿谷先生って呼んでるだろ…」 ちぇっと、不貞腐れた顔をして 『そんなにかたくなんなくてもいいじゃん…』 としょんぼり一言。 ひなたは、いわゆるクラスの陽キャに抜擢されるヤツで、いつもクラスでふざけている。俺にも、こんな高校時代があったらなと羨ましい限りだ。俺が、黙り込んでいると、ひなたが心配して 『せんせ?、、、大丈夫?』 「ぁ、え、っといや、なんでもない。ただぼーっとしてて、」 俺を心配してくれたのだろうか、ひなたが俺の顔を覗き込んだ。俺はそのありがたみもわからないこんな野郎だから、過去に縛られてしまうのだろう。 『熱でもあるんじゃ、、』 ひなたが俺に触れようとする。そこで、ハッと思い出した。咄嗟にひなたの手を振り払う。 びくりと、体を震わせ目も見開いている。これでは、ひなたまで汚れてしまう。俺はひどいやつだ。まだ、過去に囚われて…… こんな他人までぐちゃぐちゃにしたいわけではないのだけれど。 「ぁあ、ごめっ、、、」 ぴとっと、頬に冷たい感触が触れる。 『ごめんごめん先生…。大丈夫だから落ち着こ?』 冷たいのになんだか落ち着く気がする…。ひなたの手はこんなに大きかったのか。両頬にある手に覆い被さるように触れ、 「ありがと。ひなたってなんか落ち着く。」 ひなたは頬をあからめ、目を逸らしながらつぶやく。 『ぃや、別に。そりゃどーも……』 よく見ると、パッチリとした二重ラインにきめ細かいシルクのような肌、高校生なのに背は俺より高い。 (きれいだな…) 少しドキッとして、思わず見惚れてしまった。 ひなたは、こんなに綺麗な顔をしていたのか。 一方俺の方は、何日も徹夜してクマがひどい今にも死にそうな顔。 「いいな……」 『え?なにが?』 「いや、何でもない」 クスリと笑みを浮かべながら、ひなたに返事をする。 『やっぱり、せんせっ♡もっと笑った方がいいよ〜?』 俺の目の下のクマをなぞりながら、ニヤッと笑いアドバイスをした。 「…余計なお世話……」 『あっ!戻った〜』 今日はいい日になりそうな気がする。 担任をしていると言っても、ひなたとこんなに話したのは初めてだった。だけど、そんなに悪い気はしない。 俺ももう少し他人に興味を持たなくては…… (先生……可愛かったな………) でも俺は、淡々とすぎていく日々に、何か喉に引っ掛かるような気がする。
願望
「うっ__」 風が吹きつける。周りの落ち葉がそれに反応して俺を囲む。美しいな。 (俺も、こんな風になれたらよかったのに。) そんな虚しい思いは叶うはずなく、俺からあの日の記憶は頭の端でずっと生き延びていた。葵の行方を探して、はや10年。俺は今、あの高校で教師をしている。教員免許の取得のために日々を費やして、彼のことは、頭の隅に隠れていった。自分の母校で働くというのは、こんな感じなのか。幸い、学校に来てからすぐは、葵のことなんか思い出さなかった。だが、ある日、あの教室に入ることがあり、その時彼との思い出を思い出してしまった。 (こんなこと、すぐに忘れよう。) 自分自身、あの日の出来事は1年もすれば忘れると鷹を括っていた。季節は変わりもう秋も終わろうとしていた。背丈も、すっかり伸びて、高校生の頃とは比べ物にならないくらい伸びた気がする。 (葵のことだから、俺を抜かすくらい伸びていたり…) なんて思ってしまう自分が嫌いだ。俺はお気に入りの本を片手に洒落込んだカフェに足を運んでいた。これが、1日の日課になってしまっていたのかもしれない。 俺は今でも忘れてはいない。今はどこで何をしているのだろうか。そんな事しか思えないほどになっていたのだ。当時、情熱を注いだ葵の一人称すら、まともに思い出せない始末だ。どこまで俺は堕ちてしまったのだろうか。そう思いながら心の底では葵にまた会いたいという意思はあった。 あの頃の続きを…また……。
いつまで経っても君は夏に取り残されたまま。
誰かを愛せないと誰からも好きになってもらえないじゃないか。 ----- 葵は、今の僕をみるとどう思うだろうか。冷め切った瞳に赤く染まった僕のTシャツ。眉を歪ませ、ナイフを持っている僕を。 「……………」 以前の彼なら、真っ先に僕に飛びかかってくれた。いいや、それが僕の理想だったのだ。けれども、葵は僕を軽蔑した目でこちらを睨んでいる。 『君と僕は友達だろう?』 そう、葵が言葉を放つ。ただ、ぶっきらぼうに。友達か……いつから、君はそんな無愛想になってしまったのだろうね。ただその言葉を俺がどう捉えるかなんて考えていないだろうに。 「そうだね。」 曖昧な返事をすると君が困ってしまうだろう。そう、だから僕は泡沫のように。ただ何事もなかったかのように素っ気なくその場を取り繕ってしまった。その時の僕は、得体の知れない"ナニカ"に怯えていてどんな顔をしていたのかなんて考えもしなかった。怖かった。この恐怖心は一体どこに向けられているのか。それすらも、わからない自分にも怯えていたのかもしれない。 『君は友達。だから、◻︎◻︎は君が嫌いだ。いつまで経っても、鈍感な君が。◻︎◻︎は大嫌いだった。』 "大嫌いだった?"思い返せば、彼の言葉が妙に引っかかる。当時の僕は、そんな事気にも止めてなかったけれど、今になってようやく分かった。この時、葵の世界から僕という存在は抹消された。彼は、左肩を持ってひどく格好つけた様子で 『もう、終わりにしようか。』 と、ただ一言。 どこへ行くにもずーっと一緒だった。いや、どんな場面でも彼に尽くしてきた唯一無二の親友。親友、、、そう呼んでいいのだろうか。僕は彼は葵に恋をしていた。心をオリカゴの中に閉ざされてしまった。そんな親友に僕は捨てられた、いや、嫌われてしまったと言った方がいいかもしれない。 葵は僕に背を向けて、早々とここを去ってしまった。 『そうか、、そうだったんだね。好きなのは最初から僕だけだったのか、、、』 その時は、無性に溢れ出てくる涙で視界が歪み彼の背中がより大きく見えて。君を手放したくなかった。どん底に落とされた気分で。僕の心だけをあの苦い、張り詰めた夏に閉じ込めて。夏は、いつまでも君を取り残し過ぎてゆく。そう、"君だけ"。 これは僕と君の刹那的な物語だった。