反復音

 ざっくざっくと洞窟を掘り進める。洞窟と呼ぶにはまだ早すぎるぐらいで、壁を削っているという表現の方が適切だと思う。 「田中さん、これは何をしているんですか」 「山本くん、仕事中は私語厳禁だよ」 「すみません。でも何日も何をしているのか分からない仕事をさせられる僕の気持ちにもなってくださいよ。モチベーションが保てないですよ」  私語厳禁と何度注意されたか分からないが、田中さんは私が何を言っても毎度返事をくれる。多分私語厳禁と言わないといけないだけで、大したことはないのだろう。 「若い者はすぐ横文字を使うな。何を言っているのかさっぱり分からん」  田中さんはそう言いながらざっくざっくと壁を削っている。僕が一つ掘り進める頃には二つ掘り進めている。そんなペースだから、僕の掘る場所と田中さんの掘る場所を時々交代しながら掘らないとなかなか綺麗に掘れない。 「やる気のことですよ、やる気が持たないって言ってるんです」  丁寧に説明したつもりだったが、田中さんは「私語厳禁だよ」と言って取り合ってもらえたかった。  一分か二分ぐらいの沈黙が続いた。壁を削る音が規則的に鳴り響く。その音はかなりうるさいのだが、会話がないため静寂に思えた。
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色々書いています。