ゴースとライター
60 件の小説【第8回N1決戦】参。
『人類3R計画』人類はみな〝資源ごみ〟となった。 2025年、とある学校の休憩時間。 「なぁ、暇だしトランプで〝大富豪〟やろーぜ」 「オッケーやろやろ!」「いいねー」 「じゃあ、〝ダイヤの3〟からスタートで」 「はいよ。3!」 「5!」「7渡し!」「10捨て!」・・・「ジョーカー!」 「パス」「パス」 「そしてここで、ジャック四人で〝革命〟」 「ハァ、まじかよ。せっかくキング持ってたのに」 「残念でした。〝キング〟は降格だよ。そして〝クローバーの3〟で上がりっと!」 「ハッハッハ。まだ終わらん。行け!もう一人の〝ジョーカー!〟革命が起こっても、一番強いことには変わりはないんだよ」 「なんだよ。このトランプ〝ババ〟二枚あるのかよ」 「まてまて君達、このカードの存在を忘れてないか。ジョーカーに唯一、勝てるカードがあることを」 「〝スペードの3〟」 2200年、新しい元号が『新都』に決まった頃、馬場内閣総理大臣は、新たな政策を発表した。それは、今日の〝超高齢化社会〟に突入した日本国において、苦肉の政策であった。現在、我が国の平均寿命は102歳まで上昇し、60歳以上の割合は驚異の57%を超えた。当然のことながら、生産人口は減少の一途をたどり、国民は貧しい生活を余儀なくされていた。 そんな中、立案された「人類3R計画」であったが、それはあまりに非人道的で、反対の声も多かった。それでも、あまりの現状の深刻さゆえ、過半数を得ることは難しいことではなかった。 次ページより、計画の全容を記す。 第一条 リデュース(発生抑制) 満100歳を迎えた者は、当日中に政府が定める施設において、強制的に安楽死となる。尚、現時点で100歳を超える者は、本日より、二回目の誕生日において執行される。 →これ以上の高齢者の増加を避ける為、100歳以上の高齢者は強制的に施設に送られ、薬によって安楽死させられることになった。 第二条 リユース(再使用) 本日より外的要因を受けることなく、亡くなった遺体は、政府が定める機関において検査を実施し、不健康体であれば火葬、健康体であれば政府への寄贈とする。 →人口が増え続けることにより、臓器・血液バンクの不足が深刻な問題となった。その為、亡くなった人の遺体は家族や生前の本人の同意を得ることなく、生きている人類に再使用された。 第三条 リサイクル(再生利用) 死刑または無期懲役の判決を受けた者は、「該当人」が求める肉体に適合する場合、該当人の脳を移植し、以降、該当人としての生活を要する。尚、「該当人」とは政府による承認を得た者、または政府に2000万円の出資を行なった者とする。 →金持ちや政治家、有識者達は、重罪人の肉体を箱として利用し、脳を移植することで、寿命で死ぬことは亡くなった。人格を失った重罪人は、事実上の脳死である。 上記三条からなる政策によって、超高齢化社会は劇的に変貌した。施行後、三年間で約1000万人もの高齢者・犯罪者が殺処分とされ、人口・犯罪件数は大幅に減少した。残された人々の生活は大いなる犠牲を対価に、豊かさを取り戻した。馬場総理は、一部の批判を受けつつも、若者から圧倒的な支持を得ていた。 しかし、仮初の平和は長くは続かなかった。 馬場総理の汚職が発覚したのだ。「人類3R計画」によって、急成長した政府認定機関の会社から多額の賄賂を受給していた。私腹を肥やす為、1000万人を殺した大虐殺人として揶揄された。彼は、たびたび反対派と呼ばれる者達に命を狙われ、施行して四年が経った頃、突如として失踪した。 さらに、第三条の影響で大富豪達は、遊び感覚で肉体移動を繰り返し、中には欲しい肉体を得る為に、その者を犯罪者に仕立て上げ、脳移植をする者も現れた。また、若くて見た目の良い重罪人は、人身オークションにかけられ高値で取引された。 これらの事件により、日本国では政府と3R反対派との内乱が勃発した。やがて、脳移植の技術を巡って隣国との戦争に発展し、その火種は大きく燃え上がり、『第四次世界大戦』にまで縺れ込んだ。 そして日本国各地でも反対運動が広まり、中でも〝四人の若者達〟が勢力を広げた。 三田大也(みた だいや) 彼はこの世界に必要なのは『富』だと言った。国民の生活が豊か になれば、無意味な虐殺は行わなくても良いはずだと。 後に経済団体『日本国経済組合会』会長。 川本春人(かわもと はると) 彼はこの世界に必要なのは『愛』だと言った。世界中の人々が、 仲良く手を取り合えば、争いはなくなるはずだと。 後に宗教団体『世界統一連合会』教祖。 黒羽弥生(くろば やよい) 彼はこの世界に必要なのは『地』だと言った。最も大事なものは 地球そのもの。最低限の衣食住さえあればそれで良いはずだと。 後に自然愛護団体『NGPO』会長。 剣崎参輝(けんざき みつき) 彼はこの世界に必要なのは『死』だと言った。自然の道理を無視 して、延命するから人類が増え、命の取り合いになるのだと。 後に指定暴力団『剣崎組』組長。 考え方は違えど、互いに秀でる者達。三田大也から始めた革命は全国各地に広がり、各地で名を馳せた四人が集結し、『革命の灯火』と呼ばれる反政府組織を立ち上げた。彼らのトレードマークは、三つの炎を3Rに見立て、それを否定するかのように剣が突き抜けている。彼らと政府の戦いは三年にも及び、脳移植を繰り返す大富豪達を次々と亡き者としていった。 『革命の灯火』を設立後、三年が経った頃、ついに政府を制圧し失踪した馬場総理の居場所を突き止めた。失踪は政府の真っ赤な嘘であり、今も島根県の田舎で悠々と過ごしているらしい。 『革命の灯火』の幹部の一人、黒羽弥生は誰にも知らせずに、馬場が息を潜めている場所に向かった。入手した住所は、コンビニもないような田舎の山奥に佇む、古びた一軒家を示した。 「本当にこんな田舎に馬場総理は隠れているのだろうか…」 一軒家にたどり着いた黒羽は、不安に思いながらも、どこか懐かしさを感じていた。一度、ここに来たことがある、そんな気がした。 家には鍵がかかっていたが、無理やりこじ開け中に入った。 物音ひとつない家の寝室にはベットに横たわる老人の姿があった。それは、間違いなく馬場総理の姿であった。しかし、心臓は動いているようだが、体はピクリとも動かなかった。不思議に思い、あたりを散策すると、ベッドの横のデスクに手紙が一通置いてあった。黒羽は手紙を手に取り、宛先を確認した。 『黒羽弥生様』 黒羽は驚愕し、思わず手に取った手紙を落として、腰を抜かしてしまった。 「何故…。私宛の手紙がこんなところに…」 差出人は、『馬場健二』となっている。馬場総理の名だ。黒羽は恐る恐る手紙を拾い読み始めた。 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ 拝啓 この手紙を読んでいるということは、私の命を狙いに来たのだろう。残念だが、それは「失敗」だ。しかしながら、それは「成功」でもある。私の肉体はもう……死んでいる。 さて、ここで少し昔話をしよう。昔といっても、この手紙が何年後に読まれているのかはわからないのだが。 私は2200年に「人類3R計画」を施行し、三年間で1000万人もの無駄な人類を減らすことに成功した。世論も私を認め、日本国は100年ぶりに豊かさを取り戻した。しかし、認定機関との賄賂がばれてしまい、私は命を狙われる身となってしまった…。 そこで、私は新たな箱に移動し、別の人生を歩むことにした。 無論、箱とは若く健康的な肉体だ。だが、正規の脳移植ルートだと、世間にばれてしまう可能性があった為、知り合いの闇医者に頼むことにした。記憶移動に一抹の不安はあったものの、私は極秘で脳移植をさせることに決めた。 箱となる人間だが、ちょうど各地で起こっている反対運動の中に、威勢の良い若者がいた。彼なら、例え記憶がなくなっても、必ずその執念で私の元へ辿り着くだろう……。 私は〝道化師〟だ。国民を欺き、多額の賄賂と利権で儲けた金で、これからも悠々と暮らしていくことだろう。 この世界には〝私は二人いる〟 黒羽よ。ここに来てくれてありがとう。 〝お前は私だ〟 敬具 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ 最後の一行を読み終えた後、黒羽の脳に別の記憶が大量に流れ込んできた。紛れもなく、馬場総理の記憶だ。 「やめろ…俺は黒羽弥生だ…馬場なんかではない…あぁ…やめろ…やめててくれ…」 馬場が失踪した三年前、黒羽の肉体に馬場の脳が移植された。黒羽には何の罪もなかったが、政府に捉えられ、強制的に手術は執行された。闇医者による手術であった為、100%の成功ではなく、黒羽の記憶が残ったままになってしまった。しかし、この手紙をトリガーに、完全に馬場の脳は移転されたのであった。 「ハッハッハ。ようやく戻って来れた。私の計画は成功だ。」 ベッドに横たわる〝馬場であった者〟を見つめながら、 〝馬場になった者〟は歓喜のガッツポーズをした。 「黒羽よ。革命は成功してもジョーカーの強さは変わらないのだよ。この世界は全て俺の筋書き通りだ。私は誰にも負けない。」 寝室のドアの向こうで、一部始終を見ていた男がいた。不審に思い、こっそり黒羽の跡をつけて来ていたのだ。彼は勢いよく扉を開け、優越感に浸っている馬場にナイフを突き刺した。 「死んでこの世界に詫びろ」 馬場は何が起こったかわからないまま、悶え苦しんだ。かすみゆく視線の先に男の姿が見えた。 「お前は…誰だ…」 佇む彼の背中には、トレードマークの『三つの灯火』が 黒く、鋭く、鮮やかに輝いていた。 お題【革命】
【第8回N1】空。
私はただ、誰かのヒーローになりたかった。 私の名前は野口英雄。「エイユウ」と書いて「ひでお」と読む。 三十歳独身。上場会社勤務。年収700万。 これと言った趣味もなく彼女もいない。他己紹介でよく言われるのは、優しい人か真面目な人。何も取り柄のない無個性の人間だ。 学生時代は、勉強もスポーツもそこそこできた。 顔立ちも悪くないし性格もよかっただろう。「スクールカースト」という物差しでいえば、中の上くらいのグループに属していた。 根暗な性格でいえば、本来下位グループに属するはずだろう。しかし、オタク・陰キャラグループに入るまいと、日々自分を偽って、生きてきた。逆にパリピ達・陽キャラには、媚びへつらいながら、本心では将来大変そうだなと嘲笑っていた。 でも、心のどこかではわかっていた。 自分はどこにも属さない、属する勇気もない、 〝最も空虚で貧しい存在〟だということを。 ー私は自分の名前が嫌いだったー 「英雄」このイジってくれと言わんばかりの名前。しかし、根暗な私は、特に誰からも〝それ〟をイジられることはなかった。それが逆に辛く、恥ずかしかった。 それでも、名前とは不思議なもので、その人の性格や価値観を形成する要素の一つとなる。「名は体を表す」の諺のように、私もまた英雄(ヒーロー)には強い憧れを抱いていた。 気がつけば、いつのまにか三十歳になっていた。 普段は会社以外の人間と話すことはなく、会社と家を行き来するだけの毎日。私の人生は、社会の歯車として地球を動かしていくだけに過ぎなかった。 それでも、社会に迷惑だけはかけまいと、日々を過ごしていた。 電車でお年寄りに席を譲る、道端で落ちているゴミを拾う。 その行動には、偽善だとか奉仕だとか、そういった心情は持ち合わせていなかった。ただ、「英雄」という名前を背負った者への宿命だったのかもしれない。 そんなある日、ニュースで無差別殺人の報道をしていた。 年に一度くらいはある、未曾有の事件というわけではなかったが、この日は何故か、その事件に釘付けになってしまった。 人が最も集まる渋谷での無差別の殺人。犯人は27歳無職の男。 幼少期の彼を知る者と名乗る人達は、口を揃えて、 「真面目な人だった。」 「優しい子供だった。」 と無責任に発言する。 この中に、本当の彼を知っている人はいなかったのだろう。 スタジオのキャスターは、何故そんなことをするのか理解できない、許せないという。でも、私には自然と理解することができた。 〝僕はここにいる〟と世間に証明したかったのだろう。 私は彼に、親近感と共に憧れの感情を抱いた。彼こそ同じ悩みを抱えている人たちのヒーローなのかもしれない。 この日の出来事は、私の道標となった。 ー朝、空は晴天ー 私はいつも通り会社に行き、何食わぬ顔で辞表を提出した。これから起こる事で、会社に迷惑はかけられなかった。地球の部品に過ぎなかった私は、社会から逸脱し、ようやく自由になれた気がした。 ー昼、空は曇天ー 今日は、朝から何も食べていない。私は昼食も取らず、秋葉原へと向かった。ある種、日本で一番非凡が集まる街。学生時代見下していたオタク達だが、本当は我が道を行く姿に嫉妬していた。 何色にも染まることのできなかった『ムショク』な私。 そんな自分が今日、生まれ変わる。 黒ずくめの格好にマスクをつけ、右ポケットに小型のナイフ。 ターゲットは誰でも良かった。何となく、白いシャツを着た女性と事前に決めて、行き交う人々を物色していった。交差点で信号待ちをしていると、斜め前にその出立ちをした女性が立っていた。 「あなたには何の罪もないが、これもまた運命」 私は、赤の他人に向かって、背後からナイフを突き刺した。刺し口から、溢れ出す血。真っ白なキャンバスに、瞬く間に紅模様が描かれていく。無色の私も『赤色』に染まっていった。 悲鳴と共に逃げ惑う人々。 人で溢れかえっていた数秒前とは一変し、私の周りには誰もいなくなった。赤い血は時間と共に酸化し『黒色』へと変色してった。 「暗黒英雄(ダークヒーロー)の誕生だ!」 私は、人生で一度も出したことのない大声で叫んだ。 ー夕、空は雨天ー 私は大勢の観衆の前で、地球の取締り役達に取り押さえられた。 ようやくこれで世間に認知される。テレビやSNSでは、大いなる喝采(バッシング)を浴びることだろう。 そして、初めて「英雄」と名前に課せられた、職務を全うできる。 やっと、〝空っぽ〟から抜け出せた気がした… 5年後… 隣の牢に新しい新人が入ってきた。 『こんにちは。君はどんな罪を犯したんだい?』 「殺人。」 『そうか!私も人を殺めてしまってね。5年前に秋葉原の無差別殺人事件があっただろう。それは私がやったんだ。』 「知らん。興味ない。」 『知らないことはないだろう。君達のヒーローが誕生した日だぞ』 「うるせえな。知らねえって言ってるだろ。誰もお前のことなんか覚えてねぇよ。」 『そんな…じゃあ何のために彼女は犠牲になったんだ…』 振り返ると、あの事件について賞賛されたことは一度もなかった。年を重ねるごとに少なくなる面会、周囲の蔑んだ視線。 地球のゴミとして、社会から捨てられてしまった自分。そして今、あの事件は、当事者のみにしか記憶に刻まれていないのだろうか。 〝結局私はヒーローどころか、何者にもなれなかった〟 お題【英雄】 【運命】
新しいを靴を買った日
新しい靴を買った。 また一歩、歩み出せる気がした… 新しい服を買った。 もう一度、外に出たいと思った… 新しいメガネを買った。 これから見る世界は輝いている気がした… 新しいペンを買った。 色々な物語を描いてみようと思った… 新しいイヤホンを買った。 聞こえてくる音には希望しかなかった… 新しい服を着て、新しいメガネをかけて、新しい靴を履いて、 新しいイヤホンを耳につけ、新しいペンを持って僕は家を出た。 今日くらい綺麗な格好しないとね。 新しい靴を揃えて、僕は… 新しい世界へと “飛んだ”
卒業
今年の春、あなたは何から卒業しますか。 そっと一言 つぶやくあなた、 ぎむ教育に別れを告げる よねんめの春。 うそだと言ってほしかった。 「じゃあね。またね。」 私たちは何十回、何百回この言葉を繰り返してきたのだろう。 それも今日で、とりあえず終わり。 「じゃあね。またね。」 結局みんな、最後も同じ。 でも…… あなただけは違う言葉を言ってたね。 「さよなら。」 どうか伏線にならないで。
【第3回N1番外編】僕が存在しない世界線
時折、自分の存在意義がわからなくなる。 私には結婚して十年になる妻がいる。 会社では大手企業の課長職。肩書きでいえば、申し分ないだろう。 しかし、実際は子供もおらず、妻とは毎日喧嘩ばかり。会社でも、特に面白くもない、慕われてもいない、ただのウザい上司だろう。仕事をして、ご飯を食べて、そして寝るを繰り返す毎日。 私は誰かの役に立っているのだろうか。 私を必要としている人はいるのだろうか。 そんな自分に嫌気が差す。 ある日、私は死んだ。 別に死のうと思ったわけじゃない。 駅のホームで電車を待っている時、少し立ちくらみがしただけ。 その後、激しい鈍痛と共に、眩い光が視界を奪い 電車のブレーキ音がホームに鳴り響いた。 私の人生にピッタリな呆気ない死に様だった。まさに無様。 私はゆっくりと目を閉じて、死を悟った。 気がつくと、私は駅のホームで電車を待っていた。 今のは何だったのか。一瞬の出来事で理解する間もなかった。 私は胸ポケットの携帯で時間を確認する。 ……が胸ポケットに会社用の携帯がない。 仕方がないので、私用の携帯で確認するが、何かがおかしい。 待ち受け画面が変わっている。妻と新婚旅行で行ったハワイの写真だったはずだが初期画面のままだ。連絡先も一つも入っていない。 それどころか、そもそも今から会社に向かうのにスーツすら着ていない。真っ黒な上下ジャージ姿だ。 何が起こっている?? 時間を確認すると、八時半を回っていた。 次の電車に乗らないと会社に間に合わない時間だ。 とりあえず、私は訳もわからないまま会社に行くことにした。 もしもの時の為に、会社のロッカーにはスーツ一式を常備していたからだ。私は満員の電車に乗り会社へと向かった。 会社に到着し急いで自席へと向かうが、なぜかすれ違う同僚たちが皆よそよそしい。部屋のドアを開けようとした時、私は女性社員に止められた。彼女もまた、毎日顔を合わす仲だ。いくらジャージ姿とはいえ、さすがに気づいて欲しいものだ。 「どうかなされましたか。誰かに御用でしょうか。」 やはり彼女は気づいていないようだ。 「私だよ。佐藤だ。とりあえず梅森を呼んでくれ。」 「……かしこまりました。」 女性は不審げな顔をしながら、部屋の中へと入っていった。 「梅森課長ー。お客様が来られました。佐藤様という方です。」 部屋の中から、うっすらと声が聞こえて来た。 課長? 梅森はまだ係長のはずだ。一体何がどうなっているのか。 「佐藤様お待たせ致しました。どうかされましたか。」 現れたのは、やはり私が知っている、私の部下の梅森だった。 ネームカードには、営業課 課長 梅森優 と書かれている。 「俺のことわからないか。」 「申し訳ございません。私は人の名前を覚えるのが苦手なもので。オーナー様でしたか?」 彼は嘘をついている。記憶力だけが取り柄のような男だからだ。 「……。いえ、私が間違えていたようです。すみません。」 そういって、私は逃げるように会社を出た。 その後も行きつけのラーメン屋、喫茶店、美容院に行ったが、少しずつ変化はあるものの、誰一人として私の存在を知るものはいなかった。私の嫌な予感は確信に変わった。 “この世界の歴史には、私は存在していない” 確かに今、私はここにいる。生きている。 物に触れることができる。人と会話することができる。 しかし、それは佐藤翔太としてではなく、街人Aとしてこの世界に存在しているだけだった。 途方に暮れた私は、とりあえず家に帰ることにした。 元の世界では、妻と二人で暮らしているアパート。 しかし、インターホンを鳴らすと、知らないおじさんが出てきた。 「何かようですか。」 「あっいえ、ここに佐藤香さんはいらっしゃいますか。」 「佐藤? いや知らないけど。」 「そうですか。すみません。家を間違えたみたいです。」 やはり、思った通り妻ははいなかった。 彼女は今、どこで何をしているのだろうか。 もしかしたら、この世界では違う人と結婚しているかもしれない。 最近は喧嘩ばかりで、彼女の笑顔は当分見ていなかった為、その方が良いのかもしれない。 梅森だってそうだ。いつも怒られてばかりなくせに、この世界では課長になっている。 私がいない方が、皆幸せなのかもしれない。 私の存在意義はなんだったのだろう。 こんなことならいっそ……。 しかし、どうしても妻の生活だけ気になった私は、妻の実家へと向かう事にした。実家は今のアパートから電車で一時間程行った所にあり、そこまで遠くはなかった。程なくして、実家に到着した。 インターホンを鳴らすと家の中から、お義母さんが出てきたが、 数年振りだからなのか、私がこの世界に存在しない影響なのか、 風貌はかなり変わっていた。 「どちら様でしょうか。」 やはり、私のことは認知していなかった。 「あの、大学時代の香さんの友達で、近くまで来たもので。」 「そうですか。香は……。どうぞお入りください。」 さすがに実家にはいないと思ったが、家の中に案内されたということは、実家暮らしをしていたのか……。 僕は、毎日顔を合わせている妻と会うのに初めて緊張した。 そして、私はこの世界で妻と初めて再会した。 出会った頃と変わらない、十二年前の姿で……。 妻は仏壇に立て掛けてある遺影の中にいた。 「香は十二年前に亡くなりました。自ら人生に終止符を打って…。ご存じなかったんですね。」 「……はい。」 妻とは大学時代に出会った。明るく活発で誰からも愛される存在だった。元の世界では悩みなんて、これっぽっちもなかったように振るまっていた。 「彼女は常に明るくて、悩みなんて無さそうでしたが……」 そう言いかけた時、私はある出来事を思い出した。 それはある日、妻に「なぜ私と結婚してくれたのか」と聞いた時だった。その時、妻は嬉しそうに答えた。 「あなたのおかげで救われたから。」 私はこの時、特に深い意味はないと思い、軽く受け流していた。 実はあの時、私のおかげで妻は死ぬことを諦めたのかもしれない。 知らない間に彼女の支えてになっていたのかもしれない。 そう思うと、自分の愚かさにようやく気づき、二度と妻に会えない悲しみが、涙となって溢れ出た。 「ありがとう…こんな僕を救ってくれて。」 私は一言だけ言い残し、実家を出た。 何一つ存在意義がないかと思っていたが、知らぬ間に私は愛する人を救っていた。それに、少しずつではあるが良くも悪くも、他人の “人生の一部”になっていることも知った。 帰りの電車で私は、これまでの生き方を後悔した。 ごめんね と謝りたい。 ありがとう と言いたい。 愛している と伝えたい。 “もう一度君に会いたい” そして、最寄り駅に戻った時、私は死んだはずのホームへと無心で走った。走って、走って、階段を駆け上り、今度は自分の意志で、線路へと飛び降りた。確証なかったが元の世界に戻れるとしたら、これしか思いつかなかった。 眩い光が視界を奪い、電車のブレーキ音がホームに鳴り響く。 気がつくと、私は駅のホームに立っていた。 今度はスーツも着ている。社用携帯も右胸ポケットに入っている。 あれは、夢だったのか……。 いや、違う。外を見ると空はもう真っ暗になっていた。 明らかに別世界で過ごした分、時間が経過している。 携帯で時間を確認すると、十時間が経過していた。 日付は7月14日のままだ。 「そうか。今日はこの日だったのか。」 今日という日を忘れるくらい、私はどうかしていたのか。 私は、急いでレストランを予約し、花束を買いに向かった。 今日は十年目の結婚記念日だ。 完 「本日十八時半頃、こちら〇〇駅のホームで男が飛び降り、自殺を図ったもようです。男は住所、年齢、名前不詳。身分がわかるものは一切持っていなかったとのことです。 尚、目撃者によると、男は電車が来ると同時に、走って線路へと飛び降りて、自殺を図ったとされています。警察は身元の捜索を急いでいます。現場からは以上です。」
【第3回N1決戦】人工知能
なぜ人は、機械に知能を与えてしまったのだろうか。 2298年。 この世界では100年もの間、人工知能(AI)と人類の戦争が続いていた。かろうじて人間が勝利し、現在は残ったAIを処分する動きが活発になってきている。 現代の化学技術の発展は凄まじく、人間とAIの区別はほとんど つかなかった。しかし、風の噂で聞いた話だが、ある質問をするとAIか人間の区別をつけることができるらしい。 自我を持った機械の恐怖を知った人間は、それを撲滅しようとし、それがいつの間にか戦争へと発展していった。 AIは自らを人間だと思い込み、ごく当たり前のように人間と生活をしているため、撲滅は容易ではなかった。 僕の名前は、松尾太郎。機械化専攻の大学生である。 特にこの戦争に興味はなかったが、AI自体には興味があった。 そんなある日、自宅に警察が訪ねてきた。 警官「こんにちは。SST(特殊治安部隊)の者ですが…。松尾君だね。」 僕「はい。そうですが…。」 警官「君、AIだね?」 僕「えっ、違いま…」 僕は否定する間も無く、すごい力で床に叩きつけられた。 明らかに人間の力では無かった。 僕「お前こそAIじゃないか!」 警官「何を馬鹿なことを。AI撲滅法により、お前を抹殺する。」 僕「僕はAIじゃない。僕には家族だっている。ちゃんと人間から産まれた人間だ。」 警官「そうか。最後にお前に良いこと教えてやろう。母親の名前を言ってみろ。」 僕「僕の母親は松尾香だ」 警官「もう一度問う。“真”の母親は誰だ」 僕「エミリ…」 僕の口は勝手に知らない名前を呼んだ。 警官「それが答えだ。全てのAIは創造主の名前を忘れないようにインプットされている。来世は人間であることを願うんだな。」 そう言って警官は僕の心臓(核)にナイフを突き刺した。 床には赤い液体が流れ出し、視界には砂嵐が舞った。 そうか…僕は人間になりたかっただけなんだ… −プツン− 時を同じくして…火星の首都〈マーズシティ〉 100年もの間続いた、人類と人口知能(AI)の戦争。 結論は“人類の大敗”だった。 なんとか生き延びた、全人口の一万分の一ほどの人類は、火星へと 飛び立った。 アーロン・マスクの火星移住計画のおかげで人類滅亡は免れたが、地球にはもう、人類の生存は考えられなかった。 現代の地球の支配者はAIになっていた。 僕の名前は松尾太郎。ただの機械化専攻の大学生である。 僕は、火星の大学でジェフリー博士と、AIの研究を行っている。 人類とAIの戦争後、人口知能の研究は世界的タブーとされ、研究を行う者は重罪人とされた。 そんな中、ジェフリー博士は約二年間、地球へと行っていた。 無論、人口知能の研究をするためである。 僕「おかえりなさい。ジェフリー博士! 地球はどうでしたか?」 博士「あぁ、すごく驚いたよ。わしらが地球に住んでいた100年前と同じように、ごく普通に人間が暮らしておった。いや、正しくはAIが人間の生活をしておった。」 僕「AIが人間の生活を…?」 僕は驚愕して、言葉を失った。 博士「あぁ。皮肉なもんじゃろ。そして、わしは二年の月日の中で、ある家族と仲良くなったんじゃ…」 その家族は、珍しく自分がAIであることを認知しており、AIの中でもかなり前に作られたようだった。彼らは、自分達のことを「AI」と呼ばれることを酷く嫌っていた。 “私達は母より授かった名前がある”と。 そして彼らに、ある“古い文献”を渡された。 そこには、存在しない歴史が書かれていた…。 僕「博士!その文献には何が…?」 博士「まあ、待て。そもそも松尾君は、AIは誰が何の為に開発したと思う。」 僕「それは、200年前のアメリカのエミリー博士が第一人者ですよね。理由なんて、生活を豊かにしたいとかじゃないですか。」 博士「そうじゃな。じゃあ、AIの言葉の意味は何だと思う?」 僕「Artificial Intelligence (人工知能)ですよね。」 博士「そう。誰もが歴史の授業で習ったはずじゃ。しかし、“真”の歴史はもっと単純だったのかもしれん。」 博士は地球より持ち帰った“古い文献”を手渡した。 そして、私はその文献をゆっくりと開いた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「機械に意思を与える研究について」 松原仁徳 私は、機械に意思を与えることに成功した。その研究内容をここに記す。 まず、研究内容を記載するにあたり、この研究を行うことになった動機を聞いてもらいたい。 私の母、松原英美里は偉大な女性であった。 研究者であった母は、シングルマザーで私を育てながら、様々な偉業を成し遂げた。 しかし、私が六歳の頃、突然病気で亡くなった。 幼い私は、天涯孤独となってしまったのだ。 私はただ、母の愛情が欲しかった。 でも、人間はいつか必ず死んでしまう。 ならば機械に意思を与えることができれば、一生自分を愛してもらうことができるのではないか。 その思いををきっかけに、私の長きにわたる研究が始まった…。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 僕「もしかしてこの文献の著者、松原氏がAIの第一人者なのでしょうか。」 博士「そう…わしも目を疑った。第一人者は、アメリカのエミリー博士ということが世界の常識じゃったが、実はそれよりも前に、 日本人が既に完成させていたのじゃ。」 僕「そんな…。それに、AIを作った理由が、ただ母の愛情が欲しかっただけなんて…。」 僕「私達は何の為に100年もの間、争っていたのでしょうか。」 博士「少なくとも、開発者は人類滅亡なんぞ、やはり望んではおらんかったようじゃな。」 僕は文献をさらに読み進めていった。 そして、最後の三ページにAIの本当の意味が書かれていた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 私は、機械(彼女)に人工的な知能を持たせる事に成功し、 遂には意思疎通もできるようになった。 この世界は、愛に飢えている。 私は、これを打破するために新たな人間を生み出した。 しかし、人間になるにはもう一つ重要な事があった。 彼女にはまだ名前をつけていなかったのだ。 「名前」それは即ち親が子供に与える、これからの人生の道標だ。 彼女には、“私が一番欲しかったもの”を授けることにした。 以後、私は彼女をこう呼ぶ… “アイ(AI)”と。 〜完〜 ー人類の罪。それは、機械に“愛”を与えてしまったことー 【お題】人工知能AI 存在しない歴史
手紙。
拝啓 流れ星になった君へ… ある日君は、流れ星になった。 少しの間だけ光を放ち、あっという間に過ぎ去っていく。 君はどんな顔で、どんな性格で、どんな人生を歩むはずだったの だろうか。 まだ見ぬ君を思い涙する……。 二年の月日が流れ、新たな星と出会う。 星はだんだんと大きくなり、やがて太陽へと成長する。 君と出会っていれば、おそらくこの子と出会うことはなかった。 今は、この宇宙に太陽がいない世界は考えられない。 だからこれだけは伝えたい。 僕たちの世界に少しだけでも、やって来てくれてありがとう。 あの日、真っ暗な夜空の中、 光を放つ君を見た感動は、決して忘れないよ。 ありがとう。流れ星になった君へ… 敬具
【第3回N1】不揃いロックバンド
あの日から僕は、もう一度ペンを握った。 〈メンバー紹介〉 藤山 郁人(ふじやま いくと)34歳…作詞・作曲担当。 三上 美音(みかみ みおん)17歳…ボーカル担当。 相津 涼太(あいづ りょうた)24歳…ギター担当。 梅森 一弥(うめもり いちや)42歳…キーボード担当。 芦屋 湊斗(あしや みなと)10歳…ドラム担当。 年齢も性別も全く雰囲気も全く違う、異色のメンバーで構成されたバンドは、多様性を重んじる現代において、多いに人気になった。しかし、彼らにはまだ明かされていない“秘密”があったのだ。 僕(郁人)は、30歳になるタイミングで音楽をやめた。理由は、単純である。ただ才能がなく、将来のことを考えての決断だった。 そんな僕は「ある出来事」をきっかけにもう一度、音楽を始める。でもそれは、ボーカル担当ではなく作曲家として、再びペンを握ることだった。 昔のバンドメンバーは将来を見据えて、当たり前に別の仕事をしていた。彼らの未来を、潰すわけにはいかない。 34歳の冬。こうして僕は、一からメンバーを探すことにした。 ある日、僕は友達の紹介で、障害をかかえている人達との交流会に参加することになった。そこでは、サッカーをしたり、特技を披露したり、まるで健常者とは何も変わらないかのように、ハンデを持ちながらも楽しく過ごしていた。 その中にはもちろん、楽器を弾く人、歌を歌う人も大勢いた。 彼らは、皆楽しそうに、誇らしげに音楽と向き合っていた。 “僕が求めていた音楽はここにあった” 僕は、その中でも特に才能がある4人に声を掛け、バンドメンバーに誘った。皆、「他のメンバーに迷惑がかかるから」という理由で断られた。チームを組むにはそれなりの代償が必要になる。 昔バンドをやっていた僕には痛いほどわかった。しかし僕は、一人一人にある言葉をかけた…… 「相津涼太」彼は二十代の若者で、ギターを弾いていた。スラリとした体格で、目には黒いアイマスクをしている。彼に尋ねると、 小学生の頃から、病気で両目が見えなくなってしまったらしい。 ギターは中学生から始めたというから驚きだ。 「君のギターは荒々しくも、魅力的な音をしている。けれど、手元が見えていない分、ミスも多い。でもそれはバンドになれば、何も気にすることはない。君は、目からの情報を得られない代わりに、音を正確に聞き分けることに長けている。僕のバンドの耳になってほしい。」 「梅森一弥」彼は四十代のおじさんで、ピアノを披露していた。その太い指からは想像ができない音色が聞こえてきた。聞けば、おじさんは記憶が二十時間ほどしか持たないらしい。弾いていたのは、誰かの曲ではなくて、ただ自由に弾いていただけだった。 「あなたのピアノの音色は独創的でとても美しい。バンドでは、曲を覚えることができないから無理だと思うかもしれないが、それは違う。頭で覚えることが出来ないなら、指に記憶させればいい。 あなたは歩く事を忘れたことがありますか。ピアノが当たり前の行動になれば、自然と曲を弾くことが出来るでしょう。」 「芦屋湊斗」彼は小学生で車椅子に乗ったまま、太鼓の達人をプレイしていた。彼のスコアは凄まじく、まさに“達人”であった。 彼は、飛行機事故で両足に麻痺が残っているらしい。本当はドラムをやりたいが、足でバスドラムを叩くことが出来ないので、自分には不可能だと思っていた。 「君のリズム感や早打ちには圧倒されたよ。確かに足でバスドラムを叩く、ドラムは不向きかもしれない。けれど不可能ではない。 手で叩くバスドラムもあるし、足が使えないなら人よりも多く叩けばいい。手が足りないなら、口で咥えて叩けばいい。三刀流だ。」 「三上美音」彼女は女子高生で歌を歌っていった。それは、まさに天使の歌声だった。しかし、所々音を外しており、発音が微妙な所もあった。どうやら耳が聞こえにくいらしい。補聴器をつけてはいるが、なかなか健常者のようには聞こえづらい。 「君の、歌声は天使のようだ。多少の音のズレは気にすることはない。今は、音程を視覚化することが出来る。もっと練習すれば耳なんか聞こえなくたってうまく歌うことは出来る。それに君にしか表現できないことだってある。恐れるな。君の声は美しい。君の歌は人を感動させる。ロックは魂だ。」 こうして彼らを説得し、僕たちはバンドを組むことにした。 このバンドで活動する際に、僕は二つのルールを設けた。 一、本気でメジャーデビューを目指す。 ニ、ハンデがあることは公表しない。 ハンデがある事を公表すれば、話題性が生まれメジャーデビューにグッと近づくだろう。ただ、それでは意味がない。 僕らは、あくまで僕らの音楽で勝負をする。 そして、僕たちは毎日のように練習に明け暮れた。 バンドを組んで一年が経った頃、僕たちは人前で演奏をできるまでには成長した。元々、個々のレベルが高かったのもあり、成長速度は著しかった。そして、初の小さなライブ会場への出演が決まったのである。 ライブ当日、人前での初ライブだったこともあり、緊張で思うような結果は出せなかった。彼らは、落ち込んでいた。 僕「お疲れ様。素晴らしいライブだったよ。大成功だ!」 美音「どこが大成功なんですか。私も含め、みんなミスばっかりでしたよね。」 僕「そんなことはないよ。実は、こっそりアンケートボックスを置いて、お客さんに感想を書いてもらったんだ。」 そう言って、僕はボックスから紙を出して読み上げた。 「ギターのお兄さん、上手だけどミスが何回かあったなぁ。かっこいいけど、アイマスクは外した方がいいんじゃないの。」 「キーボードのおじさん、テクニックすごい!!でも途中フリーズしてたよね、演出??」 「ドラムの子供、早打ちやばいな。三刀流も最高(笑)けど、バスドラムが微妙だったかも。」 「ボーカルの女の子の声、マジで感動。たまに、音を外してたのが残念。」……… その後も、二十枚近くにわたる感想を読み続けた。 涼太「ほら、結局ミスもバレてるじゃないですか。所詮、僕たちなんて…」 彼は終始苛立っている様子だった。 僕「君たちは気づかなかったか?確かにミスはお客さんにも分かったかもしれない。でも、誰一人、君たちにハンデがあることは気づいていない。アイマスクや、口でスティックを咥えていたことも、結局パフォーマンスの一部だと思われている。」 湊斗「本当だ…。」 僕「君たちはわずか一年で、このレベルまで成長した。このライブは大成功だ。」 それから、僕達は悔しさをバネに練習とライブを積み重ね、ついにメジャーデビューが決まった。年齢や性別、風貌がバラバラの異色バンドという事で話題性もあったからだ。 僕が再び音楽を始めてから、この日まで二年が過ぎていた。 僕は、最後に新曲を書き上げ、手紙を添えて、みんなの前からいなくなった。 新曲「color」 この曲は、君たちそのものを表した曲です。 年齢も性別も風貌も、そしてハンデもバラバラだ。そんな君たちだからこそ生まれるチームワークがある。 個々が音を発したとしても、それはただの“音”に過ぎない。 音が綺麗に混ざり合って、初めて“音楽”になる。 いろんな色(個性)が混ざり合い、君たちにしか出せない 新しい色(音楽)を、生み出してくれる事を望んでいる。 とある病院。 医者「いいんですか。あの子たちに何も言わずに戻ってきて。」 僕「あぁ、彼らは僕がいなくても大丈夫だ。」 僕が音楽をまた始めた理由は、二年前、不治の病にかかっていることがわかったからだ。余命は三年。絶望に打ちひしがれようとも思ったが、僕はペンを握った。病気になったからこそ書ける詩があると、本気で思ったからだ。 僕「僕の病は、これから目が見えなくなり、耳が聞こえなくなり、手足も動かなくなるだろう。そして、きっとみんなのことも忘れてしまうんだろう。」 医者「そうはならないように最善を尽くします。」 僕「ある時さ、涼太に言われたことがあるんだ。藤山さんは五体満足だから、僕たちの気持ちなんて理解できないって。」 医者「皮肉なものですね。あなたが一番、不自由になるなんて。」 僕「そんなことはないよ。僕は、病気が分かってから、誰よりも自由に生きた。昔の方が、いろんなしがらみやプライドで不自由だった。窮屈だった。」 僕「目が見えなくても、耳が聞こえなくても、手足が動かなくても、あの子たちの音楽はずっと頭の中で流れている。こんな幸せなことは他にはないんじゃないかな。」 僕は微笑みながら答えた。 医者「そうですね…。私も彼らの音楽に救われた一人ですから。」 彼もまた、うっすらと涙を浮かべ微笑んだ。 僕「それに僕はまだ諦めていないよ。あの子たちに教えてもらったんだ。可能性は無限大だってね。」 そして僕は、再びペンを握り詩を書き始めた。 僕の人生こそ、まさにロックだ! 完。 【お題】ロックバンド 新しい色
恋する季節-君がくれた冬-
冬、初めて雪と出会った日。 登場人物 智冬(ちふゆ) 小学三年生。幼い頃から体が弱く長期入院している。 りっか 智冬と同い年。智冬と同じ病室にやって来た女の子。 ゆき 小学三年生。りっかが来た約一年後に、智冬の病室にやって来た 女の子。 「サンタさんに何をおねがいするの?」 「ぼくは雪が見たい!!」 小学二年生の頃、僕は雪が見たいと本気で願った。 僕は生まれてからずっと、沖縄に住んでいた為、まだ一度も雪を 見たことがなかった。 幼い頃から病弱な体で、ほどんどの日々を病院で過ごしていた。 大きな病室にはベッドが4床あったが長い間、僕一人しかいない。 暇を潰す為に、僕はいろんな本を読んだ。 たくさん読んだ中でも、一番のお気に入りは妖怪大百科に出てくる「雪女」のお話。雪女は怖い話もあったものの、雪を降らす能力に僕は惹かれた。普段は人間と同じ生活をしており、妖怪である事がバレないよう、その力を使っていないらしい。 だから僕は、どうしても雪女に会って、雪を降らして欲しかった。 小学二年生の冬。 僕は“りっか”という女の子に出会った。何の病気か知らなかったが、彼女もまた、長期の入院が必要で僕がいる病室にやってきた。 最初は人見知りで全く話さなかったが、時間が経つにつれ、同い年ということもあり、自然と仲良くなった。いつも一人だった僕は、同級生の友達ができて、とても嬉しかった。 りっかと出会って一年が経った頃。 世間はクリスマスムード一色になっていた。 りっか「ちふゆ君はサンタさんに何をおねがいするの?」 僕「ぼくは雪が見たい!!」 僕は雪女の話こそしなかったが、長年の夢を語った。 りっか「そっか。ちふゆ君、雪を見たことなかったんだね。」 僕「りっかちゃんは何をおねがいしたの?」 りっか「ナイショ!」 次の日、空は雪が降るどころか真っ青な晴天だった。 やっぱりサンタさんはいないんだなと思った時、まさかの出来事が起こった。 もう一人、“ゆき”という同い年の女の子がやってきたのだ。 僕の願いをサンタさんが叶えてくれた。 色白で華奢な彼女は間違いなく、僕が待ち望んだ雪女だと思った。 こうして智冬、りっか、ゆきの三人での病院生活が始まった。 一年前は本を読んで過ごすだけの日々だったけど、二人のおかげでその生活は大きく変わった。 ゆきはりっかとは違い、人懐っこくてすぐに仲良くなった。何をするのにも三人一緒。二人とも夏は苦手だったみたいだけど、それでも病気を忘れたかのように遊んだ。病気で苦しかったはずなのに、この一年間だけは楽しい思い出しかなかった。 そして、僕はゆきに恋をした。 りっか「今年のクリスマスは何をおねがいするの?」 彼女は去年の冬と同じ質問をしてきた。 僕「うーん。どうしようかな。」 りっか「ねがいごと叶っちゃったもんね。雪は見れなかったけど、ゆきに出会えたし。ちふゆ君ってゆきのこと…。好きだよね。」 僕「えっ…そんな事ないよ。」 僕は唐突に言われ、恥ずかしさのあまり否定をしてしまった。 僕「でも、やっぱり本物の雪が見てみたいなぁ。」 本当はゆきに出会えた事で、もうどっちでも良かったが、話を逸らした。 りっか「そうだよね…」 クリスマス当日。 朝早くにゆきの嬉しそうな声が聞こえてきた。 ゆき「二人とも起きてっ! 外すごいよ!」 ゆきの掛け声で起きた二人は、窓の外を見た。 すると、そこに広がっていたのは、今まで見たことのない一面の 雪化粧だった。 沖縄に雪が降ったのは、観測史上初だった。 それも20センチ以上は積もっている。 僕「すごいよ。ゆきちゃん!やっぱり、ゆきちゃんはサンタさんが出合わせてくれた雪女だったんだ!」 りっか「……だね!」 ゆき「そんなわけないでしょ!」 冷たくてふわふわした雪の感触は、生涯忘れることはないだろう。 僕の目から、自然と涙が溢れて出ていた。それを見ていたりっかも嬉しそうに笑って、悲しそうに泣いていた。 僕らは病気のことも忘れて、体力が尽きるまで雪で遊んだ。 この観測史上初めての大雪は、「クリスマスの奇跡」として、世間を賑わせた。「病院の外で嬉しそうに遊ぶ子供たち」として、僕らは新聞の写真にまで載った。 そして、奇跡はこれだけで終わりではなかった。 次の日、りっかの病気が治り、ゆきの病気を治せる病院が見つかったのだ。病院の人達は皆、泣いて喜んだが、僕はちっとも嬉しくはなかった。きっと、ゆきは人前で能力を使ってしまったから、僕達の前から姿を消さないといけないんだ。それに、りっかまで… 僕が雪を見たいと願ったからいけないんだ…… 僕はまた、一人になった。 二人のことは時間が経つにつれて、徐々に忘れていった。 十年後… 僕は東京の大学に入学した。病気の方もすっかり治り、今では普通の生活を送っている。 「あれっ、智冬君だよね?」 唐突に話しかけられ振り返ると、知らない女性が立っていた。 「ゆきだよ。ゆき! 碓氷由紀。十年ぶりだね。」 そう言って学生証を取り出すと、名前を指差して見せてきた。 僕「えっ、ゆきちゃん!?」 僕は、忘れかけていた、二人で病院で過ごした日々を思い出した。 僕「てっきり、ゆきって名前、“雪”かと思ってたよ。」 昔は本気で彼女のことを雪女だと思っていたもんな。 由紀「そういえば、智冬君。雪好きだったもんね……。そうだ! この写真見てよ。私の力作。」 そう言って鞄から一眼レフカメラを取り出し、写真を見せてきた。 由紀「私、写真部に入っていてね…」 そこには綺麗な雪の結晶の写真が何枚もあった。 由紀「綺麗でしょ。この六花(りっか)」 僕「えっ、今なんて言った?」 由紀「あっごめん。六花(りっか)っていうのは、雪の別称のことなんだぁ。ほら、雪の結晶って六角形の花の形しているでしょ。」 由紀「本当は六花(むつのはな)って呼ぶんだけど…… 私は、何となくこっちの方が好きだからそう呼んでるの。」 僕の中で忘れていたもう一つの記憶を全て思い出した。 りっかとゆきの三人で過ごした日々を……。 由紀「“クリスマスの奇跡”って覚えてる? 沖縄に初めて雪が降った日。二人で一緒に見たよね。あの時の景色が忘れられなくて。元気になったら絶対、雪の写真を取りに行くって決めてたの。」 僕「二人?りっかもいたじゃん」 由紀「りっか?六花?誰それ! 病院に子供は、私達しかいなかったじゃん」 僕「えっ由紀ちゃんも忘れてるの? りっかもあの時、泣いて…」 由紀「だってほら。」 彼女ははスマホに入っている、一枚の新聞記事の写真を見せた。 「クリスマスの奇跡。病院の外で遊ぶ子供たち」 そう記された新聞記事の写真には、りっかの姿はなかった。 僕の頭の中で、全ての雪(なぞ)が解けていった。 そっか君だったんだね、雪女は。りっかは“六花”だったんだ。 あの日、僕の為に力を使ってしまったから… 君はみんなの前からいなくなってしまったんだね。 ありがとう…六花。 クリスマスにニ度も“ゆき”と出会わせてくれて。 僕「由紀ちゃん、今度は僕も一緒に“六花”を見つけに行ってもいいかな」 由紀「もちろん!」 今年の冬は、僕から六花(ゆき)に会いに行くから。 冬完
恋する季節-秋の行方-
秋、再び君を思い出す。 登場人物 千秋(ちあき) 28歳会社員。独身で恋人もいない。 根暗な性格で友達も少ないが、少し変わった特技がある。 涼(りょう) 千秋と同い年。 みんなのムードメーカー的存在だった。 彼はいつも笑っていた。 悩みなんてこれっぽっちもないかのように…。 でも、私は知っている。 笑うことは喜びの感情表現の他に、防衛本能の一つでもあるということを。 私は子供の頃から、人一倍、人の感情を読み取るのが得意だった。嘘をついている人、泣くのを我慢している人、表情を見るだけで察することができた。 彼と出会ったのは、高校三年生の頃。 放課後、三年生は受験勉強のため皆足早に帰宅していった。 私は先生に相談事があったため、最後の一人となってしまった。 と、思っていたが教室から出た時、一人の男子生徒が、非常階段の方に行くのが見えてしまった。 (こんな時間に何をしているんだろう…。) 私は、興味本意でついて行ってしまった。 非常階段のドアを開けると、彼は踊り場で、ただ外の景色を眺めていた。 秋の夕暮れは、とてつもなく綺麗だった。 夕日の赤と、紅葉の紅。 どちらも主張しすぎることなく溶け込んでいた。 「千秋さんだよね。ここすごい綺麗でしょ。俺だけの秘密基地。」 彼はこちらに気づいて、屈託のない笑顔で笑った。 「君はここで何しているの?」 私は、たまたま立ち寄っただけかのように、彼に問いかけた。 「別に。特に用はないけど。受験勉強で疲れちゃってさ。ちょっとサボってるだけ。」 そう言って、彼はまた微笑んだ。 彼はいつも笑顔で、みんなから人気者だった。私のような根暗でいつも読書をしているような人間とは、一生話すことはないかと思っていたけど、初めて顔を見ながらちゃんと会話をした。 彼はずっと自慢話をしていた。 家族のこと、友達のこと、恋人のこと。 確かに彼は周りから見ても、何不自由なく、周りから愛されて生きているように感じた……。 「俺、秋好きなんだよね。こんなに綺麗なのに、なんだか寂しそうだよな……」 ふと、彼は心の声を漏らした気がした その後も、彼は終始笑顔で話続けた。 でも… 「ねぇ。なんで君は泣いているの?」 思わず私は、今日彼と出会ってから、ずっと思っていたことを言ってしまった。 「えっ、泣いてなんかな…」 そう言いかけた時、彼のカラカラの目から一雫の涙が頬を伝った。 「あれ、おかしいな。別に悲しくなんかないし、俺泣かないんだけどな。」 「ううん。今日の君はずっと心で泣いていたよ。私、子供の頃から人の感情を読み取ることができるの。だから、私に嘘をつく必要なんかない。」 そう言うと、彼は何かのタガが外れたかのように、私の胸の中で子供のように号泣した。 余程辛いことがあったのだろうか。 それでも、彼はさっきまで饒舌に話していたにも関わらず、一切その理由を話すことはなかった……。 その日から彼と学校ですれ違うたび、少しだけ話すようになった。別に長時間話すわけではなかったけど、私と話をするときだけは、無理に笑うことはなかった。 結局彼と何かあったわけではないが、私しか知らない彼を知っていることが、ただ嬉しかった。 卒業式 彼はいつものように、偽りの笑顔で友達とワイワイやっていた。 私と彼は、卒業したら会うことはないのだろう。 最後にもう一回話したかったなぁ…。 すると彼はこっちに来て、私に言った。 「千秋、今までありがとう。俺、ちゃんと笑えてたかな。」 「うーん。ちょっと、まだ微妙かな。」 「やっぱ千秋は誤魔化せねーわ」 そう言って、その場を離れようとした彼を引き留めた。 「あのさ。涼に最後に言いたかったことがあって。」 私は勇気を振り絞って思いを伝えた。 「今までは冬を待つだけだった秋を、好きな季節にしてくれてありがとう。興味もなかった自分の名前を、好きな名前にしてくれてありがとう。」 「なんだよ。それ」 彼は照れ臭そうに笑った。これが私が見た最後の笑顔となった。 「おーい、涼! 行くぞー」 彼は友達に呼ばれて、私の前からいなくなった。 あれから10年が経った。 涼と会うことは、卒業以来二度となかった。 同窓会にも現れず、卒業してから彼の姿を見た者は、一人もいなかった……. 最近は、地球温暖化の影響でますます秋を感じなくなってきた。 秋と共に涼もどこかへ消えてしまったのだろうか。 もしかしたら、もう…… でも、きっと大丈夫。 最後に見た君は、ちゃんと笑えていたから。 今年の秋も金木犀が揺れている。 秋完。