過去を売った女②

過去を売った女②
「ユシア…。アイツの所に行ったんだね。」 盲目の男が、質素な部屋に入って、そう呟きました。その目は何も見えていない筈なのに、どこか悲しみを帯びているようでした。その目線の先には、小柄な女がベットの上に座っています。 「…」 女はその大きな瞳で、じっと男を見つめています。男は、女を心配させまいと、破顔して見せました。そうすると、女はやっと口を開きました。 「ねえ、貴方は誰?ここはどこかしら。さっきもここに住んでるおばさんに聞いたのよ。だけど、その人すごく困った顔して、私が自分の娘だって言うの。きっと私は拾われっ子で、おばさんは気を遣ってくれてるのね。だって私、おばさんがお母さんだった記憶無いもの。」それを聞いて、男は絶句しました。彼女があの男の元へ行っていた事が、確かな物になったからです。 「ユシア…。僕だよ、マーティンさ。君の幼馴染で、大賢者って呼ばれてるんだ。…そうか、すると君はやっぱり、アイツと、クロノス・エンデと取り引きしたんだね。」マーティンは今にも泣きそうな顔で言いました。 「貴方はマーティンっていうのね。その、クロ…ノス?という人は知らないけれど、どうしてかしら。あなたのことは凄く大切な気がするの。」マーティンは涙を流し、ユシアの元にゆっくりと歩み寄りました。そうして胸の中に優しく包み込んでこう言いました。 「ありがとう…ユシア。こんなになっても僕の事を憶えててくれて。僕がなんとかするからね。」ユシアは困惑しました。 「あのねマーティン。私、あなたのこと憶えてないのよ? 大切な気がするだけなの。だからね、えっと。」しかしマーティンは、腕の中の愛おしいユシアから離れ、彼女の手をそっと握り、またこう言いました。 「ううん。ユシア、それは憶えてるのと同じなんだよ。お母さんの事を“おばさん”だと思ってるのに、僕の事は、なんとなくでも“大切”だと思ってくれている。そんなの僕を憶えてなきゃ起きない奇跡さ! それじゃあ、僕はクロノスを訪ねるからおとなしく待っているんだよ。」ユシアは最後までよく分からないまま、マーティンとお別れをしました。マーティンは決意に満ちた顔つきをして部屋を出て行きました。
あいびぃ
あいびぃ
初めまして、あいびぃです! 見つけてくれてありがとう♪ 私自身、生粋のアニオタ・漫画オタなのでファンタジーが多めになってます…多分。 詳しいことは「自己紹介」にて! まだまだ若輩者なので、応援よろしくお願いします! ※❤︎&コメはめちゃくちゃ喜びますので、私を喜ばせたい方は是非! 私の事が嫌いな方はオススメしません。