旅するわぽん

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旅するわぽん

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窓に映る恋は

「瀬田(せた)ー! パス、パース!」 「しねぇーよ! マーク外してから言えってーの」 「コラーッ。一人で格好付けんな!」  軽いフットワークでボディフェイント、ディフェンスを交わし、その勢いに乗ってドリブルシュートを決める。 「はっ! 格好良くて何が悪い?」  瀬田は冬空の蒼に向かって白息を吐くと、文句を垂れながらやってくるチームメイトの牧野と、その奥、校舎二階の窓から牧野(やつ)を見つめる“彼女”に釘付けになる。 「お前さ、“マーク”外さないの態(わざ)と?」 「んなワケあるか!」  結露で曇った窓ガラスに左右反転した文字。  見えなきゃいいのに、見なきゃいいのに、良すぎる視力は否応なく『すき』の二文字を目に映す。  ドスッ! 「ふふんっ、隙あり! おれもシュートを決めてやったからな、独りよがりの格好付けマンにッ」 「は?」  瀬田の背中を一蹴した牧野はドヤ顔だ。  呆れて物も言えないとは正に。 「俺は『すき』を外してやってんだよ、ばーか」 「はぁ?」  サッカーも恋も鈍い牧野には、曇った窓ガラスの向こうは全く見えてない。自分自身でそれに気付いてから、的外れなシュートをしたことを大いに悔め。  そんなことを考えて、ふと見上げた校舎二階の窓……と、気のせいか交わる視線。 「?」  曇りガラスに書かれた『きす』の文字は、頬を仄かに赤く染めた彼女の指が慌てふためくように消していた。(終)

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窓に映る恋は

【エッセイ】魔法の言葉

『瑛人(えいと)くん、大丈夫よ。先生も一緒にいるから、大きく息を吸って吐いて、最後にあと一回だけ、頑張ってみよっか。ね?』 『せんせぇ……ボク無理だよぉ……。大きな声、きっと出ないもん』 『ふふっ。小さな声は出てるもの。せーの!であと一回だけマイクとお喋りしてみましょう』  せーの!  もじもじしながら壇上に立たされていた幼稚園での5月のお誕生日会。あの時、先生の小さな声が俺の人生を動かした。 『す……すみれ組の中条瑛人(なかじょうえいと)です……! え、っと、5歳になりました!』  舞台を囲う小さな手のひらが一斉にパチパチと音を鳴らして誕生日を祝うと、先生がピアノでバースデーソングを引き継ぐ。弾むような伴奏は子供達の元気な歌声を響かせた。  あの時に先生が『あと一回』の魔法を唱えてくれたから現在(いま)がある。……そう思っている。  【再生】が【停止】になったところでイヤホンを外すと、後輩の下北(しもきた)が衣装の装飾品を届けに来た。相手役の役者が代役に変更したとのことで、急きょ左胸に刺すコサージュを変えなくてはならなくなったのだ。 「瑛人さんって、いつもイヤホンしてますよね。好きな音楽でリラックスですか?」 「いいや。魔法を掛けてもらってるんだよ、イヤホンを通して。極度のあがり症だからね」 「またまたぁー。あがり症なのに主役って……冗談キツイですから」  冗談じゃないんだけどね……と思いながら青色のコサージュを刺すと鏡を覗いた。  昨日届いた先生の訃報に目が腫れるくらい泣いた。それがわからないくらいに、メイクでその跡も綺麗に消えている。鏡に映っているのは貴族の令嬢を口説き落とす詐欺師の冷酷な男だ。  『あと一回』は、先生がくれた魔法の言葉。後悔しないための大きな勇気をくれた言葉だった。  あの時の小さな声を忘れることはない。  舞台役者を目指す切っ掛けになった先生からのエールをリフレインして人生(いま)に活かしている。  せーの!  開幕のブザーを舞台の中央で聴く。ふぅ……と軽く深呼吸。幕が上がると四方八方からのスポットライトが眩く照らした。  俺は足を揃え、優雅にお辞儀する。 「シャルロット様、私と一曲お相手願えませんか?」  瞬間だけ魅せる俺の冷ややかな視線と声の抑揚は、観客の視線と関心を一身に集めていた。(終) * * *  閲覧ありがとうございました。エッセイ最終回は『魔法の言葉』というタイトルで物語を執筆したものを文頭に載せてみました。今更なことですが「こんな感じの話を描いています!」という自己紹介です。  好きな食べ物はモンブラン、好きなアーティストは髭男、好きな小説家は有川浩さん、好きな漫画はetc……  通常のことを書いてもツマラナイかなと、作品でお目汚し(笑)  《あと一回》  『魔法の言葉』で題材にした言葉ですが、書いてみると"諦めの悪い言葉だな"という印象も少なからず。  《もう一回》  こちらも同じ印象の言葉。  でも、やりたい事や前に進むための一歩に使うなら"諦めの悪い”が好印象になるから不思議です。  頭の中で考えた小説を投稿していると、閲覧数もコメントも少なくて「辞めようかな」……とネガティブに思う日も周期的にありますが、好きな事だから簡単にはやめられない。  簡単にやめられる事なら、それまでの趣味(もの)です。  諦め悪く「あと一回」「もう一回」で執筆を楽しむ方が、日々の活力になる。最近は胡座をかいてネット小説の界隈をふらふらしてます。  その"ふらふら"がポジティブに連携して良い塩梅です。 ーー草々。(2024.10.1)

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【エッセイ】魔法の言葉

【エッセイ】本当は書きたいカテゴリー

 本当は書きたい“カテゴリー”が、実は書いてみたら苦手だった! ……という残念な発見をしたまぽわぽん。  皆様はこのような執筆体験をされたことはありますでしょうか。  そんなわけで。  今回のエッセイで使用したサムネイルは『白の魔女と黒の王子は共鏡(ともかがみ)の前でキスをする』というタイトルで、だいぶ前から物語を書くぞと下準備だけはしているのに、筆が進まず、モヤモヤ継続中で保留しているのを引っ張り出して来ました。(説明が長いね……) 「ファンタジーが描けない?」  発想の勢いに乗ってお試しで書いてみたら、世界観の広がりに描きたい場面のサイズが合わない。  呆然、愕然、絶望がパアッと匂い立ちました。  以前、サムネイルから物語を考えるという企画をしたことがあるので(楽しかった思い出の一つです)、タイトルからでも構想は行けるかな?と思っていましたが、甘かったです。  ディズ◯ーのプリンセスストーリーみたいな幸福感とキラキラを読後に残したいという執筆目標は、思ったよりも敷居が高い。絶壁に登山するような気持ち。  知識を得てからの再チャレンジか、気分次第で没。  キラキラでロマンチックなストーリーとは裏腹な考え事をしながら、昨日は『どこからでも切れます』と表記されているタレの袋を『どこからも切れない』と指先で感じつつ、夕飯作り中のキッチンで悶々としてました。 ーー草々。(2024.9.26)

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【エッセイ】本当は書きたいカテゴリー

【エッセイ】交流とフィードバック

 全5回を予定しているコチラのエッセイは今回で3回目。順調だと思いたいです(笑)  まぽわぽんは最近、執筆三割に読書七割でネット小説を楽しんでいます。嬉しいことに、作品を読み合って感想を言い合えるネット間の知り合いが沢山増えました。  執筆と読書の割合が相互の交流に丁度よかったのかもしれません。 ーー反面。執筆には四苦八苦することが増えました。  読書七割で拝読させてもらっている作家さまの技量が凄すぎて、拙作へのフィードバックが止まらない事態に直撃です。下手さが際立って赤っ恥青っ恥〜!(笑)  執筆が三割の詳細を書くと。  書いて、見直して、書いて、更に見直し。酷いと全消しからの書き直し……トライアンドエラーの執筆で時間がかかるからですね。 「誤字脱字は絶対にダメだから三回は見直して。音読するといいかも。あとは『嬉しい、良かった、思った』の言葉を何度も使わないことと『だから、そして、また』の接続は続けて使わない。わかった?」  ウチの男子ABの課題にあれこれ口出ししている事柄は、そのまま自分にもグサーッと突き刺さって来て痛いです。書き直す度にミスが量産(笑)  振り返ると、ノベリーで投稿した作品は内容が薄っぺらいものが多かったなと猛省しています。  反省は今後に活かさなきゃ損ですよね?  現在執筆している作品が書き終わったら、ノベリーに投稿している『風船は空』のリメイクをしようかと考えています。  このお話と『ウサギとカメ』の童話を掛け合わせたストーリーに仕上げる予定なのですが、深みと重みが出るといいな。 ーー草々。(2024.9.25)

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【エッセイ】交流とフィードバック

【エッセイ】今日の献立、今日のお題

 一日三食の料理。  毎回きっちりと献立を考えているお母さまを、ウチの男子Aが幼稚園に通っていたときに拝顔致しましたが、まぽわぽんはきっちりとは程遠いので“その日暮らし”の適当です。 「何か食べたいものある?」  この質問に、 「何でもいーよ!」  こう返事をされた時は、漏れなく献立は『カレーライス』になるのでした。まぽ家はジャ◯カレー中辛とバー◯ンドカレー甘口のハーフアンドハーフが家庭の味です。 「えー!? この前もカレーだったよ?」  こんな感じで、匂いホイホイでやって来た感想については当然ながら瞬殺です(にっこり)。 * * *  ーーさて。  “この前も”が通じないのが小説を書く上での『お題』ではないでしょうか。似たような物語を量産するわけにもいきませんしね。  少し前まではノベリーでも『お題』の提供はあったのですが、現在は無し。自力で捻り出すしかない……といっても、面倒で自分的にはつまらない(笑)  『お題』で物語を書くのが好きだったので、ノベリーはダメだと判断して暫く他のアプリを導入してみた期間がありました。昨年の五月から今年の五月までのことです。  毎日ひとつ『お題』が提供される“書く習慣”というアプリです。ノベリーの作家さまも多く見受けられましたので、ご存知の方は多いかと。  一年間連続投稿してみたところ、365個分の『お題』が用意されてました。  作品の作家さまへの気遣いは全くなく、自己顕示欲を出すには道場破りのような気合いが必要なのかもしれないアプリ?と直感で思いましたが、文章と発想力を練習するには最適な場でした。  『お題』の投稿形態は日記だったり詩や俳句、短歌だったり小説だったりと、ユーザーの自由でバラエティーに富んでます。  もし何を書けばいいのかわからない時には便利ですよ。頻繁にカレーライスが出されても飽きますしね(笑)。  本日の『お題』は“大事にしたい”だそうです。  皆さまならどんな物語が思い付くのでしょうね。なんて。 ーー草々。(2024.9.20)

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【エッセイ】今日の献立、今日のお題

【エッセイ】言葉の大小(代償)

「どうして僕を阿呆に産んだの? ちゃんと産んでくれなかったの?」  現在、ウチにいる男子はイジメに遭っていまして、つい最近…その時は先生にも味方になってもらえず帰宅。大泣きして、糾弾した言葉が上記のものになります。 「阿呆の部分を埋めるのが親なの! 産んだ責任がとれるから親なんだよ!」  虚勢や見栄っ張りもあるかもしれないけれど、嘘偽りのない気持ちで応えました。号泣です。  他者とのコミュニケーション面や情緒面に不安要素があって、学校では支援教室も利用しています。正直、ウチの男子からの言葉は胸に刺さりました。 * * *  さて、言葉の大小(代償)でふと思うこと。  ノベリーのストーリーズは、鬱憤払拭に気晴らしにと流し読みをしていますが、個人の方が他者を考えず他者にとって面白味の少ないことを連投していたり、討論をしていると感じたり、自作品に陶酔していると思われる書き込みや他者の作品を恐らくは読まずに自分の作品を「読んで読んで」と押し売りをしている方がチラホラ。  どうにも苦手で、ブロックしています。  一体どれくらいの方の投稿が見れているのか、または見れていないのか謎。  “ストーリーズ”ではグッと惹きつけられるような言葉での作品紹介や作家さまの日々の物語が綴られていてもらいたい…。  近頃を思います。  それは自分もお邪魔するときは意識します。  作品を読むか読まないかの判断基準にもなるでしょうし、下手なことは書けませんよね(笑) * * *  言葉の大小うんぬんは置いておくとして、サムネに載せたのは最近食べた蜜芋のクレープです。自宅から割と近いところに和クレープのお店が出来たので、相方と調査してきたのでした。  一つ990円、ご褒美級に高い!  とはいえ、秋スイーツはカロリー的に背徳ですが素晴らしいに尽きます。  悶々とする気持ちを払拭する甘さを秘めていますし、更には、創作意欲や執筆する気合いも体内に浸透する効果も大!  ちょっとツマラナイなぁ…と感じることがありましたら、お腹を満たして心も満たしてみたら如何でしょうか。なんて。 ーー草々。(2024.9.19)

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【エッセイ】言葉の大小(代償)

みかんの神様

「はいっ。みかんどーぞ!」 僕はイジメに遭っていた 人生の三分の一程度しか頑張ってないけど 正直もう生きていたくないな…て 出口の無い悩みを真っ黒に考えながら歩いていたら 「だーかーら! みかんどーぞ!」 神社の前でみかんを一個、ポンッて無理やり手渡されたんだ * * * 「え、要らない…けど」 「ん? あぁ! 一個じゃ足りないって!? それなら箱でどど〜んっ」 「いやいやいや! そういうんじゃなくって」 問答無用? なんなの? 見知らぬ少年にグイッとみかん箱を押し付けられて、勢いで尻餅をつく 少年は地面にどっかり座った 「そういうもんだよ? 先のことを心配するより五分先の『おいしい』を考えてご覧よ!」 ニカッと笑う少年に釣られた僕の表情(かお)は、寂れたロボットのように動かない 「……考えられないよ! だって僕、辛いんだ」 涙がぽろぽろ、ぽろぽろ 親にだって見せられない泣き顔を、なんで見ず知らずの人に見せちゃったんだ? "心底不思議" 少年は目を丸くして口をぽかんと開けた 「変なのー。人間の『辛いこと』は『おいしいみかん』より大切にしなくちゃいけないの?」 「うっうっ…。大切にしたくなんかないよ、辛いことなんか要らないもんッ」 尻餅をついた僕の髪を、わしゃわしゃ 背筋と腕をピンと伸ばし直して、わしゃわしゃ 少年は何度も撫でて 満足そうにパタン! 大きな尻尾を振る ……尻尾? 「そうだよね? そうだよね? よかったー。人間と神様は意思疎通ができてこそのWinWinなんだもの」 スクッと立ち上がってクルッと背中を向けた少年は スキップしながら鳥居の中に消えていく ……え、少年!? ふわっふわっとスキップに揺れた大きな耳は、狐の耳 「ちょっと待って。きみは何者?」 不安定にみかんの箱を抱えて後を追う 誰も気付かないような神社の片隅に、苔だらけの 小さな稲荷神社 「狐に、化かされた? それとも、本当に神様が?」 錯覚と幻は悪戯に相槌を打つ サァーッと吹き荒れた突風が、カララン…カララン…と境内の鈴を鳴らして通り抜けていった * * * 手に持ったみかん箱は"本当"で 優しい味がしたのも五分後の"本当"だった 苔がより一層濃くなり、神社の陰にすっぽりと隠れてしまった 稲荷神社 「狐でも神様でも夢でも現実でもいいんだ。 "ありがとう"って一番大切だった気持ち、言うのが遅くなってごめんなさい」 あの日から二十年も経って ずっと言えなくて、やっと言えた感謝とお辞儀 『辛いこと』が全くない日は少なくて 『五分先の良いこと』に繋げる毎日に手一杯 "ありがとう"が遅れた理由は、ちょっと言い辛い 「人間の寿命は八十年だったかなぁ。 狐さん、僕の一生は『五分先の良いこと』を考え続けたら、あっという間に八十年経ちそうな気がするんだよ」 『辛いこと』で泣く暇もない "そりゃあ大変だ! みかん一箱じゃ足りないよね? もっとあげなくちゃ" 「……え?」 果物のみかんを食べるよりも呑む機会が増えた僕は ラベルに『蜜柑が一杯(いっぱい)』と大きく書かれたお気に入りの酒をお供えしながら、目を瞬く 今のは幻聴? それとも本当? 狐の少年の声が聴こえた気がして「もう一度!」と願う 神社の静謐に耳を澄まして、目を閉じた ふわっふわっと横を通り過ぎていく風の匂いは みかんを運んでいる(終)

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みかんの神様

【くらげ。さま企画】橙の弦を弾く

人々の足は歩行を止めない。 幾重にも響くその足音は、都会の片隅にどんっと立ち止まり、楽しそうに俺のギターを聴いていたきみを鮮やかに彩っていた。 「きみが好きな音、だね」 夕焼けに目を眇めながら橙に染まる弦を弾く。 ギターのチューニングを繰り返し、ようやく思い通りの音を掴んでピックを離した。 ポケットから小瓶を取り出して蓋を開ける。 この中に、手紙を入れるらしい。 偶然の一致、だ。 SNSで大人気の企画【小瓶の手紙】に便乗しようと思ったのは、届けたいものが届けたい場所と重なったから。 小瓶に詰めるのは手紙だけど、俺は曲を詰める。 手の届かない場所にいるきみに、形の見えない音を贈る。海に流して届ける手紙の郵送手段も、好都合だと思った。 6弦に、思うままの歌詞を乗せてみた。 小瓶に耳を傾けたら『ラブソング』が聴こえるよ。 瓶に何も入ってないの?と呆れるくらいなら、いつもの場所に来たらいいじゃない。弾き語りをしよう。 〜♪〜♪〜♪ 蓋を閉めて、小瓶をポケットに戻す。 今夜、夜行バスに乗ったら朝イチで海。そうしたら小瓶を波に運ばせてみよう。 夕焼けに輝く海が見られる頃には、小瓶の手紙を見つけたきみが、笑ってくれるんじゃないかな。(終)

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【くらげ。さま企画】橙の弦を弾く

小説アプリ『空白のカギカッコに。』

"お題は『バレンタインデー』です。さあ、そこのあなたも素敵な恋を書いてみませんか?” 『小説アプリ』をスマートフォンにインストールしてから、ちょうど一年。僕は首を横にして、画面を眺めながら「うーん…」と唸った。何も浮かばない。 “恋”ってなに? 小説や漫画で感じた『恋の素敵』は、恋を知らない未経験の僕が文章に起こしたら、真似事の嘘っぱち。 嘘を素敵に変換させるなんて無茶難題だ。 “恋”ってなんだろう。難しい。 今回のお題はスルーかな。 ギブアップという名のログアウトをしようかと思ったとき、新着の作品が目に映った。 感性を擽ぐる、文字の甘い匂い。 タイトルは『空白のカギカッコ』 カテゴリーは『お題』 指がツーッとスワイプして作品をタップした。 本文は、たったの二行だ。 【記憶に蕩けるチョコレートは『』。  心に贈った、私のバレンタイン】 カギカッコは……タイトル通りの空白。 敢えて書かなかった? 書き忘れ、ではないと思うけど。 セリフ? 味覚? それとも恋の形状だろうか。 わからないカギカッコに僕の想像力は夢中になっていた。 たったの二行に胸がときめいて なんて心地良く響くのだろう……と 胸に刺さる“素敵”が、じんわりと体中に広がるのを感じた。 恋。 僕は人に恋をしたことはない。 けれど、空白のカギカッコに恋をしたみたい。 思考はあっちこっちと揺れ、優しい温度に包まれて、出会ったばかりの"素敵"に鼓動が跳ねる。ふわふわした想いはラッピングされていく。 「あ、そうだ!」 ポケットの中に入れていた一口サイズのチョコレートを思い出して口に放り込む。 思ったより苦い? ビターな味わいを口の中で転がしながら、作品の作者に“イイネ”のスタンプを送った。 小説アプリのトップページは、華やかなピンク色のデコレーションで『バレンタインデー』を飾る。 締切は二月十四日まで。書けそうだと思った。 心に贈るバレンタインは、僕から僕への文章。 それなら空白のカギカッコに添えるトッピングは決定済み! "素敵"を変換して"恋の告白"にしよう。 下書きのページに指先を移したとき、カカオの香りがふわり。微糖の栞を挟むみたいに口の中のチョコレートが蕩けた。(終) ◇◇◇あとがき◇◇◇ 閲覧ありがとうございます。 生存報告に一筆、物語を失礼致しました。バレンタインに恋バナはご馳走のようですね。笑 * * * さて、ここからはフォロワー様への『お手紙』。 まぽわぽんは基本、執筆と読書はフィフティーフィフティー。フォロワー様の作品を拝読しつつ執筆を楽しんでいる……といった感じでノベリーを使っているですが、ここ最近、とても執筆欲が高くて書きたいものが多く読書に手が回っていない状況です。 眼精疲労と視力低下の崖っぷちともいう……滝汗。 落ち着いた辺りで皆様の作品をゆっくり拝読して回りたいと思っています。作品に思う反応も、少しでも多く残したいです。 投稿時期とはズレた頃にお邪魔するかと思いますが、その時は何卒よろしくお願いします。 作品を通して、楽しくノベリーライフを共有させて頂き皆様には心から感謝しています。草々。

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小説アプリ『空白のカギカッコに。』

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俺は今、焦っている…。 「部長〜! 昨日は本っっっ当にありがとうございました! あんなにも被害甚大でお先真っ暗なミスを助けてくれて…。思い返しても憧れと感謝しかないですよぉ。ううっ」 目を潤ませて異常なくらい褒めちぎって来る部下に 「本当に格好良くて男でも惚れます…」 話し掛けられたのと同時に踏んだ、右の革靴の底にベッタリ付着してしまったチューインガムと 「さすがだなぁって思っているんですよ? 仕事で知らない事は何もないってくらい博識だし、素敵な語彙力をお持ちだし、服装もセンスよくって」 五分前に踏んでしまい、左の革靴の底にジャストで嵌まり込んだ犬の糞を 「おれ、部長のこと好きなんです!(鼻息っ)」 どう告げるべきだろうか……と。 「はぁー。爽やかに聴き流すところも最高っていうか? うわっ!なんか、おれ一人で興奮しててすみません」 交差点の信号が三回も青に変わった。 さて、どうしたものか。 俺は……一歩も動くことができない。(終) (お題“チューインガム”)

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