第一節 キューピットはイタズラに笑う

 まさしく、それは一目惚れだった。  中学一年生の春、僕はどこの部活動には入ろうか迷っていた。小学校卒業と共に父の転勤で引っ越した為、すごく仲のいい友達がいる訳でもなく、ましてや何か趣味らしいものがある訳でもない。かと言って、必ず部活動に入らなければならないので、帰宅部という選択肢は与えられてない。サッカーも卓球も合唱も文芸も、どんなに人気な部活動でも僕にとっては、どうにも決め手にかけるのだ。入学してから3日目、今日も今日とて何かハマる部活動を探しに部活動見学をしていた。今日は美術部を見てからバレーボール、その後にダンスと予定を立てていた。  美術部の活動場所は美術室。一年生から三年生までの教室がある北校舎とは反対の南校舎にある。僕は特に急ぐ用事でもないので、ゆっくり向かっていた。北校舎と南校舎をつなぐ渡り廊下はとても静かで、僕の足跡が響き渡り、校庭で走っている運動部の威勢のいい掛け声がかすかに聞こえる程度であった。美術部もこんな感じの空間なんだろうと思いながら、目的地へと向かう。別に特別絵が上手い訳ではないが、それなりに興味はあった。その為、ハマりそうならば入部しようかなんて思っていた。  美術室に近付いて行くと、だんだん僕の足音を掻き消すほどの話し声が聞こえてきた。他の部活動かと思ったが、間違いなく美術室から出ているものであった。その声によって、自分の中の絵に対するやる気がどんどん削がれておくのを感じた。美術室の扉の前に着く頃には見学する気すら無くなっており、軽く見たらバレー部に行こう、なんて思っていた。ため息をつきつつ、ノックする。中から優しい声で「はーい」と帰ってきた。気が乗らない手でゆっくりドアを開けると、ドアのすぐ近くの席に座っていた女子部員が笑いかけてきた。僕はその時、衝撃を受けた。まさしく、それは一目惚れだった。キューピットの矢が胸を突き刺した、そう表現するのが正しいほどに、一目惚れしたのだ。 「部活動見学の人?」
紫陽花
紫陽花
そこらへんに生えてる紫陽花です。 夢は漫画家、そのためにストーリーを練ってます。 小説や漫画はなんでも読みます。 バトル、ハートフル、ラブコメ、BL…なんでも御座れ!