女と花

 その女は花というには少し綺麗だった。風をカラスよりも深い黒髪にまとわせ、ファッションスターもみとれるほどの足をすべらせるように歩く。わたしのこころは女のすべてをこの胸に記したかった。  桜がしぼみ、うぐいすの鳴き声がやんだ頃だった。日差しが日に日に鋭さを増していく中、彼女の肌だけは太陽を知らないようだった。何日も雨が降らなかったが、彼女が踏んだアスファルトはいつも少し濡れていた。  気づいたのはここ数日のことだった。彼女の影があった道で一輪のたんぽぽが咲いていたのだ。  古くなったコンクリートには亀裂が走る。彼女が歩いた亀裂には埋めるかのように苔が生えて、彼女が止まった自販機には小学校の教科書で見たことがある名も知らない花があった。  太陽を嘲笑う白い肌、夢にまで出る黒い髪、いのちを生み出す素足。わたしは彼女を追った。息はとうに枯れていた。アスファルトの地面が彼岸花で埋め尽くされていたのにも気付かなかった。  追いつきそうになった時、わたしは彼女に手を伸ばした。その時になってようやく気づいた。わたしの手は干からびていた。甲はシワが集まり、骨にただ皮が付いているに過ぎない。短くまとまった爪も、赤黒くシワがこびりついている指先も、老人が動かしているようで現実味がなかった。わたしの声は驚くほどにしゃがれていた。  指先が背中につく頃女は振り返りわたしにただ、こう言った。    「ありがとう」   
かきあげ
かきあげ
バナナです