IN MACAU 3

IN MACAU 3
「博戸さん、一瞬だけ路地裏に来てもらえますか」  娯楽場に戻るなりサムエルが小声で囁く。博戸は荷物片手にチップを現金にしつつ「……何?」と明らかに吃驚していた。答えることもなく博戸を引っ張る。そして翼で誘導し、店を出て薄暗く幅の狭い路地裏へと走る。途中で博戸の首締めを嘴で緩めて剥ぎ取ると、服を噛みちぎろうとした。軈て、誰も見えないような壁に囲まれた場所に辿り着いた。蜚蠊が長い触覚を伸ばして壁際を這い、上には蜘蛛の巣が網状に張り巡らされていた。地面は雨に濡れていて管を辿って雫が落ちてくる。 「貴方、猫科になれるんでしょう。探って来てもらえませんか。私が空から偵察している間に」  鉤爪で服を剥がされて腹が露出した。弾力のある肉に胸下からスウと線が下って筋骨に影を落としていた。そうして腹中の臓物のせいか緩やかに張っている。彼は服の裾を持って隠すと壁に張り付いた。 「乱暴はそこそこにしておくれ、私にそんな事頼まれても……」 「生きるか死ぬかの賭けのつもりで行ってきてください。良いですか。BTさんが黒い乗用車に乗せられて標本屋のことをうっかり口にしてしまったら私達はどうなるのでしょう? 一生賭博なんて出来ませんよ。ほら、下も上も脱いでください」  そう言ってまた黒繻子みたいな革帯を解いて道端に捨てた。下半身は長く筋肉の浮いた脚と下着一つにされて、上半身は黒襯衣だけになった。重ねられた服を探って下だけでもと隠すと耳頬を少し染めて四角っぽい眉を寄せる。 「だから脱がすなって。そうだとしても、大きな怪我は勘弁だね。此の姿じゃいけないのかい」 「BTが姿を言っていた場合、すぐにバレてしまう。でも猫の貴方は誰も知らない」 「冗談よしておくれ。それに、私の姿を知ってる奴が何人か居るんだよなあ……私達のような変わり者に執着する擁護団体様とかね」と両手を広げてはあと溜息を吐いた。
愛染明王
愛染明王
身の廻りに住んでいる動物達の一日を書き留めている。好きなものは菌類を含めた生物全般、そして女性。作品を此処に書き留めては読み返し、日々修正を重ねている。