あなたの居ない世界は

あなたの居ない世界は
窓を開けると、少し冷たい空気が顔に触れた。湿っぽさもないし、生暖かい風も吹かない。 静かだと思った。 今は本鈴の鳴る2時間前。まぁ当然だ、こんな早くに登校する生徒なんて私くらいだろう、と一人納得し、椅子に座る。なかなか完成しないデッサンから目を逸らして、頬杖をついた。 はたと、蝉の声がしないことに気が付いた。 ──あぁ、もう去ってしまったの。 あなたは音といっしょに居なくなる。だから、蝉時雨であふれていた私の心は、今や伽藍堂だ。 残るのは音の少ない世界。 でも、陽射しは大体忘れていく。忘れ物にあなたの面影が残っているせいで、私は錯覚する。あなたが此処にいると思い込んで数日が過ぎる。そしていつも、気付いたときにあなたは居ない。
ペトリコール
ペトリコール
切ないお話が好きです。ハッピーなお話も好きです。 気まぐれに投稿していきます。フォローも気まぐれなのでお気になさらないでください。 サムネイルのイラストは自作です。