モンスター

「今日も良い天気だね」  隣を歩く、190センチオーバーの彼女が、こちらを見下しながら言ってきた。俺の膝くらいの太さはある両腕を前後にブラブラさせている。もしその腕に触れようものなら、たちまち骨が砕けるだろう。 「今日の朝、眼鏡が壊れたの。だからコンタクトレンズをつけてるんだけど、やっぱり慣れないものをつけると目が痛いね」  彼女が物を壊すのは日常茶飯事だ。水道の蛇口やドアノブなど、彼女の有り余る力により、触れる物みな壊れていく。俺の体が壊されるのも時間の問題だろう。  彼女とつきあい始めたのは一ヶ月前だ。彼女から付き合ってほしいと告白された。断れば命はないと判断した俺は、その告白を承諾してしまった。  その日から、毎週デートすることになり、その度に寿命が縮む思いだった。 「私、ペットショップに行ってみたいな」  彼女がアナコンダのようなどう猛な目を上空に向け、ぼそりとつぶやく。まさか食べるつもりだろうか。彼女が小動物を食らう姿を想像し、背筋が凍り付いた。 「最近、政治もだらしないよね。私が国会に乗り込もうかしら」  それだけはやめてくれ。こんな怪物が国会に乗り込んだら内閣総理大臣も卒倒するだろう。国会がたちまち血の海となってしまう。
アズマ
アズマ
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