砂時計

砂時計
朝のビル風は  議事録みたいに冷たい   名刺には何も書かれていない 沈黙が発言権をもって  空の紙コップが   最後に結論をこぼす  疲れ果てた上着のチャックを首元まで上げる。羽田から自宅まで一時間半。四日間の古都旅行は、懐かしい匂いにゆらぐ車中で終わりを迎えようとしている。帰宅。ソファにもたれかかると、私を無視して一夜は過ぎた。週末の後部座席に取り残されようだ。旅をした日々を思い浮かべると、夏の熱気のように纏わりついていた疲労は露となり、頬をつたい落ちていく。机上には旅の土産が佇んでいる。市場で買った砂時計。ひっくり返すと、中の砂が慌てて落ちだす。それを眺めていると、異国の街を歩いた高揚がひりひりと蘇る。リュックから、一冊のノートを取り出した。旅の記録が記されたそれの表紙には、「古都トレド紀行」と書かれてある。その一ページ目を、もの見たさと、ほんの少しの恥じらいをもってめくった。   2024/10/11(金)
三好潤啓