虎狼

虎狼
二年前の事になります。 ある運命から、私は人を殺しました。理由を知らぬ者には不可解で残酷に見えるかもしれません。他者からの理解を乞うような人間ではありませんから、把握してくれとは言いません。私というダーザインの美学に則った、私の価値観に基づく善行なのですから。 Yという友人がいました。彼は博学才穎で、同じ志を持つ同い年の書生でした。親が名のある金持ちでしたから、困窮した私とは違って肥えていました。これはボツワナの一点物だと、首にかけている石を掲げては、いつも私に自慢するのです。それでも、私は彼を悪い奴だとは思いませんでした。毎日美味い飯を食わせてくれましたから。 それに、趣味も合いました。芸術をする仲間なのです。私が人形の技術に長けているように、彼はコラージュが得意でした。一度彼の作業小屋へ邪魔させて頂いた時分に見た、ジョルジュ・ブラックがとても壮観で感動したのを覚えております。 「芸術は爆発ではないのだよ、君。やれファットマン、やれリトルボーイ。世界を熱狂させる絵画は、崇高から生まれるのだよ。描く人間の物の見方、生まれが重要だ。それを軸にする事によって、奇怪な発想が伴ってくるんだ」 彼はいつもこう言います。葉巻を咥えながら、煙で部屋を満たしながらくちゃくちゃ喋るんです。名のある芸術家のような威厳をひしひしとこの身に感じました。新時代のアヴァンギャルド。彼は、間違いのない確かな革命家でした。 綺麗に歪んだ口角、上がった目尻、丁寧に整えられた頭髪。偉大というのは、このような特徴を意味するのだと実感しました。 その頃、私には夢がありました。 人形作家として作品を制作する中、私は『泡沫』をテーマとした作品をと考えました。世界に残る事のない儚さが売りの芸術。私はそういう物に惹かれます。優美な情念が心に快感を植え付けるのです。 Yもそれには同意しました。
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