星咲

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星咲

小説が好き

ドール

毎日、ヒトは生きるために仕事する。今の私もその一人だ。私は村の外れで薬屋を営んでいる。毎朝、森に薬草を取りに行っては薬を作り尋ねてきた顔見知りの村人に売る。いつもは見知った村人しか来ないのに今日は珍しいお客さんが来た。その人は綺麗な服装をした男だった。なんでここに来たのか?気になって声をかけた。 「あの…どうされましたか?」 するとその人は 「欲しい薬があるんです…」 と申し訳なさそうに紙を渡してきた。確認してみると私が過去に1度作った薬だった。 「なんでこの薬が必要なんですか?」 その質問にその人は 「私はB。訳あってある人にその薬を届けたいんです。」 この薬をわざわざ渡す?そんなおかしい話はあるわけが無い。語尾を強めて聞く。 「なぜ?この薬は作りたくない。記憶を消す薬を渡す⁉︎おかしな事言わないで。」 Bはそれでも頼んでくる。 「お願いです。どうか作って貰えませんか?必要なんです。お願いします。」 しまいには泣きだしてしまった。泣くほどこの薬に価値はあるのか?私には不幸にする薬にしか見えない。ずっと泣くBにイライラした私は 「分かりました。なら作りますよ。その変わりに一ヶ月後の満月の夜にお代の十アビを持って夜中12時にきてください。」 Bはこの言葉を待っていたかのように喜んで帰って行った。この日を指定したのにはちゃんと意味がある。薬を作るのに満月の光を照らすことが必要だからだ。私はこの薬を作るための下準備を行う。この薬は特別で香水のように対象の人に振りかけるだけで効果が出る。この薬の名前はツキキレ。ツキキレは私にとって不幸の薬だ。ツキキレのせいで起きたことは未だ思い出せないが考えるだけで頭痛がする。これでこの薬を作るのは最後だ。と言い聞かせながら用意する。 一ヶ月後 店の外で待っていると、Bは約束通りの時間に十アビを持ってきた。Bは 「薬を貰えますか?」 と言った。私は静かに小さな瓶を渡す。 「ありがとう」 Bはそれだけを言って帰ろうとしたので私も店に戻ろうとドアを開けた。するとBはいきなりツキキレを私にふりかけた。 「やめて!嫌だ!やめて!」 どれだけ大声を出してもやめてくれない。 ツキキレが入った瓶が空になるまでBは私にふりかけ、私はめまいがして倒れた。 数時間後 「痛っ。」 自分は地面に倒れていたみたいだ。 「えっと。何してたっけ?」 分からないままドアの空いた建物に入る。そこで気がついた。自分が誰で何をしていたのか分からないことに。カウンターの上にあったノートを開く。そこで自分の名前がドールAであること。薬屋を営んでいることを知った。 「あ、薬作らなきゃ…」 ―― 「よし!これで大丈夫!まだ生きれるね!A!体にボロもないね!って当たり前か。だって僕たちはドールなんだから。」 Bは帰路につきながら呟く。少し笑いながら、 「Aのリセット完了!また、50年後に僕に会いに来てね。愛しのA。」 しかし、すぐ泣きそうな顔になって 「記憶を消さなくていいなら、僕たちは愛し合えたのにね。まぁ、この記憶も50年後にはなくなちゃうけど…。君がどうやってツキキレを僕にかけるか楽しみだ。次のAはどんな姿でどんな性格だろうね。」 空を見上げると月は沈み朝日が登ろうとしていた。

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