斜め七時

 片手で壊せるほどの、自分の顔ほどの大きさの天秤を眺めているとき、あなたは何を考えるだろう。誰かは何かを乗せて重さを測り、誰かは左右の均衡を保とうとし、誰かは興味も示さないだろう。私は何もせず、じっとあなたを眺めていた。  あなたは私の右手を見つめる。あなたが手に持ったピンセットは分銅を正確に取り分ける。いくつかを適当に動かしたあなたは、一つの分銅を私の右手に乗せた。私は右手が重くなり、大きく右へ傾く。  あなたは、私の右手から分銅を取り、両の手に薬包紙を乗せる。左手の薬包紙に私にはよく分からない粉を乗せ、右手には先ほどの分銅よりもさらに小さい分銅を乗せる。私は左右の重さに揺れ動き、最後には重力に従った地点で止まる。  あなたはノートと私を交互に見つめながら、忙しなくメモを取っている。私は固定された視線の隅にあなたを捉える。あなたがまた私の正面にやってきて、私を両腕に乗る重みから解放する。私はあなたの全身を視界で捉える。  あなたは周囲を手早く片付けている。私には目もくれず、急いで片付けるあなたは机の隅に置かれた携帯電話が揺れていることに気がつかない。電話の揺れと共に私も僅かに揺れる。決して新しくて美しいわけではない私は、小さくカタカタと音を立てる。その音があなたの視線を誘導し、あなたは携帯電話に気がつく。  電話に出たあなたは、片付けもそのままに部屋から出ていってしまった。私は追いかけることも声をかけることも叶わない。電気の消えた部屋には、微かな薬品の匂いだけが漂う。  眠ることのない私は、ひたすらに部屋で同じ景色を眺めている。暗闇に光が灯ったのはあなたが出ていってからすぐだった。部屋にやってきたのはあなたではなく、あなたの友人だった。そして、私の視界には映らないが、おそらく友人に加えて教授もいるのだろう。時計の短針が五を指す時間帯にはいつも教授が来る。  友人と教授と思われる人物は中断された机の片付けを済ませる。私も定位置の棚へと移動する。この棚からは部屋全体を見渡すことができる。やはり教授がおり、友人と片付けをしながら談笑をしている。  教授は部屋に鍵をかけ、机の配置を大きく変更する。あなたはまだやってこない。友人は上着を脱ぎ、その胸部のサイズを強調する。あなたはまだやってこない。教授は友人に少し近づき、肩に手を回す。あなたは、まだやってこない。  結局、あなたはいつまでもこないまま友人の甘い声だけが部屋を支配した。あなたは友人がしていることを知らない。私は動かない視界の中で動く教授と友人を収める。
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色々書いています。