失敗作
「お前は失敗作だ」
そう僕は親に言い聞かせ続けられていた。
父は芸術家で物心がつく前から母は死んでいたと、父は言っていた。
だが、教育、育成はちゃんとする。だが食事は最低限。いつもその毎日の繰り返し。
そして“絶対に入るな”と言われている部屋がある。それは父の部屋。一度覗こうとしてみた。そしたらその日の食事を与えてくれなくなった。一日経つとすぐ食事を与えてくれたが、まだ好奇心が消えていない。
今日は父が仕事で遅い日だ。そして目に入る父の部屋の扉。
大丈夫...父さんはいないと、自分に言い聞かせながらドアノブに指先をつけた。
奇妙な冷たさが全身を走る。恐怖心と共に好奇心が高まる。覚悟を決めてドアノブを捻る。中からは勿論音は聞こえない、電気もついていない。手探りでスイッチを探し、指先で押す。一気に電気がつき、さっきまで暗かったからか、少しびっくりした。目を開けると色々な資料の山だ。家とは思えない。芸術家とも思えない、ただの熱心な研究員の部屋のようだ。
足を部屋に踏み入れ、机に向かって歩く。
資料の山をかき分けていたが、ふと目に入った資料があった。他の資料より小さく色は違う黒色。その資料だけ持って他の資料を整理し、自分の部屋に走り込む。
そして、引き出しの奥に入れる。無事に持ち出せたことだけで精一杯になりながらベッドに体を投げ込む。一息ついた所で鍵を差し込む音が聞こえる。
−父が帰ってきた−
そう耳で感じ取る。急いでリビングに行ってテレビをつけて見始める。父がリビングに来る。
「おかえりなさい」そう言った。言葉を発しているのかわからないくらい小さい声で多分「ただいま」と言っている。自然に立ち上がり部屋に戻る。
引き出しを開けて資料を読む。中には
「あいつは失敗作だ俺は教育もした。食事もちゃんと与えた。だが人の愛だけは与えていない。何故かって?
“失敗作”だからだ。俺もわからない。
だから俺はあいつに知られないようにカメラを仕掛けて仕事に出ている。だが今日、事件が起きた。五月二十三日2時34分。俺の部屋に来た。」
気づくと冷や汗が流れていた。咄嗟に資料を投げた。−−−心拍音が荒い息を掻き消す。
その時、後ろに気配がする。振り向いてみると父が立っていた。
逃げようとしたがもう、遅かった。父は拳を握り僕を目掛けて振りかぶる−−−
俺は最初は売れない芸術家だった。だが日に日に有名になって来た。完璧だった。有名な女優と結婚し、生まれた子供には裕福な暮らしをして“愛を与えよう”と、妻と約束していた。
だが、悲劇は起きた。
妻の命を犠牲に子供が生まれた。
完璧な計画。いや“完璧”と言う言葉さえ失くしてしまった。いや消えたと、言った方が普通だろう。
妻の死を知り、子を抱き上げた瞬間だった。
“嫌だ”そんな恐怖心が感情の全てを染めた。
俺も何故かわからない。何故だ。不思議に思った。
だがその常識が今、たった今変わり始めた。
食事を制限されたのも普通だと思っていた。
だが、叩かれたのは初めてだ。
父の顔を見ると満面の笑みになっていたそして唖然となって口が開いていると、「成功だ」そう言って肩を掴んで来た。「そうだ!テーマパークに行こう!」
−一週間後−
本当に来てしまった。“テーマパーク”に。
14歳の僕と50歳近くの父が2人で来ている。−ありえない光景だ−夢でも見ているのか?それはそれはうるさい程に脳内で反復していた。
そして家にて、まだ今の状況がわかっていない僕と逆に父は今、僕の隣でテレビを見て大声で笑っている。
−世界はおかしい。人は人。当たり前。これがおかしい。“当たり前”なんて存在しない。何故かって?−
−世界は未完成でありながら嘘をつき続けているのだから−