桜下恋人心中事件
咲き誇る桜の木の下で少女はただ前を向いていた。其の視線の先には何をしたって入り込めない恋人だけの世界が広がっている。
少女___香月彼華は静かに目を伏せた。
桜の木の幹を汚す紅は恐ろしささえ感じさせられ、横たわる屍の首元は鋏でも使って切り裂いたのか肉が裂かれており、赤の合間に骨が見えた。何時見ても慣れないこの光景は多くの人の記憶に何時までもきっと居座り続ける。どれ程の人がこの光景を思い出し、嘔吐くことだろう。
香月は踵を返した。この事件に出る幕はどうやら無さそうだ、痛々しい自殺現場、それでも、きっと二人は幸せに逝ったのだろう。
香月彼華は探偵である、と云えど、事件を解決するホームズのような探偵では無い。
事件解決に導き、被害者の無念を晴らす程香月は優しくはなかった。簡単に云えばどうでもいいのだ、香月にとって事件という物は[興味がある][どうでもいい]の2分類の内後者に属すものであるのだ、それでも彼女は探偵を名乗っている。香月が推理するのは心理だけだ。犯人がどうして何を思って犯行を行ったのか、其の時被害者はどう思っていたのか。事件の解決ではなく、人の心を彼女は推理する。
それが事件解決に繋がるというのがまあ不思議な事だ。香月の心理推理は犯人像を浮かばせるのに最も最適だったらしい、故に中途半端な探偵にも関わらず、警察からは重宝されている。
探偵、といって良いのかすら分からないような人だが、実際に事件を解決しているのだから分類には入るのだろう。
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カテゴリー: ミステリー
投稿日時: 2023/11/10 4:08
鏡森 翡翠
別アプリにてミステリ作家として活動していました。ミステリの他、倫理などをテーマに幅広いジャンルを描きます。