人樹
祖父は引きずられ、村の中央にあるお社に連れていかれる。
そろそろ樹木化がはじまるだろうと、数日前父が言っていた。皮膚の色が濃くなっていくのが兆候という。
樹木化がはじまると祖父の足は正座で固まった。犬の散歩に行こうと門から出た所倒れていた。すぐに村内会に連絡し何人かの男手を呼ぶ。
引きずられ膝が擦り切れ痛々しい、表皮が剥がれているだけ出血はない。台車やトラックで運べばいいと思うが、素早く運ばないと移動させることができなくなると言う事だ。
お社の中央の天井は抜けている。そこを突き抜け幹が伸びる。
「5月の連休に間に合いそうだな」誰かの独り言が聞こえた。
位置につくと祖父は天に向かって口を空けた。祖父は目から涙を流していた。涙ではないのかもしれない。それをぬぐうと、ほのかに温かい。言いようのない悲しさが胸に落ちてくる。
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カテゴリー: ミステリー
投稿日時: 2022/3/8 6:00
最終編集日時: 2022/3/27 1:25
ワンゼロ