人樹

人樹
 祖父は引きずられ、村の中央にあるお社に連れていかれる。  そろそろ樹木化がはじまるだろうと、数日前父が言っていた。皮膚の色が濃くなっていくのが兆候という。  樹木化がはじまると祖父の足は正座で固まった。犬の散歩に行こうと門から出た所倒れていた。すぐに村内会に連絡し何人かの男手を呼ぶ。  引きずられ膝が擦り切れ痛々しい、表皮が剥がれているだけ出血はない。台車やトラックで運べばいいと思うが、素早く運ばないと移動させることができなくなると言う事だ。  お社の中央の天井は抜けている。そこを突き抜け幹が伸びる。 「5月の連休に間に合いそうだな」誰かの独り言が聞こえた。  位置につくと祖父は天に向かって口を空けた。祖父は目から涙を流していた。涙ではないのかもしれない。それをぬぐうと、ほのかに温かい。言いようのない悲しさが胸に落ちてくる。
ワンゼロ