クロノスの遺産−前篇−

クロノスの遺産−前篇−
 時元牢獄クロノスの中心に、“それ”を残す。  “それ”は後世に於いて、必ずや人類を救う遺産となるだろう。           ―――秘匿文書ファイルN239―B末文  時元牢獄クロノス攻略戦は、人類が初めて経験する、“違”時間戦闘行為だった。  複数の重力渦が複雑に絡み合ったネゲントロピー効果で、内部へ侵攻するほど時間の流れが遅くなっている。  その為、後衛や本部は前線に立つ戦力とは連携が取れず、報告を受信する際にも多大な時差が生じてしまい、作戦立案すらも手探りである状態が、なんと一世紀近くも続いていた。  しかも、情報の確度は低いとはいえ、通称〈禁域〉と呼ばれる中核部に至っては、時間の逆行も確認されたと報告された事もあり、前線からの帰還者の中には、やや主観寄りではあるものの、それを裏付けるような発言をする者も少なく無かった。
四季人
四季人
挨拶がわりに「読んだ記念」していくおじさん。