マーメイド・シンドローム
今から二千年前。太平洋のどこかに、下半身が魚で上半身が人間という、所謂人魚と呼ばれる者達の集落があった。そこの長の末娘アリエルは、人間の世界に憧れを持ち、足を欲した。
ある夜、海面に映る鮮やかな光に誘われて顔を出すと、そこには、見目麗しい男が楽しそうに酒を酌み交わす姿があった。その男に惚れたアリエルは、魔女と密かに会い、自らの鈴のような美しい声と引き換えに、足を得た。
足を得たアリエルは陸に上がり、初めて知る砂の感触や、足で歩く感覚に胸を躍らせた。するとそこで、溺れる人影を見る。その正体は、あの男だった。アリエルは男を助けるが、その後やってきた女性が恩人であると勘違いした男は、そのまま彼女を妃にし、人魚アリエルの恋は敗れた。
失恋したアリエルは、魔女との誓約通り、泡となって消えたのだった。
この話は、今や保健は勿論、社会や、道徳の題材になる事も多い有名なものだ。その理由は、近年多発している、ある奇病が関係している。
「マーメイド・シンドローム」という奇病がある。日本語に直訳すると「人魚症候群」だ。この病にかかると、まず声帯が潰れる。声が出なくなるのだ。だがそれだけではない。下半身が水や湿気などの水分を含む凡ゆる物に触れると、皮膚が硬化し、鱗のような物が現れる。これは単なる肌荒れという話ではない。本当にしっかりとした鱗が現れるのだ。それこそ、人魚のような。そして、悪化してくると今度は、皮膚の薄皮が皮膚呼吸の時に吐くことを拒んで、膨らみ、そして弾ける。すると皮膚の細胞は死んでしまい、回復に長い時間を要する。最終的には、心臓でも同じような事が起き続けて、その末に弾けて死ぬ。そのため、遺体の心臓は爛れ、ズタズタになっている事が多いらしい。
この「マーメイド・シンドローム」にかかった患者は、古くから差別をよく受けてきた。まるで魚だ、妖との子に違いないと。だが、発言の自由や団結権などなどが認められ始めると、患者本人やその家族などが大規模な抗議デモを行ったり、支援団体を結成するなどして世間に訴えかけた。欧米諸国なんかは、我が国より遥かに早くその状態に陥っていた。もしかすると、他国の現状を知った当事者達は、彼らの行動に背中を押されたのかも知れない。こうした事件や人権的な問題が度々社会や道徳の教科書に出る。
そもそも、この病はどこからきたのか。答えはヨーロッパである。人魚の集落があった場所が干上がり、彼らの集落の遺跡が現れたのは百年前。その遺跡にはアリエルの手記があった。人間的な暮らしに憧れがあった彼女ならではの趣味と言える。その手記と、ヨーロッパの古代王国の王城に残された宰相の手記によって、導き出された。
アリエルの手記には、魔女と会った事や、そこで声を奪われたこと。人間の王子に恋をしたことなどが書かれており、宰相の手記には、王妃が「マーメイド・シンドローム」と思しき症状の病にかかって亡くなったことや、それが子の代になっても暫く続いていることなどが書かれていた。ただの童話だった「人魚姫」が、実在する話であることが裏付けされたのであった。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2025/11/10 14:42
あいびぃ
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私自身、生粋のアニオタ・漫画オタなのでファンタジーが多めになってます…多分。
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