IN SINGAPORE 2

IN SINGAPORE 2
 道路の広いゲイラン地区は中心部に比べて建物が低い。而もまだ真昼で太陽も燦々と光を放っていて、街中は静まり返っていた。此が最大の歓楽街なのか、と驚きを隠せずに博戸が見廻す。欧羅巴風の建物も幾つかあり、植民地時代を彷彿とさせた。そして置屋が紛れて並んでおり風俗嬢らしき女性も歩いている。きっと夜になると男達が遊びに来るでしょう、とサムエルが笑う。風俗店を彷徨っていても埒が開かないので脚が疲れるまで街を隅々まで歩き廻った。すると路地裏のようなところに塗装の剥がれた廃墟が建っているのを見つける。その廃墟は扉を一度壊されており、新品で頑丈な扉に付け替えたらしかった。 「どうしたもんかねえ。見つけたけど入る?」と博戸。サムエルは考え込んで扉を蹴った。それでも開かないので博戸も後ろから蹴る。一羽と一匹で蹴って、幽霊猫の百足にも手伝わせて二匹。八度目になると扉は崩壊して崩れた。その先は砂埃が舞っていて、生活感溢れている。スプレー缶で落書きをしたのかマリファナを吸う死神、そして風船みたいな英字が壁に描かれている。床には煙草の吸殻、コンドームが落ちていて覚醒剤の檸檬みたいな消毒液みたいな嫌な香りが漂っていた。咳込みながら入っていくと床が濡れている。尿だ。誰かが糞尿を垂れ流していたらしい。その場だけ治安が桁違いに悪い。いや、他国の反社が荒らしているだけだろう。拠点はきっと亜細亜各国にある筈だ。此処だけじゃない。進めば進むほどに塵は増えた。同時に乾いた精子が壁に散っていたり、爪痕があったり悲惨になってゆく。強姦の跡を辿るようだった。今にも崩壊しそうな階段に片足を乗っけると、博戸が耳を澄ましてシーっと指を立てる。上の階から鼻唄が聴こえた。 「……BTの声に聞こえないかい」 「随分と満喫しているようで」サムエルが遺憾そうな顔をする。すると上の階からドタドタ足音が鳴り響いて此方に向かって来た。サムエルが拳銃を向ける。 「ワア、サムヱルトテンサダ!」  溶けてもはや何だかわからない物体に口が生えている。肉の断片が細胞を痙攣させて動いているような容姿だ。それでも愛嬌だけは何故か残っていた。博戸はBTを抱き抱えようと両手を広げて歩き寄ったが、BTは純粋そうな顔で拳銃を取り出し銃口を額に突きつけた。 「教ヱテクレタ! アノネ、引キ金? 此ヲ引クト死ヌッテ」  眼も溶けているが純粋無垢な声をしている。更に震え上がると銃口が頭蓋骨を突き破るくらい押し付けて来た。サムエルが庇うように拳銃を向ける。 「博戸さん殺したら帰国出来なくなるので貴方を殺します」 「君って本当に……私を何だと思ってる?」
愛染明王
愛染明王
身の廻りに住んでいる動物達の一日を書き留めている。好きなものは菌類を含めた生物全般、そして女性。作品を此処に書き留めては読み返し、日々修正を重ねている。