ここは道路の真ん中だから

ここは道路の真ん中だから
何故そんな所に居るんだって、よく聞かれたっけ。その度、私は曖昧な笑顔を作って、当たり障りのない事を言っていたと思う。時にはクラクションを鳴らされたり、大声で怒鳴られたりもしたな。 行き交う車達、進む車と戻る車。いや、どちらが進んでいて、どちらが戻っているかなんて、分からない。どちらも戻っているかもしれないし、進んでいるかもしれない。前も後ろも分からない。少なくとも、私が向いた方向に進む車は、私から見て進んでいて、逆の車は戻っている。逆側に振り向くと、進んでいた車は戻っていて、戻っていた車は進んでいる。長い間それを眺め続けてきたけれど、同じ車を見かけることはほとんど無い。一見して同じ車でも、乗っている人、ナンバープレート、汚れ、傷、色、ほんの少しずつ違っていて、それぞれにとっての先を目指している。その中で私だけが、何にも乗っていない。そして、私だけが止まっている。 そこは危ないんじゃないかって、よく聞かれたっけ。その度、私は苦笑いをしながら、目線をS字カーブさせる。最終的には道を外れて、戻らないまま有耶無耶にしていた。いつも最後にこう思う。残念なことに、ここは安全で、だからこそ私は進めないんだって。でもそれを認めたくなくて、それを否定されるのが怖くて、私は何も言えないんだ。私は生まれながらに免許を取る資格が無かったんだと思う。 免許を取るのは難しくて、でもみんな当たり前に出来ていて、なんで出来ないんだって目線が痛くて、辛かった。その度に私は服をぎゅっと握って、目を瞑っていた。つい辛い時にそうしちゃうから、運転中も事故を起こしてしまうんだ。私だって、上手くやりたい。でも無理だった。私には、この道路は広すぎる。そんな道路の中を、みんなは当たり前に進んでいるのに、私だけが止まっている。 私は車には乗れない、だから歩いて進むしかない。走るしかない。でも、そんなんじゃ追いつけない。必死に、必死に走っても、信号が変わる頃にはみんなは遠くにいるの。だから、もう走るのも疲れちゃった。塞ぎ込んだら迷惑になるかなって、思ってたけど。いい場所を見つけたの。ここなら、誰にも迷惑かけないでしょ? だって、ここは道路の真ん中だから。
じゃらねっこ
じゃらねっこ
ねこじゃらしが好きなので、じゃらねっこです。