第3回NSS Opus

先生は結核で亡くなる前、最後に私にこの言葉を残した。 「ピアノの音色というのは、この世の芸術の中で最も抽象的なものだ。それゆえに聴者の想像力を掻き立たせ、同じ曲でも、川のせせらぎにも雷鳴轟く大豪雨にも感じさせることができる。  これは一重に、ピアノ音楽が楽器と楽譜と奏者からなっているからだ。たったの三つだからこそ想像力が促されるのだ。  しかし、ピアノの音色が完璧でなくては、想像力は死んでしまう。完璧な楽器、熟練された完璧な奏者、そしてなにより完璧な楽譜、これがあって初めて想像力は生まれる。  私が提供できるのは最後の一つだけとなってしまった。だが、ピアノが弾けなくとも、この脳が動き続ける限り、私は曲を作り続ける。足りない二つは君が補うんだ。私の作品に、魂を吹き込んでやってくれ……」  三日後に先生は亡くなった。残された先生の遺作、魂を吹き込むのは私の役割。真の完成への道は私に託された。
白猫やまと
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