お題で習作《日常編》 財布
「あっ、鞍馬さん!」
呼びかけると、鞍馬さんは仕事の手を止めて不思議そうに私を振り返った。
確かに私が彼の仕事場に入るのは珍しいことだ。でも、こうでもしなければ彼は今日は仕事場から出てこないはずだった。
別に喧嘩をしたわけではない。仕事が滞っているわけでもない。
でもたまにあるのだ。彼が「向こう側」へと引き摺られているかのように、仕事に向かい合い続けてしまう。そんな日が。
「なんだ? 何か用か?」
「そのですね、いつも頑張ってる鞍馬さんにご褒美を差し上げたくて……」
「ご褒美?」
私はふっふっふっと含み笑いをしてから、手のひらを組んで鞍馬さんを見上げる。
「夕食、私が奢りますから、中華料理でも食べにいきませんか?」
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2021/9/30 13:29
最終編集日時: 2021/10/6 18:24
小野セージ
ちなみにセージは男性名ではなくハーブの名前のほうです。修行のためにお題を使った短編を不定期に投稿してみようかなと。登場人物はいつものうちの子です。