3 Big Wave
目が覚めた時、僕は一人で車の中にいた。父から譲ってもらったカローラレビンのシートをめいっぱい倒して寝そべり、酷使されたエア・コンディショナーは唸り声をあげていた。そしてカーラジオからは山下達郎の「Big Wave」が気分良く流れており、ラジオディージェーは穴だらけの解説を交えつつ夏の知らせを伝えていた。
僕はばらばらになった電子回路をひとつずつ繋ぎ合わせるように記憶を辿り、自分が何故車の中で眠っていたのかを思い出そうとした。シートを起こし、首を左右に2回ほど捻り、あくびをした。全ての行動がオートマチックに動作しているのではと思えてくる。それで僕は海に行こうとしていたのを思い出した。海に行く途中のセブン・イレブンでサンドイッチとコカ・コーラを買って軽い昼食を済ませた後、僕は陽の光とエア・コンディショナーの心地よさに身を委ねてそのまま車の中で眠っていたのだ。
車窓からは西陽が差し込み、セブン・イレブンの周りには部活帰りと見て取れる女の子達がジャージ姿で集まり、日焼けなんてちっとも気にしないような素振りで何かについて語り合っていた。彼女達の健康的に焼けた素肌は西陽に照らされ茜色に輝き、それはまるで普遍的な若さの象徴として存在しているように思えた。ティーンエイジャーというのはいつの時代もそういうものだ。僕はそれで少しほっとしたし、それと同時に海辺で太陽を浴びることが叶わなかった僕自身の一日を憂いだ。車窓を隔てた先にいる女の子達と僕の間には、それ以上にもっと致命的な隔たりがあるのだ。
僕はクラッチペダルを思いっきり踏み込みながらもう片方の足でブレーキを踏み、ニュートラルにギアを入れてエンジンをかけた。それからサイドブレーキを倒し、ブレーキペダルを踏んでいる足をアクセルペダルに移し、クラッチペダルから少しずつ足を離し一速にギアをシフトした。僕にしては極めて順調な発進だった。それから僕は西陽の眩しい公道を走りながら帰路についた。
帰路の途中、僕はハートフィールドのことを考えた。彼と過ごした僕自身のティーンエイジを。僕が20歳になる年に彼は僕の前から姿を消した。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2025/9/25 3:18
最終編集日時: 2025/9/25 3:21
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