線香花火

線香花火
ふわふわとした風が顔を掠める感覚に目を覚ます。辺りを見渡そうとしても濃い霧がかかっていて何も見えない。気が付けば海辺の流木の上に座っていて、隣に誰かがいる。ふと顔を上げるとあなたがいて、それが分かるのに何故かその顔だけは霧に隠れて見えない。 「ーーさんどうして?」 自分の言葉なのに肝心の名前が聞き取れない。 『久しぶりに花火でもしない?』 そう言って手を取られて、二人で誰もいない海辺をかける。いつの間にか薄くなっていた霧もまだあなたの顔だけは隠している。 しばらくすると赤い提灯で囲まれた古い神社が見えてきて、記憶は無いのになんだか懐かしい気持ちになる。周りに屋台はなく、すれ違う人々は皆、仮面をつけている。その不思議な雰囲気に怖くなってあなたの手を強く握る。 『大丈夫。』 そう言って顔の見えないあなたは微笑んだ。 また気がつけば私たちは甚平と浴衣を着ていて、手には花火を持っている。周りには誰もいない。時間を忘れて次から次に花火を楽しんだ。最後の2本、線香花火を2人で持って「どっちが長く続くかな?」なんて笑いあう。線香花火の先が真っ赤に膨れていく。パチパチとまわりに散る火花に目を奪われて呼吸が止まる。顔を上げると目が合った。その瞬間、初めてあなたの顔が見えて体が震えた。それと同時に私の線香花火が落ちて、地面でジリジリと音を立てながらその赤が黒に変わっていく。 「待って、」
いくら
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