鷹波

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鷹波

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忘却者 第1幕(更新中)

一歩、また一歩と鉛のように重くなった足で路地裏を進んでいく。 「クソったれが」 進む度に自らの血か汗かも分からない液体が頬をつたってゆく。口の中が鉄の味で支配される。わかっている、このまま人気のない道を進んでもそこに意味は存在しないと。どれだけ進んでもこの出血量では今更助からないと。わかっているのに、人は不思議と期待をしてしまう。このまま優しい人が来て私を助けてくれるんじゃないか、と。そんなことはありえないのに。 「私は―」 そこで、私の世界は暗転した。 第1幕 平和。そんな世界で生活をしていると、色々と感覚っつうのは狂っちまうもんだ。この世界は平和だ。普通に飯は食えて、俺らは学校に通える。誰かに殺される心配も殆どない。そんな世界で、俺は高校生として日々を過ごしている。 朝、登校のために電車に乗るといつも通りの席で爆睡をかましてるそいつに俺はいつも通り声をかける。 「おはよう。今日も寝不足か?」 おそらく遅くまで起きていたであろうそいつの顔面には、入学したそのころからついたクマが貼られていた。そうして、そいつの前に立つ。そうするといつも通り、そいつは目を擦らせ、欠伸をしながら返事をしてくる。 「おはよう、レナード。」 俺の名前はレナード・バーン。ワカンダ帝国の帝都マドリードにある最高峰の学園、ハクヨウ学園に1年生として通う生徒だ。 「おい、着いたぞ。」 銀髪を下ろしたそいつがそんなことをいい、電車から降り、学園へと歩を進める。 この世界には異能力というものがある。そうだ、お前らが頭に思い浮かんだそれの事だ。空を飛べるようになったり火を起こせたりと、何かに特化した力がそいつらにはある。所謂個性っつぅもんだ。そしてその能力をもつごく一部の人間のことを異能力者と呼ぶ。ワカンダ帝国では俺ら異能力は必然的にこの帝都に位置するハクヨウ学園に通うことが義務づけられていた。 「そういえばレナード、お前聞いたか?」 如何にも物語の導入に使えそうな台詞を銀髪をなびかせながらそいつは質問をしてくる。そうきいてくるということはまぁ当然有名なことであって学園生であり、ましてや異能力者である俺が知らないはずもなく 「あぁ、行方不明だったルシフェルが死体で発見されたことだろう」 「そうなんだよ。あのルシフェルが死体だぞ?しかも戦闘が起きた形跡は見受けられないんだってよ。犯人は未だ捕まっていない。」 勘弁して欲しいぜ、といったそいつのその言葉に俺は、あぁ、とだけ返事をしてまたひたすらに歩を進める。空は曇っていてジメジメとした暑さが身体を支配していた。 (ルシフェル、か。) ルシフェル。俺ら異能力者は学園を卒業すると、大学に行かずに国家異能組織OGRE(オーガ)に所属する。俺らはそこでやっていけるためにこの学園に通うのだ。異能力者というのはIQが平均的に高く、最低でも130はあるとされている。だから大学に行かずとも頭がいいまま卒業がてきる。そして、ルシフェルはそのOGREの中でも知能、実力を総合的に評価したときに上位15人に与えられる称号である。そのルシフェルが原因不明の死亡。 「十中八九"オニ"の仕業だな。」 そう俺が一言呟くと、隣を歩いている銀髪の男が 「ルシフェルを形跡なく殺せるオニ…おおよそとんでもない異能力を持っているんだろうな」 とその銀髪をかきあげていう。そうしてどうでもいい雑談を繰り広げているとまるで西洋の城を彷彿とさせるかのような校舎に入り、それぞれの教室へと向かった。 俺らの学園では一般的な授業の他に任務という名の授業がある。任務は主にこの世界の犯罪者の確保やオニに関する情報収集などを行う。日本という国では警察のような役割に当たるらしい。この世界が平和なのは世界でも少数の俺ら異能力者がそういう犯罪者達を捕まえているからだ。そうして任務は学園から指定されたパートナーと共に解決していく。年ごとにその解決した実績をもとに順位づけをしていくらしい。どうやらこの学園に通う生徒からすると、その順位は卒業後のOGRE内での出世にも関係するからみな血眼になってその任務に取り組むらしい。そうして俺もその任務を学園の傀儡のようにこなす生徒のうちの1人だった。 現在俺はパートナーと今回の任務についての作戦会議をしていた。 「今回は今話題のオニの調査か。討伐じゃない分楽そうだけど、その分リスクも付き纏いそうな任務だねぇ。だからこそ多くのペアがこの任務に抜擢されんだよね!」 冷静を装った俺のパートナー、水咲緋依(みずさきひより)が解説をしてくれた。緋依は指を顎にあて考える仕草をして言う。 「調査ってことだからぁ、やっぱり聞き込みかなぁ?それとも先日の事件が起きたところの近辺の調査かな?オニの調査なんて初めてでワクワクするよ!」 2人だけの教室に緋依の高く騒がしい声が反響する。そもそもオニとはOGREが最重要項目として扱っている生き物の総称のことらしい。オニは普段人間のフリをして世界で生活している。曰くオニは人類を破滅においやる原因らしい。だから俺たちはそのオニをこの世界から絶滅させるために学園、そしてOGREへと集められたのだ。 「事件周辺の調査は既にOGREが行っているぞ。俺ら介入するにはそれなりの理由が必要だ。」 勢いだけの緋依の考えを1部否定しておく。 「たしかにそうだぁ。さすがレナードくんだね。じゃあ私達は周辺住民の聞き込み調査に行こっか!!」 そうして俺たちは作戦会議を終え別れて下校をしていた。朝は蒸し暑かったが、この時間となっては随分と涼しくなり、風が冷たく感じられた。作戦会議は大した内容ではなかったのだが、鷹波の最新作「忘却者」の話で随分と盛り上がってしまったようだ。夜の帝都は騒がしく、自分の足音はかき消されてしまう。空は曇っていて月は見えないが、微かに雲を月明かりが照らしているのがわかった。まさしく平和。人々は夜の街でもそんな時間を送っていた。俺は人の間を縫うように駅へ向かっていた。そのとき、キーーという耳をつんざくような高い音がした。瞬間、俺の身体から力が抜けおちた。あたりはなにも無かったかのように騒がしいままだった。ただ一人、夜の街で俺だけがその音により影響を受けていた。 (これは…?) 脳が震えて自分の身体になにが起きているのか正常な判断が出来なかった。世界が傾いていた。周囲の人間は距離をとってさも当然のように傾いた世界で過ごしていた。世界から音が消えていた。俺に、やけに多くの視線が集まっているような気がした。 「ッ!!」 そこで俺は我に返り身体を翻す。周りの人間はしばらく俺のことをみて、また歩き始めた。世界に音が戻る。 「いまのは?」 俺だけが倒れる音。考えられるのは異能力ぐらいだった。この時間は学園の生徒は基本的にすでに家に着いている。故にあの場での異能力者は俺と、その音源の誰かだけに違いない。だが、誰だ?学園の生徒ではない。考えられるのは学園の先生、もしくは第三者だった。そこで思考を巡らせていると俺は1つの可能性にたどり着く。 「オニ…」 あのルシフェルの死亡は帝都で起こったことだ。そうして、犯人はまだ未だ捕まっておらず、身元も不明。そう思った頃には俺の身体は既に音のした方向へと動いていた。 まだ決まった訳ではない。それでもあの音がオニによるものだとしたら、 「街が危険だ。」 今回のオニはあのルシフェルを痕跡なく消せる存在。そんなのがこの帝都にいるとしたら…俺はその最悪の可能性を頭からなぎ払って走る速度をあげた。 そうして音源の周辺につくと、そこは街の離れにある路地裏だった。そうしてその先は闇に包み込まれている。思ったよりも走ったらしい。乱れた息を整えてそこへと歩を進めようとする。 (この先にはオニがいる可能性が高い。本当に俺一人で行くのか?) 歩がピタリと止まる。オニがいる可能性があるにも関わらず俺一人で?OGREですらまだ見つけられていないのに?まて。そうしてその男は気づく。その暗闇から放たれる異様な気配に。だが俺はそれに対し何故か畏怖の感情を抱くことはなかった。むしろその気配を察知を崩れかけていた決意が固まる。 (俺が行かないとダメだ。あの音からこれだけ時間が経っているのに帝都で調査しているはずのOGREの隊員も来る気配がない。なにかがいるのは確実なんだ。) 周りに人はいない。ここでなら戦闘になっても被害は少なく済むだろうと自己完結をし、意を決してそこへと進んだ。この先にオニがいる。その可能性が頭をよぎるのに俺の身体は留まることを知らなかった。そうして進んでいくとそこになにかが姿を現す。 「え、、」

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