二十四、怒り
夏の真昼の太陽は頭上真上に達し、全く影を作ってはくれない。歩き出すと直ぐに身体中が汗ばんできたが、それでも私は彼と繋いだ手を離さなかった。濃く生い茂る緑に蝉達の声が熱く重なる。
今、私はとても嬉しかった。自然と笑みが溢れる。両親が彼を認めてくれた事は勿論なのだが、今日は他にも大きな収穫があった。それは父という人物を改めて知れた事だ。自家用車で出勤する父は、道が空いているからと、早朝に家を出、帰宅も遅い。いつからだろうか…。私は父と接する事が殆ど無くなっていた。
父の珈琲好きは以前から知ってはいたが、父が何かに凝る、というイメージが私には全くなかった。でも実はかなり凝り性なのだ。そして、彼を想う父の情深さもまた、私の胸を打った。私は父の言葉を思い出し、再び熱く込み上げてくるものをこの胸に感じていた。
突き刺す様な陽射しから逃げる様に人々が集まり、商店街はかなり賑わっていた。
店の軒先で商品を片付ける人々がチラホラ私達に気付く。掛かるその声は皆一様に明るく優しい。私は彼と手を繋いだまま頭を下げ会釈を繰り返した。
「何か…ごめんね。 気を遣わせているね。」
「全然大丈夫。寧ろ、皆さんと挨拶を交わせれるのが嬉しいもん。」
私は笑顔で返し、彼の手を更に深く強く握った。
週明け、私は空港からの送迎バスに乗っていた。今日は会社を辞めるまでには到底使い切れそうにない、使い切る気も無いが、
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2024/7/26 13:38
最終編集日時: 2025/1/15 23:57
アナ.
伝えたい思いがあります。
沢山の方々に届きますように。