魔法をかけて

魔法をかけて
ある魔法使いが言った。「僕は、みんなを幸せにできる」と。 そして、続けざまにこうも言った。「でも、僕自身は幸せになれないんだ」 自分自身には、どう足掻いても魔法の効果を得られない。綺麗事なんてまやかしだ。他者の喜ぶ姿なんて力にならない。それは彼じゃないから。 魔法使いは、救済の対価として、『その人が持つ二番目に大切な物』を求めた。これから救われる身に慰めが要らないこと、それは自明の理であろう。だからこそ、彼は見返りとしてそれを求めて、今まで無縁だった慈母の愛とした。 しかし、当たり前とも取れるだろうが、それは何の役にも立たなかった。彼は、彼でしかないのだ。 そんな中、一人の少女が現れた。赤毛が綺麗な少女だった。 魔法使いは言った。「君は、僕に何をくれるんだい」 少女は答えた。「そんなの決まってる。魔法だよ」 数年後、魔法使いはそんな事を思い出しながら、腕に抱かれる赤子の額を撫でた。
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