欲求

欲求
 貴女を愛している。この熱情はどうしても抑えられない。それゆえに、態度として現れ、呆れられた末に私は貴女からの信頼を失うことになるのだ。  家で母が「独りなのは周りじゃなくてお前だ」と鷺のように喚くので、私はその都度腹を立てていた。その腹立たしさは事実を突かれたことに対する悔しさと怒りだろうと今になって気づく。そうだ、私は生まれながらにして独りで味方はいなかったのだ。そんなとき、友人達が胸に浮かんでくる。彼らは何なのだろうか。本当に私を気にかけているのだろうか。私を愛しているのだろうか! 違うのならば、消えて死ね。そういった行き場のない醜い感情が愛憎の如く湧き出してくるのだ。それは、理性という動物が持ち合わせた最も尊い美徳を打ち砕いて、ザァザァと流れ出てくるのだ。その度に私は彼らに嫌われる。私の愛が強まる度に、彼らは私を厭な眼で見てくる。その対比こそ黄金比。モナリザのような完璧さに精密かつ複雑な運命。私はそれに逆らえない。そして彼らを愛することを禁ずる。また、自身に切腹を催促し、また自分を慰める。それを反省と呼び悔い改める。この運命こそ原罪だ、神々が下した決断だと確信させられる。生まれながらに背負わされた錘。我君を愛す(我愛你)すら言えないこの世、想うことすら許されないこの世。自分以外の皆が死んで、ホルマリン風呂に浸かるなどして形を保ってくれたら、私は皆を平等に深く愛せるというのに。それ以外に愛する方法がないだなんて、酷だ。もしも許されるのならば、今すぐにでも愛する人々にフグ毒を注入してしまいたい。そして最後には接吻をして、彼女達は眠るように瞼を伏せるのだ。そうして永遠の眠りについた愛人を抱き上げ、薔薇や花車に囲まれたベッドの上にそっと置く。そこはきっと楽園のような芳香が漂っていて、あたたかく、しあわせなのだろう。ああ、頭の中で抱くことも愛すことも許さない神は何なのだろうか。私は預言者でもなければ、聖職者でもない。確かに、人として我々は善意に満ち溢れた言動をすべきだと承知している。そうだとしても、人の考えや想像まで感じる必要があろうか。神々は私をどうしたいのか。私は死亡後は遺骨を海に撒いて、全財産を人道支援を目的とする組織にお渡しする予定だ。それに生きているときはがむしゃらに人助けをしたいと思っているのだが、心の中まで純白にせよという思し召しなのだろうか? 残念ながら私は薄汚れた下水道のような心を持っている。そして野蛮だ。いつだって愛し合いたいと性欲を剥き出しにするし、本当に全て知りたいのだと叶うはずもない目標に執着する。死ぬだけの、宇宙にとってはただの塵のような私の人生は儚く、脆い。そんな可哀想な私に心の中まで理想を求めるなんて? ここではっきり言わせてもらおう。妄想の中だけでもいいからぶち込みたいし、放出して脳汁をドバドバと出したい。加えて過剰なまでに愛されたいし、時には鞭で打って嫌ってほしい。また、彼女の前では獣でありたいし紳士でもありたい。また、彼女は私の前で淫乱であってほしいし、淑女であってほしい。互いに都合のいい姿を剥き出しにしてほしい。自分しか知らない(相手しか知り得ない)姿を見たい(晒したい)。そしてそれを握られて脅され、飼い犬のように紐をつけられたい。また、引っ張られて首が締まって苦痛を味わいたい。彼女にとっての一番でありたいし、私にとっての一番であってほしい。そして頂点から底辺までの感覚を全て味わった上で一番上に居座りたい。そして彼女(たち)に関係する全員に舌を出して「お前達はそれしか知らないんだ。せいぜい頑張れ」と言ってやりたい。そのような傲慢な欲望が渦巻いている。悪魔の中でも最下級なのではと思わされるほどに汚い考えだ。神から汚物扱いされても仕方がない。  ただ、一つ褒めてほしいところは、これらを一度も口に出したことがないし、自覚して態度に表さなかったことである。
愛染明王
愛染明王
麒麟曰く「我草花を踏まず。獣虫を殺さず。世が平安なる時、街へ降り人の前に立つ」